6周年記念番外編「精霊たちの見る世界」前編
おかげさまで6周年を迎えました!
番外編は長くなってしまったので全3話でお届けいたします。
本日(7月10日)の12時、22時に更新予定です。
楽しんでいただけますように!
んーっ、今日は良く晴れていていい気持ち! 絶好のお出かけ日和だ。
海のある街に行って散策するのもいいし、森林浴もよさそう。
「でも、今日のお休みは私だけなんだよねぇ……一人で行くのもなー」
残念ながらギルさんは昨日から三日間の遠征に出かけているのだ。久しぶりに泊まりがけの仕事が入っちゃって、ギルさんってばすごく嫌そうにしていたっけ。
「……私もさみしい」
ぽつりと本音が出ちゃうのも、家に一人でいるからだ。
絶対に本人には言わないよ! だって、ギルさんだったら先方に恨まれてでも仕事をキャンセルしそうだもん。
古い炭鉱の奥に住み着いた影の魔物を討伐してほしいって依頼だから、影を操るプロのギルさんが適任なんだよねぇ。
場所も遠いし、下調べもしなきゃだし、どうしても時間がかかっちゃうのだ。
それでも、普通だったら移動だけで何十日とかかる数カ月単位の仕事を三日で終わらせて帰ってくると言うあたり、ギルさんも大概だよね。今さらだけど。
昨日の早朝に送り出して、夜は久しぶりに一人で寝て、朝起きて、今だ。
正直あんまりよく眠れなかったし、いい天気ー! とか言って無理にでもテンションを上げなきゃやってられないよぉ!!
「ダメダメ。ギルさんと一緒に暮らすようになってから、ますます甘ったれになってる気がするもん。一人で過ごすことも楽しめるようになるんだからっ」
ギュッと拳を作ってあえて口に出して宣言しておく。
甘やかされすぎてダメエルフになっちゃう。片足どころか腰辺りまで浸かってる自覚があるけど。
ここらで大丈夫ってところを証明しないと、ギルさんがいなきゃなにもできないやつになる!
もそもそと一人朝食を終え、せっかくいい天気だからと庭に出ることにした。
「みんな、おはよう!」
『ご主人様ーっ、おはようなのよー!』
『おっ、ご主人! 良い朝なんだぞ!』
『主様っ、今日はとってもいい天気だねっ』
庭に出て声をかけると、契約精霊たちがさっと集まって声をかけに来てくれた。
ふふっ、やっぱり精霊たちの元気な姿を見るのが一番の気分転換になるね! 今日もにっこにこで集まってくれる。かわいい。
『主殿、どこか元気がないようなのだ。番殿が不在だから、か?』
「うっ、シズクちゃん鋭いっ」
『あははっ! メグ様は寂しがりやなー!』
『ライー、仕方ないよー。メグ様が寂しいのは当たり前だもんー』
シズクちゃんとライちゃんに図星をさされ、リョクくんにフォローされてしまった。主人なのに、なんという有様。
「あ、あはは。ごめんね、心配させて。でも平気! 元気を出すために庭に来たんだから」
『ご主人様寂しいなのよ? じゃあ、ショーちゃんたちが一緒にいてあげるのよ!』
『名案なんだぞ!』
くるくると私の周りを飛びながらそんなかわいい言葉をかけてくれる精霊たち。
やっぱりうちの子たち、いい子すぎるっ!!
感謝と大好きの気持ちを込めて魔力を景気よく放出してあげると、みんなキャーキャー言いながら喜んでくれた。ふふふ、存分に味わってね!
周囲にいた野生の精霊たちも知らない間にたくさん集まってきていた。いいよいいよ、みんなにもおすそ分けだー!
その後、契約精霊たちを中心にみんなが庭にある遊具で自由に遊び始めたのを、私はベンチに座って観察した。
それぞれお気に入りの遊具があるのか、延々と同じことをして遊んでいる。
「楽しそうでなによりだよ。理想のお庭にできてよかった! でもいいなぁ、私もみんなみたいに遊べたらな」
眺めているのも楽しいけど、一緒に遊べたらもっと楽しいだろうに。
でもこの姿じゃ、みんなの邪魔にしかならない。せいぜいサイズ感も近いシズクちゃんと水辺で遊ぶくらいしかできないよね。
ブランコや蔦のジャングルジム、土で作った迷路などなど、すべてが小さい精霊サイズだから仕方ないといえば仕方ないんだけど。
だって人の大きさ基準で作ったらもっと広い場所が必要になるし、なによりそれだと精霊たちには大きすぎて遊べない。
この庭はみんなのためのものだからね! 人は眺めて楽しむのだ!
『じゃあ、主様も精霊になってみるのはどうかなっ?』
『おっ、それはいいんだぞ! 楽しそうなんだぞ!』
なんて思っていたら予想外の提案をされてしまった。
……んん? 精霊になる?
「ちょ、ちょっと待って。精霊になんてなれないよ!?」
『なれるのだ。一時的であるし、たくさんの精霊の協力が必要だが、主殿なら協力したがる精霊も多いのだからな』
無茶なことを、と思ったけどシズクちゃんからまさかの解答。え、本当に……?
『だーいじょうぶなのよーっ! うふふ、ショーちゃん、ご主人様と一緒に遊んでみたかったのよー!』
みんなの中では常識、みたい? そこそこ長い付き合いなのに、まだ知らないことがたくさんあるんだぁ……。
他にも、精霊の間では常識だけど私たちは知らないってことがいろいろありそう。
たぶん、当たり前すぎて必要な場面にならないと精霊たちもなにも言わないんだと思う。
それはさておき。
「本当に一時的なんだよね? ちなみにどれくらいで戻るのかな?」
『ふむ、集まる精霊の数にもよるのだ』
『長くても一日やない?』
『メグ様のー、明日のお仕事までには戻れるんじゃないかなぁ』
それなら大丈夫、かな。
う、うずうず。正直なところ……精霊になって遊ぶとかワクワクしちゃう!!
え、夢みたい。みんなと同じ目線で遊べるってことでしょ? このパラダイスのようなお庭で!
……心配性のギルさんは今いないし、むしろ試せるのは今だけなのでは?
は、背徳感。少しだけ罪悪感はあるけど、ギルさんが帰ってくる前に戻れればオッケー、だよね? チャンスは掴むもの! よし!
「じゃあ、お願いしようかな! みんな、どうか私を一日だけ精霊にしてくださいっ!」
『まっかせてなのよー! みんなー! ご主人様が精霊になってみたいって言っているのよー!』
さすがは声の精霊というべきか、ショーちゃんの一声で周囲からブワッと精霊が集まり始めた。う、うわっ。
精霊たちは私を包み込むようにピタリとくっついてきて……うぅ、カラフルな光の群れに呑み込まれそう!
ぎゅっと目を瞑っていると、全身がむずむずとした感覚が襲う。
痛くはない、けど、くすぐったぁい!!
「あはははっ、もう、もう、離れてぇ!」
「ご主人様ー!」
我慢しきれず笑いながら叫ぶと、いつの間にか目の前に私と同じくらいの背格好のショーちゃんが!? えっ! 大きいっ!?
「……じゃなくて、私が縮んだの!? もしかして、精霊になった?」
「そうなのよー!」
きょろきょろと自分の体と皆を見比べていると契約精霊たちがわらわらと集まってきた。
「まっ、シズクみたいにもっと大きくはなれるんやけど、同じくらいのほうが一緒に遊べるやんね!」
「メグ様ぁ、小さくてかわいいー」
ライちゃんとリョクくんがクスクス笑ってぴょこぴょこ飛び回っている。
なんだか声もいつも聞こえるような響く感じじゃなくなってる。そっか、同じ精霊になったから同じように聞こえるんだね。なんだか不思議。
「主様っ、あそぼ! あそぼ!!」
「フウちゃん! うん、遊ぼう!」
くちばしでくいくいと服を引っ張ってせがむフウちゃんに元気に答えてあげる。
よぉし、せっかくだし、思い切り遊びつくしちゃおう!
わぁぁい! 精霊視点の世界だぁ!!





