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食堂は一時騒然となりまして


「メグちゃんっ! ど、どどどどどーしたのよ、そのケガ!?」


 食堂に向かうために階段を下りた先は、当然ギルド受付カウンター。そこにいたサウラさんが足と腕に湿布を、ほっぺに絆創膏を貼った私を見つけてそんな風に叫ぶものだから、みーんなの注目を集める事になってしまった。こら、サウラさん!


「ころんだでしゅー」

「こ、転んだって……ちょっとレキ! どー言う事ぉ!?」

「あーうるせー。こうなるって思った! ったく面倒臭ぇ」


 あ、そうか。今はレキが私の保護者代わりだから、私に何かあった時に、怒られるのはレキなんだ。なんでその事に気付かなかったかなぁ? 私! 何年社会人やって来たと思ってんのよバカメグ


「わ、私が勝手に走って、それでころんだでしゅ! レキは悪くないんでしゅ!」


 ひとまず慌ててフォローに走る。本当に本当だよ? と目線でもサウラさんに訴えていると、サウラさんはうっ、と言葉に詰まった様子。頑張れ、美幼女な外見。私のせいでレキが怒られずに済むなら、使えるものは使っちゃう! ……利用してごめんね、身体の持ち主ちゃん。


「レキの手当て、ちっとも痛くなくて優しかったでしゅ! 私が悪かったの、ごめんしゃい」

「メグちゃん……本当なのね。捲し立てて悪かったわ、レキ。でも、わかっているわよね?」

「……わかってる」

「あと、その抱え方はどうかと思うわ」

「ふんっ……」


 レキはそっと私を床に下ろすと、再び腕を組んで黙り込んだ。サウラさんへの私の主張は一応通ったようだけど、やっぱそれでオッケーとはいかないよね。本当に心の底から反省。でも、サウラさんは困ったように微笑んだだけで、それ以上追求しなかった。


「で、もうお昼にするの?」

「内部の簡単な説明は終わったから」

「ふぅん。じゃあ、午後は?」

「……ギルドのルールを叩き込む」

「優しくね?」

「……ふんっ」


 あぁ、午後は座学おべんきょーの時間なのね。午前中もルールはあれこれ聞きながらだったけど、こんな言い方をするって事はきっと特に大事な内容なんだろう。これはしっかりお昼寝して頭をスッキリさせないと。

 レキは素っ気なく返事をしていたけど、優しくってところは大丈夫だと思うんだ。だって、午前中も何だかんだいってトータル的に優しかったもん。本人にはややこしくなりそうだから言わないけど。

 あ、そうだ、聞いておかなきゃ!


「サウラしゃん、シュリエしゃんは、今日はいないでしゅか?」

「ああ、そっか。今日はまだ会ってないのね? シュリエは朝から調べ物するのにちょっと外に出てるのよ。何か用があったのかしら? 呼ぼうか?」


 やっぱりお仕事だったかー。当たり前だけど。というか昨日の夜別れ際に言われたような……? 眠すぎて覚えてないんだよね。

 そんな忙しそうな所を呼ぶなんてとんでもない! 私は頭をブンブン横に振った。


「次に会えた時でいーでしゅ!」

「そお? じゃあ後で話を聞きついでに、メグちゃんが探してたって伝えておくわね」

「それでお願いしましゅ!」


 サウラさんに伝言を頼み、手を振ってその場を後にすると、私たちはようやく食堂に向かうこととなった。うん、足は少し痛いけどちゃんと歩けるぞ! ギルドホール中の注目を浴びていた気がしないでもなかったので、去り際にホールにいた人たちにも手を振り、にへらっと笑って誤魔化しておきました! あ、何人か手を振り返してくれてる!


「……人誑ひとたらし」


 ちょいちょい、レキ! 聞こえてるからね! 笑って誤魔化しただけじゃないかっ! 失礼だぞぅ!




 食堂に辿り着くと、早速いい匂いが漂ってきた。くんくん、今日のランチはお肉かなぁ?


「あれま、早いね! いらっしゃい!」


 私たちの姿に気付いた食堂のお姉さんが元気に声をかけてくれたので私も挨拶を元気に返す。


「こんにちわー!」

「はい、こんにちは。挨拶出来て偉いじゃないか!」


 本当にこの人はいつも陽気で明るいお姉さんだ。こんな人が食堂にいたら活気付くし、ご飯も美味しく食べられそうだよね!


「おねーさん、チオリしゅ()しゃん?」


 確認のために聞いたんだけど、チキショーどうしても上手に言えないっ!!


「そうだよ! チオねぇとでも呼んどくれ! あたしは大体いつも配膳してるから、覚えてくれると嬉しいよ」

「チオ姉っ! メグでしゅ! よろしくお願いしましゅー!」


 ノリの良い姉御って感じのチオ姉。さり気なく私が呼びやすいように提案してくれるなんて、流石は姐御!


「お昼はポルグのソテーだよ! メグのは食べやすいように一口サイズにしてあるからね。あと、約束通りご飯はおにぎりにしてあるよ」

「ふわぁ! ありがとーでしゅ!」


 私の分だけ別に用意するのは手間だろうに、それを微塵も感じさせないチオ姉。素敵すぎるよ! これは美味しくいただく事でお礼とさせていただきますっ!


「んーっ! おいちー!」


 レキと共に席について早速いただきますっ! あ、私の椅子はいつの間にか特別仕様になってたよ。チオ姉が持ってきてくれたのだ。いわゆるお子様椅子……誰が用意してくれたのかはわからないけどありがとう! 気持ち的には微妙な心境ではあるけど、いちいち誰かの膝の上なんて申し訳ないもん。……これがなかったら私、今日はレキの膝を借りる羽目になるとこだったしね。……絶対貸してくれなさそうだけど!


 はぁ、美味しいご飯はそれだけで人の心を豊かにするよ! ああ、幸せ。分からないことだらけの異世界で、混乱に陥らず、心の闇に囚われることもなく過ごせているのは、偏に優しい人たちと美味しいご飯のおかげだと断言できるっ!

 この豚肉、ポルグだっけ? お肉の食べ応えがすごいっ! 一口噛むと肉汁がジュワッと口いっぱいに広がって、脂の甘みがしつこくないからいくらでも食べられそう。ただ、切り分けられてるとはいえ、私には少し大きめサイズ。だから一切れ食べ切るのにも時間がかかってしまうのが難点。顎が疲れるぅ。


 レキはもう食べ終えているというのに、私はまだ半分程度。しかも普通の半分以下の量なのに。気持ちだけならお代わりしたいくらいなんだけど、こればっかりはね。早く大人になりたーい!


「美味そうに食ってんなぁ、メグ!」

「んぐっ、むふぁにぃっ!」


 私がもっきゅもっきゅ肉を頬張っていると、私の隣にジュマくんがどかっと腰掛けた。思わず名前を呼んだけど、口の中いっぱいなのでお行儀の悪いことになってしまったよ。ごめん。


「……監視は一時中断かよ」

「ん、まぁなー」


 腕を組んで嫌そうに口を開いたのはレキ。それに片手で頬杖をついてニヤニヤ笑いながら答えるジュマくん。その顔、悪そうだね。流石は鬼(多分)。

 それより、今なんて? 監視?


「お前もっと隠れようとすれば? ほんと隠密とか向かないよね、鬼ってやつは」

「どうせ向かないんだから隠れようとしたって労力の無駄だろー? 別に秘密にする事もねぇし、それに……」


 ジュマくんはその間の瞳に剣呑な光をのせてニヒルに笑った。思わずぞわっと悪寒が走る。


「オレが監視してるって分かってた方が、気ぃ引き締めんだろ? なぁ、レキ?」

「っ……!」


 うぅっ! ジュマくんが凄く怖い! 小さい頃によく、早く寝ないと鬼が来るよって脅されたけど、結局こっそり夜更かししてた。でもこんな鬼だって知ってたらすぐさま寝てたよ! 金色の目が鋭くレキを見据え、赤い髪が少し逆立ってて。レキも緊張した面持ちで固まってる。ほんっとに怖いんだから! 自然とプルプル震えてしまうし涙も滲む。


「おっと、悪ぃメグ。……怖がらせたよな!」


 フッと空気が軽くなる。さっきまでの恐ろしい気配が消えて、いつもの能天気なジュマくんが戻ってきたようだ。はー、怖かった。大丈夫、わかってるよ。あれだよね、教育的指導ってやつなんだよね? でも幼児な身体は頭でわかっている事でも本能に忠実でだね……


「うえっ、ジュマにーちゃ……こ、こわっ、怖いのー!!」


 いつものジュマくんに戻ったという安心感で気が緩み、思いっきり泣いてしまった。ごめんよ、ちょっと止まらないかも!


「わっ、どっ……ううぇっ!? ちょ、レキ! どーにかしろ!」

「知るかよバカ鬼っ! お前が泣かしたんだろーが、僕は知らないよ!」


 そして私の近くにいるのは良くも悪くも単純すぎる鬼と不器用すぎる少年。この2人が大泣きする子どもをどうにか出来るだろうか。否!

 だよねー、ごめんねー。頭では客観的に見てこんな風に考えられるっていうのに、身体は恐怖の後の安堵で震えが止まらないのだよ。


 こうして食堂中に広がる幼女の泣き声と動揺した雰囲気で、一時現場は騒然となるのでした。止まれ、涙と震えっ!

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