第三話
更新遅れてごめんなさい。
~人里~
「くっ!まだ出てくるのか!」
人里へ続く門の前、上白沢慧音は人里の守護者として、一人で妖怪の群れと戦っていた。
「もうかれこれ三時間か……」
戦っている妖怪は狼の形をしており、一匹一匹は弱いのだが、倒しても倒しても出てくる現状に慧音の体力が尽きかけていた。
「--しまった!」
その疲れからか、慧音は道の出っ張りに足をとられ、体制を崩す。
そこに、すかさず妖怪が腹を食いちぎろうと飛びかかる。
「くっ!」
慧音が痛みに備えようとすると、その妖怪を炎が消し飛ばす。
「慧音!」
慧音の元に駆けてきたのは藤原妹紅。
彼女は人里の人間の避難誘導をしていた。
「妹紅!人里のみんなは!?」
「全員人里の奥に避難させた!霊夢達に連絡したから、私の後ろで少し休め!」
「わかった!任せる!」
慧音はよろよろと門に向かって歩き、門を背にして座り込む。
限りなく続く戦闘を前に、慧音は体力の回復につとめた。
「おら!次は私が相手だよ!」
妹紅は妖怪達を次々と焼き払いながら、門の前に火の壁を作る。
慧音は飛んで越えられるが、妖怪達には飛び越えられないように張られた炎を前に、妖怪達の侵攻も止まる。
しかし、妖怪達は渡れないと見るや、次々と壁に突っ込んでいった。
「っ!?こいつら、味方の死体で炎を消そうとしてる!」
妹紅には、先ほどのように炎の壁を再び張る余裕は既になかった。
「やばい!慧音!」
妹紅は慧音に呼び掛けるが、慧音も既に他の妖怪と戦闘に入り、手一杯であった。
「このままじゃ人里が!」
火は既に消えかけ、妖怪は今にも門を破りそうだった。
「くそっ!」
妹紅は目の前の妖怪を燃やし、門に駆け寄ろうとするが、別の妖怪がその道を阻む。
「どけ!」
しかし、倒しても倒しても出てくる妖怪達に、遂に妹紅の霊力が尽きる。
その瞬間、妖怪が門に殺到する。
「ぐはっ!」
妹紅が振り向くと、慧音が妖怪によって門に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「慧音!」
妹紅が叫ぶが、慧音は動かない。
そして、門に亀裂が走った。
それを見て、妹紅の脳裏に噛み殺される人里の人々の姿が浮かぶ。
「…止めろ……止めろぉ!」
妹紅にはもはや霊力は無く、慧音は動けない。
村人が蹂躙されるかに思えたその時、
そこに、暖かい雨が降りそそいだ。
~数分前~
春花は、神社から人里の大まかな位置を確認した後、その場所の上空に転移した。
その後、転移を繰り返して位置を調整した春花は、敵の位置を確認する。
その時、その中に見知った顔が見えた。
「あれは、妹紅ちゃんに慧音!…桜、私から離れないでよ」
「了解しました」
敵の位置を確認した春花は、懐から一枚の紙を取り出し、高らかに宣言した。
「天符「死の雨」」
宣言とともに春花は神力を凝縮した大玉を放つ。
放たれた大玉は、空中で拡散し、妖怪へと向かう。
それにより、門周辺の妖怪は消滅した。
「治癒符「パーフェクトヒール」」
春花は続いてスペルを発動させ、妹紅と慧音の傷を癒やす。
そして、そのまま地上へと着地する。
「なんとか間に合った~」
「………春花?」
着地した春花が伸びをしていると、後ろから妹紅が話しかける。
「妹紅ちゃん、久し振り!」
振り向いた春花は笑顔をむける。
「お前……今までどこに!」
「ちょっと寝過ごした」
「ちょっとじゃないだろ!」
先程まで疲れ果てていたのが嘘のように怒り出す妹紅。
「まあまあ、落ち着いて。………慧音?なんでそんなに額に青筋を浮かべているのかな?」
春花が妹紅を宥めようとすると、慧音が春花に近寄る。
そして、春花の頭をそっと包み込むように持つと、
「お前には今まで散々心配をかけられたからな。ここらで、お仕置きだ!」
お仕置きの言葉とともに頭突きを繰り出した。
ガツン!!
「痛っ!!」
慧音の強烈な頭突きに、春花は頭を抑えてうずくまる。
「本来ならお説教といきたいところだが、まずはこいつらを片づけるぞ」
春花の頭を離した慧音は、新たに森の奥からやってきた妖怪達を睨みつける。
「そうだね。寝起きの運動にはちょうど良いかな。桜」
頭のダメージが回復した春花は、桜の名を呼ぶ。
「了解しました」
桜は闇を纏うと、刀に変わる。
春花はそれを持つと、鞘を腰にくくりつけ、刃を抜く。
「そりゃ!」
飛びかかってきた妖怪を一刀両断した春花は、そのまま妖怪の群へ突っ込む。
「二人は門の前で討ちもらしをお願い!」
「「わかった!」」
二人は門の前に移動し、周囲に弾幕を出現させ待機した。
「うらぁー!」
一太刀で妖怪を斬り捨てながら、春花は周囲を見渡す。
「(--多分こいつらの親玉がどこかに……)」
それを探しながら妖怪を次々斬り捨てていくと、森から出てくる妖怪の量が減ってきた。
「これは……」
その時、森から妖怪が吹き飛ばされてくる。
「--白、討ちもらしは?」
「目視では0、妖力の反応も知覚範囲内にはないです!」
森から現れたのは、白を連れた隼人だった。
「残ったのを片づけるぞ」
春花が戦っている妖怪を見つけた隼人は、空中から銃を取り出す。
「果てな」
それを無造作に妖怪達へ向けると、躊躇いもなく引き金を次々と引く。
銃口から放たれた弾は、春花にかすることもせず、妖怪のみを次々と撃ち抜いていき、その場にいた妖怪の全てを全滅させた。
「隼人、遅かったね?」
「悪い。少し道に迷った」
どうやら、魔法の森の方まで移動していたらしい。
「あとは親玉を見つければ……」
その言葉とともに、春花は周り一帯に薄く妖力を放つ。
超音波のように発せられた妖力により、春花は索敵を遂行する。
「--西に17キロの位置に、巨大な狼型の個体がいるよ」
「そいつが親玉か」
「じゃ、早速--」
「待って!」
春花が親玉の場所を見つけ向かおうとすると、そこにようやく霊夢達が合流する。
「霊夢、もう後は親玉だけだよ?」
「ハァ……ハァ……あなた達、速すぎ」
「私の全力でも追いつけないなんてな」
疲れた様子を見せる霊夢だったが、魔理沙にはその様子は無かったので、霊夢が無茶をしたことがわかった。
「私達も…そこに連れてって…異変解決は…私の仕事よ…」
「私はただおもしろそうだからいるだけだがな」
「わかった。じゃあ、掴まって」
魔理沙と霊夢が春花の袖を掴んだのを確認した春花は、そのまま親玉の元へと転移した。
「さてと……白、周囲の安全確認、頼んだぞ」
その場に残った隼人と白は、なにやら準備を始めていた。
「了解しました、ご主人!」
白は自分の手に刀を出現させ、周囲の警戒に入る。
「一体、何を?」
「慧音、こいつらに常識は通用しないよ。私達はみんなのところへ行こう」
「ああ、わかった」
妹紅は慧音を連れて人里へと入っていった。
隼人は、その場に寝そべると、自分の前にスナイパーライフルを出現させる。
「距離、17キロ……」
銃を西に向け、スコープを覗き込む隼人。
17キロともなれば、微かな風でも流さる鉛玉は、まっすぐ飛ばずに横へとそれる。
だがしかし、銃身どころか弾丸まで神力でできている銃は目標をスコープの真ん中に納めるだけで当たるのであった。
そのままスコープを覗き込んで待機していると、スコープの先で春花からの合図を確認する。
「着火」
引き金を引くと、神力で作製された弾は目標を瞬時に貫く。
「……着弾、ならびに目標への効果を確認、射撃を続行するから、引き続き警戒を頼む」
「は~い」
そのまま隼人は引き金を引き続けた。
~平原~
「っと、到着」
春花達は、妖怪の親玉の元に転移した。
「--本当に一瞬だったんだぜ…」
「常識って一体……」
「そんなものは捨てた方が賢明ですよ」
いつの間にか人型に戻っていた桜はそう言うと、右手に自分の刀を出現させる。
「じゃ、始めようか」
春花はゆったりと妖狼に近づく。
妖狼は低い声で唸り、威嚇をする。
「う~ん、言葉は通じないか…。なら、退治するしかないかな」
「ガルルルル…」
春花は右手を上に挙げ、その手を振り下ろす。
その瞬間、後方からの狙撃が開始された。
「相変わらず隼人の狙撃は正確だね~」
「あの距離から!?」
明らかに人里の位置からくる狙撃に、魔理沙は驚愕する。
「三人とも、このまま攻撃」
「言われなくても!「ホーミングアミュレット」!」
霊夢の放つスペルカードは追尾性能があるのか、全てが妖狼へと叩き込まれる。
「ギャウ!」
立て続けの弾幕に、妖狼も思わず怯む。
「そこ!魔符「イリュージョンレーザー」!」
続いて魔理沙がレーザーを放つ。
「私も!狐符「ミスティックテイル」!」
春花がスペルカードを宣言すると、九本のレーザーが妖狼へと向かう。
それらは妖狼を貫いた後、途中で反射をし、再び違う角度から妖狼を貫いた。
「それ!」
跳躍した桜がそのまま妖狼の腹部を切り裂く。
五人の攻撃により、身動きもできないまま満身創痍になった妖狼は、死力を振り絞って跳び上がり、その体で押し潰そうとする。
「魔理沙!仕留めるわよ!霊符「夢想封印」!」
それをみた霊夢が、すかさずスペルカードを使い、魔理沙もそれに従う。
魔理沙は箒の位置を調整すると、手に持っていた八卦路を妖狼へ向ける。
「わかったぜ!恋符「マスタースパーク」!!」
瞬間、魔理沙の八卦路から巨大なレーザーが放たれ、そのまま妖狼は倒された。
「ふう、終わったし、人里に戻ろうか?」
こうして、後に「妖狼異変」と呼ばれる異変は、復活した九尾とその仲間達の手によって解決されたのであった。