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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
成人部門

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コトサカイ


 ジュマ兄はその後、無言で観客席の隅に移動し、空いたスペースにゴロンと横になった。壁の方を向いているから背を向けている状態だ。たぶん、しばらくはそっとしておいた方がいいだろうな。


「……珍しいものを見たわ。今日のジュマは色々と、こう、珍しいわね」


 このやり取りは観客席にいるオルトゥスメンバー全員が見守っていた。誰もが言葉を発せずにいたところ、最初にそう呟いたのはサウラさん。腕を組んで複雑そうな表情でジュマ兄の背中を見つめている。

 珍しいっていうのは、確かにその通りだと思う。ラジエルドさんとの戦いでいつもとは違う戦闘スタイルを見せたし、試合に出るなと言われてショックを受けたように不貞寝するのもとても珍しいと思う。


 だって、いつものジュマ兄だったら「くっそー! 優勝したかった!」って叫んだりして大騒ぎするのに、今は驚くほど大人しく部屋の隅で寝転んでいるんだもん。調子が狂うわ、とサウラさんが言うのも当然である。


「あいつは僕が見てるから。気にせず試合の観戦してきたら」


 みんなで心配そうにジュマ兄を見つめる中、レキがそう言ってくれた。まぁ、確かにここでずっとみんなでジュマ兄の様子を見ていても意味はないもんね。というか、放っておいて欲しいだろうし。


 それに、ロニーとリヒトの試合もあるんだ。ちゃんと応援しないといけないもんね。ジュマ兄のことは心配だけど、少し気持ちを切り替えよう。ペチペチと自分の頰を軽く叩いた私は、ギルさんと目を合わせた。

 ギルさんはわかったというように軽く頷くと手を差し出してくれたので、そっとその手を取って一緒に席に戻る。残っていたベーグルサンドを食べる気分にはなれなかったので、そのまま収納ブレスレットにしまうことにした。


「ジュマ兄、大丈夫かな」


 席についてギルさんの膝の上に座った時、ポツリとそう呟いた。滅多に見せない様子だからこそ、心配なんだよね。


「おそらく、色んな感情が湧きすぎて、処理が追いつかないだけだ。気持ちが落ち着けば、いつも通りうるさくなるだろう」


 色んな感情? 悔しい気持ちだけじゃないってことかな。あ、ラジエルドさんとの試合には勝てたんだから、嬉しい気持ちもあるか。あとは、防御をしてみるっていう初めての挑戦もしたわけだし……。なるほど、色んな感情が渦巻いていてもおかしくないね。

 うん、きっと少し混乱してるだけだよね。私もジュマ兄のことを信じよう。早くあのニカッとした笑顔が見たいな。


 そんな思いを胸に、試合観戦をすること数十分。ついにリヒト対ロニーの試合が迫ってきた。大好きな2人の試合というだけでなく、たぶんこの二人は大人になってからこうしてゆっくり会うのは初めてじゃないかなって思う。ロニーがリヒトやラビィさんに宛てた手紙は私が預かってリヒトに渡していたし、直接会う機会がほとんどなかったんだよね。お互いに修行の日々で忙しかったし、その合間にロニーは依頼を、リヒトも魔王城の仕事を手伝ってたっていうし、時間が取れなかったのだ。

 ……そう考えると私の修行や仕事なんか甘っちょろいな、なんて思ったりもするけど。いいの、まだ子どもだから。


「あ、出てきたよメグ! ロニーとリヒト! リヒトってすごかったよね。ロニーが穴に吸い込まれないといいけど……」


 試合会場を見てアスカが叫ぶ。2人の姿を見て、妙に私が緊張した。遠目だからよく見えないけど、あの2人も表情が強張っているように見える。やっぱり緊張してるんだ。


『さてさて! 次の試合は魔王城のリヒト選手とオルトゥスのドワーフ、ロナウド選手ぅ! これまでの試合で、2人とも素晴らしい動きや魔術を見せてくれてますよねぇ!』

『かなり鍛えられていますよね。発展途上な面も見られますが、そのことがより期待を持てますね』

『うむ、両者ともにまだまだ伸び代がある。試合の中で成長してくれるであろうな』


 私から見ればリヒトもロニーも十分すぎるほど強いんだけど、特級ギルドのトップや魔王目線からしてみればまだまだなんだね……。もう私のレベルじゃ、一定以上の強さを超えたら全員等しく「なんかすごい」で終わっちゃうよ。


『ところでザハリアーシュ様ぁ。さっきから気になってたんですけどぉ、リヒト選手の種族である「コトサカイ」とは、どんな種族なんですかぁ?』


 コトサカイ? 私も初めて聞いたよ? というかリヒトは人間なんだけど……? アスカも同じ疑問を抱いたようだ。2人同時に後ろに顔を向けて保護者に説明を求めた。


「コトサカイ、という種族は私も初めて聞きましたね」


 え、シュリエさんでさえ知らないの!? 博識代表のシュリエさんが!? ということはもしかして……。


「誰かが作った架空の種族だったり……?」

「それはあるかもしれない。頭領もそうだが、魔大陸でしかもあれほどの強さを持つ者が人間であると知られたら大騒ぎになるからな。人間の中にはああいうすごい人物がいると認識されれば、良からぬことを企む者もいるかもしれない」


 もし人間の中にあれだけの強さを持つ者がいるって認識が広がったら、人材確保とか興味本位で人間の大陸に行きたがる人が出てきそうだもんね。ギルさんの言うことにも納得である。まぁ、行きたいと思ってもそう簡単に行けないのが人間の大陸なんだけど。

 なんてったって、あっちに行くには鉱山の転移陣を使わなければならないのだから! 観光目的では絶対に通してくれないだろうし、相当な理由があったとしても鉱山のドワーフの族長さんは一筋縄ではいかないしね。

 まぁ、それでも鉱山に人が集まってしまうかもしれないし、そういった認識が広がらないようにするのが一番である。


 というか、そもそもこの世界の人間はあんなに強くはならない、と思う。世界中を見て回ったわけじゃないから断定は出来ないけど、ほぼ間違いなくそうだ。お父さんとリヒトが人間なのにあんな強さと魔力量を保持しているのは、異世界から転移してきたからだろうから。

 転移してきたらただの人間がたくさんの魔力を持ってた、っていう仕組み自体よくはわかってないけど、2人に共通するのは異世界人ということだからねー。


 ん? 異世界人? コトサカイ……。も、もしかして異界(ことさかい)ってことかな!? なるほどなるほど、そういうことねー。


「……たぶん、お父さんが考えた単語だと思う。きっと、いや、間違いなくっ」


 安易なネーミングセンスだなぁ、なんて思ったけど、精霊たちの名付けのことを考えたら人のことは言えないなって思った。こんなところで親娘らしさを感じるのもなんだかなぁ。ははっ。


 訝し気にこちらを見るギルさんたちには誤魔化すように笑って見せた。いや、教えてもいいんだけど、これは日本人だからこそわかるネタみたいなもなので説明が難しいんだよね。


『コトサカイというのは、限りなく人間に近い亜人であるぞ。かなり希少な種族ということくらいしか我も知らぬ』

『そんな種族がいたのですね。私も初めて耳にしました』


 父さまも誤魔化したな……? 説明も間違ってはいないよね、うん。観客席がざわめいているから、そこかしこで「お前、知ってた?」って会話がなされてるのだろう。知るわけないでしょうね!


「はぁ、これは私たちで口裏を合わせるしかなさそうですね」


 シュリエさんがため息を吐きながら肩を竦めている。他に知ってる人が誰もいないというのも怪しまれるからだそう。それならそうとあらかじめ言っておいて欲しいものです、とニコニコ笑顔で言ってるので、これは後でシュリエさんによる説教は不可避だろう。がんばれ、お父さん。


「なんかよくわからないけど、頭領とリヒトが人間だってことは秘密ってことね。ぼく、何もしーらないっ」

「話がわかる子で助かりますよ、アスカ」


 うふふ、と笑い合うエルフ師弟コンビを見てたら背筋が冷たくなったよ……。アスカ、恐ろしい子っ! 


『まだまだ私も知らない種族がいるんですねぇ! 勉強になりましたぁ! あ、試合が始まるようですぅ! 今、審判が腕を上げました! 試合開始ぃー!』


 っと、そんなことを話してる内に試合が始まったようだ。ギュッと拳に力を込めて私は身を乗り出した。2人は同時に動き出す。お互いにその距離感を保ったまま円を描くように移動しながら魔術の準備をしているようだ。出方を伺ってる感じかな?


 ふふ、なんだか懐かしいなぁ。旅の間に訓練してた時、時々あの2人は模擬戦をしてたんだよね。その時もああやって距離感を探るように動いてたっけ。うっすらと笑みを浮かべているように見えるから、2人も同じことを思い出してるのかもしれない。


「む、早速仕掛けてきたな」


 ギルさんの声により注意深く観察してみると、たしかにリヒトが空間魔術を行使しようとしているのがわかった。ロニーの足元に突然ポッカリと空いた穴。このままロニーが吸い込まれていくかに思えた。けど!


『おぉーっとロナウド選手! 咄嗟に周囲の地面で壁を作り……それを破壊しましたぁ!』


 大地の自然魔術で作った土壁を殴ったことで代わりにその破片を穴が吸い込んでいく。その隙にロニーはその場から回避することに成功した。他のものを吸い込ませることで、時間を稼いだんだ……! すごい。

 それからそのままロニーはさっきの試合と同じように、たくさんの壁を作り上げた。その数はさっきよりもずっと多くて、会場が埋め尽くされちゃうんじゃないかってほど。


『次から次へと壁が出来て……出来、え? も、もはや壁の域を超えてませんかぁぁぁ!?』


 カリーナさんが困惑したように叫んでいる。うん、気持ちはわかる。最初はひたすら多くの壁を作ってるのかと思ってたんだけど、見る見るうちにその壁はあらゆる角度、大きさ、長さで生み出され、いつの間にか立体迷路のような謎の空間が出来上がってしまった。ひえぇ!


『それだけではなさそうであるな』

『あらゆる草花が成長していってますね。ほぅ、これは何とも美しいですね』


 解説の父さまとシェザリオさんが感嘆のため息を漏らした。大地の立体迷路にいろんな種類の草花が巻きつき、気を付けないとトゲが刺さったり、茎や根っこに足を取られちゃいそうだ。まさにジャングル。立体ジャングル迷路。芸術的ぃ!


『これだけのものを一瞬で作り上げるなんて……! っと、リヒト選手はどこにいるのでしょうかぁ!? 迷路の中に巻き込まれてその姿が見えませんーっ』


 あ、そうだったね。リヒトはどこに行ったんだろう。迷路の中に閉じ込められた感じになってる。上空は開いてるから抜け出せるかな? それはリヒトも考えたのだろう。ある場所から火球が打ち上げられた。そこにいるのね!


『ふむ、上空から逃げようとしてもすぐに壁で塞がれてしまうのだな。強度もなかなかのものである』

『自然魔術ですからね……。魔力量で強度が決まるわけではないのが厄介ですね』


 つまり、上から逃げようと思ってもすぐに塞がれるし、壊してしまおうと思ってもそもそも硬い上にすぐに修復されてしまうってところかな。

 なんてものを作ったのロニー。自然魔術は苦手だって言ってたのに、こんなことまで出来るようになってるなんてビックリだ。


「たしか、魔術に関しては1つの技だけをひたすら特訓したとケイが言っていましたね。つまり、彼はあの形が完成するまでひたすら同じ訓練を続けてきたのでしょう」


 言われてみれば、ロニーの自然魔術は基本的に壁を作り、その壁に草花を絡みつかせる、というものだけだ。昔、人間の大陸で一度見た魔術も、土を利用して大地を盛り上がらせるものだったもんね。1つの使い方を極めるという方向で頑張ってきたんだ……。努力の賜物だよね! すごい! だけど……!


「で、でもさ、リヒトは空間魔術を使うでしょ? あれくらい、簡単に抜け出せちゃうんじゃないかな?」


 まさに今、私が思っていたことをアスカが口にした。そう、リヒトは人を転移させるだけでなく、自分も転移出来るのだ。というかむしろ、そっちの使い方しか私は知らなかったもん。けど、そんな懸念もギルさんの説明によってあっさり解消されてしまった。


「あの壁は魔力も込められている。精霊が生み出したものだぞ? 内部で魔術を使おうと思えば精霊がすぐに気付くだろう。ほら、転移はリヒトだって試しているようだが抜け出せていない」


 そっか。あの迷路の内部は精霊の管理下にある。魔術を使おうと思えばわかるに決まってるよね。ロニーはそんな精霊と連携をとって、リヒトの魔術も防いでいるんだ。でもそれって、かなり難しいよね? 私はショーちゃんがいるから簡単に連携出来るけど、そうじゃない場合は指示を出すのにものすごく集中力が必要になる。

 案の定、ロニーの額からは汗が吹き出している。リヒトが抜け出すのが先か、ロニーが決定打を放つのが先か。手に汗握るぅっ!


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