~そして、あの場所へ~
「どうして逃げるのよ、キーアは?」
業務を終え、買い物をして帰ろうと学校を出た校門の前にキーアがいたので一緒に買い物をして帰ることにしたアルマは、ここ数日でキーアがアインを避けていることを聞いてみた。
「うん、なんか怖くて」
「そうなの? 私は吹っ切れたアインが、キーアに謝ろうとしていたように見えるけど、っていうより、言ってきたんだけど」
「アルマが言わなくても私も感じていたわよ。でも、一日で吹っ切れる程の事があったの? ていう話じゃない?」
キーアの良い分にアルマも同意する。あの夜、キーアを探しに行く前はまだアインは悩んでいるように見えていた筈なのに、朝起きたら何があったのかは分からないけれど憑き物が晴れたような表情をしていたのだ。
アインだけにしかわからない何かがあったに違いない。
「え、なに、私殺されてしまうの?」
「なんでそうなるのよ」
アルマは呆れたようにキーアの冗談を流して家路に付いていると急な背後からの衝撃に前のめりに倒れそうになった。バランスを整えようと足に力をいれようとしたが、衝撃を加えた本人が保護してくれたので特に転ぶようなこともなくその場は終わる。
「二人共見つけた~」
二人の間から顔を覗かせたのはアインだ。走って探していたのだろう、感じる体温が温かいと思えるくらいだ。
こんな所で捕まると思っていなかったキーアはすぐさまアインから離れようとしたがそれよりも早くアインの手がキーアの体を寄せ付ける。
「なんで逃げるのさ、キーアは?」
「そ、それは………」
「顔を合わせ辛かったんだって」
「そうなの?」
「だって、アインを傷つけたんだよ?」
「ああ、それはもう良いんだよ。キーア」
「え?」
「僕は昔の僕にはなることは出来ないしね。彼は遠すぎる」
「アイン?」
その笑顔にキーアは前世の頃にアインが一度だけ見せた笑顔と重なった。
「でも、アインに言われたんだよ。僕は僕だって、僕がやりたいようにやればいいって、守りたい人を守ってほしいって」
だから僕は、皆を守っていきたい―――と、憑き物が落ちたアインの笑顔は誇らしげで、作り物のような前の笑顔ではなかった。
「アイン………」
「あれ、なんで泣いているの、キーア?」
言われるまで気が付かなかったキーアは涙をぬぐった手を見てようやく理解する。涙を流した訳、それはずっと見たかったのかもしれない。アインのちゃんとした笑顔を。強張ったような物ではなく、無理をしたような笑顔ではなく、心の底から笑うことが出来る表情をキーアは見たかったのだ。
「うるさい、見ないでよ!」
キーアの言う通り顔を背ける。これで仲直り出来たのかな? などと考えながらアインはアルマを見る。
「あ、買い物していたの?」
片手に持っていた袋を見たアインは荷物を持とうと手を掛けるが。
「いいよ? そんなに重くもないし」
「それなら片方持たせてよ」
意味もない行為だが、アインはそれがしたいのだとアルマは察すると袋の片側を持つ。
アインが過ごしたかった世界がここにある、アルマが送りたかった生活がここにある、改変した世界はきっと、神様が与えてくれたやり直しの人生なのかもしれない。
なら、今生きている時間を楽しんでいこう。ずっと望んでいた平和な世界で家族と共に時間を過ごすこと、叶えられなかったこの夢のような世界で、僕たちは出来なかったことを過ごして行こう。
「あ、そうだ。お姉ちゃん?」
「ん? なに?」
「僕ね、皆と一緒に行きたい所があるんだ」
「へえ? 良いわね、一体どこに行きたいの?」
アインが言い放ったその場所は意外な所であったが、アルマもその場所にはもう一度だけ行きたいと思っていた。
「始まりの樹があった場所に行きたい」




