sideギルナンディオ/sideサウラディーテ
突如膨大な魔力を感じてギルド内にいた者が全員身構えた。未だ嘗てないほどの魔力だ。すぐさま影を使って元を辿る。それが地下だとわかって肝が冷えた。
──地下には今、メグがいる。
「た、大変! みんな、聞いてくれ!」
すぐに地下へ向かおうと影へ潜りかけた時、慌てたように地下から階段を駆け上ってきたマイユに目を止める。
「レディ・メグが、消えた!!」
その悲鳴のような叫び声に、ギルド内が一気に静まりかえった。一瞬目の前が真っ暗になる。……しっかりしろ。俺がそんなんでどうする。
「どういうこと!? 説明してマイユ!」
サウラが受付からすぐに飛び出してきてマイユに説明を求めた。その場にいた誰もが黙ってマイユの説明を聞く。
「私が贈ったオシャレ魔道具で色を変えたレディが、私の元へわざわざお礼を言いに来てくれてね。少し話をしていたんだけど、突然レディの足元に見たこともない魔術陣が現れて、手を伸ばしたんだけど弾かれてしまって……気付いたらレディがいなくなっていたんだ!」
私が不甲斐ないばっかりに、とマイユは悔しそうに拳を握りしめている。非常に珍しい姿だ。それほど何も出来なかった事が悔しいのだろう。
「魔術陣発動中に他者の介入を許さない術式だったのよ。マイユ、あなたは悪くないわ」
実際そうだったのだろう。事故防止のために発動中他からのいかなる介入も許さない、又は例外で介入を許すなど、術式を変えればいくらでも応用は出来る。ただし、少々複雑なものにはなるが。
「だから今は反省するよりも教えてちょうだい。貴方が見たことのない魔術陣だったのね? その魔術陣、まだ覚えている?」
「もちろんさ! 私は一度見たデザインは決して忘れない! 細部までね!」
それはマイユの特技だった。美しいものを磨く努力に命をかけるマイユは、デザインに関して一流だ。どんなデザイン画も一度見たら決して忘れない。それは魔術陣にも言えるとわかった時は驚いたものだ。魔術陣をデザインと一緒にしているというのも微妙だが、今回はそれが役に立つ。
「じゃあすぐにそれを書いて持ってきて! ギル! それがきたらラーシュと一緒に解析してきて!」
「……ああ」
俺が返事をすると、その場の全員に緊張が走った。自分の全身から濃密な魔力が漏れているのがわかる。おそらくそれが原因だろう。
「……ギル」
スッと目を細めてサウラが俺を見る。わかっている。自分でも、感情を乱していると。だが、抑えきれない。今にもメグを拐った者を探し出して八つ裂きにしてやりたい。胸に広がる禍々しい殺気を、俺は抑える気になれなかった。
※
「ギル。ギルナンディオ!」
落ち着きを取り戻せない彼を、声を張り上げて呼ぶ。
「ギルナンディオ、貴方を調査から外します」
「なっ……」
「統括命令よ。頭を冷やしなさい!」
「……っ!」
ギルの人を殺しかねない鋭い視線を真っ向から受け止めて見つめ返す。やがてギルはそのまま何も言わずに踵を返し、影の中へ姿を消した。その瞬間ギルド中に広がっていたギルの殺気がフッと霧散していく。……ふう、少々疲れたわね。
「サウラ……」
ちょうど医務室からここへ到着したルドが困ったような笑みを浮かべて私に声をかけた。ルドなら糸で何が起きたか把握しているでしょう。そして、私の意図もわかっているみたい。それだけで肩の荷も少し軽くなると言うものよね。
「サウラさんっ! どうして……どうしてギルさんを外すんだよっ!」
とはいえ、理解できない者もいる。むしろそういった者の方が多いでしょうね。レキが今にも噛み付きそうな勢いで吠えてきたわ。いいでしょう。レキになら、少しヒントを与えようかしらね。
「レキ。これは命令よ。ギルもそれを理解したはず。今更貴方が喚いたところで変わらないの」
「で、でもっ! ギルさんの力があればアイツだってすぐに見つかる……」
「それはないわ」
レキの言葉を遮って、私はぴしゃりと否定した。
「今はまだ謎の魔術陣である以上、それについての研究は急務よ? それは確かにギルの得意分野。でも解析するだけならラーシュ1人でも十分。むしろ今のギルだったら邪魔にしかならないわ。ギルは確かに優秀よ。でも万能じゃないのよ」
「で、でも……誰よりも心配してるのは、ギルさんじゃないか!」
そうね、とても心配しているでしょう。でも誰よりもっていうのはおかしいわ。メグちゃんの心配をするのに、順位付けする事自体おかしいって気付かないのかしら。
私は、最善の手を尽くす。そして最善は、常に移ろうもの。今は、今の最善を選択したのよ。そんな言葉を飲み込んで、私は静かに言葉を紡いだわ。
「……いい? 貴方はまだ新参者。成人したての未熟者なのよ。今は上司である私の言うことだけをしっかり聞いて実行していればいい」
レキは悔しそうに歯噛みしている。いいのよ、それで。貴方はまだこのステージに立てていないけれど、今はそれでいい。
「そして覚えておくのよ? その気持ちを」
続く私の言葉に、レキはゆるりと顔を上げた。
「間違いだと思うのなら、自分が力を持った時にそれを正しなさい。だから今は納得いかない、間違ってると思っても、指示に従って。経験の少ない未熟者が勝手な行動するんじゃないわよ? 指示に従うことで結果、成功しても失敗しても、それは全て私の責任なんだから。安心して? 貴方は何も痛い思いをしないわ。わかったなら通常業務をこなしなさい。みんなも! ギルドが回らなくなるなんて事になったら許さないわよ?」
私の言葉にギルド内のメンバーはゆるゆると動き始めた。まだ朝早いというのもあって、外部からくる人がいなかったのが幸いしたわね。
レキは返事をせずに、握りしめた拳を震わせている。存分に悔しがりなさい、レキ。
「……そうして力をつけた時は。その時は堂々と、私の手助けをしてちょうだい」
それだけを言い残して、私はすぐにその場を立ち去った。……やっぱり甘いかしらね、私は。レキの反応を最後まで見ることは出来なかったけど。これで、何かを感じ取ってくれる事を信じましょう。
さあ、切り替えましょう。今はすぐにでも転移陣の解析をしてメグちゃんの居場所を突き止めなきゃ。
「サウラ」
「ええ、わかってるわ。ギルの調子が戻ったら連絡する。だから頭領はすぐに出発して」
「話が早くて助かるぜ。流石は統括」
「何言ってるの。そもそも頭領なんだから私の許可なんていらないでしょう?」
自然と隣を歩き出した頭領が低い声で私を呼ぶからすぐに返事を出したわ。そりゃあ、心配でしょうね。もう二度と、離れ離れになんてなりたくなかったはずだもの。それでよくここまで冷静でいられるものだと尊敬すらするわ。ギルでさえあんな状態になったというのに。
「お前こそ何言ってる。お前は、うちの統括だろ? 俺のことも管理してくれよ」
「……意外と甘えん坊ね?」
「そうだな。お前は数少ない、俺が甘えられる存在だ。貴重だぞ?」
ふっと笑みをこぼして頭領がそんな事を言うから、私は動揺しないようにするのが大変だわ。全くこの人は……人を喜ばせる言葉をかける天才ね!
「なら頭領に命令します。無茶はしないこと。何か行動を起こす前に必ず私に確認をとってちょうだい。絶対よ?」
「了解、統括。……善処する」
そう言って颯爽と立ち去った頭領の背中を見ながらため息を吐く。
絶っ対私の意見を聞く前に行動するわねあの人。善処された覚えなんかないってのよ!
これにて今章は終わりです。
次回は日曜日辺りに再開します!(たぶん……!)
お読みいただきありがとうございます!
引き続きお付き合いくださいませ!





