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カレー


 騎士団から追われる身である私たちは、あまり人の通る道を選ばずに旅を進めていた。それはつまり森の中だったり、川を渡ったりするという事である! これも修行の一環だと言われれば頑張りますとも。けどその前に一旦休憩である。朝早かったし早めのお昼ご飯にするのだ。リヒトにも早く薬を飲ませてあげなきゃだしね!


「ステルスのスプレー効果もなくなったみたいだね。ま、ここらなら大丈夫だろう」


 現在、ウーラの街を出て真南ではなく、南西へと向かっている道中。そこは大きな森となっていて、人は滅多に通らない。むしろ大型の獣の縄張りだとかで、人は狩人くらいしか来ないらしいとラビィさんがどこかからか聞いてきたらしい。

 つまり人とは滅多に遭遇しないだろうけど、絶対とは言えないという状況である。獣も出てくるかもしれない。せっかくの休憩タイムなのだから、周囲に簡易結界を設置して回る私です。そこまでしなくても……とラビィさんには言われたけど、備えあれば憂いはないのだ! それに、昼食の匂いで集まってくるかもしれないでしょ? 私は用心深い幼女……


「ごめんね、渡すの遅くなって……はい、魔力回復薬だよ」

「おお、ありがと。いやいいよ、急いでたしな」


 簡易結界を設置して安心した私は、次にリヒトの元へと向かった。いやほんと、遅くなってごめんよ。魔力切れの辛さはよく知ってるもん……ショーちゃんにはいつもギリギリを攻められたりしてるからね!


「ロニーもありがとな」

「ロニー、おちゅかれ様なの。はい、お水飲んでー!」

「ん、平気。ありがとう」


 いつもは平気そうな顔のロニーも、少し身体の大きいリヒトを運ぶのは疲れたみたいで、珍しく汗を滲ませていた。本当に体力あるよね、ロニー。尊敬するよ! まだ未成年なのに。お水は魔大陸にいた頃シズクちゃんに出してもらった物なので、少し体力も回復するはずだ。


「さ、昼食にしようか」

「あ、私、荷物から出すね!」


 みんな緊張もあって疲れてるから、しっかり食べなきゃだよね! そう思って私は収納ブレスレットから簡易キッチンをえいやっ、と取り出した。呆気にとられて口を開けたままのみんなの事は見ないようにするのを忘れない。

 それからさらに収納ブレスレットから食材を出していく私。出来上がったばかりのカレー鍋をコンロに乗せて火を点ける。熱々の鍋は流石に危ないからと、冷ましてからしまったんだよねー。ご飯は炊きたてなので土鍋ごとテーブルに置いた。


「お皿にご飯をよそってほしーでしゅ!」


 カレーをかき混ぜながらみんなにそう言うと、三者三様の反応を示された。


「メグ、なんだい? この茶色いドロっとした液体……食べ物なのかい?」

「でも、いい匂い、する……」


 私が出したカレーに対し、それぞれ違った言葉が口をつく。

 ラビィさんは食べ物なのかと疑惑の眼差しだ。ロニーも知らなそうだけど、匂いで美味しそうだと判断したみたい。


「えっ、まさかこれって……」


 だけど。リヒトだけは違った。リヒトはカレーを知っているみたいだ。


「これはね、カリーっていうの。ご飯にかけて食べるんでしゅよ! おいしーの!」

「カリー……」


 人間の大陸では、あまり見かけないお米だけど、ラビィさんやロニーもそれなりに食べたことはあるみたいで驚かなかった。だから……リヒトについて確かめるのには何がいいかなって、ずっと考えていたのだ。

 直接的に聞くのではなく、それでいて反応によって判断出来そうなもの。それがカレーの存在だった。


 いやぁ、カレー鍋を持ってたのは本当に偶然だったんだよね。いつかの夕飯でカレーが出てたのに、その日に私食べられなくてね……凄く悔しがってたら、同情したチオ姉が、いつでも食べられるようにって残ってたカレーをそのままくれたのである。あの日、私がカレーを食べていたら、今ここにはなかった代物。結局食べそびれていたんだけど、ここで活躍したからオールオッケーだ。


「リヒト、知ってるの?」

「……ああ。好きな食べ物だ」


 リヒトにそう聞くと、どこか泣きそうな顔でリヒトはそう答えた。


 ああ、やっぱり。やっぱりそうなんだね?


 人間の大陸には存在しないカレーを、ずっと人間の大陸で暮らしてきたはずのリヒトが知っている。

 もしかしたら、人間の大陸でも、遠い国とかでは作られてるのかもしれないけど……


「ああ、この味だ。すげぇ、うまい……」


 このカレーは、いわゆる日本の家庭の味である。本場のカレーではなく、日本で作られた日本人好みのカレーに近いのだ。だって、お父さんが広めたんだからね。

 だから、このカレーは今この世界において、オルトゥス周辺にしかないはずなのだ。よほどの奇跡がない限り。


「あたしと出会う前に食べたことがあったのかねぇ?」

「……あぁ、そうだな。よく、家で作ってもらってた」

「そっか……もう帰れないって言ってたけど……どうしても故郷には帰れないのかい?」


 ラビィさんが労わるようにリヒトに声をかける。すると、リヒトは一度俯き、そして一言無理だ、と答えた。それから顔を上げて。


「でも、このカレーが食べられる地には、行きたいかな」


 そう言って顔を歪めて笑った。笑顔なのに、泣いているように見えて……私はその気持ちが、痛いほどよく理解出来てしまった。

 すぐにでも、色々話したかったけど、ラビィさんや、ロニーもいるし、どこまで聞かせていいかわからない。


「じゃあ、リヒトも一緒に、オルトゥしゅ()に行こうね」


 だから、このくらいしか言えなかったのだった。だけど、嬉しそうに笑ったリヒトを見て、少し心が救われた気がする。


 リヒトは、必ずお父さんに会わせよう。たぶん、リヒトを最も理解できるのは、全く同じ状況でこの世界に来たお父さんだ。


 もしかしたら、私たちが知ってる日本とも違ったりするかもしれない。異世界があるくらいだから、地球と似た並行世界とかあってもおかしくないもんね……

 だけど、気持ちをわかってもらえる相手がいるのといないのとじゃ、きっと違うと思うんだ。リヒトの心が少しでも救われるように。寂しさが少しでも埋まるように。


 リヒトも家族の一員として受け入れたいし、家族と思ってもらいたいなって、心底思うのだ。


「……おいしーね」

「ああ。おかわり食いてぇ」

「いっぱいあるから、いっぱい食べてね!」


 リヒトがどうしてこの世界に来ることになったのかはわからない。そういえば、お父さんもなんでここに来る事になったのかなぁ?

 ただの事故? にしては、また日本から? その偶然はなんなんだろう。私はほら、魂がお父さんと魔王さんと繋がってしまったから呼び寄せられたわけだけど……


 物事には必ず、理由というものが存在するはずだ。だから、きっとお父さんやリヒトがここに来たのも、何か理由があるのかもしれない。


 今まで一度も考えた事がなかったけど、ここへ来て気になり出してしまった。お父さんじゃなきゃ、リヒトじゃなきゃいけなかった理由ってなんだろう。


 私はカレーを頬張りながら、1人悶々と考えてしまうのだった。

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