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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ


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看板娘の小さなエルフ


 風を中心としたあらゆる魔術が飛び交っている。シェルメルホルンの風の刃や竜巻、それらを魔王さんが様々な魔術で打ち破り、軌道を逸らし、時に消滅させていく。どちらもその場からはほぼ動かず、これといって息も上がっている様子はない。私なんかさっきの魔術連続行使だけで精神的にヘロヘロになったのに!


「馬鹿は馬鹿らしく暴れてれば良かったものを」

「ふっ、確かに我は馬鹿である。それは認めよう」


 あぁ、親馬鹿ですものね、と魔王さんが来たことで戦線離脱したクロンさんが無表情で呟く。思わず吹き出しちゃったじゃないか! なんだ、この緊張感のなさは。今もなおシェルメルホルン対魔王さんで激しく魔術バトル中だというのに。

 でも、何となく魔王さんが押してる気がするんだよね。どことなく安心感があるというか……


「まぁ、それを望む時点で我の方に勝機があるという事であろう?」

「……ゴミが何を言う」


 でも、どちらも決定的な一撃を打てずにいる感じだ。魔王さんはその身体能力によって、シェルメルホルンは人の考えを読むという特殊能力によって、相手の攻撃をうまく交わしたり受け流したりしているのだ。


 それからどれほどの時間そうしてやり合っていただろう。いつまでも決着がつかないまま時だけが流れていく。その間、何も変わらなかったか。


 否!


「大体人が神になれるわけがなかろう! 生まれた瞬間からその種族のままだ! 其方は駄々をこねる幼子のようであるぞ!」

「黙れ小童が! 知った風な口を叩きおって! 運命は変えられるのだ!」

「拗らせハイエルフめ!」

「拗らせてるのはお前の方だ、デカイだけのミミズめが!」


 罵り合いが激化しております、はい。何というか低レベルになってきてない? みんなもそろそろ呆れモードだよ?


「其方にメグの将来を奪う権利などない!」

「ふんっ! 私のために力を行使する事ほど幸せな事はないわ!」


 おや? 私の話になってきたぞ。


「せっかく持って生まれたスペックが高いのに……生温い環境で育ってその能力を生かせぬようでは生きてる意味など皆無!」


 シェルメルホルンのその言葉には嫉妬の色が混ざっていた気がする。でもさすがに私もイライラしてきちゃったよ? 人を道具かなんかと思ってるその考え!


「このままでは役立たずに成り下がる! どうせ今も自分では何も出来ない穀潰しが。大人しく私の指示に従っていればいいのだ! 食うにも着るにも困らない生活を与えるのだから文句もないだろうがっ!!」


 人を、何だと思ってるんだ。


「子どもなど、生かしてもらってるだけ、ありがたく思うべきだ!」

「……うるっちゃぁぁぁいっ!!」


 もぉーっ怒った!! みんなが目を丸くしてこっちを見てるけど、気にしないもんね!


「さっきから聞いてればっ、何しゃまなんでしゅか? ハイエルフしゃまでしゅかっ!? 神しゃまになれたわけでもないのに図々しいでしゅっ!」

「なっ、なっ……!」


 私がキレたのがあまりにも予想外だったのだろう。シェルメルホルンは二の句が告げずにいる。その間も私の叫びは止まらない。


「しょれに、族長命令なんて絶対聞かないでしゅからねっ! 私をちゅかまえても、言うこと聞かない子どもにイライラしたらいーんでしゅっ! 大体ハイエルフなんて……ちょっとしゅごいエルフと同じでしゅ!」

「ちょっとすごい、エルフ……」


 クロンさんが思わずといった様子で私の言葉を繰り返して呟いた。魔王さんもニカさんも揃って呆気にとられた顔をしている。


「区別なんかつけるからいけないんでしゅ! ハイエルフなんかいらない! 私はエルフでいーでしゅ! オルトゥしゅ()看板娘のちっちゃなエルフでしゅーっ!!」


 ぜぇぜぇと肩で息をする。そう、私はエルフだ。そもそも最初はそうだと信じてたわけだし。ハイエルフの血が混ざってるからこの郷に入れたわけだけど、それって結局エルフ族のハイエルフさんの血筋ってだけだ。親戚だから入れた。そういう事でしょ? だから私はハイエルフだと認識されたに過ぎないんだ。氏がハイエルフ、名がメグってだけの話なのだ。


「しょれに、ハイエルフよりエルフの方が言いやしゅいし……」


 あ、これはどうでもいいかな。でも私にとってはかなりの重要事項なんだもん。


 しばし沈黙が流れた。かと思ったらなんか揺れてる!? 地震!? と思ったけど違う。これギルさんが揺れてるんだ。


「なんで笑うでしゅかー!」


 私がそう叫ぶと余計に笑い出すギルさん。意外と笑い上戸よね。すると、その光景を見ていた魔王さんやクロンさん、ニカさんも大きな声で笑い出してしまった。なぜ!


「敵わぬな、メグには!」


 そう言って笑顔を向けてくれたのは魔王さん。それから全身の力を抜いて佇まいを直し、シェルメルホルンの方へと身体を向けた。


「シェルメルホルンよ、もう辞めぬか? くだらぬとは思わないか? 幼子を利用しようとするのも、我らがそれで争うのも」

「我らがハイエルフの長年の夢をくだらないというのかっ!!」

「違うよ!」


 声を荒げてそういうシェルメルホルンに、思わず口を挟んでしまった。ふと、前にお父さんに聞いた話を思い出したのだ。


「聞かせてくだしゃい。なぜ、神になりたいんでしゅか?」

「……愚問だ。人という低能な生物にはわかるまい」


 んもー、頑なだな。


「でも、その低能な人がいなければ、神にはなれないんでしゅよ?」

「……なんだと?」


 そう。神というのは信仰を向けられる対象だ。人が心穏やかに過ごせるためのいわばよすがなんだって聞いたのだ。幼い頃、神様はいるの? っていう子ども特有の質問をした時にお父さんがそう教えてくれて、幼心にものすごく納得したのを今も覚えてる。だから、真実はどうあれ、私はこの考えを信じ続けてたりするんだ。


「人に感謝されたり、信仰されたりしないと神しゃまとは呼べないんでしゅ。それでも神と名乗るなら、それはただの名前に過ぎないんでしゅよ。……あなたは、その低能な人(・・・・)から感謝されてるんでしゅか?」


 シェルメルホルンは、眉間にシワを寄せてとても嫌そうな顔をしてたけど、口を開く事はしなかった。


「神しゃまは偉い人じゃないんでしゅ。神しゃまは、人が勝手に頼って、祈って、時にすがって。信仰を捧げる対象なだけでしゅよ。人を支配出来る存在じゃない」


 私は正直神様に対する信仰心はない。元無宗教派の日本人だからね。強いて言うならお腹痛い時に神に祈るかな……つまりそんなものである。

 でも、神様の存在は信じている。きっと神様は存在するけど、人に対して何かする事はないのだって思ってるのだ。ただ人がそれぞれの意思で動くのを眺め、様々な思いを巡らせているのかなって。時々気まぐれに手を出したり、何か失敗してしまう事もあったりして。そんな風に想像しちゃってる。あれ、私の中の神様は結構人間味溢れてるなぁ。


 だからね、神様になれたとしてもきっと何も出来ない。神様が万能な存在なら、全ての人、全ての生き物が幸せなはずじゃないか。だから、だからね?


「神しゃまを目指すんじゃなくて、なりたい自分を目指してくだしゃい」


 そのなりたい自分というのが人を支配出来る独裁者だったら、それはもう仕方ない。戦争になるしかないよね。でも、そうなったら微力ながらも私だって止める。私はみんなが笑顔になってくれるようなオルトゥスの一員になる事を目指しているのだから。行く手に立ちはだかる壁を乗り越える権利は、みんなに等しくあるのだから。


 私の言葉を最後まで聞いたシェルメルホルンは、数秒の沈黙を挟んでついに口を開いた。

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