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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
最終章~巡る運命~
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~夢~

 寄生竜によって体の自由を奪われた人がいた。その人は唯一の家族である弟の事を思っていた。血縁関係ではなかったけれど、前世の僕も同じように姉であるその人をずっと追いかけていた。

 果てない旅を歩み、死ぬまでの間際になってもアインはその人の事を思っていた。

 追いついてもすぐに離れていってしまう存在。やっとたどり着いても姉の自我は崩壊していて会話すらまともにできずにアインは死んだ。

 夢の映像は三者の視点から見ることのできるもので、その人物になりきっている訳ではない。だから、アインがその時にどういうことを思っていたのかとか、どれだけの気持ちを持っていたのかとかなど、自分はそのことを知らない。

 でも、姉を追っている時のアインはずっと複雑な表情をしていたのは脳裏に焼き付いている。

 なんでアインはこんなにも頑張ってきたのだろうか、なんでこの人はこんなにも強いのだろうか。小さい時から大人たちに虐待を受けてきて、人間不信に陥っていた時もあるのに、死んでしまった方が良かったと思っていた時だってあるはずだ。

 離れていく人影を追うように手を伸ばす。決して離さないと誓うように大きな声でその人の事を呼んだ。

「お姉ちゃん!!」

 うなされた様に起きると辺りはまだ暗かった。手のひらにはじんわりと汗が滲んでいて夢見が悪かったのを思わせる。

 息を吐いて再び眠ろうと目を閉じるが簡単に眠ることが出来そうになかったので、外に出て夜風に当たることにした。

 涼しい風が体中に巡り、汗ばんでいた体が冷えてきて心地いい。

「………?」

 遠い所から棒状のようなものが空を切る音が聞こえると、自然と僕の足は音が鳴る方向へと進めていた。

 じりじりと歩幅を変えながら剣を振るう。縦横無尽に繰り出される剣技は荒々しいようで技として完成されている。

 両手剣を細腕で振るい、尚且つ片手でも扱える強靭な腕力はどこに秘められているのだろう。総長を辞任してからも、お姉ちゃんはこうして毎日鍛錬をしていたのだろうか?

 汗で服が張り付いているところを見ると何時からやっていたのかが気になる。一息ついてタオルで顔の汗を拭い、剣を杖にするようにして体をもたれ掛かる。

「眠れなかったの?」

 話しかけられたことに僕は驚くが、お姉ちゃんは人の気配には敏感だ。それにしても、気配で誰なのかも分かる辺りは凄いと思う。

「毎日鍛錬しているの?」

「うん、体が鈍らないようにね」

「お姉ちゃん程だったら、誰も勝てないのに?」

「勝てないって、そんなことないよ? この間だってミリ君に一太刀入れられちゃったし」

「そうなの?」

 お姉ちゃんは頷く。ミリはあの攻防で一太刀入れていたのかと思うと少しだけ追いつかれたと思うとワクワクしてきた。

「でもさ、何のために強くないとだめなの?」

「皆を守るためかな?」

「守る?」

 少しだけの間が広がり、なんだかお姉ちゃんは昔を懐かしむような目で僕を見つめる。

「アインは、覚えていないかもしれないけれど、貴方が生まれた時に貴方を守ろうって誓ったのよ」

「僕を守るために、強くなるの?」

「噛み砕けばね? でも、これは私の想いでもあり、前世の私の願いでもあるのよ」

「お姉ちゃんも前世の記憶持っているの?」

 僕の言葉にお姉ちゃんはキョトンと目を見開かせる。

「私もってことは、アインも見たことあるの?」

 僕は頷いて肯定する。

 自分が見た夢の事。夢の中での前世がおくった日々の事。そして、お姉ちゃんを追いかけていたことを隠さずに話すと、お姉ちゃんも前世の自分の人生を語ってくれた。

 前世のアルマも悲惨な人生を送っていた。

 王宮の総長として世界に貢献していた裏側では、王宮が竜人を捕まえるために人工的に作り出した実験体として人竜となったアルマは、世界の理である寄生竜に宿主として選ばれてしまった。

 寄生竜が生まれ落ちれば世界が終わるといわれているが実質の所、前世の僕らも世界が終わる瞬間が訪れる前に命を落としている。

「お姉ちゃん、手つないでもいい?」

「いいけど、どうして?」

 黙って手を取ると、あれだけ激しく動いていたのに、手は凍える程に冷たい。体温が通っていないのではないのかと思ってしまう程だ。

 でも、僕はずっとこうしていたかった気がする。昔から、ずっとこの人の手を取っていたかった。

 一緒に勉強することもしていたかったけれど、一番やりたかったことといえば、ただこの人の手を握るだけだろう。

 初めて出会った時の記憶、雨のやまない湿原に生えていた一本の大樹の下で交わした口約束は決して忘れてはいけない物だ。

「帰ろうか? 眠くなってきたし」

「アインがそう言うなら帰りましょう」

 にこりと笑うお姉ちゃんの顔を見ながら僕は思う。前世の僕もこの人の笑顔が見たかったのではないのかと。



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