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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
スカウトの旅

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勝手な口約束


 マキちゃんの具合も心配なので、私たちは一度ここを出ることに決めた。捕まえた3人もそろそろ目覚めるかもしれないしね。その前に警備隊に引き渡したい。


「ルディ。罪を償う気?」


 一度外に出て、ロニーが訊ねた。ルディさんは少しだけ間をあけて、ああ、と頷く。


「……4日後、またここに来る」

「え……」


 このまま一緒に向かいそうなルディさんをロニーは片手で制し、そう言った。驚いたように顔を上げたのはルディさんだ。


「今回のことは、君達は何もしてない。でも、これまでのことまでは、庇いきれない」

「っ、わかってる」


 彼らがこれまでにどれほどの罪を重ねたのかはわからないもんね。人を傷付けるようなことはしていない、と言ってはいたけど、それを判断するのは警備隊やこの国の人たちだから。

 どのみち、償うとしたらそれなりの時間がかかるはず。それは覚悟の上なのだろう、ルディさんは拳をギュッと握りしめた。


「嘘を吐いたまま、マキは納得する、かな?」


 続けて告げられたロニーの言葉に、ルディさんはビクッと肩を揺らす。

 ……それは、私も気になっていたことだ。これまでずっと隠してきたのは、マキちゃんを巻き込んで危ない目に遭わせないためだ。だけど、罪を償うと決めたのならさすがに黙ってはいられないと思う。

 嘘を吐いてしばらく離れるとだけ伝えたとしても、この近くに住んでいたら遅かれ早かれ耳に入るはずだもん。


「償う気があるなら、本当のことを、言った方がいい。たぶん、あの子は受け入れられる。ううん、家族だから、受け入れなきゃ、いけない」


 そうなる前に、ちゃんと本人の口から聞いた方が絶対にいい。マキちゃんはまだ子どもだけど、きっと受け入れられる。というか、信じたい! 出来ることなら少しでも支えになりたい!


「しっかり話し合って。それで、決めて。償うなら、4日後に一緒に行ってあげる。マキのことも、責任を持って預からせてもらう。償わずに、このままの生活を続けるなら、好きにしたらいい。君たちの、人生だから」


 悪いことをして生活費を稼ぐことを、私たちは肯定も否定も出来ない。だって生きるためだから。この国のルールに口出しだって出来ないから、知らないフリをするだけだ。責めるつもりはないけれど……ものすごく心配。


 ルディさんは俯いたまま黙っている。色々と考えているみたいだな。

 私たちは、この3人を引き離したいわけじゃない。本音を言えば、マキちゃんは魔大陸で保護したいし、ルディさんたちには罪を償ってもらいたいんだけど。

 でも、彼らにとってどうするのが一番いいかは、結局のところ本人にしかわからないから。ただ、答えを出すのを待つしかない。


 しばらく無言が続く。そろそろ立ち去った方がいいよね、と思いかけた時、ロニーが一つため息を吐いた。


「……もし償うなら。償いが終わった頃、君達を迎えに来る。マキと、一緒に魔大陸で暮らすといい」

「……え? え、で、でも、そんなこと出来んの、か?」


 驚いた。ロニーが言ったことは私もそうであればいいって思っていることだけど、約束なんて出来ないもん。なぜなら、私たちでは決められないことだからだ。それをロニーだってわかっているはず。

 ロニーは、冷静に見えてかなりこの3人のことを案じているんだね。必ず守るとは言えない約束を、思わず言ってしまうくらいに。


「絶対とは言えないけど……。出来るだけ、そうなるようにする。それは、約束する」

「い、いいのか……? は、はは、なんでそんなに良くしてくれんだよ……。俺ら、差し出せる物は命くらいしかないんだぞ?」

「それで、いい。魔大陸に来たら、精一杯、働いて」


 ロニーはその言葉を最後に、転がっている3人の下へ向かう。これ以上は何も言うつもりはないみたいだ。というか、言いたいことは言った、って感じかな。無言で3人をさっきみたいに担いで視線でもう行くよ、と私を見る。


「あの、もし決めたら……その日が来るの、魔大陸で待ってますからね!」


 私も、言わずにはいられなかった。でも、それを言うだけで精一杯で……。一度ルディさんを振り返ってから、ロニーの後を追った。


「勝手に、決めちゃった。怒られるかも」


 来た道を戻りながら、ロニーがバツの悪そうな顔で呟いた。でもさ、それを覚悟の上で言ったんだよね? 私、わかっちゃうんだから。


「じゃあ、私も一緒に怒られるよ。共犯だもん」

「もう……。巻き込んで、ごめん」

「謝らないで? 私たち、チームでしょ?」


 しかも、怒られたところで引く気はないんだよね? なんでわかるかって言ったらそりゃあ、私も同じ気持ちだからである。

 お互いにそれがわかっているから、苦笑を浮かべ合う。私たちだけは、お互いを責めることは出来ないよね、って。


「でもあの子、マキは、魔大陸に来てもらった方が、絶対にいい。育つ環境もそうだけど……異世界の落し物でしょ?」


 そうなんだよね。今回、マキちゃんが魔大陸行きを断ったとしても、その辺りのことはもう少し詳しく調べておきたい。

 魔大陸でも異世界の落し物を研究している人は少ない。その内の一人がオルトゥスのミコラーシュさんなのだ。

 ここのところはこれといった進展もなく、研究が行き詰っているっていうのはオルトゥスの仲間、みんなが知っていることだ。夜の姿であるミコさんが誰彼構わずよく愚痴っているので。


 だから、人間の大陸でも異世界の落し物が見つかった、となれば一気に研究が進むかもしれない。もちろん、何もわからない可能性だってある。

 それでも、手がかりには違いないのだから、やっぱりマキちゃんにはぜひ魔大陸に来てもらいたい。存在を知られたら、ミコラーシュさんはあの手この手で勧誘するだろう。怖がらせちゃうからやめてあげてほしいけど。


「結局、どこで見つけているのかっていうのは聞けなかったね。それだけでも聞けたらいいんだけど」

「うん。出来れば、いい返事も、聞きたいね」


 今はここまでだ。とりあえず、すぐに今のことはリヒトたちとも共有しないとね。よし、お説教を受ける覚悟を決めておかなきゃ!




「なるほどな。それで、罪を償った後の犯罪者を魔大陸に連れて行くって約束しちまったのか」


 移動しながらリヒトに連絡をすると、ほんの数十秒後にアスカと2人で私たちの目の前に転移してきたリヒト。行動が早すぎるし、つくづく転移ってずるい。

 やましいことがあった私たちは、揃ってビクッと肩を震わせちゃったよね。そのことで笑いもしたけど。


 それから4人揃って捕まえた3人を警備隊に引き渡し、軽く事情を説明。おかげですっかり日も暮れたので、今日の調査はおしまい。宿に2部屋とって今は1部屋に集まり、報告をしているところです。


「ごめん。軽犯罪だから、どうにかならない、かな」


 大きな犯罪を犯した人は、大陸どころか生涯、他の国や街にいくことも出来ない。死刑になることもあるし償いの内容にもよるけど、行動を制限されるのが普通だ。

 でも軽犯罪なら、きちんと罪を償えば社会復帰が出来る。ただ、大陸を渡るとなると難しいかもだよねぇ。魔大陸での奴隷制度はなくなったから、前科持ちは基本的に人間の大陸からは出られない。


「魔大陸側は話がわかるだろうからいいけど……問題はこの国の判断だ。魔王様が頭を抱えるぞ」


 つまり、私たちだけではどうにもならない。必然的に、人間の大陸との交渉を父様に頼まなければならないのだ。頭の痛くなる問題を作って本当にごめんなさい!


「わ、私も一緒に怒られるよ! 私だって、その日を待ってるって言っちゃったもん!」


 ロニーだけの責任にはさせないよ! 私はまだ子どもだけど、ちゃんと一緒に責任を負いたい。出来ることは限られているし、ロニーの方が怒られちゃうのもわかっているけど、それでもだ。


「うわ、それは間違いなく魔王様が折れるヤツじゃーん。娘にそう言われたら断れないでしょー? そんなに怒られないんじゃない?」


 そんな私を見て、アスカが軽い調子でそんなことを言った。いやいや……。そう簡単な問題じゃないんだよ、今回ばかりは。


「ううん、仕事に関することだから叱られると思う。むしろ立場上、叱らなきゃいけないんだよ。お父さんも父様も、私たちを信用してこの大陸に送り込んでくれた。それなのに勝手な口約束をしたんだよ? 信用を裏切るようなことをしちゃったもん」


 最悪、ルディさんとした約束は守れない。私たちのワガママで、大陸間の仲を悪くするわけにはいかないから。

 でも、そうなったらガッカリさせてしまうだろうな。恨まれるかもしれないけど、それはいいんだ。受け入れる。


 何が心配っていったら、誰よりもマキちゃんが傷ついて、ずっと悲しむことになることだ。それが何よりも心苦しい。


「……なんかメグってさ。時々、すっごーく大人みたいなこと言うよね」

「えっ!? そっ、そうかな? わ、私も成長したってことかなー……?」


 難しい顔で俯いていると、アスカが顔を覗き込むようにして核心をつく。し、しまった。かなり成長したとはいえ、達観した物の言い方だったかもしれない。

 慌ててどうにか誤魔化してはみたけど、アスカはジトッとした目で私を見つめてくる。


「ううん、昔からそう! メグはもっと小さい頃から、時々大人みたいだったよー」


 そんなに前からそう思われていたの!? 私、どれだけ迂闊なの……。うーん、これはそろそろ誤魔化しがきかなくなってきたかな。もうすぐ成人だし、本当の事情を説明してもいいかもしれない。

 でも、今話すと混乱しちゃうよね。この話は、アスカが正式にオルトゥスのメンバーになった後、ゆっくり落ち着いて打ち明けるつもりでいたから。うーん、どうしよう。


「ま、まぁ、さ! 叱るも叱らないも、この問題をどうするかもここで悩んでたって決まるわけじゃねぇ。まずは一秒でも早く魔王様に報告するのが大事なんじゃねぇの?」

「! そうだよね! 連絡する!」


 助け舟を出してくれたのはリヒトだった。ふぅ、ありがとね。アスカはまだ探るような眼差しでこちらを見ていたけど、今深く追求する気はないようで黙って口を尖らせている。うー、ごめん! ちゃんといつか教えるからね!


 さ、さーて。次は父様への報告だ。……うっ、叱られるようなことを伝えるのは初めてだぁ。今更ながらに緊張してきたよぉ!


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