sideリヒト2
もう、何を言われても驚かないぞ。この決意は何度目だろう。メグや、メグの家族と一緒に行動してると、本当に常識って何? って思うことが多い。でも気にしたら負けなんだって、だんだんわかってきた。
だから、いちいち驚いてたら身が持たない。そう思ってたんだけど……
「誰よりも強くなる必要が出てきた」
流石に魔大陸のトップ2っぽい2人にこんなこと言われたら驚く。しかも少なくともギルさんより強くとか、マジ無理。あんな、殺気だけで人を殺せそうな強さなのに!
でも、この2人の有無を言わせないというような雰囲気とか、切羽詰まっている感じを見てたら、嫌とは言えないって思った。できるかどうかじゃない、やるしかないんだって、頭の中を鈍器で殴られたような衝撃が走ったんだ。
俺の使命だ。やらなきゃならないことなんだって。
かなり苦しく辛い道のりだと思う。でも、ラビィだってこれから頑張って生きていかなきゃならないんだ。俺だって死に物狂いで生きていきたい。
ラビィと面会するたびに、驚かしてやろう。また俺に会うのが楽しみだって思ってもらえるように。長生きしなきゃって思ってもらえるように。生きる目的に、とまでは図々しいかもしれないけど、楽しみにはなってやりたいなって思ったんだ。
「じゃあ、リヒトとは一度、ここでお別れなんだね……」
しょんぼりしながらメグがそんな事を言う。ったく、甘ったれはそう簡単に変わんねーな。
付き合いはそんなに長くないけど、メグやロニーは本当の兄弟みたいだと思ってる。確かに離れるのはちょっと寂しいけど、別に永遠のお別れってわけでもないしな!
「たまには会いに行くからさ! だからメグも来いよ? ロニーは定期的に鉱山に来なきゃ行けないだろ? そん時にも会えそうだよな」
「ん、会いに行く」
「うん! 私も!」
嬉しそうに笑って2人はそう言った。湿っぽい別れよりずっといい。
「リヒトの事は、我に任せよ。優秀な指導係も付けるからな! あとメグ、我にも会いにきてくれ……」
「も、もちろん! 父様にも会いに行くよ!」
慌てて答えるメグ。絶対、忘れてたよな? 魔王様が不憫でならねぇ……!
「じゃあ、またねリヒト! お手紙も書くからねーっ!」
「ああ! またな!」
こうして、メグたちは再び飛び立った。今度はギルさんがみんなを運んでる。はぁ、あんな人に、俺が勝てる日がくんのかよ? 道のりはまだまだ遠い。
でも、千里の道も一歩からって言うしな。
「では、我らも城へと向かうか、リヒトよ」
「あ、はい!」
こうして、いよいよ魔王城へと向かうことになった。うわぁ、ちょっと楽しみ。
城のある街へ着くと、獣耳の人や鱗のある人、尻尾のある人なんかの、いわゆる亜人と呼ばれる人たちがたくさん集まってきた。すげぇ、ファンタジー。みんな好意的、というか魔王様が好きなんだな。口々におかえりなさい、と笑顔で声をかけている。
ギルドのある街もこんな感じなのかな? 結局、歩けなかったけど、今度行く時の楽しみにしよう。
「魔王様、この子だれー?」
「あれっ、人間?」
そうして集まってきた人たちは、俺を見て興味深そうに顔を覗いてくる。ちょ、ちょっと怖い。いや、友好的だけどさ!
「うむ、リヒトという。魔王城で働いてもらう事になったのだ。なかなか見所のある若者だぞ。皆、良くしてやってくれ」
魔王様が俺のことをそんな風に紹介してくれたおかげで、みんなが笑顔でよろしくなと声をかけてきてくれた。ありがてぇ! なんていうか、想像してたのよりずっと雰囲気が明るいな、魔王城の城下町!
歩きながら声をかけられ続けてるからか、なかなか城に辿り着かない。というか、魔王様はわざとそうしている節がある。俺を認知してもらうためってのもあるかもしれないけど、ひょっとして帰りたくない? 城が近付くにつれて、ため息増えてるし。
ようやく城に着いた頃には、体感で1時間くらい経ったかな。時間かけ過ぎじゃない? 魔王様は見るからに気が進みませんって顔してる。仕事したくないって呟いちゃってるし。
「はぁ、リヒト。我はその、少し話を通してこなければならぬ。しばし広間で待っていてくれぬか……」
「あ、はい……頑張って……」
俺は、決戦に向かう魔王様の背を見送った。
暫く待った。うん、30分くらい。おかげで広間にいる執事さんらしき人にソファをすすめられ、お茶までご馳走になった。老紳士な執事さんは完全な人型だったから、きっと凄腕なんだろうな。確か、亜人が人型で過ごしているのは、強者の証なんだよな?
お城の話なんかも色々と教えてくれたり、俺も人間の大陸について話したりと、なかなか会話も弾んで、楽しい時間を過ごせた。
魔王様が、誰かを連れてげっそりした様子で戻ってくるまでは。なんかわかんないけど、おつかれ……
「リヒト、紹介する。我の側近……」
「ザハリアーシュ様の右腕、クロンクヴィストと申します。お見知りおきを、リヒト」
「あー……ま、そういうわけだ」
魔王様が紹介してくれた人物を見て、俺は未だかつてないほどの衝撃を受けた。
綺麗な水色の髪をきちんと結い上げ、切れ長な瞳を持つその人は、自分を魔王の右腕と名乗り、隙のない丁寧な挨拶をしてくれた。
一目見た瞬間、身体中に電流が走ったみたいで。あまりにも綺麗な人すぎて、俺はその人から目が離せなくなったんだ。
いわゆる、一目惚れってやつ。本当にあるんだな、一目惚れって。うわぁ、うわぁ、目が離せない。
「……リヒト?」
「あっ、えっと、よろしくお願いします! クロンクヴィストさん!」
「クロンとお呼びください。呼び難いでしょう?」
愛称で呼ばせてくれるなんて!! 今後、仕事はクロンさんが教えてくれるっていうんだから、俄然やる気が出る! いつか、もっと俺が強くなった時、振り向いてもらいたいっていう目標が増えた。
「ふむ、なるほど……リヒトよ。精進せよ。クロンは手強いぞ?」
「押忍!」
「何の話ですか? 無駄な話をせず、早速お仕事の話をしたいのですけど。特にザハリアーシュ様、そろそろ書類で部屋が埋まりますよ」
「そんなにか!? 机の上だけではなく!?」
容赦ないところとか、涼やかな眼差しとかほんと、なんでこんな人がいるんだろう。ずっと見てしまう。
あー、ダメだダメだ。しっかりしなきゃな! こんなんじゃ愛想尽かされる。魔王様もなんだか協力的な笑みを浮かべてくれているし、絶対にいつか振り向いてもらうんだからな!
「では、ザハリアーシュ様はとっとと執務室へ行って仕事を少しでも減らしてきてください。先、1週間は寝なくても大丈夫ですよね」
「酷いぞクロン! もう少し主人を労われ!」
「お食事とお茶はお持ちします」
クロンさんはそれだけを言うとサッと片手をあげる。するとどこからともなく従者が現れ、魔王様を両サイドからがっちりホールドしてズルズルと引きずっていった。さようなら、魔王様。また会う日まで!
「ではリヒト。まずは基本的な事から教えていきます。休憩後、別の専門家を呼びますので、その者と武術や魔術の訓練をします。……貴方は人間ですから時間は貴重です。ビシバシいきますよ?」
ついてこられますか? と言うようなら挑戦的な流し目にドキリと心臓が一際波打つ。よ、よぉし、やってやる!
「望むところですっ!」
こうして、俺の魔王城での生活が始まったんだ。
 





