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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
未成年部門

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マイケvsアスカ


『大変長らくお待たせしました! 準備が整ったようなので早速、試合を始めたいと思いまぁす!』


 会場内に、先程のやけに可愛らしい声のアナウンスが響く。なんていうのかな、こういう声。アニメ声っていうのかな。一部でファンクラブが出来そうな声だ。すでに会場内のあちらこちらで「あの声だー!」という歓声が聞こえてきている。可愛い声は異世界でも共通して需要があるようだ。


『記念すべき第1試合目は、ステルラ所属のマイケ! あ、所属って言っても、正式なギルドメンバーってわけじゃないですよぉ? まだ子どもですからねぇ。未来のステルラメンバーといったところかな? えーっとえーっとぉ、子どもたちはみんなそんな感じでぇす!』


 説明が雑! わかるけど! 会場のあちこちでクスクス笑う声が聞こえてくる。まぁ、概ね好印象な感じだけど。難しく言われるよりはわかりやすいし、いいのかも?


『対戦相手はオルトゥス所属のリュアスカティウス! 長いからアスカって呼んじゃうね! 今頃は控え室でドキドキしてるかなぁ?』


 もはやノリについては何も突っ込むまい。いいじゃないか、楽しい方が! ね!!


『では、選手が入場する前に、1試合目の解説者を紹介しまぁす! まず、魔王であるザハリアーシュ様ーっ! きゃあーっ! 今日もとっても素敵ーっ!』

『む、ここで話せばいいのだな? 子どもたちとはいえ、素晴らしい試合を期待しておるぞ!』


 お、父様の声だ。緊張するでもなく普段通りの父様の声にホッとするなぁ。そしてもう1人の解説者は、とカリーナさんが紹介をしたのは。


『アニュラスの頭、ディエガだ。まー、うまく解説出来るかはわかんねーが、よろしく頼むわ』


 ディエガさんだー! アニュラスの観客席側から歓声が上がった。みんな自分のところのトップが好きだねー! うちでももちろん大人気だけど!


『ワイルド系なディエガさんも素敵ですねーっ! 筋肉! 筋肉触ってもいーですかぁ!?』

『は? わ、おい、やめ!』


 何やってんのほんと……でもあの立派な筋肉が触りたくなる気持ちはわからなくもない。や、やらないよ!? 私はやらないからね?

 ドタバタという音がマイク越しに聞こえてくる。合間にディエガさんのやめろ、とかおいカリーナ! って止めに入ってるらしい人の声とかが聞こえ、一度ブツッと音声が途切れた。……だ、大丈夫?


 そして数十秒後、再び明るい声が聞こえてきた。


『失礼しましたぁ! 気を取り直して始まりますよぉ、第1試合目! 選手の入場です! 拍手でお迎えくださぁい!』


 妙に声が生き生きしてるなぁ。これは、触れたんだろうな。筋肉に。……あっ、アスカが入場してきた! 反対側からはウェーブがかった空色の髪を、肩上で揺らした背の高い少年が歩いてくる。ふむふむ、あの人がマイケさんか。遠くからだからそんなにハッキリとは見えないけど、なんとなく優しそうな雰囲気を感じる。


『水蜥蜴の亜人のマイケ対エルフのアスカ! んー身長差がすごいですね!』


 カリーナさんの言うように本当に身長差がすごい。パッと見た感じだとまだ小柄なアスカが心配になってしまうくらいだ。


『いや、今大会は魔術がメインの試合になるからな。体術もあるが、体格差はあまり当てにならんぞ』

『うむ、そうであるな。見た目に騙されてはならぬぞ。優しそうでも、小柄でも、繰り出す攻撃が生温いとは限らぬからな』


 そこへすかさず入る解説。うんうん、そうなんだよね。アスカはまだ自然魔術は不安定なところがあるけど、その分とにかく運動量が多いんだ! 速いし、正確だし、手強いと思う。

 ただ、マイケさんのことはサウラさんから聞いた簡単な情報しか知らないから油断は出来ないよね。優しそうに見えて負けず嫌い、とか十分にあり得るもん。それにしても背が高い。大人と言われても納得しちゃうな。

 と腕を組みながらむむむと見ていると、会場の中央に向かって歩いてくる見知った人物に気付く。あ、あれは!


「クロンさんだ! あれ? なんでいるの?」


 淡い水色の髪を後ろでまとめ、いつも通りのメイド服姿で颯爽と会場に上がり、中央に立つクロンさん。そして手でマイケとアスカに合図を出している。それを受けて2人は数歩前に出た。あ、もしかして。


「クロンは今回、審判をしてくれるの。彼女ほど冷静に審判をしてくれる人はいないわ!」


 やっぱり。確かにクロンさんなら適任だろう。戦うメイドさんだし、自分が攻撃しなきゃいけない、というわけでもないなら選手の繰り出す攻撃に当たることもないだろうし。自分と同じ魔王城からの出場者ってだけで贔屓したりもしないしね!

 なんでわかるかって、クロンさんは魔王様至上主義だからだよ……! 他の人への扱いは全て平等なのだ。普段はあんなに塩対応なのに、魔王様一番! というところだけは変わらないのである。


「始め!」


 そうこうしている間に、クロンさんが片手をビシッと上げ、試合開始を宣言をする声が聞こえてきた。マイクを使ってないからよくは聞こえなかったけど。その合図を聞いて、先に動き出したのはアスカだった。いつも使う光の魔術だ。


『始まりました! アスカ選手、さっそく光の魔術を繰り出しましたぁ! うぅ、眩しいーっ! 目眩しでしょうかっ』

『うむ、初手で相手の視界を奪うのは良い手であるな!』


 対するマイケはアスカの光を受けて一瞬怯んだように見える。もちろんそこを見逃すアスカじゃない。そのままマイケの懐に真っ直ぐ突っ込んでいく。でも、目を閉じたままマイケが手を突き出してる。何かしてくるかも!


『おっと、目が開けられないマイケ選手でしたが、得意の水魔術を放ちましたね! しかも足元に!』

『やるじゃねぇか。見えないから相手に当たる可能性は低い。それなら周囲の足元に水を張れば、相手の足も取られるし、水音で場所もわかるってこったな!』

『おおー、本当ですねぇ! アスカ選手、一瞬だけ足元に気を取られたようですぅ!』


 すごい、水が生き物みたいに動いてる! あの一瞬でマイケの半径数メートルは水たまりになっちゃった! ところどころでうねうねと蛇みたいに動いていて、アスカを狙い撃ちしてるのもすごい! まだ目が見えてないっぽいのに、音と感覚だけで狙ってるんだ。ふわぁ。


「……いい動きをしているな」

「ギルさんもそう思う? アスカ、たっくさん頑張ってたもん!」


 ふと、頭上から声が降ってきたので、自分のことのように胸を張る。そう、あらゆる場所からマイケの水の攻撃がアスカを狙っているというのに、アスカは持ち前の身体能力で全て避けているのである! 時々、風の魔術も使って軌道を変えてるみたい。すごいすごい! 緊張しないでいつもの動きが出来てる!


『今度はアスカ選手、再び仕掛けてきましたぁ! えっ、あんなに小柄なのに体術ですかぁっ!? 鋭い蹴りの一撃がマイケ選手にヒットぉーっ!』

『いや、マイケもギリギリで後ろに跳んでんな。防御が間に合わねぇと思ったんだろう、多少ダメージはあっただろうが、うまく衝撃を逃してるぞ』


 うー、あれ当たると痛そうだよねぇ。だから私も模擬戦では当たらないように必死なのだ。全力で避けちゃう。おかげで食らったことはないんだけど、その度にアスカは悔しそうにするんだよね。試合となると容赦がないのがアスカなのだ。遠慮なく顔とか狙ってくるから本当に怖いんだよ!

 アスカ曰く、それでも当たらないんだから狙わないって選択肢はないじゃん! だそう。わ、わかるけどさぁ!


『んーっ? 両者、一度距離を取りましたねぇ』

『ふむ、両者大きめの魔術を使うのだな』

『えっ、そんなことわかるんですかぁ?』

『魔力の動きを見ればわかるであろう?』

『当たり前のように言いますけどぉ、普通はわかりませんよぉ? さすがはザハリアーシュ様ぁ!』


 あ、うん。そうだよね。普通はわからないよ、それ。私も父さまの解説を聞いてようやくそうなんだ、って注視することで気付いたもん。普通は言われてもそうなの? ってレベルだと思う。もちろん、特級ギルドの皆さんは気付いていたでしょうけどね!

 私も瞬間的に察せないと、戦いには不利だよねぇ。気を付けて見る習慣をつけないと!


「あれ、足元に魔術陣?」


 2人の様子を注意深く見ていると、マイケの足元に円形の魔術陣が現れたことに気付く。水色に光っていて、円柱の光の柱のようになってる。結構な魔力を込めたっぽい。


「魔術陣を使うことで魔術が安定する。魔力の消費も抑えられるし、暴走する危険性も低くなる」

「そう、だから大きめな魔術を使う場合は慣れるまでああして魔術陣を使うことが多いのよ。子どもはほぼみんな使ってると思うわ。ああいうのを『仕込み』っていうの。メグちゃんやアスカは自然魔術だから必要ないものね」


 私の疑問に、ギルさんとサウラさんが説明してくれた。へー、なるほど。ということは対戦相手はみんなああして魔術陣を使うと思ってた方がいいね。試合中に初めて見てたら動揺してるところだった。

 思えば私は、魔術陣を使って魔術を使う人を見たことがなかったから余計に。周りはそんなの使わなくても余裕な実力者ばかりだったし、リヒトも使わなかったし。まぁ、リヒトの場合は使い方を知らなかったってだけだろうけど。


「魔術陣、かぁ……えへへ、びっくりしちゃった」


 今もちょっと心臓がバクバクいってる。いやぁ、魔術陣には軽くトラウマが、ね。もちろん、人間の大陸に飛ばされて酷い目に遭ったあの事件が原因である。もう大丈夫だってわかってても、つい震えてしまうのだ。


「……大丈夫だ」

「ギルさん……うん、ありがと」


 わずかに、私を支える手に力が込められたのを感じた。ギルさんにはお見通しだったみたい。おかげでホッと肩の力も抜けたよ。いつも助かってます!


『マイケ選手、水龍を生み出しましたねー! ふぅぅぅかっこいーっ!』

『なぜ龍なのだ!? 彼は蜥蜴の亜人ではないのかっ』

『かっこいーからに決まってますよぉ! ザハリアーシュ様の魔物のお姿もとても素敵ですぅ』

『いや、それは違ぇだろ……』


 実況、解説、仕事して! 確かになぜ龍なのかは気になるけどっ! すると、サウラさんがふむ、と腕を組んで考えを話してくれた。


「案外、かっこいいからっていうのは間違いではないんじゃないかしら。魔術っていうのは基本的に想像力で賄うから。マイケが強い魔術を、と考えてイメージしたのが龍だった、ってことも十分あり得るわよ」


 なるほど、それなら納得だ。龍は魔王である父さまとイコールでもあるわけだし、自然とそんなイメージになるのは不思議じゃないよね。

 っていうか、それどころじゃない! あんなに強そうな水龍が自在に動いてアスカに襲いかかってるんだから試合に集中しなきゃ!


「でも、当たらなきゃ意味ねーよな。アスカ、全部避けてるみたいだし。あーでも無駄な動きが多いよな。すげーおしい。今! 今狙えば倒せたのにっ」


 サウラさんを膝に乗せているワイアットさんが白熱している。やっぱり無駄な動きが多いんだ、アスカって。大体同じことを言われているもんね。隙を見つけてそこを狙えるように、っていうのがアスカの目標になるのかもしれない。


「今だ」

「そこだ! いけー!」

「いけるっ」


 突然、ギルさんとワイアットさん、サウラさんの声が重なった。見ると、水龍と平行になるよう身体を捻ったアスカが、風の魔術を使って一気にマイケの懐に飛び込んでいるところだった。あえて攻撃魔術である水龍に身体を寄せるなんてすごい! 進行方向は真逆だからいつも以上に速く見えるっ!


「いけーっ! アスカーっ!」


 私も思わず叫ぶ。アスカは全身に風を纏わせ、勢いそのままにマイケに向かって拳を突き出した。その瞬間、全身に纏っていた風が拳に集結。マイケに当たったその時、突風が彼を襲い、長身なその身体を吹き飛ばした。


『ものすごい勢いでマイケ選手が飛ばされていくぅーっ! そのままぁ……場外っ! マイケ選手、場外アウトですっ! 第1試合目はオルトゥスのアスカ選手の勝利でぇすっ!』


 実況の可愛らしい勝利宣言に、大歓声が巻き起こる。私たちもやったー! と盛り上がり、アスカの勝利を喜び合う。やった、やった! アスカが勝ったー!


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