看板娘のメグ
お久しぶりですこんばんは!
第3部スタートです!
一度は完結にしたのですが、書籍化にあたってこのまま連載という形で続けさせていただきたいと思います。ご了承ください。m(._.)m
更新は週一になると思います。様子を見て早めることはあれど、遅れることはない、と、思い、ます……!(努力目標)
それでは、成長したメグたちの新しい物語にお付き合いくださいませ!
阿井 りいあ
────夢だ。これは、予知夢。
そこがどこだかはわからないけれど、私は心配そうな顔で佇んでいる。その視線の先には……
『絶対、倒す!』
『……来い』
少し距離を開けて睨み合う、私の大好きな2人。
リヒトと、ギルさん……? え、え? なんで? どうして2人が睨み合っているの?
私が戸惑っていると、ついに2人は動き出した。目にも留まらぬ速さだけど、今の私には2人の動きを目で追うくらいはできる。リヒトの持つ長剣からは、青白い光が発せられていて、それを振るだけでその光がギルさんの方へ飛んでいく。
まるで、雷みたいだ。電撃って飛ばせるんだ、なんて呑気なことを考えてる場合じゃないよね。
当然、そんな攻撃を刀を一振りするだけで難なく躱すギルさん。そのまま突っ込んできたリヒトを刀で受け止めた。
『そんなものか』
『準備運動だよ!』
挑発するようにギルさんが言えば、リヒトも軽口を叩いて一度離れた。そのまま魔力を練って……大きな攻撃魔術を発動するのかな。ま、待って、そんなに大きな魔術を放ったら、ただでは済まないんじゃ……!?
夢の中の私がなにかを叫んだ。そのまま、走り出して……2人が驚いたように目を丸くして私を見ていて……
『『メグ!!』』
2人が同時に私を呼んで。それから────
ふっ、と目を覚ます。この頭のハッキリしなさは間違いなく今まで夢を見ていたのだろう。それも、予知夢。
むくりと上半身を起こして腕を組む。うーん、うーんと唸りながら顔を下に向けたり上に向けたり。
「ダメだ。思い出せない!」
私は思い出すのを諦めた。こういう時はいくら粘っても思い出せないって経験からわかっているのである。大切な夢ならきっとそのうち思い出すし、これまでだってなんとかなってきたんだから、なんとかなるなる!
楽観的な思考はいつまでたっても変わらない、特級ギルド『オルトゥス』所属、看板娘のメグ、70才です!
……字面が酷い。70才って言ったら人間で言えばおばあちゃんだよ。看板娘とか言えないよ。でもね、私は成長の遅いハイエルフの血が流れているのだ。つまり外見はまだ人間で言うところの7才くらい。いくら長い年月を過ごしていても、精神は身体の年齢に影響されてしまう。
元々、環として生きていた30年弱の記憶も、今では遠い過去のように思える。時々思い出すし、あの頃の社畜根性みたいなものは、今もたまに顔を覗かせるけれど。
私の中ではもう、環は前世だ。前世で生きていた記憶が残ったまま、今メグとして生きているような感覚なのである。
「髪、伸びたなぁ」
鏡の前で櫛を通しながら呟く。胸元まで伸びた私のふわふわとした髪は、相変わらずピンクゴールドに輝き、瞳は大きな紺色。正直、鏡に映る私はかなり可愛い。……自惚れ? わかってる、痛いこと思ってる自覚はあるんだ。けどそうじゃないんだよ、弁明したい。
鏡に映る自分の姿が物凄く可愛いって思うだけで、それが自分だとは結びついてない感じなのだ。つまり、自分が物凄く可愛いという自覚はあんまりないのである。ほんと、こればっかりはいつまでたっても慣れない。多少は自覚もあるよ? みんなが毎日、可愛い可愛い言ってくれるんだもん。
んー、結局なんなんだっていうのがうまく言えないんだけど、たぶん私は、自分の外見の良さについてはあんまり興味がないんだと思う。ケイさんやメアリーラさんあたりには勿体ない! って言われそうだけどね。
「ん、しょ。よし、できた!」
そんなわけで、自分で髪をまとめる時はいつもポニーテールかハーフアップだ。ちなみに今日はハーフアップ。簡単にできるし、ちょっと可愛いゴムとかリボンをつければそれなりに見えるし。
本当はなにもしないで過ごしたいんだけど、せめて髪を梳かして! とかヘアピンかなんかつけよう? とか言われ、さらにそれを放っておくと、おままごとの人形よろしくしばらく拘束されて遊ばれるからさ……妥協案としてこのヘアスタイルが定着しつつあるわけ。
ツインテール? 三つ編み? アシンメトリーになること請け合いである。手先が不器用な少女なのだ私は。
髪を切る? 保護者みんなで泣かれるのは勘弁なの。色々と大変なんだからっ!
さて、と私は立ち上がる。一度全身が見える姿見で服装のチェック。寝ぼけて部屋着で外に出たことが何度かあるから、こうして確認するクセがついたのだ。あれは恥ずかしかった……いまだにみんなにからかわれる。
今日は午前中、図書館に新書を運ぶお仕事があるので動きやすい服装だ。お尻が隠れるくらいの長さのチュニックに、ストレッチの効いた動きやすい桜色のパンツスタイル。ランちゃんのお店の商品で、サウラさんがオーダーメイドしたからか、ところどころフリルがついてて作業着風なのに可愛らしいデザイン。
洋服をプレゼントされるのも、最初は遠慮してたんだけど、私にいろんな服を着せるのは生きる喜びなのだ、と各方面から涙ながらに言われているのでもう諦めている。もちろん、ありがたいし嬉しいけどね。お陰で毎日違う服を着てるよ。どこの令嬢だ。
「よし、大丈夫」
くるっと一回りして確認した私は、拳を握って気合いをいれてから部屋を出る。向かう先は……食堂だー! 朝ごはん! 朝ごはん!
「おはよーございまぁす!」
食堂に着くと、すでに何人ものオルトゥスメンバーが来ていた。すでに食べ終えて出て行くところの人や、まさに今食べている人などなど。私はいつもここで元気に挨拶するようにしている。挨拶は心の窓! 私の心はいつでもオープン! 挨拶されて、嫌な気分になる人はあんまりいないと思うからね。
「おはよう、メグ! 今日も元気だな」
「メグちゃんおはよう!」
「今日もかわいさ爆発だなー」
ほら、このように、皆さん必ず返事をしてくれるから好きだ。思わずニコニコ笑顔になってしまう。
「メグ」
「ギルさん!」
私が入り口でニコニコしていると、後ろから声をかけられた。声ですぐに誰かわかった私はすぐに振り向く。それから、あっと思い直してキチンとお辞儀。
「ギルナンディオさん、おはよーございます!」
「ああ、おはよう」
どやぁぁぁぁぁ!! 見たか! 成長を!
この20年で私は見事、ギルさんの名前を噛まずに呼べるようになったのである! 長かった……長かったよ! 焦ると相変わらず噛むけど、落ち着いて話せばもう噛むことはない。毎日毎日、こうしてきちんと挨拶をする、という習慣をつけた甲斐があるというものだ。初めてちゃんと呼べた時は思わず抱きついたよね。なぜか周囲の大人が涙を流して拍手喝采していたっけ。
「朝食を取りに行くぞ」
「はぁい!」
挨拶のあとはいつもギルさんが頭を撫でてくれて、それから一緒に朝食を貰いに行く。そして一緒に食べてギルドのホールまで一緒に行く、というのが毎朝のお決まりコース。ギルさんの仕事の都合上、それが出来ない日もあるけどね。そんな時は他の人が必ず私と一緒にご飯を食べてくれるんだ。
ギルさんと一緒の日も、二人だけの時もあれば、他の人がいる時もあって色々だ。でも、一人で食べることはない。それがとっても幸せだと感じる。
「僕も、ご一緒していい?」
こうして、ギルさんと朝食を受け取って席につくと、横からそんな声が聞こえてくる。
「ロニー! っとと、ロナウド、おはよーございます。もちろん、一緒に食べよー!」
「うん、ギルさん、メグ、おはよう、ございます。ありがとう」
出会った頃よりググン、と背が伸びて、男っぽくなったロニーも席につき、私たちは食事を始めた。会話の内容は大体、今日の予定である。
「僕は、今日ケイさんと、依頼を受けに行く。魔術しか、使っちゃ、ダメって」
「ロニーは、魔術苦手だもんね。気をつけてね?」
どうやらケイさんとの修行の一環っぽい。魔術を使うのが苦手なロニーのための特別メニューなのだろう。
「実践は何より身になる。ケイが付いていれば心配もない。しっかりやれ」
「はい。がんばり、ます」
ギルさんからもロニーに激励のお言葉。うーん、ロニーもどんどん先に行ってしまうなぁ。私はまだ、実践はやったことがないからちょっぴり羨ましい。練習とか、訓練でオルトゥスのメンバーと戦ったりはしたことがあるけど、実際に魔物相手に戦ったりはしたことがないのだ。
背だって高くなっちゃったしさ。声も少しだけ低くなっちゃってさ。シュッとしてゴツゴツして、男っぽくなっちゃってさ。なんだか置いてかれた気分で寂しかったりする。私は特に成長が遅いから余計にそう思うのかもしれないけど。
「メグも、近いうちに魔物相手の訓練をするだろう」
「えっ、本当? ギルさん!」
そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、ギルさんが良い事を教えてくれた。思わず顔を上げてギルさんを見上げると、苦笑を浮かべたギルさんが軽く頷いた。
「ああ。頭領がそう言っているのを聞いた」
「お父さんが? なら、間違いないよね! 今度の訓練で聞いてみるっ」
なんだか嬉しくなって元気に答えると、ギルさんもロニーもどこか心配そうな表情を浮かべている。……いつもの心配性を発動しているのだろう。もうだいぶ大きくなったのに、本当に過保護なんだからっ。思わず頰を膨らませてしまう。
「私だって、ちょっとは強くなったもん」
「それはわかっているんだが……」
「メグの魔術は、オルトゥスでも上位なのは、知ってる」
それとこれとは話が別ってわけね。うん、心配してくれるのは嬉しいことだし、ここは引き下がってあげる。
ロニーの言うように、私、実はこれでもかなり魔術の腕が上達したのだ! 自然魔術での契約精霊は増えたし、これまでの子たちとも、かなり高威力で効率的な魔術も使えるようになったしね。あとは、なんといってもこの使っても使っても減らない魔力よ……魔王とハイエルフのサラブレッドなだけあるなぁ、って最近になって実感したからね。
でも、そうやって魔術の腕だけは上がってるんだけど、まーみんなが心配性過ぎて、実践で使う機会なんてまったくないのである。これじゃ、本当に強くなってるのかわからない。ハッキリ言って自信なんかないし、みんなが私を喜ばせようと、褒めてくれてるだけなんじゃないかとさえ思うのだ。
だから、実践の訓練ができると聞いて、喜ばないわけがないじゃないか。自分の実力を知る良い機会だと思って勉強させてもらうんだ!
「ごちそーさまでした! いつも待たせちゃってごめんなさい……」
考え事しながらもせっせと食べていたのに、相変わらず私の食事は遅く、2人を待たせることになってしまった。いつものことなんだけどさ! いや、2人も食べるのが早いんだよきっと。
気にするな、というギルさんとロニーの言葉を聞きながら、私たちは食器を下げて、揃ってギルドのホールに向かうのでした。





