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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
最終章~巡る運命~
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~喧嘩~

 青い空に広がる雲が風によって流される。ミリと別れてから半年が過ぎアクセスとフィンも何を思ったのか王都へ行った。

 一週間に一回だけ行ける王都への馬車があるのだが、いかんせんかお金がかかる。旅行費用として往復で五万Mもかかるので一生に一度くらいの勢いだ。

 きっとこつこつと貯めてきた貯金が集まったのだろうと思いながらその話を聞いていた。誘われたけれど、僕は遠慮した。特に行く当ても、用事もないのでかえってお金を消費するのも嫌だったから。

 二人は学校が休みの二日間を王都で満喫するようだが、帰ってくるのは何時だろうかと考えながら一人となった現在をこうして空を見て過ごしているのだった。

「そんなに暇だったら二人と一緒に行けば良かったじゃない」

 顔を覗きに来たキーアに反応をするのも億劫だが、反応しないと後々が面倒くさい。体を起こしてキーアへと向き直るとなにやらにやにやと笑みを浮かべている。

「どうしたの?」

「なにか、昔の貴方に戻ってきたわねって思っただけ」

 昔ということは前世の僕の事を言っているのだろう。

 竜騎士となったアインが任務中に見つけた竜人。五人姉妹と言われている竜人の中で長女の位置付けをされているものの、見た目からは想像できず一番年下にしか見えない。

 彼女はアインを守って死ぬまでは、片時も離れることなくアインが迷走した時はいつもアドバイスをしていた。

「僕は僕だよキーア」

「知っているわ。でも、纏っている空気が昔の貴方を思い出すのよ」

「空気?」

 僕の問いかけにキーアは頷く。

「今の貴方、寂しそうだもん。恋い焦がれた女性と別れたような、そんな雰囲気」

 意地の悪そうな物言いに僕は返答しなかった。無視をしたのだが、いつものキーアなら隣で騒ぎ立てる行動を起こすのだが、今日はいかんせんかおとなしい。

「寂しいか………アインだったらずっと一人で生きてきたんだし、そういうことはなかったんじゃないの?」

「前世の自分が体験してきたことを夢で疑似体験しているのに、そんなことが良く言えるわね?」

 キーアの声音に少しだけ棘があるように聞こえた。なんだか怒っているようだが、僕はどう反応をすればいいのだろうか。

「今の貴方は全てが終わった後に生まれた存在だからそんなことが言えるのかしら? 少なくとも、前世だったころの貴方がここにいれば、幸せそうに笑ったかもね」

「ねえキーア、そんなに昔の僕の方が良かった?」

「えっ?」

「今の僕じゃあ、昔とは別人すぎて嫌なんでしょ? じゃあ、僕はなんのために存在しているんだろうね? 教えてよ、あの夢は誰が見せているの? キーアなの? 昔の光景を見せられて、昔の僕自身に戻れってことなの?」

 なんだかイラついた僕は自虐するように怒りをぶつけていた。

 他のみんなも同じような夢を見せられて、一体どうしてこんな物を見せられて僕らはどうすればいいのかと問いかけたくなる。

 昔と同じように過ごせということなら僕は願い下げだ。お姉ちゃんも言っていたことだが、自分の人生を決めるのは自分だけなんだ。

 夢であろうが、他人であろうが、決めるのは自分自身なのだ。それなのにキーアは昔のアインを僕に重ね合わせているからか、発言一つ一つに苛立ちすら覚えてくる。

「ちが………そういうつもりじゃあ」

「じゃあ、どういうつもりなの? 僕の人格なんかいらないから、アインの人格に戻ってほしいって聞こえたけど?」

「………」

 前髪で表情を隠すように顔を俯かせて沈黙する。キーアには悪いけれど、自分の存在を否定されたようなことを言われれば、誰だって怒りを覚えるだろう。

 沈黙するということはそういうことなのだろうし。

「そっか、キーアにとって、竜人たちにとって僕は違う子なんでしょ? 顔を見たことも無いお母さんや、他のお姉さん達も、今の僕は誰の子でもないって事なんだ」

「アイン!!」

 弾けるような乾いた音が辺りを響かせた。顔を叩かれたけれどそのことを咎めるつもりはない。むしろ、それでキーアの気持ちが晴れるのならばそれでいい。

 キーアは叩いたことを後悔したように僕を見つめる。

「気は晴れた?」

 それだけ言って僕は立ち上がる。

 今は一人だけにしてほしい、そういう気分だ。気持ちの整理が付かないのもあるしなにより自分の事が分からなくなってしまったからだ。

 幸い今は二人もいないから一人になりやすい。お姉ちゃんは夜までは帰ってこないから一人で村をぶらぶらすることに決めた。

 村唯一の噴水広場にやってくる。今日明日と学校は休みなので村の子供たちの遊び場となって賑わっている。こういう気分の時に来るものではないなと軽く薄ら笑う。

 いつものいじめっ子達が僕の姿を見つけては取り囲むというイメージが湧くくらいだ。そんなに僕は苛められやすい雰囲気なのだろうか?

 そう考えていたら僕を中心に五人の子供たちが群がった。

 多分周りから僕を見た時の表情はキョトンとした表情なのだろう。実際僕も思っていたことが現実になるとは思っていなかったからだ。

 行く先を塞いでいた身長の高い子供の陰からワルイが姿を現せる。

「ようアイン。会いたかったぜぇ?」

 如何にも小物のような台詞だが、こういう奴らってどうしてこう粋がってばかりなのだろうか。

 弱者程群れを成しては、また弱者を屠ろうとするこのシステムは一体何なんだろう。人間ほど醜い生き物は他にいないだろう。

「えっと、僕は君たちに何かをしたのかな?」

 因縁を付けられるほどの事をしたのかと考えたのだが、やはりどう頑張っても思い当たる節が無い。

 しょうもない因縁だとは思う。昔の僕もこいつには因縁を掛けられては殺される寸前まで行ったこともある。

 その時はある人に助けてもらったが、今は仔竜もいないからこうやってガキ大将のようにふんぞり返っている。

「へっ、ミリもアクセスもフィンもいないからな、ゆっくりとお前をボコボコに出来るってもんだ」

「それはなんで?」

「お前が気に食わないからだよ」

「なんで?」

「今言っただろう、気に食わないから―――」

「納得がいかない説明だねワルイ。教えてって聞いているんだよ僕は?」

 ただでさえキーアとやりあった後だから気分が悪いのに、からまれた挙句にどうでもいいような内容で僕を取り囲んだのだ。

 気に食わないからボコボコにする? 馬鹿みたいな説明だ。

「気に食わないって言ってないでさ、具体的になにが気に食わないのか教えてよ? 頭が悪いの? 冗談は名前だけにしてよ」

 嘲笑するように鼻で笑ってやるとワルイは顔を真っ赤にしながら怒鳴り声を上げる。

「うるせぇ! お前のそういう所が気に食わないんだよ! あの三人と仲良くしているところが気に食わねえ! 守られていただけなのにそれを後ろ盾にするような感じが気に食わなかったんだよ!」

 ワルイは近づいてきて僕の胸倉を掴み、握り拳を作ってはそのまま僕を殴り飛ばした。

 取り囲まれた五人の輪の中心に転げ落ちるように倒れたけれど、蚊みたいに鬱陶しいパンチだった。

「お前ら、やっちまえ!」

 ワルイの合図に取り囲んでいた五人も襲い掛かってくる。

 一番身長の高かった子供が僕を羽交い絞めにしてワルイを含めての五人が僕をサンドバックにする。

 体は痛くないのに、心が痛くなってくる。お姉ちゃんと約束していることがあるのだが、気分が最高潮に悪すぎて約束が守ることも出来そうにない。

 僕やミリたちは他の子供たちよりも常人以上の力を持っているらしい。子供たちというより、大人達を負けさせることが出来るくらいに強いのだが、お姉ちゃんと約束しているのは、どんなに辛いことがあっても、他の子供たちを殴ろうとしては駄目という約束だ。

 僕の力は強すぎて、その気になれば素手で人を殺すことが出来るくらいまで達しているので下手をすればこいつらも殺しかねないということだ。

「………じゃあ、半殺しだね」

「あ? なんか言ったか?」

 拘束していた子供の腕を抱えるように脇を締めて前に投げ飛ばす。三人くらいが下敷きになったがノロノロと立ち上がる所も苛立たしく思ってしまう。

 この子たちに武術を使うのはせめてもの良心として控えておこう。僕は握り拳を作りゆっくりと子供たちに近づいていく。

 あぁ、むしゃくしゃするなぁ。弱い者いじめなんて恰好の悪い事だけれど、こいつらだって弱い者いじめをしようとした集団だ。この連中は弱いものだと分からずに向かってきた馬鹿ばかりだが、さて………

「なんでずっとミリたちが僕の周りにいたか分からないの?」

 ワルイの襟元を勢いよく引きつけると、怯えきった表情を取り繕うように眉毛を寄せるが、それこそ滑稽にしか見えない。

 足元ががくがくと生まれたての小鹿のように震えていれば、勇ましい表情をしても格好が悪すぎる。

「そういえばさっきも言っていたよね、あの三人の後ろの隠れているような小賢しいやつだっけ? ワルイ、あの三人は弱い者いじめするやつと、弱い者のままのやつって大嫌いなんだよ、知っていた?」

 ぶくぶくと太った豚のような体型をしているものだから突き飛ばせばボールのように転がってしまいそうだ。だらしなくズボンの上に乗っかっている腹を鷲掴みにして捻り揚げる。

「痛ってぇじゃねえかよ、手を放せ!」

「やだね、このまま引き千切った方がワルイの体の為にもなるから良くない?」

 もう少し握り込む力を強くすると強がっていた表情が崩れ始め、目尻には涙が溜まっていた。

「喧嘩する相手を間違えたね、それじゃあ今から二週間くらいは松葉杖生活を楽しんでね?」

 ワルイの腹から手を放して全員に殴りかかろうとした矢先の事、

「―――痛!?」

急激な頭痛にその場に蹲ってしまった僕は、大口を叩いたしまったこともあり、全員に暴行を加えられる羽目になった。



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