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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
救出劇

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210/505

sideギルナンディオ5


 これほどの怒りを覚えたことはない。


 声の精霊と合流し、大体の場所を確認した俺は、先に影を通って移動し始めた。俺1人ならそれが最も早く目的地に着ける。

 その選択は正しかった。着いた瞬間、メグの俺を呼ぶ叫び声がちょうど耳に入ったからだ。


「ギルさぁぁぁん!!」


 遠くの方から、微かに聞こえた程度の声だったが確かに届いた。助けて、と。そんな心の声が聞こえた気がした。


 ビリビリと身体中を何かが駆け巡る。こんな感覚は生まれて初めてだ。


 そしてなぜかこの瞬間から、メグの今の状況や居場所が手に取るようにわかるようになった。不思議だ。だがこの感覚に間違いがないことだけは断言できる。俺は迷うことなくメグの元へと向かった。


 瞬時に駆けつけてみれば、敵と思しき男がサーベルを振り上げており、赤毛の少年が危険にさらされている。

 もちろん、それも気になったが、真っ先に目に飛び込み、俺の感情を荒ぶらせた光景は──血塗れでボロボロになった、メグの姿だった。


 正直な話、その瞬間の記憶はない。頭に血が上り、目の前が真っ赤になったところまでは記憶しているが……気付けば空間全体に影を落として、殺気を放っていた。無意識下の中でも、メグやメグの仲間と思われる子どもたちを巻き込む事はしなかったようだが。それでも多少、驚かせてしまった。メグの戸惑いがちに俺を呼ぶ声で我に返るなど、俺はまだまだ未熟だと実感する。


 しかし、再度メグの全身を見れば、やはりかなりの重傷だ。思わず殺気のこもった声で誰が傷を負わせたのか問うてしまった。これも、黒髪の少年の言葉により落ち着くことができたが……どうしたんだ、俺は。余裕が、ない。こういう怪我や流血程度なら見慣れているというのに、血を流しているのがメグだというだけでこうも自我を失うとは。


 落ち着かなくては。恐らく目だけ魔物の光を宿していたのだろう、子どもたちに小さく悲鳴をあげさせてしまった。一度目を閉じ、ゆっくり開く。よし、大丈夫だ。


 すると、メグと黒髪の少年がどちらが先に治療するかで揉め始めた。と思ったのだが、どうやら違うらしいことはメグの次のセリフで明らかとなる。


「魔力、ちょーだい!!」


 久しぶりに聞いたメグのおねだり。元々、あまりおねだりするような子ではないが、久しぶりの再会というのも相俟って、その愛らしさに思考停止してしまう。こんなにボロボロな姿であってなお、その破壊力は健在だ。いや、むしろこんな姿であるからこそ、庇護欲をそそるのかもしれない。


 ……落ち着け。メグが魔力を欲するのは、精霊に頼んで例の回復薬を作るためだろう。自分の回復魔術の不得手さにこんなにも悩まされる日が来ようとは。今すぐにでも休んでもらいたいのに、メグに頼むのが最善であるというのもわかってしまう。


 落ち込んでいても始まらない。だが、先に確認させて欲しかった。メグの、温もりを。本当に目の前で、ちゃんと無事であると五感で感じたかった。俺はメグを強く、それでいて負担をかけぬよう丁寧に抱きしめた。


 ずっと欲していたこの腕の中の小さな命。どれほど不安だっただろう、どれほど辛かっただろう。そんな思いをさせてしまって申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。守ると約束したのに、その約束を守れなかったのは2度目だ。後悔と、自分への憤り。やり場のないこの気持ちは、メグに謝ることでさえ晴れない。だが、メグはそんな俺の懺悔を静かに聞き届け、ちゃんと間に合ったと、ありがとうと言う。


 ──あぁ。


 不安で、辛くて、どうしようもなかったのは、俺の方じゃないか。

 小さくも大きな存在感。この温もりを感じるだけで、全てが許されたのだと感じる。もちろん自分のことは許せないが……


 俺の生涯をかけて、メグの力となり、盾となり、支えていこうと。そう、誓った。俺の誓いなど、もはや説得力はないかもしれないが。


 もう2度と、離さない。




 メグのおかげでだいぶ落ち着きを取り戻した俺は、ひとまずメグを含む子どもたち3人に魔力を分け与えてやろうと決め、行動に移した。合間にメグが自然魔術で回復薬を作り、それを使って俺がそれぞれの治療をしていく。数に限りがあるため、優先度の高い傷から手当てしていく。メグや精霊にあまり無理もさせられないからな。この地は、自然魔術の使い手にはあまりに住みにくい。


「あの、僕より、あの人を、助けてもらえませんか?」


 比較的軽傷であったドワーフの少年の元へいくと、少年は首を横に振り、そんなことを言った。あの女冒険者か。元凶とも言える、許せない人物だ。たしかに生死に関わる重症ではあるが、ドワーフの少年も比較すれば軽傷というだけで、腕と足の火傷はそれなりに深刻な怪我だというのに。


 だが、彼の意志は堅かった。メグでさえ、治療を懇願してくる。……お前に言われたら、俺は断れないだろう。心の中で盛大にため息をついてしまう。


「後で、話を聞かなければならないからな」


 そう言い残して女冒険者の元へ向かうと、喜ぶメグの姿に何とも言えない複雑な感情を抱く。扱いが少し雑になってしまうのは仕方ないと思え、女冒険者。メグが許しても、俺は絶対に許さない。


 こうして治療を続けている合間に、ようやく頭領(ドン)がやってきたようだ。魔物型の許可を得たのだろう、おかげで随分早く到着してくれた。俺1人では荷が重いと思っていたところだ。助かる。敵の駆逐や捕縛、子どもたちの保護は出来るが、アフターケアはできないからな。

 ボロボロのメグを見てそれぞれ大騒ぎしていたが、メグの一声でなんとか落ち着いた後は、さすがは頭領(ドン)と言える対応でテキパキと話を進めてくれた。途中、完全に意識を失い、グッタリとしているメグをしっかり抱き、俺は頭領(ドン)に報告をする。


「敵は全員、影縛りをしてある。あの女冒険者も。あとは地下に複数部屋があって、そこに亜人の子どもが数10人程捕らえられている」

「子どもを狙ってきやがったか。禁忌に触れたな、この組織は。お疲れギル。……理性を保ってしっかり仕事をこなしてくれたようだな」

「………………ああ」

「……なんだその間は。まあいい、結果オーライだ」


 理性を保てたとは言えないからな。軽く目を逸らすと、頭領(ドン)は察してくれたようだ。


「こいつらはこの国の奴らに引き渡そう。だが、女冒険者か。メグが必死で守ろうとしてたって?」


 頭領(ドン)は腕を組んで唸り始めた。組織の奴らはこの国の者たちが罰する。故にこの女冒険者だけを特別にギルドに連れ帰り、保護するのは難しいという。それはそうだろう。俺としてはギルドにも入れたくはない。


「俺たちがこのアジトも、この屑どもも、なぜ消し炭に出来ないか、わかるだろ? メグをあんな目に遭わせておいて、この手で報復したいのに出来ないのには全く納得はいかねぇが! それでもこの一線を越えることはできねぇ」


 そう、ここは人間の大陸。たとえ大切な娘を攫われ、傷つけられたとしても、ここが人間の大陸である限り、俺たち魔大陸の者は手出ししてはならない。それは絶対的ルール、というより、互いの身の安全のためにも仕方のないことだった。


 魔大陸の者は、人間より遥かに強く、一瞬で大陸を沈めることも出来るだろう。だが、人間より圧倒的に人数が少なく、繁殖力も低い。我々、魔の者は、今回のように子どもを狙われ続ければ、年数はかかるがいずれ絶滅してしまうような存在。それに、人間の大陸全土から攻めて来られれば、強者以外はあっという間に駆逐されるだろう。それほどの人数の差なのだから。どれほど個が強かろうが、圧倒的多数には勝てないこともあるということだ。


 だから遥か昔に両大陸は、互いに平和を脅かすような干渉は決してしない約束をした。貿易は許せど、互いの大陸で起きた戦争や事件には介入しないという約束だ。その中で、裏の人身売買は常にグレーゾーンとして見過ごされ続けていたのだが、今回を機に見直されるだろう。


「俺個人としては、人間の大陸と全面戦争でも良いんだけど」

「やめてくださいよ!? そんなことをしたら魔大陸の……」

「わかってるよ。力を持たない魔大陸の民が多く被害に遭う。絶滅の一途を辿っちまうからな。だからこうして耐えてんじゃねぇか」


 とはいえ、頭領(ドン)の個人的意見は、俺としても賛成だが。もちろん、行動には移さないが、魔大陸に奴らが来ることがあったなら容赦はしない。その時は、こちらのルールに従って動くまで。


「だが、先に魔大陸の子どもに手を出したのは人間だ。犯罪組織だったとはいえ、人間側から禁忌を犯したってわけだな。その辺りをチラつかせて交渉(・・)は出来そうだなぁ……?」


 そう言って頭領(ドン)は、心強い、悪い笑みを浮かべた。

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