精霊の思わぬ性質
「ちょうど若い子にぬいぐるみ作りが得意な子がいるのよ。修行も兼ねてやらせてみるわ。あ、もちろんチェックするからクオリティを落とすことはしないわよぉ」
若い子への教育に熱心だなぁ。ランちゃんの目と虎耳が怪しく揺れたような気がしたけどきっと気のせいだ。うん、私たちの依頼で練習になるなら頼んで良かったかも! 支払いはケイさんなんだけどね! なんと、イケメンなケイさんはメアリーラさんの分も支払うという。ものすごく焦ってお断りしてたメアリーラさんだったけど、ジュマくん捜索の時に乗せて飛んでもらったからそのお礼なんだって。ニカさんとも相談済みらしく、メアリーラさんは恐縮しきりだった。
「遠征は苦手だろう? 危険な場所まで付き合わせちゃったし、仕事とはいえこれは気持ちだから。受け取ってもらえると嬉しいな」
ケイさんの殺し文句は満点でした。素敵すぎる微笑み付きでそんな事言われちゃったらさ、そりゃもうメアリーラさんが耳まで真っ赤になるのも無理はない……声も出せずに首を何度も縦に振るメアリーラさんは可愛かったです。
「ところで、メグちゃんは本当にその注文でいいのかしらぁ?」
ふと目が合ったランちゃんにそう聞かれたけど私に迷いは全くない。
「それがいーんでしゅ!」
「そぉ? まぁメグちゃんがいいならいいんだけどねん」
「どんなぬいぐるみを頼んだのですか? メグちゃん!」
すると会話に参加してきたメアリーラさんがワクワクした様子で聞いてきた。まだほんのり顔が赤いのが可愛らしい。でも!
「ナイショでしゅー!」
「えぇーっ」
「んふっ、じゃあ私も秘密にするわぁ。依頼主の言う事は聞かないとねん! 信頼関係が大事だもの」
さすがランちゃん! 私たちは顔を見合わせてクスクス笑い合う。本当、出来上がるのが楽しみだー!
こうしてようやく店を後にした頃にはすでに暗くなりかけていた。ものすごく待たせちゃってごめんなさい、ギルさん!
「いや、その間に必要なものを揃えていたから大丈夫だ」
待たせた事について謝っていたらそんな思わぬ返答が。え、でもギルさんずっと近くにいたよね? そう疑問を漏らすと、影鳥を使ってギルド内の道具屋で薬とか細かい物をいくつか揃えていたんだって。か、影鳥ちゃんおつかいまで出来るの!?
「さすがにギルド内の店だけだ。俺の能力を知っているし、場を離れられない事も察してくれる。街中の店も出来なくはないが……店側からすると良い気はしないだろうからな」
なるほど、ギルド内の店だからこそ出来る裏技ってところかな? ちゃんとお店側の事も考えるギルさんはやはり常識人だ。
待ち時間を有効活用する所も偉い。思い出すよ……客先で待たされた時の為に必ずノートパソコン持ち歩いてたあの頃を! 呼び出したのはそっちでしょぉっ!? と憤りながらカタカタ数時間書類作成しながら待ったあの頃をね!! 中には持ち込みNGの客先もあったから、仕事しながら待てた所は良心的ではあったかもしれないけどさぁ……
「後はギルドに戻って受け取るだけだ。受け取ったらブレスレットに収納しておくように」
「わかりまちた!」
何から何まで準備してもらって本当にありがたい。よし、私も出来る事頑張るぞー! 残り3日間で、フウちゃんホムラくんに精霊魔術のイメージを正確に伝える訓練しよう。もちろん、お仕事の後にだけどね。
そんなことを脳内であれこれ考えながら、私たちはギルドへと帰ったのだった。
それからの3日間。私は自分で立てた計画通りに日々を過ごした。看板娘をこなしつつ、空いた時間でフウちゃんとホムラくんにイメージを伝えていく。これが間にショーちゃんを挟むことで驚くほどスムーズにいくんだよね!
『ご主人様の心の声を精霊の声にして伝えるだけなのよー!』
なんでも、精霊は精霊同士にしかわからない言語みたいなものがあるんだって。初耳! 私たちのような精霊が見える種族相手には、精霊独自の魔術によって言語理解が出来るんだとか。
『その言語理解の魔術が発動するキーワードが、精霊の種類を当てる事なんだぞ!』
なるほど、ホムラくんの言う通りだ。そうじゃなかったら、私たちは精霊を発見した瞬間に言葉がわかるはずだもんね。……そこら中に精霊はいるから、正直そうだった場合うるさくて仕方なかったかも、なんてちょっぴり思ったよ!
ちなみに、この件についてはシュリエさんも初耳だったそう。興味深いですね、ってショーちゃんから話を聞いて、考察してたんだけどこれがまたすごいんだ!
「精霊は知能が低いのではなく、我々の言語で対応していたから理解力が低かったのですね。とはいえ、奔放な気質は変わらないでしょうから、きちんと伝わったとしても意図を理解して魔術を行使出来るかは個人差によるでしょうね……」
なんで私たちの拙い説明だけでここまで考えられるんだ……シュリエさんはやっぱりすごい人でした!
「声の精霊の凄さは人に仕える事でやっと発揮出来るのですね。声の精霊の特性として全ての言語を理解できるのはとんでもない能力ですが、精霊同士だと意味を成しませんから。だからこの子はずっと劣等感を感じていたのでしょうね」
そっか。人基準で考えるとショーちゃんはかなりのチート能力保持者だけど、精霊にとっては意味がないんだ。ここに来てようやくショーちゃんが自信を持てなかった理由がわかった。またショーちゃんの事を知れてご主人は嬉しいよ!
まぁそんなチート能力のおかげで、私が伝えたいイメージがショーちゃんを通じて精霊に1番わかりやすい言語で伝わる、という反則技が出来ちゃったわけ! だからつまり。
「ホムラくん、火の玉だよ!」
『よしきた、こうだなー?』
室内で作り出しても何も燃やす事なく、熱だけが伝わる火の玉作りに難なく成功してしまうのだ! ちなみにこれ、私に害を成そうとする相手にはしっかり火としての役割を果たす。しかもごく少量の魔力で済んじゃうエコ仕様! 素晴らしい!
でも、こういう魔術も使わなくて済むならそれに越した事はないんだけどね。使う機会がない事を祈りたいけど、いざという時に何も出来ないのと多少の自衛が出来るのは大きな違いだからね! 私は他にもフウちゃんによって火の玉を自在に動かしてもらったり、威力を増してもらったりなど、色んな事を試しながら日々を過ごした。
こうして迎えた出発の日。朝早くから目を覚ましてしっかりご飯を食べ、身支度を整えて戦闘服を身に纏った私は、ギルドの中心メンバーに混ざってギルドホールに立っていた。
「みんな、気を付けてね。ギルドの事は心配しないで? ふふふ、防戦は得意なんだから!」
不敵に笑うサウラさん。確かにホームへの襲撃だもん、トラップ仕掛け放題だよね。頼もしくもあり恐ろしくもあり……密かにルド医師もニヤってたのを私は見逃さなかったよ!
「最初から心配なんかしてないぞ。お前たちがやると言ったんだから信じるだけだ」
そう言って笑うお父さんは部下の扱いに慣れてるなぁと思った。さすがは頭領だね!
「アーシュ。うちのをよろしく頼むぞ」
「任された。必ずや目的を果たし、皆を無事ギルドへ連れて帰ると約束しよう」
お父さんと魔王さんが力強い眼差しで互いを見合う。もうこれ以上の言葉はいらない、とばかりに2人はそれぞれの進む方向へと身体を向けた。
「うぅ、メグちゃん。気を付けてなのですよ!」
「……ちゃんと、帰ってこいよ」
メアリーラさんとレキからの激励を受け取って、私も笑顔を浮かべる。
「あいっ! いってきましゅ!」
他のギルドメンバーからの温かい声援を浴びながら、私たちはそれぞれの1歩を踏み出したのだった。
これにて今章は終わりになります。
そしてしばらく書き溜め期間に入りたいと思いますので次章の開始日は未定です(´Д` )
個人的な目安としては2週間ほど、と思ってます。開始日は決まり次第活動報告にてお知らせいたしますー!頑張りまする。
ここ2章ほどはあれこれ情報を詰め込んだ話になりましたのでそろそろのんびりさせたい!と思いつつ。いや、これから戦争開始?な展開ですのでそうもいかず。
けれど、「メグはどこまでいってもメグ」。これをキーワードに話を進めていきたいと思いますので、今後もお付き合いくださいませ!
では、次章でお会いいたしましょう!





