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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
20年後

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レキとのランチタイム


「こんにちはー! 新刊持ってきました!」


 さてやってきました図書館です。オルトゥスの中庭を通った先にある離れの小さな建物がそうだ。例によって魔術がかけられた建物なので、中は物凄く広いんだけどね。

 オルトゥス外部の人も借りられるようになってて、街の図書館みたいな感じになっているのだ。でも正直、人はそんなに来ない。物語を読むのは主に子どもという変な習慣があったり、日常生活で調べ物をしたい、なんて思う人はそうそういないからである。


 物語、楽しいよ? 環が暮らしていた世界ではむしろ大人の方が没頭する、なんてことが当たり前だったりするのに。だからもったいないなぁ、って思うんだけど、もちろん本が好きで物語をたくさん読むという大人もいるにはいる。

 たとえばここの管理を任されている人だとか、さっき届けに来てくれたお兄さんなんかもそうだ。ただ、変わり者扱いはされるけど。これは私も将来は変わり者って呼ばれそうだ。今はまだ子どもだから読むのね、なんて見てもらえるけれど。


「んー、いないっぽいね?」

『そーね! いないみたいなのよー』


 キョロキョロと辺りを見回しながら気配を探る。ショーちゃんも言うのだから間違いない。お出かけかな? それはそれで珍しい。


『主様っ、これ、どこに置くーっ?』

「あ、ごめんごめん。ひとまずカウンターに置いてもらえる?」


 フウちゃんの声に慌てて指示を出せば、慣れたものでフウちゃんはわかったーとご機嫌で仕事をこなす。本は大切なもの、という事をしっかり叩き込んでいるので、優しい風の魔術でふわっと音もなく乗せてくれた。えらい!


「ありがとう、フウちゃん!」

『んふふ、どーいたしましてっ』


 お礼の気持ちを込めて人差し指を伸ばしたら、フウちゃんがその指から出された魔力を啄んでいく。餌付けみたいでとてもかわいい。貯魔力は十分すぎるほど与えているんだけど、これはほんの気持ち。ちょっとしたオヤツみたいなものである。それが出来るのも魔力が増えすぎたおかげなのだ。使い道がなさすぎて精霊たちへの貯魔力は溜まる一方である。みなさんから服やお菓子をもらいすぎた私のようだ。


 ちなみにシュリエさん曰く、そんなに頻繁に魔力を与える使い手はいない、のだそう。必要な時に困らない程度に渡しておくのが一般的で、それでも足りない分はその場その場で渡すんだって。

 でも私はこの餌付けスタイルが気に入っているから変える気はない。だって嬉しそうに魔力を受け取るこの子達がかわいいんだもーん! その分使い手の魔力が勿体無くなるくらいで、その方式でも問題はないらしいからいいのだ。もったいないと感じて節約していたあの頃とは違うんだ……! というか、幼い頃かなりお世話になったから恩返しみたいなものだと思ってる。


「仕方ないからメモを残していこうかな。勝手に片付けられないもんね」


 片付ける場所は知っているけど、管理者がいない中で勝手にあれこれやってしまうのは気がひける。新刊だからやらなきゃいけないこともありそうだし、その辺までは知らないしね。

 そんなわけで、私は積まれた本の横にメモを残しておくことにしたのだ。うんうん、字もだいぶうまくなったぞー! こちらの世界の文字の扱いにもだいぶ慣れたよなぁ。読めたけどうまくは書かなかったあの頃……。


 こうして私は図書館を後にしたのである。これで今日の午前のお仕事は終わりなので、お昼の時間まで本を読むんだー!




 おススメされた本は、今回は異世界が舞台の物語だった。むしろここが私的にはすでに異世界なんだけど、それは置いておく。

 ふむふむ、なるほど。この世界の人の異世界ってこんなイメージなのね。大きな箱が走るとか、飛ぶとかは車や飛行機を連想させるし、揃いの服を着て作業をするなんて制服が浮かぶし。なんだか面白い。

 こういう話を読んでると、ついつい日本は今どうなってるのかな、って考えちゃう。時間の流れが違うみたいだから、あちらの世界が今何年なのかはわからない。でも、私が生きた年月経っているのだとしたら、きっとさらに色んな技術が発展してたりして。空飛ぶ車とか走ってたりするのかしら。そんな妄想が捗って、ひとりでウフフと笑ってしまう。


「……何ニヤついてんだお前」


 で、そういう時に限ってこういう人に見つかっちゃうんだよねー。不思議!


「レキ! えっと、お話が面白かったから……」


 本当は妄想でニヤニヤしてたなんて言えない。当たり障りない答えをモゴモゴと返してみた。


「……本に目を向けてなかったじゃん。なんか変な妄想でもしてたんだろ」


 ぎゃー見破られた! 恥ずかしい! 何でここの人たちはみんなそんなに察しがいいのかな? 察する能力高すぎるよ! それが素晴らしいところでもあるんだけど、言い当てなくていいこともあることを察してほしい。


「ぷっ、顔に出てる。つまり図星か」

「はわわっ!?」


 私のバカ!? 言い当てられて動揺してしまったのは事実だけど顔に出てしまうなんて。やっぱりまだ子どもだしね。こういうのを隠すのは苦手なのだ。くすん。


「そ、そんなことはいーの! レキは、お仕事は終わったの?」


 こういう時は話を変えるのが一番である。私はレキを見上げて質問してみた。


「ああ。少し早く終わったから。先に昼飯」

「あ、もうそんな時間かぁ」


 レキは質問に答えながら白衣を脱いだ。医療部門の人たちはみんな白衣が戦闘服の代わりになってるって聞いたことがある。だから外に出て戦う時なんかはみんな白衣というカオスな光景になるらしい。ちょっと見てみたい気もするけど、戦わなきゃいけない場面に遭いたくはない。

 ギルドにいる間は他に戦闘員もたくさんいるし、着ようと思えば一瞬だから仕事の時以外は脱ぐんだって。白衣を着ている時の方が大人っぽく見えるんだけどな。レキは、その、童顔だから余計に。


 でも、改めて見てみたらレキも凛々しくなったなぁ。だって、最初に出会った時はどう見ても少年だったんだもん。あの時すでに成人済みだって言ってたけど。あの頃より身長もグンと伸びて、身体つきもちょっとゴツゴツしてきた気がする。でもまだ少年と呼んでも問題がなさそうなのは、やはり幼く見える顔だからかな。本人は気にしているみたいだから言わないけど、どのみちイケメンなのは変わらない。オルトゥスの美形率はさらに上がったのではなかろうか。


「じゃ、私も一緒に食べる!」

「え、僕と食べんの?」


 私が元気にそう言ったら、レキが戸惑ったように眉根をよせた。い、嫌なのかな? ショック。


「だ、だめ……?」

「……ダメとは、言ってない」


 恐る恐る聞いてみたらプイと顔を逸らしてそんな答えが。出会ったばかりの頃は、やっぱり嫌かも? と思ってたかもしれないが、レキとももう随分長い付き合いだ。レキのダメとは言ってない、は良いという意味なのである。つまり一緒にランチ決定だ!


「よし、じゃあ早く行こー!」

「お、おい、引っ張るな」


 だって急がないと、レキの気が変わっちゃうかもしれないじゃないか。私は椅子から立ち上がりながら本をパタンと閉じると、すぐさま収納ブレスレットに仕舞ってレキの腕を引いて歩き始めた。今日のメニューは何かなー?




 食堂に着くととってもいい匂いが漂ってきた。くんくん、この匂いは揚げ物っぽいな。チキンかポークかビーフのカツかな? そんな予想をしていたら、お腹がぐぎゅると音を立てた。あう、聞かれただろうか。


「立派な腹の虫だな」


 はい、聞かれてましたー。だよね! レキは狼さんだし? 耳はいいよねぇ。ガックリ。


「午後は訓練があるから、しっかり食べなきゃなんだもんっ」

「午前はいつも通りだったんだろ? 蓄えるために都合よく減る腹なんだな」


 ぐぬぬ、たしかにお腹が鳴ったのに午後の予定は関係ない! 私はいつまでたってもレキにからかわれる運命にあるのかもしれない。いや、いつか。大人になったらあらあらレキくん? とか言ってやるんだから。

 私が大人になった時は、レキはお爺ちゃんとかになっているかもしれないけど。……ダメだ、考えたら寂しくなる。私はブンブン顔を横に振って思考を切り替えた。ご飯ご飯!


「おつかれ、メグちゃんにレキ。今日はコロッケ定食だよ!」

「コロッケ! カツかと思ってたから外れたぁ!」


 ランチメニューはコロッケでした。これもお父さんが持ち込んだメニューらしく、料理の名前もお父さんが決めたのでわかりやすくコロッケのままだ。こういうのは助かるよね。うっかり間違えて言わないで済むから。


「カツがよかったかい? ごめんよ、また今度ね」

「ううん、コロッケ大好き! ただ、予想が外れたぁって思っただけだよ? チオ姉のコロッケすっごく美味しいもん! どれも美味しいけど!」

「ふふっ、当たり前さ! あたしを誰だと思ってんだい。さ、冷めないうちに食べるんだよ。レキは少し多くしといたよ」

「あ、ありがとう」


 軽くチオ姉と会話をしてから料理のトレーを受け取る。チオ姉ももう食堂のトップとしての貫禄が出てるなぁ。奥の方で、お弟子さんが一生懸命働いているのが見える。10年くらい前に1人と、3年前くらいに1人新しい人が入ってきたんだよね。修行中とかであんまり話したことはないんだけど、2人とも熱心な人だという印象がある。

 オルトゥスの美味しいご飯を守るためにも、ぜひぜひ腕を磨いてほしいです!


「いっただっきまーす!」

「お前ほんといつも元気だよな。……いただきます」


 それから私たちは空いている席に横並びに座り、いよいよランチタイム。コロッケの程よい脂が旨味をギュッと閉じ込めてあって大変美味です。ひき肉とジャガイモ、玉ねぎの絶妙なバランスに、サクサクの衣。ホクホクと堪能した後、レモンをほんの少し垂らした千切りキャベツがさっぱりさせてくれる。

 新鮮なトマトは甘く、味噌汁は安定の美味しさ……豆腐ですか、最高です。


「美味そうに食うよな」

「本当においしーもん!」

「それはそうだけど。口の周りにソースついてんぞ」

「うあっ!?」


 コロッケ定食に夢中になっていたせいで、つい口の周りを汚してしまった。くっ、もうお姉ちゃんと呼べる年齢なのに! みなさん曰く、まだまだだそうだけど! 慌てて口の周りを拭く傍で、レキは黙々とコロッケを平らげていく。チオ姉は少し、っていったけど、レキのランチはコロッケもご飯もキャベツも山盛りになっていた。それを平気でペロリと食べてしまうレキの食べっぷりは見ていて気持ちが良い。成長期、いつまで続くの? それとも関係なく大食いなのかな。

 ちなみに私は、相変わらず食が細く、通常より少なめにしてお腹いっぱいなので、ちょっと羨ましい。気持ち的にはもっとたくさん食べたいのにっ!


 でも、昔に比べればかなり食べられるようになったよね。私だって成長しているのだ。周りがすごすぎるから気付かないだけ!

 よぉし。自分なりに成長するためにも、午後の訓練は頑張るぞー! おー!


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