【クリスマス番外編】メグサンタ計画、始動! 前編
クリスマス特別企画ということで短編を書きました!
楽しんでいただけますように……。
もうすぐクリスマス。もちろん、この世界にそんなイベントは存在しない。
しかーし! 元日本人の無駄にお祭り乗っかり隊としてはぜひとも雰囲気だけでも楽しみたい!
飾り付けもしたいけど、そこまでするのはちょっとね。1人ではさすがに厳しいし、忙しい皆さんの手を煩わせるわけにもいかないし……。
あれこれ考えた結果、無難にいつもお世話になってる皆さんにプレゼントを贈ろう、という結論に落ち着いた。なんで? って言われても「メグサンタが日頃のお礼を配ります」で押し通そう。
というか、お父さんがいるからそういうイベントがあるって言うだけで伝わりそうだけどね。和食とか和服の時も、また頭領が変なこと言い出した、みたいな感覚であっさり受け入れたって聞いたし。慣れってすごい。
計画としては雑だけど、成長期が来たとはいえ私はまだまだ子ども。そもそも出来ることなんてたかがしれているのだ。勢いでやっちゃおうと思いまーす!
でもプレゼントか。何にしようかな? チオ姉に頼んで小さなお菓子作り? 手作りのキーホルダーみたいなアクセサリーもいいな。……でも人数分となると大変かも。主に材料費が。
うーん、うーん。もっと大人で財力があれば色々考えられるんだけどな。それはそれで皆さん、遠慮しちゃうかもしれないけど。
無理に背伸びする必要はない、かな。私は子どもなんだから、子どもらしい思考で……。
「……似顔絵、とか?」
ベタだ。ベタすぎる。でも、いいかもしれない。みんなの顔を描くことで私も新たな発見があるかもしれないしね。みんなお顔が整ってますね、とか。それは新たな発見でもなんでもないけど。
それに、贈る相手のことをたくさん考えながら作ることが出来る。なんたって顔を思い浮かべながら描くんだからね! メッセージだって自由に書ける。
よしっ、決めた! クリスマスプレゼントは似顔絵を描くぞー!
とはいえ、私に絵心はあまりない。だからその人たちの顔をよく見なきゃ描けない気がする。下手なら見ても見なくても変わらないとか言わない! そういうちょっとの努力を馬鹿にしてはならぬのだっ! ぐすっ。
さて、そうなるとどうしようか。
プレゼントがバレるのを覚悟でカメラ魔道具を借りる? それともジーッと観察するため尾行しちゃう? どのみち不審者になりそうだけど、何度も言うが今の私は子ども。どうにか誤魔化せる、かもしれない。
「……ここは素直に、魔道具を借りようかな」
少し考えた結果、無理してサプライズ計画を立てなくてもいいかな、という結論に達した。びっくりはさせたいけど、それよりも上手に仕上げたいもん!
そうと決まれば早速カメラを借りに行こう。描く時間を考えたらのんびりなんかしていられない!
借りるならやっぱり、あの人かな? 私は目的の人物がいるであろう、オルトゥスの地下へと向かった。
訪れたのは研究所! カメラ魔道具を開発したのはミコラーシュさんだからね。使い方も教えてもらえることを期待して、ドキドキしながら研究所の呼び鈴を鳴らす。
そういえば、そろそろ陽が沈む時間だな……。ミコラーシュさんは朝と夜で人格が変わる種族。昼の姿のラーシュさんと、夜の姿のミコさん、どっちだろう?
考えながら待っているとすぐにドアが開かれた。そこから出てきたのは……?
「あらぁ、メグちゃん。ごめんねぇ、ちょうどあたしに変わったとこ。ラーシュに用だったぁ?」
夜の姿の色っぽいミコさんでした! 相変わらずフェロモン振り撒いてますっ! 美しー!
「こんばんは、ミコさん!」
彼女とはあまり会う機会がないのでちょっぴりドキドキしながらご挨拶。ほら、私は夜になったらギルド内でもあちこち行かないし、すぐに寝ちゃうからミコさんとはすれ違いなんだよね。
用件を手短に説明すると、ミコさんはニコニコしながら最後まで聞いてくれた。全部を聞き終わるとなるほどぉ、と何度も頷き、ピンと人差し指を立ててウインクをする。い、色っぽ……!
「そぉいうことならぁ、あたしがみんなの写真を撮ってきてあげるわぁ。仕事に協力してって言えば嘘にはならないでしょぉ?」
なんと! 協力してくれるですって? それはとてもありがたい! これならサプライズに出来るよね!
「ただ、あたしからも1つお願いがあるんだけどぉ。いい?」
スッと屈んで私に目線を合わせると、ミコさんは先程立てた人差し指を私の唇に押し当てた。もうその行動がますます色っぽい。纏う雰囲気だけで赤面しちゃうよ……!
「お、お願い、ですか……?」
そんなミコさんが私にお願いだなんて。もちろん、ご好意で手伝ってくれるというのだから、私に出来ることであればどんな頼みでも聞いてあげたい気持ちはある。ある、けど。
い、一体何をさせられるんだろう。ドキドキ……。
「そ!」
ミコさんはにーっこりと笑って口を開いた。
と、いうわけで。
今、私はミコさんと一緒にお風呂に入っています。カポーン。
ミコさんのお願いというのは、なんてことはない、一緒にお風呂に入りましょ、というものだった。一度一緒にキャッキャとバスタイムを楽しみたいと思っていたのだそう。聞いた時はあまりにも些細なことで呆気に取られちゃったよ。はー、ドキドキした。
でもたしかミコさんはラーシュさんと身体を共有しているから、つまり、そのぉ……性の象徴が両方あるんだったよね。ミコさんは女性だから一緒にお風呂に入ること自体は抵抗なんてないけど……。
しかし、その辺はミコさんも配慮してくれたみたい。しっかりとタオルを巻いてくれていたからホッとしました! でも漂う色気は半端ない。気を付けないとのぼせちゃいそうーっ。
さらに、交代したラーシュさんは心の奥ですでに眠っているからこのことは覚えてないわぁ、とのお気遣いの言葉までいただいてしまった。ミコさんって、こういう対応に慣れている感じあるなぁ。実際よくあることなのかもしれない……。大人である。色んな意味で。ドキドキ。
「ねぇ、メグちゃん。みんなの似顔絵を描いたとしてぇ、それはそのまま配るのぉ?」
湯船に浸かりながら話すのは、私のプレゼント計画について。そのつもりだと答えると、ミコさんはうーん、と少し考える素振りを見せてからまたひとつ提案をしてくれた。
研究職をしているからなのか、元々人を楽しませるのが好きなのか、色んな案を出してくれるなぁ、ミコさんは。
「クリスマスってぇ、プレゼントやカードを贈り合うのよねぇ? その似顔絵を飾り付けてカードにしちゃうのはどぉ?」
「クリスマスカードですね? いいかも!」
飾りつければ私の拙い似顔絵もちょっとは見栄えが良くなるかもしれない。いいアイデアにお礼を言って、私たちはお風呂から上がった。あっ、待って待ってミコさん! その場でタオル取らないでーっ!! めちゃくちゃクスクス笑われた。か、からかわれているっ!
身支度を整えて湯上がりに水を飲んでいると、素早く着替えを終えたミコさんが、ちょっと待っててねぇ、と言い残してその場を立ち去った。
どうしたんだろう、と思いつつ待つこと10分ほど。戻ってきたミコさんの手にはなんと、お父さんとサウラさんの写真が!
「この調子なら今夜中に撮ってこれちゃうわぁ。今はとりあえず2枚だけど、いい?」
「し、仕事がはやぁい! ありがとうございます!」
どーいたしましてぇ、とゆるりと微笑んだミコさんは、お風呂上がりの上気した頬もあってより色っぽさが増している。
こ、この状態でみんなは写真を求められるのか、という事態にいいんだか悪いんだかわからない微妙な心境です。……いいってことにしとこ。
集めたら私専用のカウンターに置いておく、とのこと。だから安心して今日はゆっくり休むのよぉ、と頭を撫でられる。照れちゃう。
何から何まで助かります! もう一度しっかり頭を下げてお礼を言うと……。
「そんなに言うなら、今度は夜の街散策にも付き合ってねぇ」
そう言い捨ててミコさんは優雅にその場を後にした。よ、夜の街か……。いや、変なことは考えてませんよ! た、ただ、ミコさんが言うとどうしてもぉぉぉ!!
さ、気を取り直して。
あとはみんなの絵を描いてカード作り開始だね。クリスマスはこの日って決まってるわけじゃないから渡すのはいつでもいいんだけど、さっき水を飲みながらミコさんと話しながら10日後にしようって決めたんだ。
仕事でいない人もいるかもしれないけど、スケジュールを確認したところ、その日なら比較的揃ってるっぽいので。いない人にはまた後日でもいいわけだし。
丁寧に心を込めて作るぞー! あとちょっと急ぎめでっ!
翌日の朝にはみんなの写真が私の専用カウンターに揃っていたので、心の中でミコさんに感謝を述べ、せっせと作業を進めること5日。寝る時間を削っても間に合いそうにないペースである。これはもっと色んな時間を作業にあてなきゃ……!
それにしても。
「……私、本当に絵心ないかも」
わかってたけどね! まるで幼児の絵だ。もう幼児は脱してる年齢だけど、絵だけは成長が見られない……! 今更ながらにこれがクリスマスプレゼントとして成り立つのか非常に不安になってきた。
「何かもう1つ、あった方がいいよねぇ……」
とはいえ、予定していた日まではあと5日。今から何かを作ったり準備する時間はない。うーーーーむ。
……やっぱ、シンプルにハグ、とか? その場で出来るし最近は恥ずかしさが勝っちゃってスキンシップがあんまり出来てないし。クリスマスというイベントでのノリならいける気がする!
それで皆さんが喜んでくれるかは不明だけど、スキンシップが減って寂しそうな顔を見せることがよくあるからあり、かも? 実は私も恥ずかしいだけで本当はギュッとしたいし。そう、それが本音である。
うん。イベントの力を借りて、当日は思い切りスキンシップをしよう。そうと決まればあとはカード作りに専念だ。この際、出来のことは考えない! 丁寧に、は心掛けるよ。気持ち、大事!
おかげで私は当日までの5日間、お仕事以外はずーっと自室にこもって作業に専念した。
時々、心配そうにいろんな人が声をかけてくれたけど、面白い本に夢中なだけ! と誤魔化したよ。だって、せっかくミコさんが協力してくれたおかげで、内緒に出来てるんだから。
それに、嘘をつくのは心苦しかったけど、そうでも言わないと部屋にまで入って寝かしつけられそうだったんだもん。寝てる暇などないのである。
うぉぉ、当日までに間に合えーっ! 睡眠時間が日に日に短くなり、ヘロヘロになりながらもなんとか当日の夕方に完成。というかほぼ夜だね……。陽が落ちて暗くなっているし。まぁいい。間に合ったんだから!
ふぁぁ、疲れたぁ。でも達成感! 喜んでもらえるといいなぁ。
部屋でしばしの休憩をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。危ない、もう少しでこのまま寝てしまうところだった。
慌てて返事をすると、聞こえてきたのはサウラさんの声。収納魔道具にカードをしまって、部屋の外へ出た。
「メグちゃん、本は読み終わった? ……ってなんだか疲れた顔をしているわね。大丈夫?」
「あ、あはは。つい夢中になっちゃって……」
そんなに疲れが顔に出てたかな? 読書もほどほどにしないとダメよ、とサウラさんには頬を突かれちゃった。素直にごめんなさい、と誤魔化し笑い。
「ふふ。実はね、メグちゃんに見てもらいたいものがあるの。確認してくれるかしら」
「見てもらいたいもの、ですか?」
「ええ。今、手の空いている人に確認してもらってるんだけどね。だからみんなホールに集まっているわ」
みんなが確認するほどの何かがあるってこと? オルトゥス全体で見ておかなきゃいけないってことは、大事なことなのかもしれない。ちょっと緊張するなぁ。
でも、みんながいるってことはそこでカードも渡せそう。
早く早く、と急かすサウラさんに続き、私もドキドキしながらその後についていく。実はかなり眠いけど、ミッションはカードを配るまで終わらないのだ!
今の私は無事にカードを渡すことだけに意識が向いていたから、サウラさんの言う見てもらいたいものがどれほどのものか、この時の私はまったく予想がついていなかった。
あとひと頑張りするぞー! おー!
後編は25日0時に更新いたします!





