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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
事件のその後

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事後処理


 私たちの決めた処罰は、当然と言うべきか、人間側からの猛反発があった。重罪人を処刑しない上に、それどころか普通の衣食住を与えるなんて、って。人間たちの常識とはかけ離れた決断だったみたいなのだ。


「衣食住を保証する分、いくらかかると思ってるんですか!?」

「あん? 今後、奴隷制度を撤廃するにあたって、調査にかける人員として無料で使えるわけだし、人件費がかなり浮く上に主犯だから解決も早い事を考えれば……まぁ、トントンじゃねぇの?」

「か、監視するのも楽ではないんですよ! 謀反を起こされれば……」

「ふむ、魔大陸から魔道具を輸出しよう。奴隷制度の撤廃は、我ら魔大陸側でも取り組むべき事案であるからな。そのくらいの援助はさせてもらうぞ」


 けど、次から次へと繰り出される人間側の主張を、お父さんと父様が言われる側から論破していく。適当だし、短気だし、話を聞かない2人だけど、こう言う時はやはり、頼りになるのね、と思わず感心してしまう。


「し、示しがつきません! これが許されれば、今後、自分も許されると勘違いする犯罪者が多発するかも……」

「誰もが重犯罪人に処刑を求めているのです! 暴動が起きかねませんよ!?」


 たしかに、それは問題だ。人間はとにかく数が多い。納得しない国民が暴動を起こしたら、ひとたまりもないよね。


「む、ならば国中に我の声と映像を流そう。スピーチをするのだ。今回の事件は特例である、と。届かぬ地方の者には号外でも出せば良い。魔王から直々に下した特例と知れば文句も言えぬし、便乗する輩も牽制できるであろう? 大勢の民に聞いてもらえば、噂も瞬く間に広がるであろうからな」

「そ、そんな魔道具があるのですか……!?」


 父様が直々にか。確かにそれが一番効果的かも。皇帝からの言葉だったとしても謀反は止められないけど、魔王からなら皇帝も致し方なく従ったのだろうと納得させられる。少なくとも国内での暴動は、かなり抑えられるよね。


「うむ。娘の成長を記録に残したくてな! 最近開発したばかりなのだ! こんなところで役にたつとは思わなかったがな!」


 カメラとビデオ、スクリーンの事だよね、きっと。ほんと、父様の有能の無駄遣いで終わらなくて良かったよ! そこかしこで「こんな親バカに喧嘩を売ったのか組織のやつ……」と兵士たちが顔を青褪めさせているのは見ないフリで、いいかな?


 こうして、その他の細かい段取りが大人たちの間で着々と進み、数日後に早くも国民放送を流した。「国民放送」という命名は当然お父さんである。

 けど、これがきっかけで国民の鬱憤が魔大陸に来たらどうしよう、なんていう危惧の声もあったんだよね。でも──


『我の最愛の娘を攫われたことはもちろん、魔大陸の子を狙うという禁忌を犯したのは、そなたら人間の方である。本来ならば──総攻撃を仕掛けるところだ。……だが、我らは引く。この重罪人への処遇を、そなたらが柔軟に受け入れてくれるのであればな』


 ──という、何とも魔王っぽいスピーチのおかげでなんとかなりそうだ。その後に長々と続く、重罪人に対しても天使の如き優しい心を持った娘がうんぬん、のくだりは知らない、聞かない、思い出さない。


 そして、スピーチの最後にはなぜか私も引っ張り込まれた。一言? そ、そういうの早く言ってよ!? と思いつつも、今や遥か遠くに消え去りそうな、社畜時代の記憶を必死で掘り起こす。会議中に突然、意見を求められたあの時を思い出せ……!


『えっと、はじめまちて……メグ、でしゅ。その、決定に思うことはあるかもしれましぇんが……同じ悲劇を繰り返さないためにも、必要なことだと思うんでしゅ。なので、ご理解いただけると、ありがたいでしゅっ!』


 極度の緊張により、一時的に心が幼児に戻ったようだ。つまり、めっちゃ噛んだ。うわーん! ここぞという時に弱い幼女だ私はっ!


 しかしそれが功を奏したのか、人間の大陸内では、魔大陸には本物の天使がいると語り継がれていったという。それを私が知るのは、もっと先の事だけど。


『とまぁ、娘が天使なのはご理解いただけたであろう。だが、そなたらが重犯罪人に抱く感情まで抑えろとは、我も言うつもりはない』


 父様は私の頭をそっと撫でると、引き続き話始めた。娘自慢は余計だけど、その後に続く言葉には同意である。


『どこかで奴らを見かけた際に、その不信感をぶつけてしまう事も、我らには止められぬ。出来れば暴力沙汰は避けては欲しいがな』


 そう、彼らを許せとは、一言も言ってないのだから。


『そなたら、ひとりひとりの心は、何人たりとも縛ることは出来ぬもの。許せぬのもまた、自由である』


 つまり、こちらはこの決定を認めてくれさえすれば構わないのだ、という事を告げて父様はスピーチを締めくくった。なかなか良いことを言うじゃないか。父様ポイントが上がった!


 その後は皇帝がスピーチをして、国民放送が終えられたんだけど……ちゃんと国中に流れたかな? そして伝わったかな? そんなドキドキは、兵士たちからの報告が来るまで続くこととなった。あ、もちろん大成功だったよ! 事前に国民放送の通達していたとはいえ、大騒ぎにはなったみたいだけど。それは当然だよね、そんな魔道具、魔大陸でさえ初めてなんだから、魔術に馴染みのない人間たちが騒ぐのは仕方ない。


「長々と、事後処理にまで付き合わせて申し訳なかった。だが、助かった。感謝する」


 ひと段落ついた後、なんと皇帝がお父さんの部屋へと足を運んでやってきた。いいのか皇帝!? でも護衛の人とかも慣れた様子なので、もはやこれが通常になってるっぽいことがわかった。お父さん……


「本来ならあの時で、貴方方とはお別れの予定だったのに、ここまで世話になるとは。あとはこちらで全てなんとかできる。だが、国民放送用の魔道具までもらってしまって……本当に良かったのか?」

「構わぬ。だから、今後こちらに訪問する時は歓迎せよ」

「それは当然すぎて、礼にはならないのだが……そうだな。ザハリアーシュ殿の紹介であれば、誰でも歓迎させてもらおう。今後、何代先になろうと」


 人間と私たちでは流れる時間が違うもんね。数代先の皇帝にも受け継がれる約束ってことか。実際その時になってみないとわからないけど、気持ちはすごく伝わるよ!


 皇帝と父様はしっかりと握手を交わした。今度は魔王城へ来るがいい、との言葉にほんのり嬉しそうな顔をした皇帝は、年相応の青年に見えたよ。うんうん、そういう顔ができるのも大事だと思うよ! 今回を機に、この国と魔大陸は一歩ずつ歩み寄れたよね。良いこともあったと思わなきゃ。


「あーっと、あとひとつ、俺の個人的頼みがあるんだが」


 続いて皇帝がお父さんに握手を求めると、お父さんは頭を掻きながらそう言った。


「こいつ、リヒトに時々、女冒険者セラビスと面会させてやってくれ」

「えっ、いいの……?」


 思いもよらぬところで名前が出たため、リヒトは驚いている。


「ああ、君にとって彼女は命の恩人だと言っていたな。親も同然だ、と。君が望むならば手配しよう」

「あっ、ありがとうございます……っ! お願いします!」


 リヒトは頰を紅潮させて、嬉しそうに頭を下げた。うん、良かった……!


「面会する際はどうしても見張りが付くが……出来るだけ毎回同じ人物にしよう。君も2人の話を聞かれる事になるなら、その方がまだ気楽だろう?」


 続けて皇帝が顎に手を当ててそんな事を言ってくれた。たしかに、毎回見張りが違うと、リヒトたちの話が色んな人に知られてしまうよね。外部に漏らすなんて事はないと信じたいけど……その辺りの配慮は有難いと思う。


「ユージン殿、誰か知り合いの者などはいないか? 顔見知りがいるならそれに越した事はないと思うんだが……」

「いや、騎士団になるんだろ? 特に知り合いはいねぇな」


 騎士団? あっ、そういえば私には心当たりがある。えーっと確かあの人は……


「東の騎士団、ライガーさん!」

「ん? ライガーを知っているのか。……ああ、そう言えばそんな話を耳に挟んだな」


 なんでも、あの転移を見られたあの時に、怪我を治した話も含めて報告も受けていたそうだ。髪の色が話と違ったから、不思議がっていたんだって。そうだよねー!


「ライガーなら信用できるし、口も硬い。恩人であるメグ殿の頼みなら、快く引き受けてくれるだろう」


 話を通しておく、と皇帝は頷き、微笑みかけてくれた。良かった! これであの人も借りが返せて安心するだろうし。私も他に頼みごとがないから助かったよ!

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