~夢の中の自分~
その日の夜。また同じ夢を見た。
僕と同じ顔で僕と同じ服装の自分。だけど、同じ自分なのにその人の人生はとてもではないけど幸福と呼べるものではなかった。
人として扱ってもらうことが出来なかった日々。毎日大人達や子供たちの嫌がらせは目を背けたくなるほど。
とある日をきっかけに夢の自分は世界を回り、そしてお姉ちゃんと同じ顔をした人を追いかけた。
夢に出てくる人物は僕の周りにいる人たちと同じ顔と名前をしていたのでどことなく気持ち悪さを感じたけれど、これがいわゆる前世の記憶というものなのだろうか?
ミリも、アクセスも、フィンも、僕の我が儘で命を落としたのだろう。姉であるアルマを助けたいという自分の我が儘を承諾して。
前世の僕はこんなにも大変な目に合っているのに、どうしてこんなにも頑張ってきたのだろう。犯されて、裏切られて、傷ついて、それでも彼女を追いかけた果てに得たお姉ちゃんの答えに満足するようにその命を燃やした。
もし、会えるのならば、僕は前世の自分に問いかけてみたい。その人生は、幸福であったのかと、満足できるものだったのかと。
僕が同じことになれば、きっと逃げだしてしまいそうな悲惨な人生なのに、前世の自分はどこか楽しそうで、そしてやっぱり悲しそうだった。
ねえ、僕。貴方の人生は―――。
「………ん」
起きても周りは暗い。壁に張り付いた時計を確認するとまだ眠った時間よりも三時間しか経過していなかった。
寝苦しい夜では無かったのだが、やはり夢のせいでもあるのか。目が冴えてしまっては、もう一度眠ろうとしてもその場で二時間くらい横にならないといけないので、散歩に行ってしまおう。
時期は秋に入りたてなので外は寒い。お姉ちゃんが竜騎士の時に使っていたマントを羽織って外に出た。
月の光が明るくて明かりには困らない。そもそもこの村自体もそこそこな田舎なので月が出ていなくても星空だけで夜道を歩けるぐらいは出来る。
家の明かりも当たり前だが付いていない。静かな夜は好きだ。昼夜問わず静かな方が僕はいい。
喧騒とした学校に行くのも実の所苦手ではある。それを補っているのが友達であるあの三人のおかげなのだが。
「そっか………ミリ、明日でお別れなんだよなぁ」
夜空を見つめてミリを思い出す。友達の中でも一番一緒にいたような気がするほどの腐れ縁とも呼べる人。
そういえば、前世の僕もミリとは仲が良かった気がする。竜人だった僕の存在に一番に気が付いて、そして良きライバルとなった好手。
今の僕たちと同じ関係は前世の時から変わらないのは、なんとなく嬉しかった。
「夜空を見上げてため息だなんて、まるで恋煩いをしている女の子みたいだぞ~お兄ちゃん」
「うわっ、キーア!?」
横合いから急に話しかけられたのでオーバー気味なリアクションになってしまった。
キーアは僕の隣に座ってこちらを見つめる。
「どうしたの?」
「別に~? なんか、お兄ちゃんが凄く悩んでいるような気がしてね」
「ていうか、なんでここに………」
「それは、夜中にごそごそと蠢く気配がしたら起きますわ」
「それはごめん」
「別に良いのよ。それより、お兄ちゃんなんの悩みだったの? やっぱりミリのこと?」
「そうだね、ずっと一緒だった友達が欠けるのはやっぱり寂しいから」
「止めないの?」
「止める気はないよ。きっとミリも止めてほしくないと思っているだろうし」
「ふ~ん? やっぱり二人は昔から変わらないね。どこかで信頼しあっていて、お互いに踏み込もうとしない所」
「そんな感じだった?」
「いいえ、私が言っているのは前世の二人の話」
「えっ?」
キーアの言葉にドキリとした。前世の事を知っているのかという疑問。確かに夢の中でもキーアは出てきてはいるが、僕の疑問に答えられるのだろうか。キーアはいつも冗談ばかり言うのに、今の冗談は真実を語っているようにも思える。それともいつものように嘘を言っているのだろうか。
「やっぱり、お兄ちゃんは覚えていないのね。前世のころの記憶を」
「いや、待ってよキーア。前世って、僕の夢の事を知っているの?」
夢という単語にキーアは驚いたような表情を浮かべると、にんまりと笑顔を浮かべた。
「そっか、夢で見ているのか。うふふ、お兄ちゃんも人が悪いなぁ」
「キーア? 一体何を言っているの?」
「アイン、覚えていないの? 私の正体を」
「キーアの正体? 何を言っているんだよ。キーアは僕らの妹だって………」
断片的な夢の欠片の映像を思い出す。そこにある前世のキーアは竜人という五人しかいない人物だ。
目の前にいるキーアとは似てはいるが、決定的に欠けているものが一つある。それは耳だ。
襟巻のような耳を前世の記憶では髪の横から出ているが、目の前にいるキーアにはそれが無い。
ふと、キーアの最後を思い出した。前世の僕を庇って死んだ時のこと、消え行くだけの存在となっていく時、キーアは次の命になるということを言っていた。
「うぅぅ」
頭に電流が走るような痛み、奥から眼球を針で刺されているような感覚に僕はその場に突っ伏してしまう。
「むう、やっぱりまだ教えるのは早かったかしら?」
「キー………ア?」
「自分がまだ人間だって思っているの? 違うわよ、アインは私たちと同じ竜人で、アルマも人間ではなく人竜という存在だったのよ? アルマが魔法を使えるのはそれの名残だけど、お母さんが竜人という因果は覆すことのできない事実なの。だから貴方は半竜人という立場上魔法が使えるのよ」
意識が消えていく、痛みに耐えかねて体が強制的に眠りに付かせようとしているのだろうか。
それでも、キーアの話している言葉を聞き届けないといけないのに、僕は眠りに付いてしまった。




