~授業~
家の庭でお姉ちゃんと体を見合わせるように座る。
夜の日課である個人授業のようなもので、僕はお姉ちゃんから魔法の理論を教えてもらっている。
背筋を伸ばして集中。体に巡る魔力の神経を動かして両手に物体を顕現させるようなイメージ。
両手に収まる程度の長い棒が出来上がると、お姉ちゃんはそれを持とうとするが静電気が起きる様にバチっという音に瞬間的に手を引っ込める。
「うーん、やっぱりそれはアインだけが使える特殊魔法の用ね。魔力を物質として顕現させる魔法かしら?」
「でも性質は雷だよね?」
「そうなのよね、魔法が使える個人の性質は一つだけと言われているわ」
「じゃあ、一体どういう理屈があるんだろう」
「こればっかりは私も分からないからなぁ。魔法は専門じゃないし」
「でも、お姉ちゃんも魔法が使えるよね?」
「そうね、私は氷の魔法」
手のひらに氷の結晶が作られると、お姉ちゃんはそれを握りつぶして粉々にする。
「魔法ってさ、なんで他の人は使えないの?」
「それは………」
お姉ちゃんに質問すると答えを濁す。専門外といっているのでやはり説明するのも簡単ではないのだろう。
「それは魔法を使える程の要領に達していないからよ人間はね」
「あれ、キーア」
先に風呂に入ってもらっていたためか、出てきたばかりの体からは湯気が立ち上っている。
「どういう意味なのそれ」
お姉ちゃんがキーアに問いかける。魔法を知らないお姉ちゃんは知っているようなそぶりを見せるキーアの話に興味津々だ。
「いい? この世界には魔法と魔術というものが存在しているの。とある国は魔術が主流となって神秘を行うのだけど、それは個人としての魔力が存在しないから空気中に漂う魔素を魔力として変換して魔術を使役する。
対して二人が使うことができる魔法というものは魔素を必要としなくても、自分の魔力で使役することが出来る方法なの」
「それはすごいことなの?」
僕の問いかけにキーアはキョトンとした表情で僕を見つめると、にんまりと笑顔を浮かべたのだが、なんだか意地の悪い笑顔だ。
「個人だけで魔力を生成できる生物は世界に五人しかいない竜人と貴方たち二人だけのようなものよ」
「そ、それはすごいね。七人しかいないのか」
「そういうこと、だから、魔法が使えることはあまり人に教えてはいけないわ」
「なるほど。個人だけで魔力を生成できるのなら、それはもう人ではないから。ということなのかしら?」
「アルマ正解」
パチパチとキーアは拍手をするがその答えは僕たちにとっては喜ばしいものではなかった。なぜなら、自分たちで他の人とは違う化け物と同じ存在だったから。
体内で魔力を作ることが出来るということは、呼吸をするだけで魔力を作ることが出来るという原理に近い。
普通の人間は、物や生物を触媒にして魔法を使えるというのに、僕らはその工程を全て無視しているということと同じだ。
「まあ、お兄ちゃんは属性を二つ持っていたからその名残でしょ。だから魔法が二つ持っているからってあまり気にしなくていいよ」
と言われてもおいそれと納得することは僕には出来ない。
「そうね、魔法に関しては私も諦めるわ。よくわからないし」
「え、ちょっとお姉ちゃん?」
まさかお姉ちゃんもキーアの答えに便乗して諦めるのは珍しかった。気にしなくても良いと言われて納得の行かなかった僕は、きっとお姉ちゃんも同じ反応を取るだろうと思っていたことに対して、逆の反応をされたのはびっくりだった。
「時には諦めることも肝心よアイン。駄目な物だと思ったり、どうしようもないものだったりする時は諦めることが必要なの」
「うーむ、まあ、分かったことにするよ」
「うん、それでよし」
頭を撫でてくるお姉ちゃんの手のひらは冷たい。氷の魔法を持っているからという理由もあるかもしれないけれど、お姉ちゃんは体温が低い。
でも、気持ちが暖かくなるのは昔からずっとこうして欲しかったという願望もあったかもしれない。そこで僕は自分の思っていることの矛盾が引っかかった。
ずっとこうしてほしかったったという感情がどうして湧き上がるのだろうか。
そして、お姉ちゃんの笑顔が本当に心から笑ってくれていることに胸がいっぱいになっているのは何故なんだろう?




