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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
最終章~巡る運命~
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~アイン~

 真っ白な世界、靄がかかった世界、今まではこんなことなんて無かったのに、なんだろうこの景色は?

「こんにちは」

「えっ?」

 挨拶をされた声に驚きを隠せない、その声は僕と同じ声でありそれが誰なのかを僕は知っているから。

 辺りを見渡すと声はクスリと笑い声をあげると、

「こっちだよ、君の目の前にいる」

 声の主はそう言って僕を先導する。

「え、君が?」

 目の前に現れたのは微弱な光を放つ球だ。これが人間の魂なのだろうかと少しだけ不思議に思っていると、光の球はこちらに話しかけてくる。

「初めまして、えっと面倒だからアインって呼ぶから、君もアインでいいよ?」

「あ、うん。分かった」

 なんだか不思議だ、同じ僕なのにどことなく気圧されてしまっている自分がいるのだから。

「でも、なんで今更出てきたの?」

 ずっと聞きたかった内容を聞ける相手が目の前にいる、そう思うと色々と聞きたいことが沢山あるはずなのに、なんでこんなことを聞いてしまったのだろうか。

「ああうん、ずっと君の事を見ていたんだけどね、なんだか悩んでいそうだったから出てきたの。それに少しだけ話したかったんだ」

 悩みの種は君自身なのだがと言いたかったけれど、アインはその事を分かっているんだろう。

「聞きたいことがあるんだよね? 聞かせてよ。答えられる範囲でなら答えるよ」

「それじゃあ遠慮なく」

 すべてを質問した、一つ一つ答えてくれるように一つの質問にしっかりと答えを言ってくれるまでの時間を設けながら色々なことを聞いた。

 君は一体何者なのか、君はどうして強くいられたのか、君はどうしてお姉ちゃんを追いかけようと思ったのかなど、まだまだ色々なことを問いかけた。

 そのすべてを答えてくれると、僕の中でカチンカチンと疑問という南京錠が一つずつ外れて消えていく。

「アインはさ? 幸せだったの?」

 一番聞きたかった質問を最後に僕は問いかける。今までの質問にはあまり時間を掛けずに即答してくれたのに、この質問に対しては長考していた。

「幸せってさ、なんだろうね?」

「え?」

「だってさ、幸福という定義は人それぞれだ、ご飯を食べた瞬間が幸せっていう人もいれば、何かを成し遂げた瞬間が幸せだっていう人もいる。

 君の質問は少しだけずるいけれど、君が一番聞きたかった質問なんだもんね?」

「うん、ずっと君に聞きたかったんだ。君はあんなにも大変な目にあってきたのに、なんで君の最後はあんなにも穏やかに笑えたの? やっぱり幸せだったからなの?」

「三者から見れば僕は幸福なんていう物とは程遠い人生だと思う。けれど、色々な人に出会ってきて、色々な目にもあってきた。

 優しい人もいれば、悪い人もいた。あの村に閉じこもっていたままだったら、ずっと嫌なことを知ったままだったと思う。

 危ない目にあったのはいっぱいあったけれど、世界を知らなかったらきっと楽しいなんて思ってこなかったんだろうなぁ」

 楽しい? 悲惨で、不憫で、人には裏切られ、時には人を殺してまでいたあの人生が楽しかったのか?

「旅の中で僕には家族がいるって知った時、君はどういう風に僕が映ったの?」

「え? それは、なんだか嬉しそうだったのかな。そう見えたけど」

「そうなんだ、そっか」

 王宮でアインがミドさんと会った時、家族の事を聞かされ、そして、血は繋がっていないけれどアルマが唯一の家族だと知った時、アインは動揺していた。

 でも、その動揺はいつの間にか嬉しさという感情に変わっていた。

「一人で暮らしていたときはね、温かい家庭という物が羨ましかったんだ。夜に狩りに出かけて戻ってきた時、家の外にまで聞こえてくる笑い声や、日が暮れ始めた時に迎えに来てくれていた親を見ていて、心底羨ましかった。なんで、皆にはあって自分には無いのだろうって」

 だから嬉しかったのか、アルマが自分の家族だと知って、家族という温かさに憧れていたからこそずっと追いかけていたのか。

 胸のあたりが少しだけずきりと痛む、きっとアインがずっと欲しかったものが今の僕には揃っているからという負い目から来るものなのか分からない。

「僕が駆け付けた時には既にアルマは寄生竜に精神を持っていかれていたんだ、話すこともままならずに僕は死んでしまったけどね」

「それでも、後悔していないの?」

 僕の問いかけにアインの声音は妙に明るい声だ。

「だって、お姉ちゃんの望みを聞けたから」

「望み?」

「うん、生きたいって、僕たちと一緒に暮らしたいってそれがお姉ちゃんの本当の望みだったんだ。色々な犠牲を払ってきても、もう元に戻ることが出来ないって分かっていても、それでも叶ったら良いなっていう奥底にしまっていた些細な願い事を聞けたからかな?

 僕の今までの旅はこの瞬間の為にあったんだなって思ったんだ」

 思えばそれが一番幸せだったかもしれないとアインは笑う。

「そっか、そうだったんだ」

 悲惨な人生をアインとアルマはそれぞれ送ってきた。でもお互いに辛いことがあっても忘れることは片時もなく、追いかけてきたアインを退けても、それはお互いの幸せの為だと思ってやったアルマだったけれど、アインは別離でいることを拒み、一緒にいることを選んだんだ。

 茨の道だと知っていても、離れたくなかったからアインはずっと追いかけてきた。汚名をかぶろうとも、ずっとずっと。

「幸せだったんだね、アインは」

「うん、色々あったけれど、幸せだったよ」

 知らない間に涙が出てくる。答えを得たからか、ホッとして気が緩んだからか、涙が溢れだして止まらない。

 気持ちも落ち着いてきてから僕はアインにもう一つの質問をした。

「これから僕はどうすればいいのかな? アインみたいに振舞えばいいのかな?」

 そう聞くと、突如光の球は眩い閃光を放つ。目を庇っていると光の勢いが弱くなってきたので光の球へと向き直るとそこにいたのは僕だった。

 生傷が痛々しい体だったけれど、これが幸せを感じ取るまでに費やした傷だと思うと、僕では到底かなわない存在だと思った。

 アインは僕の手を優しく握る。

「真っ白な手だね………」

 慈しむようにアインは僕の手を摩る。こんなにも入念に触られたことが無いので軽くくすぐったい。

「どうしたの?」

「君は僕の今までを見てきたんだよね? じゃあ、僕がこの手で何をやってきたのかも知っているよね?」

 血なまぐさい映像を僕は思い出す。アルマを追いかけるためにアインが今まで何をやってきたのかを。王宮に所属していた時のアインは任務に出るたびに沢山の人の血を流してきた。

 それが故意であり、不可抗力であっても、アインのその手は真っ赤に染めあがっているのだ。

 きっと、僕の手を真っ白だという比喩はこれまでやってきたことを後悔していることの表れなのかもしれない。

 僕はアインの言葉に頷いて応じると、にっこりと笑みを浮かべた。

「僕みたいに振舞えなんてことは言わない。君には君の人生があるから僕の真似事なんかしなくていい。

 だって、君は君なんだよ? 他の誰でもない。僕は前世の君なだけだから、気にしなくていい。

 ただね? 僕みたいに他人の血を流そうなんて思わないでほしい。人殺しなんかしないでほしい」

 力強くアインは僕の手を握る。懇願するその表情からは強い意志を感じる。アインはきっと後悔していたのだろう、やりたくもない事をやらされ、それでも自分の目的を達するためには屍を作り上げることしか出来なかった。本当ならばもっと違う方法があったのかもしれなかったのに。

「君にはその手を血で染めないでほしい。人を傷つけることはしないで、人を守ることに使って欲しい。お願いだ」

 アインの願いを僕は受け入れる。ずっと話したかった人物に会うことが出来たし、その人物は自分の言葉で幸福だと言った。

 そして、なにもやることが無くてただ時間だけが過ぎてゆく退屈な日常に特に何も感じていなかった僕は、ミリみたいに目標を持って生きている訳ではない。

 でも、アインの願いは何もなかった僕に一つの動機を与えてくれた。

「人を守ること………」

「いつか君が心から愛することが出来る人物と出会った時に、その人を守ることが出来るようになってほしい」

「大切な人………」

「む、どうやら時間が来ちゃったか」

アインの発言で僕は世界の異変に気付く。僕らの姿がお互いに視認できなくなる程に世界が白く染めあがり、靄がかかっていく。

「また君に会えるかな?」

 問いかけた僕にアインは頭を振る。ただ、その答えは何となく、僕自身も分かっていた。きっともう会えないだろう。今この瞬間、それこそ奇跡に近い時間は二度とこない。

 しかしアインは口元を綻ばせて優しく笑う。

「さようならっていう言葉って、なんか嫌じゃない?」

「へ?」

「ほら、なんかこう、繋がっていたものを断ち切るような言葉みたいでなんか嫌じゃない?」

「じゃあ、なんて言うの?」

 今もこうしている間に僕たちの体は消えつつある、アインは最後にこちらに詰め寄って軽く頬に口づけをすると。

またね・・・

 夢の終わりを告げるように彼はそう言って、僕たちは白い光に飲み込まれて消えていった。



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