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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
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~願望~

 海に入ったことは無かったけれど、光の届かない世界と言われる深海は、僕が見ている風景をありのままに表現すると、真っ暗な世界という表現しか思いつかない。

 上も、下も、左右を確認しても、手を伸ばしても何かが指に触れる訳でもない。

 ダバクの内部へと入り込んだ僕は、ダバクとアルマの繋がりを断ちにやってきた。ダバクはアルマを食ったと言っていた。

 それはつまり、肉体的ではなく、精神的という意味合いだ。

 この世界はダバクの精神世界であり、その内部に入り込むことが出来た今なら、きっとこの中にアルマがいるはずだ。

 泳ぐように前に進む。果てがないこの世界にたった一人のアルマを探すことが出来るのだろうか。途方もない時間がかかりそうだったが、まずは耳を澄ますことにした。

 ぐずつくような声、嗚咽混じりに泣いていたその声はアルマの物だ。

「お姉ちゃん?」

 暗い世界に僕の声が波のように広がっていく。

「………誰?」

 反応があった。

「僕だよ、アインだよ」

「アイン? なんで貴方がこんな所に?」

 反応があったことに僕は少しだけ息を吐き出す。声のする場所はそれほど遠くないと思ったので、アルマがいる場所を目指して進む。

「お姉ちゃん、僕ね、ずっと会いたかった」

「………うん。私も会いたかった」

「ちゃんと話したときって、レーゲンの時だけだったよね。初めて会ったあの場所を覚えている?」

「忘れる訳が無い、約束したものね。竜の謎を解こうっていう約束」

 アルマ声音が懐かしむような調子に戻る。ムシュフシュで戦闘した時の冷酷な声音とは違い、本当のアルマを聞いた気がした。

「聞いたよ、お姉ちゃんの体は、僕が生まれる前から寄生竜に取りつかれていたって。お姉ちゃん、ずっと辛かったんだよね」

 痛いのを堪え、苦しいのを堪え、死ぬことさえ堪えて、楽になれる方法なんて沢山あった中で、苦行の日々を選んだのは何故だったのか。

 僕はそれを今一度問いかけてみた。

「ずっと考えていたの、死にたいなって。ずっと考えていたの。体が痛くて、人間ではなくなって、化け物として生きている人生に何が私をこの世界と繋ぎ止めているのかなって」

「それで? 答えは何だったの?」

「うん、それはね。私には貴方がいるっていうことを思い出したからなの」

「僕?」

 アルマはクスリと笑う。

「たった一人の肉親。血は繋がってはいないけれど、私たちには姉弟の繋がりがある。お兄ちゃんやお姉ちゃんの子供として私たちは繋がっているの。

 覚えていないかもしれないけれど、私ね? アインが生まれた時に抱いたのよ?」

「そうなの?」

「それっきり、私は貴方を見ることが出来なくなったけれど、ふとしたきっかけで、アインは今どこで何をしているのかなって思ったの」

 アルマの声がどんどん近くなり、やがて一つの壁に行き着いた。

 心臓が脈打つように一定のリズムで鼓動を鳴らしているそれは巨大な肉の塊だ。その中心にはアルマが両手足を肉に埋もれており身動きが取れない状況だった。

「お姉ちゃん」

「久しぶりね、アイン。会いたかった」

 これがアルマを繋げているものなのか、何という禍々しさだろうか。

「お姉ちゃん、少しだけ待っていてね。僕がこれを引き剥がすから」

 片手に一振りの剣を作り出す。振りかぶって切りつけようとしたとき、アルマが静止の声を上げたのだ。

「なんで? これはお姉ちゃんを苦しめた奴なんだよ?」

「分かっているけれど、私は、もう何も望んでいない。きっと外は世界の終焉を迎えているのでしょう? なら、今更外に出てもなんの意味もないじゃない」

「駄目だよ、確かに外は終わりを迎えている。けれど、それじゃあ駄目なんだ。僕が自分自身に誓った目的を成し遂げるまでには」

「目的?」

「お姉ちゃんを助けることだよ」

 アルマが止める前にアインはアルマを覆っていた肉の壁を切り伏せた。解き放たれたアルマをそっと優しく抱きかかえてアインはアルマを見上げる。

「本当にお姉ちゃんには望みが無いの?」

 アインの言葉にアルマは目を伏し目がちにさせた。今まで望んできていたもの、それは沢山ありながらも、世界がそれを望むことを拒ませるような仕打ちに、いつしかアルマの心は願望という物を持とうとしなくなっていた。

 アルマは、アインの言葉に躊躇っていたのだ。

 本当に自分なんかが望んでもいいものなのだろうかと。

 その心配を他所に、アインはにっこりとアルマに手を差し延ばしているのだ。一途の光、目の前に吊るされた救命の紐のような笑顔に胸が痛む。

 今まで自分はどれほどの事をこの子にやってきたのだろう、私はどれほどの罪を犯してきたのだろう。

「でも、もう私は………」

「ていっ!」

「あいた!?」

 まだ何かに悩んでいたアルマに軽くアインは小突く。キョトンとした目でアインを見つめるアルマに軽くため息をつき呆れたように頭を振った。

「もう良いんだよ。もう終ったんだよ。お姉ちゃんがそんなに考える必要なんてない、なにも背負わなくてもいいんだよ。それとも、まだ何かあるの?」

「………本当に?」

 涙ぐむアルマの体を優しく抱きしめる。

「うん、お姉ちゃんは頑張ったよ。ちょっと頑張りすぎだったかもしれないけれどね」

 アルマはアインの体に縋りつくように抱きしめる。腕の中にいるのが誰なのかを再確認するように。

 目の前にいるのはずっと待っていた人間だ。お姉ちゃんから生まれた赤ん坊に口約束のようなもので自分に誓った約束。

 アインの事はお姉ちゃんとして守ってあげて欲しいと言われたあの日から、ずっと自分の中に染みついていた約束は、結局果たすことは出来なかった上に、今ではその立場は逆になっている。

 たくましく強くなったんだなぁと、アルマは感傷に浸るだけだ。

「ちょっと、時間切れかな。もう行かないと………」

「行くって、何処に?」

 体を離した時にその事態を飲み込んだ。アルマの両手には水に浸したようにアインの血が付いていたのだ。

「え………なにこれ?」

「あはは、お姉ちゃんに会いにここに来たんだけど、ちょっと無理しちゃってさ。多分僕の体はもう死んでいるんだ」

「嘘………」

 微笑を浮かべたアインが光を帯び始め足元から粒子に変わっていく。

「最後に聞かせてよ、お姉ちゃんの本当の望みを」

 頭まで光の粒子になってきているアインの耳に届くのだろうか、それでもアインはアルマの答えを欲している。

 何故なら、アインの今までの目的がアルマの一言で達成されたのか達成されないまま消えるのかのどちらかに転ぶからだ。

 それでも、アルマの答えを聞きたかったのだ。

「私は―――」

 アルマが望みを言ったのだろう、だがアインの耳に届く頃にはアルマの目の前からはアインの体は霧散して消えてしまっていた。



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