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バルーファ


「じゃあ、約束だからねメグ!」

「うん! 帰ったらすぐにお手紙出すよ!」


 こうしてランチを食べ終えた私たちは、そろそろ出発するべくアニュラスの外に出た。ルーンとグート、それにディエガさんも入り口まで見送りに来てくれたので、私とルーンはがっしりと握手を交わして別れの挨拶をしているところなのである。


「グートも。お手紙、出していい?」

「えっ、お、俺もいいのか?」

「もちろんだよ。仲良くなりたいもん」


 そして、結局最後まで辿々しかったグートにも。そっと手を差し出して握手を求めつつ、笑顔で話しかけた。グートはそれを受けて一気に顔が真っ赤になってしまったけど。やっぱ微妙なお年ごろなのかな? 女の子とは気安く触れ合ったりするのが気恥ずかしいのかもしれない。そう思って手を引こうかと考えかけたところで、グートがガシッと手を掴んできた。


「お、おおおお俺も! メグと、な、仲良く、なりたい!」


 そして、真っ赤になりながらもそう言ってくれた。もう、なんだよー可愛いじゃないかっ! 嬉しくなったので、私ももう片方の手をグートに重ねた。


「うん! うれしい!」

「うっ……!」


 それ以上、グートはなにも言ってくれなかったけど、力強く握りしめた手でちゃんと伝わった。思いがけず、元気で可愛い女の子と照れ屋の男の子の友達をゲットしたぞー!


「昼食ご馳走さま。今度はそう期間を開けずに来るよ」

「とか言ってまた数十年後とかになんだろ? ま、期待しないで待ってるからよ。……それに」

「それに?」

「あー、いや。何でもない。気をつけて行けよ」

「ああ、ありがとう。それじゃあ」


 大人同士の挨拶も終えたようだ。踵を返すルド医師に手を引かれながら、私はいつまでもブンブンと手を振ったのだった。




 さて、いつまでも手を振っていては後ろ歩きになって転んでしまうので、泣く泣く前を向いてルド医師と足を進める。な、泣かないもん。


「いい友達ができてよかったね。アニュラスに寄り道した甲斐があったよ」

「はいっ、すっごく嬉しい! 帰ったらギルさんにも教えてあげなきゃ!」

「ギルに? んー、ま、大丈夫だろう。たぶん」


 帰ってからのお土産話をするのが楽しみでウキウキしていたら、どことなくルド医師が苦笑を浮かべている。なんでだろ? 疑問を浮かべた顔をしていたのだろう、ルド医師は気にしないでくれ、と私の頭をポンと撫でた。や、気になるよ? でもこの顔は話す気のない顔だ。聞き出すことはできないだろう。むむ、仕方ないけど諦めよう。


「さ、獣車支店に着いたよ。予約してある獣を借りてくるから、ここで少し待っていてくれ」

「はぁい!」


 支店に辿り着いた私たちは、再び獣車を使って移動である。ここから先は空を飛ぶ獣で目的地までひとっ飛びなんだって。ちなみに、帰りも同じ獣を使うそうだ。少々金額は上がるけど、借りっぱなしの方が楽は楽だよね。

 獣はディエガさんが体力のある子を用意してくれたという。何から何までお世話になったなぁ。一体どんな獣だろう。やっぱり鳥かな? そう考えながら待っていると、すぐにルド医師が戻ってきた。


「お待たせ。さ、行こうか」

「はぁ、い……!?」


 そこで見た獣は、私の予想を超えた姿をしていた。思わず言葉を失って固まってしまう。だって、そうでしょ?


 象だ。象が、目の前にいる……! といっても私の知る象よりは小さい、かな。子どもの象くらい? でも、白いしなんだか体型も丸い。


「バルーファは初めて?」

「バルーファ……はい、初めて見ました」


 この獣はバルーファというらしい。色も体型も少しずつ違うけど耳の大きさとか鼻の長さからいってやっぱり象なんだよなぁ。え、空飛ぶ獣なんだよね? 遥か昔、空飛ぶ象の映画を見た覚えがあるけど、あんな感じで飛ぶのだろうか。


「とても大人しくて頭のいい獣だよ。スピードはそこまでではないけど、安定性が抜群だ」


 そう言いながらルド医師はカゴを片腕で運んでいた。大きな四角いカゴだけど……もしかして。


「さ、これに乗って」


 やっぱり乗るのね! ギルさんに運んでもらう時みたいにコウノトリ形式なんだろうか?


「ど、どーやって飛ぶの……?」

「乗ってみてからのお楽しみだよ」


 悪戯っ子のようにルド医師は笑う。き、気になる……! ひとまず、乗ってみればわかるんだよね。私は言われた通りカゴに乗り込んだ。入り口とかはないから、またしてもフウちゃんに手伝ってもらってフワリと乗ります。


「よし、準備も出来た。行くよ?」


 バルーファとカゴを繋ぎ終わったのか、自分もヒラリと乗り込むと、ルド医師は手に持っていた短めの鞭のようなものでバルーファの後ろ足を3回軽く叩く。そして私はビックリ仰天! 突如、バルーファが膨らみ始めたのである!


「え? え? バルーファ、破裂しちゃう!?」


 ぷくぅーっとどんどん膨らんでいくバルーファに、私は気が気ではない。もともと丸かったシルエットがさらにまん丸に、そして大きくなっていくんだもん。すでに大人の象並みの大きさになってるんじゃないかな?


「ふわぁっ、浮いたっ!」


 さらに驚くべきことに、そのままバルーファが浮かび上がったのである! どんどん上昇してついに、繋がれた私たちの乗るカゴまで浮かび上がった。こ、これはまさかの気球―!?


「はははっ、メグは良い反応を見せてくれるなぁ。破裂したりなんかしないよ。バルーファは元々、こうして空を飛んで長旅をする生き物なんだ。寒い季節には暖かい場所に移動するからね。バルーファの大移動といえば、寒くなる季節の風物詩とも言えるんだよ。オルトゥス付近では見えないけどね」


 渡り鳥ならぬ、渡り象ってことですか……! 確かにこんなに大きくて丸っこい象さんが群れで空に浮かび、移動するさまは圧巻だろう。いつか見てみたい!


「この鞭で優しく叩くことで進行方向を指示できる。右に行きたければ右足を2回、高度を上げるのは3回で、下げる時は撫でる、とかね。あとは勝手にバルーファが障害物を避けたり、危険な場所を避けたりしてくれるから」

「バルーファ、しゅごい」


 思わず噛んでしまった。つ、つまりそれほど驚いたってことだよ! いつもはもう噛まないからね! それにしても、この世界に来てだいぶ経つっていうのに、私はまだまだこの世界のことを知らないんだなぁって実感したよ。きっと、まだ知らない生き物や植物、物事もたくさんあるんだ。

 でも焦らない。私の人生はとぉっても長いからね。少しずつ、いろんなことを知っていけたらなって思うんだ。大人になって、もっと強くなった時には、世界を見て回りたいな。今のお父さんみたいに。……お父さんは仕事であっちこっち行くはめになってるだけだけど!


 ゆらり、ふわふわと空の旅は続く。ギルさん便で行くのとはまた違う心地よさだ。風や気温の変化に対応する魔道具が付いているのは一緒だけど、揺れ具合が違う。このバルーファはまるで揺りかごに乗っているかのような心地良さ。あ、なんだか眠たく……。


「寝ていていいよ。おやすみ、メグ」


 追撃するようにルド医師の優しい声と頭なでなでが加わったら……! 敗北決定。おやすみなさい……。




「そろそろ着くよ、メグ」

「ふにゃ……」


 次に、私が目覚めた時は、すでに日が傾き始めたところだった。いつの間にかかけてくれていたブランケットを畳みつつ、外の景色を見るべく立ち上がる。背伸びすればギリギリ見えるのだ。


「わ、あ……!」


 すると、そこに広がっていたのはオーシャンビュー! 気付けば海の上を飛んでいたらしい。そして、少し先に大陸が見えてきた。あれがたぶん、南の国ナンレイかな? 今回の目的地である。


「あそこに灯台があるのが見えるかい? あの近くに墓所があるんだよ」


 そう言ってルド医師が指差した先には確かに灯台があって、その少し先に白いお花畑のようなものが広がっているのが見えた。その奥に……墓所らしき石がいくつも建っている。あそこに、ルド医師の番さんが眠っているんだ……。


「灯台の下に獣を預かってもらえる建物があるから。そこで預かってもらったら、そのままお墓に向かうよ。いいかい?」

「わかりました」


 なんとなく、声のトーンが静かだったから、私のいつもは元気一杯の返事もちょっぴり大人しくなる。挨拶や返事は元気よくがモットーではあるけど、ちゃんと時と場合、状況によって変えられる少女なのだ私は!


 ゆっくりと、バルーファの高度も下がっていく。みるみるうちに灯台が近付いてきて、もうすぐ着陸態勢だ。獣車としての訓練を受けているバルーファなので、自分が降り立つ前に、私たちの乗るカゴがそっと地面に着くよう、絶妙な加減で降ろしてくれた。それから、バルーファ自身もふわっと着陸すると、プシューと音を立ててしぼんでいく。なんだか面白い。


「さ、着いたよ。行こうか」

「……はい」


 ルド医師に続いて私もカゴから降り、バルーファを労っていると、そっと手を差し出してくれたので、その手をとる。そのままルド医師は反対の手でバルーファを引き、建物に行ってバルーファを預けた。建物の中からはすぐに人が出てきて、慣れた調子で引いていってくれる。ここは獣の発着場みたいなそんな場所なのかもしれない。


 引き渡す際にカードを係の人に渡すと、魔力を通してまた返される。これでまた明日も同じ子を借りられるんだって。ルド医師はそのカードを再び収納魔道具にしまい込むと、そのまま墓所への道を歩き進めた。

 ゆっくりと。一歩一歩を、踏みしめるように。


 チラ、と見たルド医師の横顔は、少しだけ寂しそうで、とても優しい瞳をしていた。


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