オーウェンは愛を叫び続ける
俺はかなり一途な男だ。自分ではそう思っている。けど……
「また別の女連れてんなぁ、オーウェン!」
「? 何当たり前のことを言ってるんだよ」
遊び相手が毎回同じ方がおかしいだろ? 毎回同じ女と遊んでいたら、そいつが本命だと思われるじゃないか。それに俺が遊び相手として選ぶのはちゃんとそういう店の女だ。こうして本命のプレゼント選びにも付いてきてくれる良い店の従業員なんだぞ。全くどいつもこいつも見る目がない。
誰もが俺を軽い男だと言う。けど俺は心で他の女に目移りした事なんか1度もない! 店の女たちの間では俺の本命が誰かなんて常識の範囲で知れ渡っているというのに。ただ、ギルド仲間に知られるのはちょっと気恥ずかしいけどな。でも、もう100年以上も片想いし続けている。俺ほど一途な男もいないと思うんだが……世間の感覚と俺はズレているのかもしれない。
「1番の問題は、本命ちゃんも貴方を女にだらしない軽い男だと思っている所だと思うわよ?」
隣を歩くキャトル系亜人の女がそう言った。むしろその手の会話は他の奴らにもよく言われる事だ。わかってる。わかってるんだそんな事……でも、でもな!?
「君たちがいなかったら、俺の彼女に対する熱い想いが爆発する……!」
世の男たちは片想い中に一体どうやって発散してるんだよ、と俺は問いたい! 1人で慰めてどうにかなる想いじゃないんだ! どこかで発散しないと心身共にやられてしまう。亜人は色んな欲求があまりないと言うが、きっと俺は例外なんだよ。いわばこれは病気で治療の一種なのだ。なぜわからないんだ! あわよくば、いつも女を近くに置いてる俺を意識してくれたら、なんて考えもあるにはあるが、本当の理由はこれに尽きる。
そうこうしている間に目的の花屋に到着する。何だかんだ女は花を貰ったら嬉しいものよ、という隣の女の助言を聞いた結果だ。彼女にプレゼントを贈るのはもはや数え切れない程だけど、今まで一度も受け取ってもらえたことはない。貰う理由がないしあってもいらない! と顔を髪と同じ色に染めて怒りながら突き返されてしまう。でも俺は諦めない。だって、今日が受け取ってもらえる初めての日になるかもしれないからな!
「オーちゃんの熱意は、本当に尊敬に値するわよ。あの子はまだお子ちゃまだから、今日も理解して貰うのは無理だと思うけどね」
「それが彼女らしいんだ。俺は一生諦めないぞ」
「はいはい、頑張ってね。また慰めてあげるわ」
今日こそは。いつものようにそう心で呟いて俺は花束を片手に彼女の元へと向かった。
「いらないのです、迷惑なのです、忙しいのです、帰ってください!」
結果はあえなく玉砕。今日は上手くいくと思ったのに……! そう呟くと隣にいた女の、どこからそんな根拠が、と呟く声が聞こえた。
「大体いつもいつも、ふざけているとしか思えないのです! お花なら、お隣にいる方にあげたら良いのですよ! からかうのもいい加減にして欲しいのです!!」
ああ、怒った顔も相変わらず可愛い。とびきりの美少女でもなく、美人でもないが、この素朴な雰囲気と純粋さがたまらなく好きなんだ。ただ、そろそろ本気だということくらいは知って欲しいのに、なかなか手強い。
本当はもっと、言いたいことがあるのになぜか彼女の前では言えなくなる。こんなんだからいつまでたっても誤解されて、ひたすら片思いのままなんだ。わかっているのに……結局今回も肩を落として立ち去った。
付いてきてくれた店の女にも感謝を述べ、また遊びに行くよと声をかけて別れた時、ふと視線を感じた。その視線の主を探し顔を動かしていたらすぐに見つけた。じっとこちらを見つめる藍色の瞳と目が合う。
「め、メグ? 何か用かい?」
我らオルトゥスのアイドル、スーパー美幼女に恥ずかしいところを見られてしまった。買い物だろうか、ギルさんも隣に立って微妙な目付きをしている気がする。この人いつもマスクしてるからわかりにくいけど。
少々気まずかったが、目が合ってしまったから一応そう尋ねてみた。すると、メグから思いがけない言葉をいただいてしまったのだ。
「メアリーラさんは、ちゃんと気付いてましゅよ? オーウェンさんの気持ちに」
「え……」
いや、いくらなんでもそれはないだろう。いつでも同じ反応で一考の余地なく断られているし、真面目に相手をされた事がないのだから。だけど。
「オーウェンさんが、自分を好きって言いつつも他の女の人といるから、ヤキモチやいちゃってるんじゃないかなぁ?」
「へっ!?」
「他の女の人といるのやめたら、メアリーラさんも考えると思うんでしゅけど……」
や、ヤキモチ!? そ、そんなわけない、よな? いや、それを狙っていたのは事実だけど、彼女からはまず嫌われてると思うし。それに、発散場所がないのは辛いんだよなぁ……うーんと唸っていると、メグは腰に手を当てて俺に言い放つ。
「大事な人を手に入れるのに、代償がないってのは都合が良すぎるんでしゅよ! 手に入れたいなら! やめられない事の1つや2つくらい絶ってみせるのが男の見せ所でしゅっ!!」
ピシャーン! と雷に打たれたかのような衝撃が走った。な、なるほど……! 確かにメグの言う通りだ。仕事には報酬がある。取引には対価がある。何かを手に入れたいならそれに見合う代償があって当たり前だ!
そうだ、そうだよ。俺のメアリーラに対する気持ちは本気だ。これまではその気持ちを言い訳にしてたに過ぎないんだ。単なる甘えだった。俺は両方を手に入れようとしていた。大反省だ!
「……ありがとう、メグ! 俺、やってみせる!」
「けんとーを祈るっ!」
「ああ! 見ててくれ!」
グッと親指を立てて決意をメグに示した俺は、優しくメグの頭を撫でるギルさんに軽く会釈してからすぐさま行動に移すべく走り出した。
あの後すぐに、俺はいつも通っていた店に行って今後は利用しないと宣言した。店の女たちはお得意様がいなくなる、と大騒ぎして止めようとした。何も全く来なくなる事ないじゃない、と。
だが俺は引かなかった。メグの受け売りだが決意を語り、メアリーラに対する想いを熱く語ったのだ。そうしたらいつの間にかかなり時間が過ぎていたようで、店の者は皆、わかった、もう来なくていいから帰ってくれと口にした。熱意が伝わったのだろう。語った甲斐があったな!
「明日、いや今日にでも槍が降ってくるんじゃねぇの……」
弟のワイアットがそんな事を言ってきたが、例え降ってきても構わない。今の俺は何でも出来る気がする! この勢いで再びメアリーラの元へ行き、女遊びはやめたと宣言した。やったぞ、俺はやった!
「そ、そうなのですか……私には関係ないのです!」
素っ気ない! でも可愛い。メグに言われたからだろうか、どことなく彼女が頰を染めているようにも見えるから余計に可愛い。ああ、可愛い。
「俺は本気だ。今日からが本当の本気だ。メアリーラ、君に振り向いてもらうためには何だってする!」
「なっ、むっ、無駄な努力なのですーっ!!」
ギルドのホールで大胆にも宣言してやった。普段なら絶対出来ない事を出来たというだけでも女断ちの効果はあったかもしれない。そうか、俺に足りなかったのは覚悟だったんだ。
いいぞ、オーウェン! 頑張れよ! と飛び交う俺に対しての声援に、今まで感じたことのない喜びを感じた。彼女は真っ赤になって走り去ってしまったけど……いつかきっと、彼女の手を取れるその日まで。何年でも愛を叫び続けてみせる!





