ジュマによる狩り講座
その後、ジュマくんは魔獣の腹部、頭部、などを狙って攻撃していった。
「腹は正直あんまりダメだなー。的は広いけどだいたいこの辺は頑丈だから。頭は狙い所としては良いぞ。けど一撃必殺出来るほどの威力じゃないとなかなか難しい。中途半端なダメージだと暴れるし、頭を狙ってるってのがバレて逆に返り討ちに遭いやすい! お前らの攻撃威力わかんねぇからなんとも言えないけどさ、瞬殺出来ないなら最初からは狙わねー方がいい、な! よっと」
解説をしながら実際に攻撃し、魔獣の反応を見せてくれるおかげで、とってもわかりやすい。というか、魔獣がジュマくんの言った通りの反応をするからすごい。たしかに、私やロニーの攻撃じゃ、まだまだ瞬殺は出来そうにないもんね。ジュマくんなら本当は瞬殺なんだろうけど。でも、それならどこを狙えばいいんだろ?
「だから、一撃で倒せないなら、考えるのは動きを止めること、ってわけだ!」
「あ! 足を狙う?」
ショーちゃんを通じて、ジュマくんと会話が成立。なんて便利なの! ショーちゃんありがとう! 私が答えると、ジュマくんは、お! と声を出して、魔獣の足を狙った。すると、魔獣はその場にガクンと膝をつき、暴れはするもののそこから動けなくなる。
「正解! まずは動きを封じるってことで足とか、空を飛ぶ魔獣なら羽を狙うのがいいな! 他にも捕縛系魔術なんかもいいよなー。オレはそういうの使えないから知らねーけど!」
倒れて暴れる魔獣の前にやってきたジュマくんは、ただし油断はダメだぞーと告げ、魔獣に近付いていく。すると、魔獣が口から火を吹いた。……火を吹いた!? ジュマくんに直撃である! えーっ!? 大丈夫なの?
モウモウと煙が立ち上り、少し時間をあけて視界がクリアになってくると、様子が確認できた。あ、うん、まぁ、ジュマくんだもんね。知ってた。
「こんな風に、魔術で攻撃してきたりするからな! トドメを刺すまで、絶対に気を抜いちゃダメだぞ?」
無傷でその場に立ち、ニカっと笑いながらこちらを見て講義するジュマくん。戦闘服だからか、服もまったく燃えていない。それどころか汚れもついてないよ……それを見ていた魔獣が心なしか絶望の光を瞳に宿している……なんか、魔獣がかわいそうになってきた!
「ま、あんまり苦しめてもかわいそうだから、サクッとトドメを刺しとく。お前らがやる時は、魔術とかに気をつけながら確実に攻撃を当てていくんだ。そうしたらその内、倒せるぜ?」
そう言いながら、軽い調子で片手で大剣を振ったジュマくん。その大剣は魔獣の頭に直撃し、魔獣の頭が地面に深くめり込んでいた。ちょっと規格外過ぎませんかねぇ!?
「あとそれから、これは特にメグに言いたいんだけどよぉ」
「私? なぁに?」
討伐を済ませたジュマくんは、ひとまず倒した魔獣をそのままにして、私たちの元へと跳んできた。
「魔物とか魔獣を倒すのがかわいそう、とか思わねーこと!」
「あ……」
「メグは魔王の子だろ? それに精霊がいるから、こいつらの声もわかっちまう。余計そう思いそうだなーって」
ジュマくんの言うことは当たってる。私はきっと、魔物や魔獣を、その、殺したりは、出来ないと思う。実は気にしていたことの1つでもあるのだ。
「けどよ、魔物も魔獣も、人に被害を与え続けるような存在になっちまったら、そりゃもう討伐対象になんだよ。畑や果樹園なんかが食い荒らされたりしたら、オレらだって生きていけなくなんだろ?」
今倒した魔獣なんかは、キメラって言って、色んな生き物の特徴が混ざった魔獣なんだって。キメラはそれだけで討伐対象になる危険な存在で、本能的に人や動物、時には魔獣同士でも攻撃をしかけてくるそうだ。ひえっ、知らなかった!
だから、ギルドの人たちがせっせと討伐したりしてくれてるってことか。それから、数が増えすぎた魔物も数を減らすために討伐したり、薬の素材として使うため、殺さずに素材だけをいただいたり、魔物や魔獣と戦う機会はとにかく多いんだとか。
そっかぁ……でも、私が思い描いてたファンタジーの世界みたいに、手当たり次第に殺していくってわけじゃなくて少し安心した。無駄な殺生はやっぱり抵抗があるんだもん。レベル上げのためにガンガン倒すとか、倒した魔物が魔石やアイテムを落とすからそれ目当てで倒すとか、そんなゲームのような世界だったら私、生き残れない自信がある……!
「でもま、メグが乗り気じゃないなら仕方ないけどな! 無理に倒す必要はねぇし。もしも、の時があったら、覚悟くらいはしとけよって話だ!」
そう言って笑いながらジュマくんは私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。うあー、髪がグシャグシャになるぅー! だいぶ力加減してくれるようになったけどさっ。
「ロナウドは世界を回るのが夢なら、出来るようになってねぇとな!」
「ん、がんばる。また、ジュマさんの狩り、見たい」
「おぉ、いいぞ。なんなら、いつかは自分で倒してみろ! 見てやるよ」
「お願い、します!」
おぉ、ロニーがやる気に満ち溢れている! そうだよね、ロニーは世界を旅して回るのが夢なんだもん。その時1人かどうかはわからないけど、戦えるようになってないと、そもそも旅は難しいよね。よし、応援する!
「じゃ、早いとこその精霊? 見つけて契約してこいよ! オレは魔獣を片付けときてぇし、この辺りに危険なものはいねーからさ」
そうだった! 本来の目的を忘れかけてたよ! 私とロニーは目を合わせて頷き合い、再びひょっこり姿を現してくれたショーちゃんとフウちゃんに道案内を頼んだ。
『あそこの、木のウロにいるよっ! 草花のっ』
フウちゃんが翼の先で指し示した場所に目を向けると、確かにそこには緑色に光る精霊が確認出来た。ロニーに視線を送れば、ロニーは力強く1つ頷き、精霊の元へと向かう。後は、私たちは離れた場所で見守るだけである。
『さっきの魔獣が怖かったみたいなのよー。だから、ちょっと怯えてるの』
けど心配性な私は、ショーちゃんに実況中継を頼むのでした。だ、だって気になるんだもんっ! 一語一句は聞かないよ? 上手くいきそうかどうかだけ……!
『大丈夫なのよ! ロニーは心がポカポカだから、あの子も安心してるのよ!』
「そっか……うん、わかった。教えてくれてありがと、ショーちゃん。もういいよ」
ショーちゃんがここまで言うのだから、本当に大丈夫なのだろう。そりゃ詳細は気になるけどさっ。ここはロニーを信じて待つ、が正解である! ……うずうず。
こうして待つこと10分ほど。私が離れた場所で座って待っていると、先にジュマくんがやってきた。ジュマくんは、私の隣にドサっと座ると、小さな声で話しかけてくる。すごい、ちゃんとこういう気遣いできるのね! って、私のジュマくんに対するイメージってどうなってるの。先入観、ダメ! 反省しよう。
「どんな具合だ?」
「今はね、たぶん草花の精霊と交渉中。私の精霊たちも大丈夫だって言ってるし、きっとうまくいくと思うの。ロニーを信じて待ってるとこだよ」
「そか。ならオレも信じて待つとするわ」
説明を聞いたジュマくんは、あっさりそれを聞き入れ、ニカッと笑うとそのままゴロンと横になった。頭の後ろに手を回して枕にし、目を閉じている。寝る体勢である。
こうして、マジマジと観察することなかったけど……ジュマくんも随分、整った顔立ちである。この寝顔なんて、まさにワイルド系の美形だ。黙ってればモッテモテなんだろうけど、きっと本人もあんまり恋愛とかには興味ないよね。ジュマくんだし。
ロニーが戻ってくるまで、私は貴重なジュマくんのイケメン顔を堪能した。マツゲ長っ!?





