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オルトゥスナンバー2の男


「ザハリアーシュ様は周囲が見えなくなりつつあるようです。初めはシェルメルホルンにだけ標的を絞っていたのですが……かなり押していて優勢だったのですけど、ザハリアーシュ様が己を保てるのも限界だったご様子で。シェルメルホルンが隙を見てこちらに来るのも時間の問題かと」


 うわ、確かに最悪な状況だぁ。魔王さんも、制御がきかなくなってるって事だよね……結界の外に目を向けると、さっきクロンさんが水で流したはずなのにもう群がってる。獣型の魔物や、鳥型の魔物。大型から小型まで色んな魔物たちが、目の光を失って。……同じように、魔王さんも目の光を失っているのかな。そう思ったら怖くなって思わず身震いしてしまった。


「……メグ。それに皆も、聞いてくれ」


 ギルさんが私を抱く腕の力が一瞬強まった気がした。何か、覚悟を決めたかのような雰囲気を感じ取って、胸に不安が広がっていく。


頭領ドンが来るまで、シェルメルホルンは俺が相手する」

「……それしか、ねぇよなぁ」

「ええ……申し訳ありません。私がもっと強ければ……」


 ギルさんは、とても強い。きっと、今この場にいる誰よりも強いんだ。それはよくわかる。だから、ギルさんが戦うのが1番いいんだ。でも、そうなると……


「メグ。すまない。ずっと側にいてお前を守るつもりだった。だがこうなってしまっては誰かがシェルメルホルンや魔王を止めるしかない」


 うん、うん、わかるよ。ちゃんとわかってるよ、ギルさん!


「ここまで魔物に囲まれ、シェルメルホルンに追われながらお前を無事に逃がすことも難しい。今はこの場所がお前にとって1番安全な場所なんだ」


 うん、わかる。だからね、ギルさん。


「お前から離れて、戦いに行く事を許してくれ。必ずこの場所を守ると約束する」


 ギリッと拳を握りしめるギルさん。そんな顔しないで。ちゃんと、わかっているから。


「あい。……頼りにしてるでしゅ。ギルしゃん、気をちゅけてくだしゃいね?」

「っ……ああ。ありがとう」


 頭を撫でてくれる手がいつも以上に優しい。本当は不安だ。ギルさんがさっきよりも大きな怪我をしてしまわないか。無事で戻ってきてくれるかどうか。

 だけど、私に出来ることは信じて待つ事だけ。それから足を引っ張らないように指示に従う事だけなのだ。それすら出来ないなんて、情けない真似したくないからね! 泣かない。泣かないからね!


「……私は魔物を退けましょう。ザハリアーシュ様がこちらに攻撃を仕掛けてこないといいのですが……」

「なら俺ぁ、メグの側にいよう。俺じゃ頼りないかもしれんが、我慢してくれ、メグよ」

「ううん! 頼もしいでしゅ。ありがとーニカしゃん!」


 クロンさんはギルさんのサポートを、ニカさんは私の護衛をと名乗り出てくれた。本当に感謝しかないよ? ニカさんが、気分が暗くならないようにあえて明るく振舞ってくれてるのもよく分かるんだもん。


「私たちもいますから。……ごめんなさいね。身内の事なのに。でも、私たちはあの子に逆らう事が出来ないの」

「構わない。ここまで良くしてくれるとは思っていなかったんだ。むしろ、感謝している」


 少し離れたところで話を聞いていたマーラさんが声をかけてくれた。そっか、族長命令という名の呪いがあるんだよね。


「……後は、頼むぞ」


 ギルさんはそれだけ言うと、亜空間から新しい服を取り出してサッと袖を通した。戦闘服、ボロボロになっちゃったもんね。シンプルな黒いロングTシャツだから、前ほどの防御力はなさそうだけど、単なる服というわけでもなさそう。だってギルさんだし。

 それから1度だけこちらに目を向けて、得物である刀を手にして真っ直ぐ結界の境目へと向かって歩いて行くギルさん。それに続くクロンさんも迷いのない足取りだ。


「中から外へ行くには、わざわざ結界を張り直さなくてもいいんだなぁ」


 すんなりと外へ出て行こうとする2人を見てニカさんがそう呟いた。なるほど……張り直す手間を省くためかもしれない。


 1歩、ギルさんが足を結界の外に出した瞬間。周囲で待ち構えていた魔物たちが一斉に動き出した。うっ! 怖い! でも、目を背けているのは余計に怖い! しっかり見ていなきゃ。ギルさんが無事かどうかわからないもん!


 そんな私の不安は要らぬものだった。

 腰を低くして構えをとったギルさんは、そのまま抜刀。それだけの動きで辺りに影を撒き散らし、向かってきた魔物はもちろん、ギルさんの半径数メートルにいた魔物たちがみんな吹き飛ばされてしまった。す、すごい……!


 右手に刀を持ち、自然体で立つその後姿からはなんとも言えぬ気迫のようなものを感じる。目に見えないオーラとでもいうのかな……少しでも動いたら切られる、そんな感覚があった。もちろん私たちは守られる立場だから危機感はないんだけど……対峙する魔物たちは生きた心地がしないだろう。


「相変わらず、すげぇ男だなギルは。よく見ておけ、メグよ。あれがオルトゥスナンバー2の男だ」

「ナンバー、2……」


 お父さんの次に強いって事だよね。正直私からしてみたら、みんなが凄いからその凄さがわからないんだけど……

 でも、1つだけわかったのは、ギルさんでこの場を乗り切れなかったら、私たちはもう終わりなのだという事だった。


「……来たわ」


 マーラさんの声に目を凝らす。ギルさんが見つめる先にも見えていたのだろう。自身に風を纏い、魔物は近寄る事も出来ない。真っ直ぐにこちらに向かってくるシェルメルホルンの姿が私の目でもハッキリと確認出来た。


「くだらぬ」


 シェルメルホルンは心底面倒臭そうに一言そう呟いた。くだらない……? 何がくだらないというのだろう。


「もはや子どもを寄越せと言うつもりもない」

「……どう言う事だ」


 意外にも思えたシェルメルホルンの言葉に、ギルさんはより一層警戒心を抱いたようだ。身体を斜めに向けていつでも抜刀出来る体勢になっている。


「自ら選んでもらおう。それなら文句はあるまい」

「なん、だと?」


 自ら? 私に選ばせようと言うのかな。そんなの、答えは決まりきっているのに。だけどあの余裕のある様子を見るとなんだか不安だ。ニカさんがサッと私を後ろに庇ってくれた。うう、ありがとう!


「ハイエルフ・メグ!」

「はっ! いけない! メグ!」


 マーラさんが慌てたように私の方へ駆け寄ってきた。でも、たぶん少し遅かった。

 だってね? シェルメルホルンが私を『ハイエルフ・メグ』と呼んだ瞬間、身体が硬直して動けなくなってしまったんだもん。


「こちらへこい。族長命令・・・・だ」

「なっ……!?」


 族長命令。それは呪いの言葉だった。私はどうしても身体を自由に動かせなくなってしまった。それどころか、嫌なのに、行きたくないのに、足が勝手にシェルメルホルンの方へと踏み出して行く。声も、出せない。


「さ、させるかぁ!」


 ニカさんが慌てて私を抱き込み、私の歩みを止めてくれた。私は尚も向かおうとするけど、所詮は幼女。無駄な足掻きとなっている。ニカさん! どうかこのまま私を止めて!


 だけど、私の願いはまたしてもシェルメルホルンの一言により打ち砕かれることとなった。


「ハイエルフの郷の住人たちよ。……子どもの歩みを阻むものを抑えよ。族長命令だ」

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