親心
「ひとまず、特級ギルド合同会議の場所は、アニュラスかステルラのどちらかに場所を提供してもらうことになりました。打診は私が」
現在、食事をしながらシュリエさんから先ほどの説教……ではなく、話し合いで決まったことを聞いています。場所かぁ。一箇所に集まる必要があるからどこで話すかっていうのは先に聞いてみないといけないよね。
「オルトゥスや魔王城、シュトルじゃダメなんですか?」
合同会議は5つのギルドと魔王城で行うんだよね。としたら、その2つが候補に上がったのはなんでだろう、と思って素直に疑問をぶつけてみた。すると、シュリエさんは優しげに微笑みながら教えてくれた。
「単純に、場所がいいからですよ。シュトルも魔王城もオルトゥスも、魔大陸の端の方にありますからね。中間地点であるアニュラスとステルラのどちらかにした方が、皆が集まりやすいだろう、というのが理由です」
「なるほどー!」
言われてみれば確かに、である。頭の中で思い浮かべた魔大陸の地図で当てはめてみると、シュトルは地図の左上、オルトゥスは真反対の右端にある。魔王城はやや左、といった位置にあるけど、お城は端にあるもんね。そうなると、魔大陸の真ん中に位置するセントレイ国にある2つのギルドが最も集まりやすいのは当然だった。その2つの中でも、ど真ん中にあるのはアニュラスだ。さすがは商業ギルド、いい位置にある。
「次に合同会議の日程ですが……10日後にします。ギリギリ、予定が組める最短日数ですね。それでも、各ギルドのトップに予定を開けさせる、というのは難しいでしょうけれど、ねじ込んでもらいましょう」
「ね、ねじ込む……」
サラッと鬼畜発言をするシュリエさんに、引きつった笑みを浮かべるリヒト。うん、慣れて。オルトゥスではよくある光景だから……それでもオルトゥスがブラック企業っぽくないのは、みんながみんな有能で報酬も良く、仲間同士が信頼しあっているからこそだ。休みもきっちりとるしね。聞けば、特級ギルドはみんなそんな感じらしい。中級ギルドになるとブラック企業的なギルドも多いみたいだけど。特級はその点でも特級だなぁって思ったよね。
「その辺りは、一応言い出したマーラが何十日も前に声かけてるからな。みんなそれに合わせて調整できるように準備はしてるだろうよ」
そこへ、お父さんからの補足説明。なるほど、さすがはマーラさんである。いつでも突然言い出すお父さんとは大違いだ。
「皆、事情を知っているということか?」
父様が疑問を挟んだけど、そうだよね。どこのギルドにどの程度話が伝わってるのかな? すると、お父さんは肩を竦めて答えた。
「最初に話を持ちかけたのは俺だって言ってたな。で、俺が動くことを決めた時、マーラはマーラで各ギルドに手紙を送るって言ってたな。だから、シュトルが町興しのための闘技大会を開きたいから手伝って欲しい、みたいな内容くらいは伝わってんじゃねーか?」
うんうん、さすがはマーラさん。でもたぶんその手紙、オルトゥスには来てないよね? そう思っていたら同じ質問をシュリエさんが聞いている。すると、返ってきた答えがこれである。
「うちは俺が聞いたから送らなくていいって断ったんだよ」
「頭領。貴方って人は……!」
お、お父さん……! 本当に日本で営業マンとしてバリバリ仕事してたのか、と問いただしたい気持ちである。こっちにきて、父様と魂をわけあったことでさらに性格が緩めになったのが影響してるのかもしれないけどさぁ!
「書類は書類として必要でしょう……!?」
「あ、もらってるんだった。ほれ」
「…………頭領?」
思い出したかのように収納魔道具からポイっと出すお父さんに、シュリエさんが軽くキレたのがわかった。そうなるよ、そりゃそうなるよ!
「悪かったよ! そう怒るな。書類にはちゃんと目を通してるし、処理もする! サウラたちには迷惑かけねーから!」
「報告を怠った時点で迷惑かけていることに気付いてくださいっ」
「いやぁ、すまん。お前たちが有能だからついそういうのは後回しになっちまうんだよ」
「……それはズルいですよ。はぁ、これだから頭領は頭領なんですよね」
頭に血が上っていたシュリエさんが、お父さんのその言葉だけでスゥッと怒りが収まっていくのが見て取れた。お父さんの人誑しが発動された……! しかもこれ、お父さんにはそういう打算がないんだよね。本気でそう思って言ってるし、それが伝わるからシュリエさんも冷静になってしまうんだと思う。
しかも亜人とか私たちの種族は、能力を認められる、ということに弱い。人間よりも。私も環の時より仕事で褒められると気分が高揚するから、そういう性質なのかも。私なんか特に単純だからかなりチョロいと思う。
「ともあれ、帰ったらすぐサウラに渡してくださいね」
「げっ、また説教コースじゃねぇか」
「自業自得ですよ」
まったくだ、という思いを込めてうんうんと頷く私。ジト目で睨んでも怖くないもんっ。
「あとは合同会議に出席するメンバーですね。頭領は当然いくとして、あとは誰を連れて行きます?」
「あん? 俺だけでいいだろ」
「頭領だけだと報告が心許ないですからね」
シュリエさんの返答には棘がある……! さっき怒りが収まったとはいえ根に持たないってことはないもんね。お父さんも言い返せずに声を詰まらせている。
「わ、わぁーったよ! サウラ、はギルドから離れらんねーだろうし、アドルでも連れてくか」
「ああ、それはいいですね。彼も前に人間大陸へ遠征したことでかなり成長しましたし、次代のオルトゥスを支える1人となるためにも、他の特級ギルドとも交流を深めて欲しいところですから」
アドルさん、と聞いて脳内でその姿を思い浮かべる。赤みを帯びた黒い髪と瞳を持つ、眼鏡をかけた優しそうなお兄さんだ。いつも受付の奥の方で事務作業をしてるから、あんまり会うことはないんだけど、かなり有能な人だって聞いたことがある。あのサウラさんが秘蔵っ子だといって推すくらいだ。かなりの実力者なんだろう。
ギルさんと一緒で鳥型の亜人さんなんだよね。色も黒で似ているし、なんだか兄弟みたいに感じるのは私だけだろうか。色合いと鳥系ってだけで安易な考えであることは自覚している。
「さて、そろそろ仕事の話は終わりにして、メグの話を聞かせてくれぬか。最近、なにかあったか?」
と、そこへ隣に座る父様が優しげに目を細めてそう聞いてきた。超絶美形な父様だけど、こういう時は普通の父親だなぁ、なんて思う。よし、それなら最近の話で、友達が出来たことを報告しよう!
「えっと、この前ルドせんせーとお出かけした時に、アニュラスに行ってね? そこでアニュラストップの人の子ども2人と、友達になったの!」
「ほう、友達か。年が近そうなのか?」
「うん! 双子でね、ルーンっていう明るくて可愛い女の子と、恥ずかしがり屋さんな男の子のグートの2人。ちょっとしか一緒にいられなかったけど、お手紙交換することになったんだよ」
ルーンとはたくさんお話し出来たけど、グートは照れちゃったのか、あんまり話せなかったんだよね、と続けると、父様の動きが止まった。止まった?
「男の友だちも、出来たのか……」
「あの双子なら俺も知ってるが……ルーンはメグの話す通りだけどグートは決して照れ屋じゃねぇぞ? どちらかというとすぐ熱くなるやんちゃで生意気な小僧だ」
次いで、お父さんも目を丸くしてそう言った。あ、お父さんもあの2人を知ってるんだ。へぇ、グートったら本当はそんな性格なんだ。
「でも、グートはすぐ真っ赤になっちゃってあんまり話してもらえなかったよ? 人見知りなのかなって」
「真っ赤に……?」
「メグ、それは人見知りではなくて……」
父様はまたしても呆然とした様子で呟き、そこへシュリエさんも戸惑ったように口を挟んだ。人見知りじゃなきゃなんなのだろう。あ! もしかして! ハッとした私は思わず両手で口を覆う。
「もしかして、女の子が苦手だったのかな!? 話しかけちゃって、悪いことしたなぁ。お友達に、なれないかなぁ……」
無理にグイグイいってしまっただろうか、と猛省してしまう。私、そういうとこは察するのが苦手なんだよねぇ。なかなか治らない、私の悪い癖だ。しょぼん。
「メグ……お前はほんっとに相変わらずだよな」
「え? どーいう意味?」
するとそこへ、お父さんが呆れたように声をかけてきた。なんでそんな残念な子を見るような目で見てくるんだよう。
「環の時から変わらないってことだ。まぁいい、それでこそお前だ……」
「意味がわからないし、それ、褒めてるのぉ?」
ぷくぅ、と頰を膨らませて抗議していると、シュリエさんがまぁまぁと穏やかに仲裁に入ってくれた。いつもすみません。
「メグ、心配しなくても大丈夫ですよ。グート少年も、メグとは仲良くなりたいと思っているはずですから」
「そ、そうかなぁ? そうだったらうれしーな」
シュリエさんはいつでも私を励ましてくれるから好き! にへっと笑顔を向けておくのだ!
「お、親として非常に複雑な気持ちである……! メグ、別にそこまで仲良くならずとも……いや、友達とはとても良いものであるから仲良くはしてほしいのだが……ぐぬぬ」
隣で父様は1人頭を抱えながらよくわからないことを呟いているのそっとしておくことにする。私にはわからない複雑な親心というやつかもしれない。ひとまず、話の続きは父様の復活を待ってからにしようと思います! 父様しっかりー!





