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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
それぞれの動向1

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ハーブティ


 家の中は驚くほど素朴で質素だった。村の景色も閑静な雰囲気だったから意外というわけではないんだけど……なんというか。


「静かでしゅ……」


 そう、静かすぎるのだ。人が生活しているとは思えないほど静か。村全体がね? 招いてくれたこのハイエルフさんも、本当にここに住んでるのかと疑わしいほど生活感もない。歩くたびに衣擦れの音が聞こえたりはするけど、気配まで希薄だし。ちょっと人から離れている感じがする。神秘的と言えば聞こえはいいけど、なんだかちょっぴり不気味なのだ。ごめんなさいっ!


「茶器はあるんだけれど、いつも同じものを使うから埃が被っちゃってるわね。ディロン、洗ってくれる?」

『御意』


 指示された水の精霊が尻尾を軽く振ると、水球が宙に浮き、その中で茶器がちゃぷちゃぷと音を立てて洗われていく。茶器同士がぶつからないところが流石だ。


「次はシャロン、乾かしてちょうだい」


 洗い終わるとすぐさま水球が風に変わる。黄緑の光が舞っているからこの子が風の精霊か何かなのだろう。そうしてあっという間に綺麗になった茶器は風の精霊によってテーブルに並べられていく。


「ふわぁ、しゅごい」


 それがまるで手品みたいで思わずそんな声を漏らしてしまった。きっと私たちも練習すれば出来るだろうけど……それまでにいくつか食器を割ってしまいそうである。


「うふふ、そうかしら。嬉しいわね、そうやって褒められるというのも」


 私の声を拾って、ハイエルフさんはコロコロと笑った。綺麗すぎて怖いくらいの人だけど、こういう所を見るとなんだか可愛らしく思えた。


 本当に、排他的と言われるハイエルフなんだろうか? そんな疑問がみんなの心に広がっていた。




「さぁ、召し上がって。心が落ち着くハーブティよ」


 自ら淹れてくれたお茶を私たちに振る舞ったハイエルフさんはそう言うと、まずは自分が先に口をつけた。同じポットから淹れたものだから毒味の意味を込めたのだろう。その後クロンさんが口をつけ、皆がそれぞれお茶を口に入れる。熱すぎない程よい温度だ。香り豊かなハーブティはじんわりと身体中に温かさを送る。はぁ、美味しい。


「さぁ、何から話そうかしら。ああ、まずは名前ね。私はマルティネルシーラ。この場所から出ることもなく、もう5000年程かしらね」


 思わずお茶を吐き出すところだった。ご、ご、5000年!? 途方も無い年数だ。なるほど、人を超越した雰囲気なわけだよ!


「そして、現族長の姉になるわ。族長の事はご存知よね? やんちゃ坊主の困ったさんよ」


 おっとりと、なんでも無いことのようにマルティネルシーラさんはそう告げた。へ? 族長の姉って事は、例のシェルメルホルンって人のお姉さんって事? それをやんちゃ坊主って。何だろう? 私たちは何か勘違いしてるのかな?


「でもね、族長の言うことには逆らえないの。これはハイエルフの民に施された一種の呪いのようなものよ」

「呪い……?」


 少しだけ目を伏せて呪いと口にしたマルティネルシーラさん。その単語を拾った魔王さんの眉が寄る。


「ここまで長生きするとね、これまで当たり前のようにして来たことを打ち破るというのはなかなか出来ないものなのよ。ずっと言う事を聞くようにと言い聞かせられて育ったから、言いつけを破ろうにも出来ないの。魔術とかではないのよ? 不思議なものね」


 困ったように微笑みながら相変わらずおっとりと話を続けるマルティネルシーラさんは、なんだか寂しそうにも見えた。気のせいかな……?


「けれど、それをやってのけたのが、イェンナリエアルだったの」

「イェンナ……! イェンナはここにいるのか!?」


 突然出て来たイェンナさんの名前。その名前に真っ先に反応した魔王さんはほんの少し威圧が漏れ出ているようだ。あう、怖いよー!

 私がギルさんにしがみついて宥められている中、威圧を向けられたと言うのに全く動じないマルティネルシーラさんはやはりおっとりと微笑んでいた。底の見えない恐ろしさを感じるのは私だけだろうか……


「……メグ。貴女は願いを叶えたのね」

「え……?」


 魔王さんの問いには答えず、そんな事を呟いたマルティネルシーラさん。思わずぽかん、としてしまったのは仕方ないよね? しかも、願いって? 何のことだろう。


「イェンナはここにいるのかと尋ねておる! どうか答えてくれぬか!?」


 気が急くのか魔王さんは先程よりも威圧を放ちながらもう一度そう尋ねた。少し落ち着こう? クロンさんもさり気なくそう声をかけているのだけど、耳に入ってないみたい。


「それを教えるには、貴方がもう少し落ち着かないとダメね」


 魔王さんを一瞥してそれだけ答えると、マルティネルシーラさんはハーブティに口をつけた。だけど、それで落ち着いていられないのは魔王さんである。ついに席を立ってしまった。


「何故だ、何故教えてくれぬ? 我は、ずっと……ずっと彼女を探していたのだ! どうか、どうか頼む……! 今すぐにでも彼女に会いたいのだ! 教えてくれ!!」

「ザハリアーシュ様、落ち着いてください!」


 声を荒げ始めてしまった魔王さん。そうだよね。ずっと会えなかった愛しい相手がすぐ近くにいるかもしれないんだもん。でも、冷静さを欠いているからクロンさんの言うように少し落ち着いて欲しい。私はどうすることも出来ずにオロオロしていた。


「あらあら。困った人ね。……でも、今のような状態の貴方には余計に教えられないわ。少し、落ち着いてもらえないかしら」

「これが、落ち着いてなどいられるか! やっと会えるのだぞ!? なぜ会わせてもらえぬのだ? 会わせられぬ理由でもあるのか!?」


 魔王さんの気持ちはわからなくもない。私だってお父さんが近くにいるのに会えなかったら、こうなってたかもしれないもん。でも状況的にハラハラしてしまう。だってここはハイエルフの郷なんだから。この人だって穏やかにしているけど、いつ怒り出したっておかしくないもんね? あんまり怒ったところは想像つかないけど。

 魔王さんの言葉を最後まで聞き届け、ひと呼吸おいたところでマルティネルシーラさんはふぅと軽く息を吐いてから口を開いた。


「わかったわ。ちゃんと教えます。教えますからまずはやはり落ち着いて欲しいの。貴方はここに喧嘩を売りに来たわけではないでしょう?」


 どこまでも穏やかに、語りかけるようにそう告げたマルティネルシーラさん。その言葉に魔王さんもハッとしたようだ。


「……申し訳なかった。我は取り乱してしまったようだな」


 魔王さんはストンと椅子に腰掛け、目の前に置いてあったハーブティを一口。細く長いため息を吐き、今度はしっかりとした落ち着いた口調で話し始めた。


「すまぬ。もう大丈夫である。このハーブティは心を落ち着かせてくれるのだな。お見通しであったか、恐れ入る」

「あらあら、ただの年の功というものですわ」


 再び場に穏やかな空気が流れ始めたので、私はようやくホッと安堵のため息を吐いたのだった。き、緊張した!

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