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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
最終章~巡る運命~
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~輪廻の果て~

 強い風音が耳に入りゆっくりと目を開ける。さらわれる様に空を泳いでいる雲の動きは速くて、なんだか落ち着きのないようにも見える。

 長い、とても長い夢を見ていた気がする。それでいてとても悲しくて、すごく心が痛む夢だ。

「お~いアイン!! 休み時間は終わりだぞ」

「あ、うん。ありがとうミリ」

 起き上って背中の埃を払い落してミリに付いていく。

 この村は王都より南東に位置し、名前はアーク村という。人里離れた村なので人口は割と少ない。ただ、大人が王都へ出稼ぎに出ていることもあるせいで大人の数よりも子供の数の方が割合的には多かったりする。

 僕たちはこの村に唯一存在する学校に通っていて、自立できる年齢になるまで世間の常識や、身の守り方などの護身術を習っている。

 急いで席に戻ると前の席にいたフィンが話しかけてくる。

「遅いじゃないの、どこ行っていたのよ?」

「それがさ、こいつ外で寝ていたんだよ」

「少ししかない休み時間を一人で使うなんて、まったくもう」

「まあ、別にいいだろうが」

 隣にいたアクセスも輪に入る。

 僕たち四人は年齢も同じで気が合う中だ。三人の両親も王都へと働いている。ミリの親父さんは王宮の竜騎士を束ねる総長という地位についていた人だったけれど殉職しているが、ミリ自身は特に気にしている素振りを見せていない。

 そう思うとミリは強い子だと思う、両親もいない中で一人暮らしをしている訳なので、僕たち四人の中では一番大人だ。

 アクセスとフィンは親同士の仲が良かったのもあり、ルームシェアをしあっている中でもあるが、ふと思うのがそこは大丈夫なのだろうかという点だ。

 一応、男女という点で心配はしているのだが、まあこの二人も仲が良いので早く付き合ってしまえという願いもある。それはミリも同じ考えの用で、フィンとアクセスが喧嘩している光景を見ると、僕らはお互いに目を合わせてにやける程だ。

 教室のドアが開くとゆっくりと入ってくる人物にざわついていた教室が静かになって号令の指示に従って全員が起立し着席をする。

 多くの教材を教壇に置いて先生は授業を始める。

 この辺鄙の村に一人しかいない教師は僕の自慢のお姉ちゃんだ。村の大人たちに色々と厄介ごとを押し付けられたと初めは思っていたけれど、お姉ちゃん自体はこういうことには慣れていると村長とも話を付けている。

 その昔、最年少で王宮の竜騎士総長に就任して最前線を任されていたのだが、何か理由があって二年という歳月で総長を辞任した。

 そして、この生まれた地であるアーク村に帰ってきたのだ。

 知的なメガネを掛けているものの、位置がしっかりと定まっていない。どことなくだらしなさを思える服装でいるものだから、なんだか勿体ない。

 後ろのミリが背中を軽く叩いてきたので、黒板に注意しながら椅子を後ろにずらす。

「なあ、お前の姉ちゃんって、いつもああなの?」

「うん、いつもあんな感じだよ?」

「いやあ、勿体ななさすぎるぞ? 絶対勿体ないって」

 ミリに言われなくても僕自身が一番分かっている。顔だって美人なのになんでああいう格好になるのかが良く分からない。

 そのことを一度だけ言ったこともあるが、お姉ちゃん自身があまり服装にはこだわりを持っている人ではなく、着用できるものなら男物でもなんでもいいというくらいだ。

「あれだろ? 男避けとしてあの恰好じゃないのか?」

「あ~、かもしれんな」

 二人は納得しているのだが、こちらを笑顔で凝視しているお姉ちゃんの顔がすごく怖い。こういう授業を聞いていない子供たちには厳しく指導をするというのがお姉ちゃんの指導の仕方である。

 お姉ちゃん曰く、「痛みを知らないから人間の心が腐っていくのよ」とのことだ。

 三本のチョークが手のひらに収まっていて、不意打ち張りに三連の白い投擲物としてこちらに跳んでくる。

 だが、常習犯である僕たちには日常茶飯事なのでこのチョーク指導も簡単に対抗することが出来る。

 よそ見をしていても二人はチョークを受け止めてしてやった顔でお姉ちゃんを見ると。

「三人とも、今すぐ廊下に立っていなさい」

 邪悪な笑みを浮かべた直後に放たれたレーザー級の速さで放たれたチョークはもはや凶器に変わる。

 廊下へと吹っ飛ばされた僕らはあえなく立たされることになった。

 最後の授業は全員で護身術を習う授業だ。授業が終わればそのまま下校という素晴らしいシステムなのだ。

 全員が動きやすい服装に着替えて準備運動をする。

「やっぱりお前は素手なのかアクセス」

「ん~? そりゃあ、他の武器が俺に合わなかったってだけだしな」

「それだと、間合いに詰めるまでが大変じゃないの?」

「いや、基本的にはみんな間合いまで詰めないと攻撃が出来ないけれど、確かに素手の場合だと、獲物を持っている人達よりは二倍くらい近くないといけないしね」

 素手という武器に対して、いつも同じ会議をする。それほどアクセスが選んだ素手は護身術には不向きだ。

 だが、デメリットが多い分、メリットもある。剣や槍を使うフィンやミリと違い、武器いらずというのが一番の大きい点だ。

 毎日所持するわけにもいかない武器とは違って、その手が武器そのものだから、護身術として覚えるには一番適しているかもしれない。

「は~い、それじゃあみんな集まって」

 僕たちより小さい子は号令に素直に従って足元に座る。年長組の僕らも指示に従って座る。

 今回の授業は組手だ。年少組は型に反った動きをお姉ちゃんが直々に教えてもらう。僕たちも二年前は同じことをしていたが、何回も授業をしていると色々と違う内容になる。

 僕たちはペアを作って十分ごとに組手を交わすという授業なのだが、僕ら以外の子供たちは少しだけ嫌な顔をする。勝てないことを分かっているからだろう。

 でも、僕としてはその思考はおかしい。自分の身を守るための護身術だというのに、嫌な顔をする連中はきっと、いじめるために使いたいという連中ばかりだからだろう。

「先生ぇ~この授業に何の意味があるんですか~?」

「うん、良い質問ねワルイ君。そうね、敵から自分を守るための授業なの」

「でもさぁ、敵なんてどこにもいないじゃん。今なんて平和そのものだからさ、特に意味とかなくない?」

 ワルイの取り巻きがうんうんと頷く。

 毎度のことながら、この三人組は面倒くさい。お姉ちゃんの言っていることは正しいのに、なぜ反論しようとするのだろうか。

「またあいつらだぜ? 面倒だよな」

「馬鹿はほっとけ」

 ミリたちもワルイにはうんざりしているようだった。当たり前か、僕らはお姉ちゃんの信者と言っても過言ではない程に敬っている。

 特にフィンなんて重度だ。きっとミリも元総長だということを知っているから尊敬しているのだろう。

 アクセスは素手での相手をしてくれるのがお姉ちゃんだけだから、そのことを踏まえると全員が尊敬している。

「そんなことはないよ? 今だってどこかで戦いが起こっていて、人が死んでいる瞬間だってある。それが想像できないのなら、そうね、例えば外から来た人間がいて、実はその人は全世界から指名手配をされている人間だとしましょう。

 ワルイ君がその指名手配犯を前にして、無事に逃げられることが出来る術を教える時間なの」

「だから、言っているじゃん! 今は平和なんだって」

 ワルイはそれでも納得の行かない様子だというよりは、ただの構って欲しいだけの子供に見える。

「そろそろウザいな?」

「私、あいつボコボコにしていい?」

「やめとけ、時間の無駄だ」

 鼻で笑うミリたちに矛先が向けられそうな勢いでミリとアクセスは露骨に聞こえる音で舌打ちをする。

「おい、今舌打ちしたの誰だよ?」

 舌打ちに反応したワルイはあたりを見渡すより、最初からこちらを見ているのがどうも面倒だ。フィンの言った通り、アイツをボコボコにしてやろうか迷う。

「こら、喧嘩は駄目よ。それよりもワルイ君」

 お姉ちゃんはワルイへと近づいて肩へと軽く手を置いてワルイと同じ目線になるまでしゃがむ。

 ここからでは二人の間にしか聞こえない程の小声でしか喋っていなかったので何を言ったのかは分からなかったけれど、その何かを言われたワルイはお姉ちゃんを見ながら顔を青ざめて具合が悪そうになりながら、その場にへたり込んでしまった。

 初めはフィンとパートナーとなり組手を交わす。

「一体、なにを言ったんだろうね、アルマさん」

「さあ? 今日帰ったら聞いてみようか?」

 伸びてくるフィンの手を払いのけながら自分の腕を伸ばして襟をつかもうとする。

「いや、いいわよ。特に気になる内容じゃないし。それよりも私は青ざめたアイツの顔を見て内心すっきりしているしね」

「あはは、フィンも良い趣味しているよね」

「どういう意味よ!」

 襟を掴もうとしていた腕を取られ、自分の腕を支点にさせて腕を捻らせるが、フィンの手首を取り逆手に曲げようとするとフィンの顔が痛みを訴えるように表情を曇らせる。

 解放したところで体の力が緩んだフィンを投げ飛ばす。

「きゃっ!?」

「っと」

 力を弱めて宙に投げ出されたフィンの体を自動的に立てるように投げ飛ばすと、着地したフィンは呆けた顔で僕を見てきた。

 顔を赤らめて、いかにも恥を掻かされたと言いたいような顔でわなわなと肩を震わせていた。

「あ、ごめん」

「別に良いよ!!」

 気にしているなあれは………う~む、女の子の気持ちは意外と難しい。

「俺たちは寸止めで殴り合おうぜアイン」

「オッケー」

 次の相手はアクセスだ。同じ素手を使う者としては嬉しい相手なのだろうが、同じ素手と言っても僕の使うのは素手のようで素手ではない。

 僕だって得物を使うし、素手も使う。要は万能と言った方が良いのだろうか? と言ってもミリやフィンみたいにそれ一つを極めようとしている訳ではないので使ったとしても二人のような動きにならない。

 アクセスも同じだ、アクセスの素手は打撃系だ。王都には拳闘士といわれる者たちがいるが、アクセスのタイプは拳闘士と同じだが、変わって僕の場合はその逆に近い。

 拳闘の反対が武闘と呼ばれるタイプ。この流派は意外と少なく絶滅に近いものだ。

 その昔、まだこの世界に竜がいた時、武神と呼ばれた人間が竜を素手で倒したという逸話があり、その武神が使っていた術が、武術と言われるものだ。

 アクセスが使うのは拳術と言われる類である。

「よいしょっと!」

「ほっ!」

 寸止めと言っていた本人が振り切ってくるのは些か問題だと思うが、それもいつも通りのアクセスだ。約束を自分で言っておいて直ぐ忘れてしまうやつだからしょうがないか。

「あ、悪い」

「いや、別にいいよ」

「ほぐっ!?」

 アクセスの専門域でやってみたのだが、意外と面白いかもしれない。受け止めたパンチを合わせるように顎を打ち上げると、アクセスの体がフラフラとおぼつかない足取りになる。

「いてえな!」

「最初に殴ってきたのはアクセスでしょ!?」

 防戦一方と言いたいところなのだが、しまった、お姉ちゃんと夜の相手をしているおかげもあってか、アクセスの動きになれてしまっている自分がいる。

 つまり、動きが遅いということ。アクセスの拳に全てカウンターを放り込めてしまっている以上、少しだけアクセスが気の毒だ。

 十分の鐘が鳴り組手が終了する。お互いに挨拶を交わすとアクセスはその場に座り込んで悪態をつく。

「ずりいな、アインだけよ」

「そんなことないって、これからだよアクセスも」

「うわ、その上から目線、むかつくな」

「ご、ごめん………」

 謝る僕にアクセスはにっこりと笑いながら手をふる。

「いいって別に。目標は高い方がいいしな」

「うん、ありがと」

 アクセスの手を握って立ち上がらせると、間髪入れずにミリが隣に立っていた。

「それじゃあ、最後は俺だな」

「うん、よろしく」

 拳を合わせて挨拶をする。十分タイマーが鳴ると僕らの組手は殆ど組手といえない代物になった。

 両者譲らない陣取り、手を伸ばしても即座に払いのけられる。こうなることはいつも通りだ。素手同士だとどうしても自分が有利に収めたいために牽制手を放つのだが、両者の実力が拮抗していると長くなってしまう。十分という時間制限は僕らにとっては数秒単位で終わってしまいそうになるほど早く感じてしまい、時間以内には決着がつくかどうかだ。

「ふんっ!」

「むっ!」

 先手はミリ、指を束ねて槍のように突き出された攻撃を紙一重で躱すが、ここまで手を伸ばされたのは痛い。

 腕を引かず、襟元を掴んで離さないように拘束させると、間髪入れずに膝蹴りが飛んでくる。同じようにアインはガードをしながらミリの両腕を取る。

「へっ!」

 軽くミリは笑う。

「どうしたの?」

「いや、別に?」

 ミリはアインの拘束を外したが、それはアインの次に繰り出す為の技の一つだ。両腕を鳥のように大きく開き、アインの腕に沿うように腕を流される。がら空きとなった胴体にアインは踏み込みながら掌打を放つ。

「ぐっぷ!!」

 吹き飛んだミリは態勢を整えてアインへと跳躍する。対するアインは冷静に構えを取ってタイミングを計る。前に出された右腕は距離と突き出されるミリのパンチを計測しているのだ。

 ミリのパンチを払いのけ半歩踏み込み、掌底をミリの顔面に叩き込まれる瞬間にタイマーが鳴った。

 しかし、お互いに急激に止まることは出来ない。モーションに入ったアインの攻撃はミリに当たろうとしたとき、突如現れたアルマに攻撃を止められていた。

「はい、時間切れね?」

「うん、分かっているよ」

 ならばよろしいとお姉ちゃんはそう呟いて僕の手を放してくれる。

 流れとはいえ、渾身の一撃をミリに叩き込もうとしたのに簡単にとめられてしまった。やっぱりお姉ちゃんは凄いや。

「危なかったなミリ」

「いやあ、あれは負けたな。時間切れに救われたかな?」

「違うわよ。アルマさんに助けられているから」

 笑い声が飛び交う光景はワルイではないけれど確かに平和そのものだ。この時間がずっと続けばいいのになぁ。

「こらアイン! あんたまた変な顔をしているわよ?」

 フィンの両手が僕の顔を挟み込む。

「変な顔って、そんな変な顔でもしていたのかな?」

 フィンの言う変な顔って、今まさにこの状況じゃないのだろうか? ひょっとこの様に顔を潰されては変な顔をしているに違いないが、どうやらフィンの言う変な顔はこれではないらしい。

「なんか、こう………哀愁に漂っていた顔をしていた」

「はあ?」

「ああ、それは俺もたまに見るぞ?」

「同じく」

「そうなの?」

 三人が言うのだから間違いはないか。それにしても哀愁の漂う表情ってどういう感じなのだろうか。

 授業も終わって放課後になってからも僕たち四人は護身術をやっている。もはや護身術というよりかはただの戦闘術になっているのだが、ふと僕は疑問に思って腕を止めた。

「そういえば、なんでこんなことやっているんだっけ?」

「………確かにな。あれ? なんでだ?」

「他にこうするしかなかったからじゃないの?」

「いや、俺は違うぞ?」

 ミリの言葉に僕たちはミリへと視線を集中させる。

「俺は親父やアルマさんがいた竜騎士になることを決めている」

 初耳だった。それは他の二人も同じことで全員がミリの答えにポカンと口を開けていた。

「試験が来週って言っていたから明後日にはここを出るけどな」

「はぁ!!?」

 唐突過ぎる物言いに僕らの反応は三人とも同時だ。しかも明後日って急すぎる。

「急すぎない?」

「お前たちにとっては急な出来事かもしれないけどな。俺は最初から竜騎士になりたかった………て言えば嘘になるけど。やっぱり親父がいたその風景を見てみたいんだよ」

 親父、ミリのお父さんミド・アーランバさんはその昔、竜騎士三代目総長の座を担っていた。

 その四代目はお姉ちゃんであり、最年少の竜騎士総長という肩書を持っていた。

 ミリが言う風景とはきっと、世界で一番ということを指していると思う。

「そっか、それなら仕方がないよみんな」

「でもよアイン!?」

「その人の生き方は、その人が決めることなんだよ? 僕たちが口を挟むことは許されない」

 アクセスは苦虫を潰したような顔を浮かべるが納得したようだ。フィンは元よりそれと言って大事に捕えている様子ではなかった。

「ねえ、ミリ?」

「なんだよ?」

「また、会えるわよね? また、四人一緒に遊べるよね?」

「どうだろう、親父の事を考えるとあまり帰ってこなかった記憶しかないからな。正直分からないな」

「そっか」

 しゅんとフィンは意気消沈する。やっぱり、フィンも急なお別れに反応が追いついていないようだ。

「大丈夫さ、出発は明後日なんだし、明日までは遊べるぞ?」

「王宮まで行く用意は出来ているの?」

「いや、それは今日やるつもりだけど」

「旅をするならちゃんと荷物を持った方が良いよ? 迷子になったり、自炊とかしないといけなかったりするから」

 旅に出たことも無いのにどうしてこんなことが言えるのだろうか? 夢の影響だろうか、夢では何年も一人で旅をしてきたイメージがあるせいで、こんなことを口ばしるのか。

「アインは旅にでも出たことがあるのか?」

 的確な指示をだしたせいかミリも疑問に思って問いただしてくる。

「いや、旅はしたことはないけれど、でも、なんかそんな気はするだけ」

「ふ~ん? まあ、お前の言うことだ、嘘は言わないだろうさ」

 微笑を浮かべてミリは笑う。

 夕闇が迫ってくると、徐々に辺りは夜へと変貌していく。そろそろ家に帰る時間になったところで僕らの話もこれで終了し、全員家に帰るのだった。


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