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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
未成年部門

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ジュマの悩み


『うわぁ、しまったな。こりゃ一本取られたなー、ルーンのやつ』


 解説のディエガさんが感心したような悔しそうななんとも言えない声を上げた。それってどういうこと? と首を傾げた瞬間、さっきまでハイデマリーがいた場所にパッとルーンが姿を現した。えっ、あれ!?


「押し出すことに気を取られたルーンは、背後に迫る闇に気付いてなかったな」

「ええ、闇に隠された転移陣により入れ替わったのでしょう」


 すぐさまギルさんとシュリエさんが説明してくれた。それはつまり、転移陣を使って二人の居場所をチェンジしたってこと? バレないように闇に隠して? す、すごい。

 あと少しで場外に落ちそうだったハイデマリーの位置にルーンが入れ替わりで移動したことで、ルーンはそのまま場外へ。ポカンとした様子で場外に座り込むルーンは、すぐにそのことに気付いて天を仰いでいる。悔しいだろうなぁーっ!!


『だ、大逆転―! 勝者、シュトルのハイデマリー選手でぇすっ!! いやぁ、お見事でしたねー!』


 場内は、盛大な拍手で包まれた。ハイデマリーは恥ずかしそうにその場でお辞儀を披露している。ふわぁ、たしかにすごかったなー。


「でも、転移陣なんか全然見えなかったなぁ」


 転移陣と聞いて軽く身震いをしたけど、リヒトが何度となくやってくれた魔術陣なしの転移と同じだ、と自分に言い聞かせてどうにか落ち着きを取り戻す。魔術陣ってだけでどうしてこんなに反応しちゃうかな、私? 意外とトラウマになっているのかもしれない。自覚がなかっただけにまずいなぁ。試合中、動揺しないようにしないと。


「闇で巧みに隠されていたからな。自分の得意な魔術をうまく使用した良い戦法だった」

「そうですね。ですが魔力は隠せていませんでしたから、集中を切らさなければ気付けるはずですよ」


 そっか、目で見えないだけだったんだね。けど、これが成人部門の戦闘になると巧妙に隠されていたりするんだろうなぁ。え、それってどうやって気付くんだろう。引っかかったとしてもみんなならその瞬間で対応出来ちゃいそうだけど。

 そもそも、その手の引っかけにかかりそうにもないし。私がその域に達せるのは一体何百年後なのだろうか。というか、到達出来るかも微妙である。


「よし、試合中は魔力の流れに気を付けようっと」


 でも今は目の前のことを確実に、だよね。みんなの試合を見てから対策を練られる私の試合順番はかなり有利だったかも。勝ち上がった子と戦わなきゃいけないプレッシャーはあるけども。私の相手はあの闇の魔術を使う狐ちゃん、ハイデマリーか。いい試合が出来るように頑張ろう!


『それではみなさぁん! 未成年部門はここで一度休憩タイムに入りますよぉ! 未来ある子どもたちに負担をかけちゃダメですからねぇ! また始まるちょっと前にアナウンスしまぁす!』


 可愛い声が休憩のお知らせをしてくれた。1試合にそこまで時間がかかってないから続けてやってもいい気はするけど……どこからも一言も不満の声があがらないところが魔大陸だなぁって感じだ。子どもは宝、真綿に包んで大事に大事にという意識は魔大陸全土で共通なんだって実感するよ。


 さて、休憩かぁ。これが終わったら私は試合会場の控え室に向かわなきゃいけない。先にアスカとグートの試合があるけど、その次だから控え室からの応援になる。

 チラッとアスカを見ると、どうやら落ち着いている様子だ。1試合目は緊張した様子だったのに、1回試合を終えたからいい具合に肩の力が抜けてるんだろうな。そしてそれは対戦相手のハイデマリーも一緒だろう。うっ、緊張してるのは私だけかも!?


 ……ちょ、ちょっと気分転換に外に出てみようかな。お手洗いにも行っておきたいし! コソッとサウラさんにそう伝えると、ここを出てすぐ右にあるわよ、と教えてくれた。すぐ近くで助かる。これで迷子にでもなったら大変だもん。館内アナウンスで呼び出しとか恥ずかしすぎて倒れる。


 心配症なギルさんにも軽く一言伝えてから私はオルトゥスの観客席をソッと出る。外の通路は特別な観客席を使う関係者しか通ることがないからか、今は誰もいない。私のようにお手洗いに行く、とかでもないとみんな出てこないのだろう。一般客席側は賑やかなんだろうなぁ。

 でも、今はこの静かさにホッとした。さっきまで歓声が上がったりと賑やかな空間にいたからね。のんびりもしてられないのでサッとお手洗いを済ませる。手を洗ってさぁ戻ろうと思った時、通路に意外な人物を発見したので歩み寄った。


「……ジュマ兄?」


 壁に寄りかかって拳を見つめ、何やら思い詰めたような顔をしていたから、一瞬声をかけるのを躊躇った。でもジュマ兄のことだし、私が近づいて来たことには気付いてるはず。逆に、ここで声をかけない方が不自然かなーと思って声をかけたのだ。

 案の定、ジュマ兄は視線をそのままにおー、と返事をしてくれた。どうしたのか聞くべきか否か。あ、そうだ。


「ジュマ兄、さっきは庇ってくれてありがとう」

「さっき? あー、ラジエルドん時か」

「うん! カッコ良かったよ!」

「お、そうか? サンキューな!」


 素直に思ったことを伝えると、嬉しそうにニパッと笑ったジュマ兄が頭をワシワシ撫でてくれた。多少は加減をするようになったとはいえ、ジュマ兄の撫で撫では相変わらず髪がボサボサ案件である。


「ん? わっ」


 そんな風に油断してたから、突然抱き上げられて驚いて声を上げてしまった。というか、ジュマ兄が私を抱き上げるなんて珍しい。なんだかやっぱり様子がおかしい……よね?


「なにかあったの?」

「んー……」


 視線を斜め上に逸らして返事ともいえない返事をするジュマ兄は、いつものジュマ兄とは明らかに違う。絶対変だ。私はジッとその横顔を見つめ続ける。すると、ようやくチラッとこちらに目線を向けたジュマ兄が、実はさぁ、と口を開いた。


「伸び悩んでたんだよ。オレ」

「……ジュマ兄、強いのに?」

「おう。お前の言う通り、オレが強いのは間違いないんだけどな!」


 ニッと笑ってそう言う顔は、いつものジュマ兄なんだけどなぁ。予想外の言葉に呆気にとられてしまう。


「でも、もっともっと、上を目指せるはずなんだよな。頭領とか、ギルより、オレは弱ぇ」


 あー、あの辺と比べるとそうだよね。鬼族だから、強さには貪欲なのかもしれないな。さっき、ラジエルドさんに名前を呼んでもらえなかったことが、尾を引いているのかもしれない。


「オレは、ずっとガムシャラに鍛えてきた。もっと強くなりてぇから、頭領とかギルに聞いたこともあるんだ。けど……」


 その2人は、決してジュマ兄にアドバイスはしないのだという。その場面、見たことあるなぁ。その時はたしか、こんなことを言っていたっけ。


『俺らが教えたら、お前、絶対その通りにするだろ。だから教えねぇ』


 鬼にとって、強者の言うことは絶対だ。だからお父さんは、自分の言った通りにしか訓練しなくなることを避けたんだと思う。聞いた当初は意味がわからなかったけど、鬼について色々聞かされた今ならその理由もわかる。


「ずーっと今以上になれなくて、これでも悩んでたんだぜ? ……でも、そん時に、お前らの訓練してる様子を見たんだ」

「私たち? えっと、アスカと?」


 そうだ、とジュマ兄は言い、ひょいっと今度は私を肩の上に座らせた。小柄なジュマ兄だから一見、危なっかしく見えるかもしれないが、安定感は抜群である。


「お前らはすげーな。人の意見を素直に聞いて、どんどん吸収してさ。そうすることで、強くなっていくのを見て……思ったんだ。オレ、頭領とギルの言うことしか、聞く気がなかったなーって」


 あ、そっか。強者の言うことは絶対なのとは逆に、自分の認めた相手以外の話はなかなか聞き入れられないんだ。難儀な……! でも最近、そのことに気付いたってとこかな。


「サウラとかケイとかシュリエがさ、ずっと言ってくれてたなって。お前はもう少し回避とか防御を覚えろって。でもよー、別に攻撃食らっても問題ないから必要ねぇって思いは未だにあんだよ。でもさぁ、やってみっかーって。お前ら見てたらちょっと思ってさ」


 そんな風に思ってたんだ……。意外すぎて言葉が出てこないや。だってさ、いつも自信満々で、元気いっぱいで、悩みなんかなさそうに見えていたのに。こういうとなんか失礼だけど、そんなジュマ兄だからこそ見ていて元気をもらっていたから、ただただ意外なだけなのだ。


「見てろよメグ。オレ、この大会で絶対優勝してやっからな! ラジエルドには余裕で勝ってやる! 名前呼ばしてやんぞ!」


 ま、その前にメグの試合があっか! とジュマ兄は笑う。そっか。ジュマ兄にとってもこの大会は一つの節目みたいなものがあるんだね。特級ギルドオルトゥスは、成長し続けることを諦めない。ジュマ兄はこれまでだって決して諦めてはいなかったけど、今ようやく大切なことに気付いて、前に進もうとしてるんだ。


「あ、でもこの話はみんなには秘密な? みんなが言ってたことが本当だったってわかるまでは、まだ信じてないからな!」


 ま、まぁ頑固なところはあるけど、きっと大丈夫。一回りも二回りも強くなったジュマ兄が見られるのを楽しみにしてようと思うよ!


「でも、なんで私には話してくれたの?」

「なんでって……ちょっとだけ、ちょーっとだけさ、不安なんだよな」

「えっ!? ジュマ兄が、不安……!?」

「ちょこっとだけだって! こぉんのくらい!」


 驚く私に、慌てて人差し指と親指をくっ付けてそう弁解するジュマ兄だけど、それ、ちょっとも隙間ないよ?


「だって、防御とか回避とかしてさー、弱くなってたらどーすんだよ? やってみねーとわかんねーじゃん。だから、とりあえず誰かに聞いてもらいてぇなーって思ったのとー」


 そこで言葉を切ったジュマ兄は、私を両手で持ち上げた。いわゆる高い高いだ。わ、わ、突然はびっくりするよー!


「メグなら、馬鹿にしねぇし、秘密は守るし、なんか言いやすかったんだよな!」

「そ、そんなに信用されてもぉ。言わないけどっ」


 あははと笑いながらジュマ兄がその場でクルクル回り始める。あー、目が回るぅーっ! そろそろ下ろしてー! と思ったその時、ガチャッとオルトゥス観客席のドアが開き、そこから出てきたギルさんが回る視界の隅に見えた。たーすーけーてぇー。


「……何してる」

「ん? 試合頑張れよーって! な、メグ! あ、あれ?」


 目を回す私の身体がひょいっと浮き、そしていつもの腕の中へ。状況があまり把握出来てなくてもわかる、この腕の中はギルさんだ。抱っこマイスターは健在なのである。うえっぷ。


「まったくお前は……限度を知れ」

「わ、悪いメグ……」


 いいのよいいのよ、ジュマ兄が吹っ切れたみたいだからそれで。でも試合前にやられるのは勘弁して欲しかったかなぁ? すぐ試合、じゃなくてよかった。で、でも……。


「き、気持ち悪いぃ……」

「……レキに診てもらうか」


 あ、いや、これはただ酔っただけだから診てもらうほどでは、と言おうとしたんだけど伝わらず、私はギルさんによって観客席にいるレキの元へと担ぎ込まれた。ぐってりとした私にオルトゥスの皆さんはビックリ仰天。ですよねー。当然、こうなった経緯はギルさんが説明、ジュマ兄はこっ酷く叱られてしまった。私的にはそこまでのことじゃないからちょっと心苦しい。


「……試合前に何やってんだよ」

「面目ない……」


 唯一、レキだけは私に対して呆れたような目を向けていた。私の額に当てられたレキの手のひらからはホワリと暖かな魔術が出ていて心地いいのに、視線だけが冷ややかである。試合前に心配をかけたのは私だけどもう少し優しい目を向けてはもらえないだろうか。まぁ、レキだし、仕方ないかー。


「大したことないからもう平気だろ」

「うん、ありがとー。だいぶ楽になったよ」


 数十秒ほどで手を離し、素っ気なく言われた言葉にきちんとお礼を伝える。レキもお医者さんなんだなー。おかげでスッキリしたよ! これなら試合も大丈夫。


 だ、だからもうジュマ兄のことは許してあげて、サウラさぁん!


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