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sideユージン3 前編


「まぁなんだ、昔ちょっと……手助けしてやったんだよ。国がデカすぎてどーにもならねぇっていうから」

「かなり説明を省略されていますが、それだけで大体何をしたのかわかるあたり頭領(ドン)ですよね……」


 時間もないし場所も場所だから手短に先代皇帝と関わったキッカケを説明をすると、どうにも釈然としない反応が返ってきた。おいこら、アーシュもギルも納得とばかりに頷いてんじゃねぇぞ。こちとらそれじゃ説明になってない、と文句言われると思ってたのに。

 

「どうせ国が立て直すまで面倒をみたのであろう? 辺境の村々にも情報が伝わる連絡網を張ったりとかな」

「どうせとか言うな、こら」

「ギルドの連絡システムは魔道具ですしね。頭領(ドン)が開発に携わったのでしょう。それが最も納得できる、この地でも各所で魔道具が使われている理由です」

「広めたのは事実だがもう少し人間の底力を信用してもいいんじゃねぇ? 魔道具の構造なんかは人間の考案だぜ?」

「……さすが頭領(ドン)

「……お前ら、話聞けな?」


 こいつら、本当好き勝手言いやがって……しかも経緯が大体当たってるから余計に悔しい。よし、二度と詳しい話はしない事に決めた。どうせわかってんだろ? どうせ!


 そうこうしている間に、いつの間にやら城内に入っていたようだ。ここらの兵はちゃんと鍛錬してんのか? 城門前にも中にもズラーッと並んではいるが、全く脅威に思わないんだが。人間基準ならそこそこ脅威なのかもしれねぇが……恐らく魔術を使わないアドルだけであっさり全滅させられる程度のレベルだと思う。アドルを引き合いに出して悪いけどな。ま、戦闘職じゃないから許せ。


「では、こちらでお待ちください。立たせたままで申し訳ありませんが……まずは皇帝陛下に確認をとってまいりますので」


 そう言って立ち去ろうとした団長だったが、それをアーシュが引き止める。


「簡潔に用件を言う。それを伝えてきてくれぬか? ……我の大切な娘が突如、強制転移されたのだ。解析の結果、人間の大陸にいる事はわかっている。そちらの対応次第では……我らは力を抑えられそうにない」


 ほんのわずかに漏れるアーシュの気に、団長を含めた兵たちが全身を強張らせた。冷や汗を流し、青ざめている者までいる。これだけで、己らが束になっても敵わない相手だと悟ったのだろう。


「早急に話し合わなければならぬ。……今後とも、良い関係を築くために」

「……っわかりました。そのように伝えてまいります」


 アーシュとここの皇帝は、手紙でのやり取りは何度かおこなっている。鉱山を通じて貿易をしてるわけだしな。だが、まだ互いに顔を合わせたことはない。つまり、今回が初めてってわけだ。

 ちなみに俺も今代の皇帝と会うのは初めてのようなものだ。一度会ったことはあるが……あん時ゃ皇帝はまだ幼い子どもだったから覚えてねぇだろうし。


 ま、つまり皇帝は間違いなく俺たちと会う。そうしなきゃならない状況だ。そもそも、大陸を渡ってまで魔に属する者がわざわざ来るなんてことはまずない。しかも相手は魔王。魔王である証明ができなかったとしても、亜人がいるってだけでこの大陸にとっちゃ脅威だ。1人で国1つくらい滅ぼせちまうからな。

 俺も名乗ったし、余計に本人が来るだろう。だから悩んでないでさっさと来いよ? 見ろ、兵たちの顔色と震え。かわいそうになってきたからな?


「お、お待たせしました。すぐに客間へとご案内いたします」

「客間? 謁見の間じゃなくていいのか?」

「貴方様方は、大切なお客様です。謁見の間などとんでもない、と……」


 なるほどな。それはほぼ事実だろうが、きっと他の者たちが萎縮しないように、最小限の人員でって考えだろう。皇帝なら亜人がどれほどの強者か理解してるだろうしな。どれほどの人数がいようと、戦闘になれば勝ち目がないことをわかってる。護衛が多かろうが少なかろうが関係ないなら、話し合いは少人数がいいと考えたんだろうな。今代の皇帝も、ちゃんと教育を受けてるようで安心したぜ。


 俺たちが了承すると、騎士団長はこちらです、とすぐに案内を始めた。騎士団長ともあろう人物が、俺たちに背を向けて案内、か。信頼の証と受け取るべきだろうな。ここで俺らが暴れようものなら、そりゃ無粋ってもんだ。


「失礼します! お連れしました!」


 騎士団長は一際大きな部屋の扉の前で立ち止まると、扉をノックして中の者に声をかけた。すると、内側から扉が開かれる。俺たちは後に続いて部屋に入っていった。

 部屋の奥では、1人の青年がお茶の用意されたテーブルから席を立ち、こちらを向いている。その後ろには護衛騎士団らしき人物が数人。ふむ、この青年が今代の皇帝か。青年って年じゃないんだろうけど、かなり若く見えるからなぁ。


「……お会いするのは初めまして、だな。私が今代の皇帝、ルーカスだ」


 お、良い目をしてやがる。こちらに(へりくだ)る事も、逆に優位に立とうともしない良い態度だ。そうでなくちゃ対等な立場とは言えねぇからな。魔王と皇帝は対等であるべきだ。


「ふむ、其方がルーカス殿であったか。此度は突然の訪問、申し訳ない。我が魔王、ザハリアーシュだ」


 それに対してまずアーシュが名乗る。その後、2人して俺の方に目を向けてきたので俺も名乗るとしよう。


「あー、それで俺がユージンだ。先代皇帝とは、色々あって。まぁ、仲良くさせてもらってたよ」


 と言うか助けてやったのは俺の方だが、それを言っちゃあ押し付けがましいし、説明するのも面倒だ。そう思って軽く頭を掻いて誤魔化した。


「ご謙遜を。貴方の活躍は何度も聞かされているぞ、ユージン殿。我々の救世主ではないか。もちろん今後も語り継がせていただく。……とはいえ、確かに訪問は突然だったからな。大したもてなしが出来ない事は了承していただきたい」

「構わぬ。事は一刻を争うのだ。早速、話をさせてもらいたいのだが」


 先代皇帝イーサンは、今後も代々ずっと語り継ぐと言ってたが、事実そうしていたようだ。あん時はもう会わないと思ってたから気にしてなかったが、実際それを目の当たりにすると妙な気分だ。反応に困っていたから、アーシュがすぐに話題を振ってくれたのは助かった。


「それは突然の訪問からもわかる。ではここに掛けてくれ。……しかしザハリアーシュ殿とユージン殿が顔見知りであるとは。その辺りも関係してくるのだろうか?」


 俺とアーシュが皇帝の前の席に座り、ギルとアドルは後ろに立つ。しっかしこの皇帝、なかなか肝が座ってる。俺らを前にしても堂々としているからな。間違いなく皇帝の器だ。


「そうであるな。では最初から本題に入らせてもらおうぞ。……我が娘、メグが突如、強制転移させられた。飛ばされた場所は、この人間の大陸であったのだ」


 アーシュがそう言うと、皇帝の顔が引き締まった。やはり、何か知っている。


「その件について、何か心当たりはあるだろうか。いや、あるのであろう? これほどの距離を強制転移させたのだ。ましてや魔素の少ないこの大陸で。かなり大規模な魔術であったはず。それをこの国の皇帝ともあろう其方が、知らぬはずがない」


 ピリピリとした空気が部屋を包み込む。魔力の放出はしていないし、威圧でもない。ただの気だが、殺気を抑えているのがバレバレではあるな。皇帝の後ろの護衛や、扉前で立っている騎士団長も冷や汗をかいている。


「知っている事を全て話してもらおう。魔王として跡継ぎを攫われた事も、父として娘を攫われた事も、我は決して許せそうにない」


 アーシュは無表情でそう言い放ったが、整いすぎたその顔は、感情を表さない事でより恐ろしさを演出している。


 そして、暫しの間を置き、ついに皇帝が口を開いた。

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