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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
最終章~巡る運命~
89/99

~試合~

「アイン、聞いていたの?」

「あ、ごめん。聞いていなかった」

 ぼ~っとしていたせいでフィンに怒られてしまった。

「おいおい、頼むぜ? ミリのお別れ会をするんだからよ」

 午後の授業も終わり、午前中にはお別れ会を僕の家でやろうということになり、村の何でも屋にて色々と買い込み、フィンは料理を担当しながら僕らは部屋の飾りつけに勤しんでいた。

 夜の七時から開始ということを伝えているので、ミリの姿は見当たらないのは当たり前だ。

「それで、なんだっけ?」

「プレゼントよ、アインは何を買ってきたのっていう話」

「ちなみに二人は?」

 一応買ってきた物はあるけれど、なんとなく二人の意見を聞きたかった。

「俺はこれだ」

 そう言って取りだしたのは皮手袋だった。

「ほら、アイツは槍を使うだろ? 昔ほどではないけど手のマメを作っていたからそれようにな?」

「あら、アクセスにしてはちゃんとした物を買ってきたのね?」

「俺にしてはって、なんだよ。そういうお前は何を買ってきたんだよ?」

 アクセスに促されたフィンも部屋の隅に置いていたプレゼントを取りだすと、それはブーツだった。

「あいつ、よく動くからさ、この間足元を見たら結構ボロボロだったのよ」

「へえ、意外と考えているんだな」

「意外とって何よ!」

 やり返しだと舌を出してアクセスはフィンと痴話喧嘩をしている。うん、やはりこの二人も昔と変わらないんだよな。

 二人とも、ちゃんと友達の事を気にしていたんだなって、少しだけ感慨深かった。

 僕のプレゼントはというと、リストバンドだ。前世のミリも付けていたものと同じで黒いリストバンドだ。

「食べ物とか、邪魔になるものは嫌だったから、僕は身に着けて欲しいと思ったからリストバンドを買ったよ」

「みんなも考えることは同じだったね」

 三人のミリへのプレゼントを見たフィンもアクセスもどうやら同じ意見のようだった。

「だな」

「うん」

 あとはミリが来るだけか。今の時刻は夜の六時か。あと一時間もあるししばらくどうしようか。

「あれ? フィンは何を作っているの~」

「あ、ちょっとキーア!」

 ひょっこりと現れたキーアはフィンが作っていた料理をほんの少しつまみ食いをしていた。

 本当は今日の料理番は僕だったけれど、今朝の突発的なお別れ会の発案によって当番は明日に引き伸ばされた。

 アクセスも僕と同じようにちらりと時計を確認するとため息を吐く。

「む、アインちょっと外に行かないか? どうせ待っているだけだし」

「うん、賛成」

 女には女の世界があるように、男には男の世界があるので家は二人に任せて僕らは外に出た。

 家の飾りつけも終わったので一仕事を終えたことで体を伸ばす。

「なあ、アイン?」

「うん、なに?」

「あのよぉ、お前はどうするよ?」

 僕はということは、アクセスもまだ考え中ということなのだろう。きっとアクセスも昨日の僕と同じで自問自答をしていたのかもしれない。

 ミリが僕らから離れていってしまうことに一日中悩んでいたのだろう。そのおかげで今日のアクセスは授業中ずっと居眠りをしていたからだ。

「わかんないよ。今のところはだけど」

「そうか、そうだよな」

 仲間がいたから安心したのだろうか。ミリは一足先に自立をしたことでアクセスも急いでいるのかもしれない。

 だが、人は人だ、相談は出来てもその人のレールを崩せはしない。

「決めたよ、ミリが王宮に行って強くなるのなら、俺も王宮に行く」

「えっ!?」

「と言っても、二度目の御触れが来てからだぞ? 多分今の俺では王宮には通用しないからな」

「そっか、うん。目的を持つのは良い事だと思うよ?」

「アインはどうするんだよ?」

「僕は………」

 その時だった。

「どうした二人して、外に追い出されたのか?」

 ミリが姿を現す。時刻は集まる時刻より三十分早く、内装は出来てはいるものの料理の方はまだ万全ではない。

 それに、まだお姉ちゃんが帰ってきていない。

「いや、まだ料理が出来ていないんだとさ。あの調子だと多分集合時刻が頃合いってところだぜ?」

「ふ~ん? それで、アルマさんはいるか?」

「どうして?」

「いや、ちょっと相談をしたかったんだけど………」

 相談という言葉に少しだけ僕の中で何かが引っかかった。

なんだろう? お姉ちゃんの事を取られるという独占欲からくるものなのか、それともミリが僕の事を見ていないという焦燥感からくるものなのか。

すごくもやもやする。

「私が何?」

 学校から帰ってきたお姉ちゃんはいつものように服装がだらしない。この姿からはどこも竜騎士の総長だったという事が想像できない。

「あぁ、アルマさん。丁度良かった。俺と付き合ってよ?」

「えっ!?」

 お姉ちゃんより僕が突然の告白に驚いてしまって変な声を上げてしまった。

「どうしたアイン?」

「いや、あの、その………」

 僕の反応を見ていたお姉ちゃんはぽんっと手を打つ。

「違うわよアイン。付き合うってそういう意味じゃないわよ?」

「へっ?」

「一体アルマさんも何を………ふぐっ!!?」

 自分の言ったことを思い返したのだろう。途端に顔を赤らめてむせていた。

「あら、ミリ君も自分で言って気が付いていなかったの? 多分他の人から聞いたら告白に捉えられるわよ?」

「しまった、気なしだった。すんません」

「いいのよ、間違いは誰にだってあるし、それで何を付き合って欲しいの?」

「俺の腕を、貴方で試させてほしい」

「それはなんで?」

「俺の腕がどれほどのものなのかを知りたいがために」

 ミリの気迫はこちらにもひしひしと伝わってきていた。ちらりとアクセスの方を流し見るとどうやら僕と同じように感じ取っている。

 竜騎士の門というのは狭き門なのだろう、元総長だった人にどれだけ迫れるかを試したいということか。

「ふむ、意気込みは良し。ミリ君の実力なら数年すれば隊長クラスになれると思うんだけどなぁ?」

「隊長じゃあ駄目なんだよアルマさん。貴方や親父が見てきた世界一という光景を、俺は見たいんだ」

「それは、様々な物を踏みにじっても?」

 瞬間、お姉ちゃんの周りの空気が凍った。魔法的なものではなく、気迫というものだろうが、周りにいる僕らまで体を動かせないのなら、ミリもきっとお姉ちゃんの圧力を直に受けているだろう。

 初めて見るお姉ちゃんの鋭い目つきは、優しい雰囲気から一変し、あれは誰だと問いかけたくなるくらいの迫力。

 これが、総長の実力という物なのだろうか。

「ふぅ。良いでしょう。開始時刻まで時間もない事だし、ミリ君も長くなることを望んでいないもんね?」

「ああ、お願いします」

 背中に背負っていた一振りの槍。今まで護身用として使っていた槍なので穂先には刃物は付いておらず、たとえるならば三節棍の形状だ。

 対してお姉ちゃんは得物を持ち合わせていない。

「ミリ君は私に何を使って欲しい? 素手? 剣?」

「アルマさんは何が得意なんだよ?」

「私? 私は正直剣かな? 素手よりはマシな動きもできるし」

「それじゃあ、剣でお願いします。全力での貴方を望みたい」

「分かりました、それじゃあ」

 そういってお姉ちゃんが取りだしたのは木刀だ。外以外では刃物を振り回すのは危険なので、この村では刃物の扱いを禁止されている。

 なので、当たっても殺傷能力のない木製で武具は作られている。

 長さは臍まで位置するので両手剣のクラスだ。一振りで敵を蹂躙できる強さを持っているのだが、いかんせん剣に体を取られてしまうのだ。

 だが、僕たちは知っている。お姉ちゃんの主武装はこの両手剣であり、その両手剣を軽々と扱うことが出来る使い手だと。

「合図は頼んだぜアイン」

「うん」

 腰を屈めて合図を今かと待っているミリに対してお姉ちゃんは冷静に剣を腰の位置にとどめる。

「はじめっ!!」

 上げていた手を振り下ろしたのと同時にミリの前進が始まった。まるで暴風を巻き起こす嵐のように風を起こす。

 ミリの動きは最早人間技ではない。走ったというよりは低く跳んだと言った方が正しい。普通の人であれば慌てふためく場面ではあるが、ミリの相手はあの世界一の称号を与えられた人間だ。

 先手はミリ、助走を加えられた刺突は当たりさえすれば三節棍でも十分な殺傷能力を秘めていただろう。しかし、その刺突も当たりさえすればの話だ。

 紙一重で躱されたミリの攻撃を縫うようにアルマの剣がミリへと牙を立てる。

「いてっ!?」

 軽く小突かれたような痛みが九か所。一瞬の出来事でこの場にいた三人はアルマの力を思い知らされた。

 たった一度の攻防の中で見出されたその行為は三人の記憶に焼き付くことになる。

「ミリ君、痛い所があると思うんだけどね、勘の良い君なら分かったかもしれないけれど、九回死んだよ?」

「………上等だ」

 攻撃を与えるだけ与えてから逃げる戦法か。小賢しいようだが対人相手には一番有効な戦法かもしれない。

 本気を出しているかも分からないアルマの実力だが、ミリは九か所の痛みに笑みを浮かべる。

 アルマの攻撃を一回たりとも見ることが出来なかったミリが笑みを浮かべる理由とは、上を目指しているものにとって、自分より上を知らなければならない。

 元総長だったアルマを選んで正解だったとミリは再び三節棍を構える。

「うらああぁぁぁ!!」

 雄叫びを上げながらミリは三節棍を振り下ろした。遠心力を加えるように棍を回転させながらの攻撃は間違いなく怪我だけでは済まないレベルの一撃。

 アルマはミリの一撃を躱すことは出来たが、先生として、そしてこれから先の門出を思ってかミリの一撃をアルマは正面から受け止めた。

風圧で埃が舞い上がり、受けきったアルマの足元の地面は軽くひび割れている。

「すごい………」

 呟くようにアインは二人の攻防を見惚れていた。

 得物ありの戦い、槍術は刺突、振り下ろし、薙ぎ払いの基本的型があり、対して剣術は幅広く型がある。

 正直、どちらにも幅広い型から構えがあるのだろうが、ミリとアルマの極めた者の動きに、アインは見とれていた。

 万能型のアインには一つだけ特化した物が無い。どれも使えるがどれも究極ではない半端な奴だ。

 だからこそ、アインは見惚れているのだ。この村唯一の熟練者の動きに。

 嵐のような突きの繰り返し。当たれば勝てるのも夢ではないが、刺突の動作一つ一つをアルマは見きっていた。

 最小限の動きでミリの刺突を交わしながらアルマは近づくと、柄でミリの顎を打ち上げる。

「ぐっ!」

 前を向こうとした時にはもう遅い。アルマの蹴りが流れるようにミリの体を跳ね上げると、剣を自分の体の前に持ってくると、勢いよく蹴り上げた。

 動きに規則性が無く、自由奔放に動くアルマの太刀筋は読みにくい。型の通りに動く真面目な人かと思っていたのはアインだけではなかった。

 相対しているミリや、その動きを見ていたアクセスも感じていた。

 世界一だった人がこんな乱暴な太刀筋でいいのだろうか、もっと世界一には一級品の物が宿っているのではないのかと。

 ミリの着地と同時にアルマの剣が振り下ろされるが、ミリは三節棍を盾にして受け止めるもののその表情は苦痛を訴えていた。

「少しだけ、本気を出すよ?」

 ボソリと二人の間にしか聞こえない程度の小声で呟かれた直後、アルマは剣を放した。重いものが急激に軽いものへと変化したように力を入れていたミリの腕が剣を跳ね上げるが、剣を放したアルマの前では自分からがら空きの体に攻撃をしてくださいと言っているようなものだ。

 五指をミリの中心部に宛がいながら手首を捻じり込む技。大蛇の派生技からなる螺旋大蛇を叩き込まれたミリの体は空中を旋回しながら地に激突する寸前、意識を保ったミリは棍を杖に何とか着地する。

 パンパンと乾いた音を鳴らしながらアルマの掌打が小賢しくミリの急所を付いていく。一つ一つの攻撃は弱そうに見えるが、アインやアルマが使う武術は内側にダメージを与える術だ。的確にミリにはダメージが行き届いている。

 距離を取ろうと後方へ逃げるミリにアルマの指が宙を撫でる。

 透明な針のようなものが空中を浮かぶそれは氷で作られていた。

「はっ?」

 ミリが驚いている間にも氷の針はミリへと向かって飛んでくる。避けようにも足に来ていたミリは棍を体の前で回して防ぎきった。

「うん、良い躱し方だね」

 一瞬にして背後に回ったアルマの剣がミリの頭部を薙ぎ払う。アルマが呟いていなければ確実に頭部にダメージを追っていただろう。躱した直後の視界に自分の髪の毛が舞い散る。

「っく!!」

 防戦に回っていくミリの戦闘は、いつもの動きではない。ガンガン攻めるスタイルであるミリを圧倒的な強さでアルマは退けているのだ。

 実力の差を持っていないとここまで自分のスタイルを行使できないとなると、やはりアルマの実力は抜きん出ているのだろう。

 肩で息をしているミリに対してアルマは汗一つも掻いていない。ミリを見る視線はどことなく冷たさを感じさせる。

「そろそろ時間だし、終わろうか?」

「ま、待てよ。俺はまだ………」

「男の子の門出なんだから、ボロボロにはさせられないよ。それに、ミリ君にはもっと強くなってほしいから」

 そういってアルマは剣を鞘に納めながらミリへとゆっくりと近づく。

 戦闘を放棄したようにも見えるが、それは違う。アルマの本来の剣術は居合切りに特化した戦闘だ。

 その早すぎる居合切りに、アルマが素通りをするだけで人が斬られていく。アルマが竜騎士の時代に恐れられた存在の理由がこの居合切りだ。

 異様な気配を察したミリは棍を構える。自分が今一番に出来る一撃を放つことだけを考えながら腰を屈め、アルマを見据える。

 ゆっくりと歩を進めるアルマにミリは突進する形で向かった。二人に時間軸がずれているように見えた二人は、この一瞬で勝負が決まることに息をのむ。

 初めて、自分の力が限界を超えた実感があった。何千何回と槍術の鍛錬をしてきた身ではあるものの、一撃必殺が自分の腕に感触として残ったのは数える程度しかない。

 この瞬間は絶対に防ぎきることは出来ないと思えるほどに魂が乗った一撃の筈だった。

 涼やかな顔でアルマの居合切りによって得物である三節棍は三つに切り分けられた。しかし、ミリの全身全霊が籠った一撃を受けたアルマの剣も三回切り伏せた瞬間に砕け散った。

「あらら、壊れちゃったね」

 折れた剣を眺めながら鞘に納めて座っていたミリに手を伸ばして立ち上がらせる。

「ははっ。完敗かよ」

「悔しい?」

「いや、悔しいっていうよりは、吹っ切れましたよ。まだまだやりがいがある世界なんだなってことに」

「うん、腐っていないのならそれでよし」

 ぽんぽんとミリの頭を撫でる。

「みんな、いつの間にか大きくなったなぁ」

 お姉ちゃんは僕ら三人を眺めて何かを思うように目を細める。

「最初は悪ガキだったのに、大人になったんだね。嬉しいようで寂しいな」

「アルマさん………」

 折れた棍を見やり、にっこりと笑うと物置から一本の長物を持ってくる。

物置にはあまり入ったことは無かったから、あれがあるのは知らなかったけれど、一体なんだろう?

「成人祝いだよミリ君。村を出る時には渡してあげようって思っていたから、プレゼントだよ」

 お姉ちゃんから渡された物は封をされていたのでミリはそれを解いた。封を解かれた長物の正体は一本の槍だった。

 ミリが持っていた自前の槍なんか比べ物にならないくらいの業物だと一目でわかる。

「これ、どうしたの?」

「あぁ、うん。総長をやっていた時に鍛冶屋に頼んだのよ。みんなが成人として村を出る時に渡してあげようって思ってね」

「え!? マジっすかアルマさん」

「でも私に認められないと駄目だけどね」

「なんだぁ………」

 がっくりと肩を落とすアクセスにお姉ちゃんは笑う。

「これ………なんだろう。すごく懐かしい感じがする」

「う~ん、ミリ君がどうしてそう感じているのかは知らないけれど、鍛冶職人さんはね武器に名前を付ける変わった人だったんだけど、その槍の名前はラールって言うんだって」

「ラールか………なんだか懐かしい響きだ」

「大事にしてね?」

「うん、絶対に大事にするよアルマさん」

 槍を握るミリの表情は、まるで長年一緒に共にしてきた相棒を見るような目でラールを見ていた。

「ちょっと!! 時間が来たんだから入ってきなさいよぉ! 冷めちゃうじゃない!!」

 キーアとフィンの二人が良い具合に扉を開けて出てきたので、全員揃った事だし、ミリのお別れ会を始めることにしましょうか。



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