表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
81/99

~生き様~

「やっと行ったか」

 階段を昇っていく音にミリは一息つくように息を深く吐きだす。目の前にいる竜は下階層で戦った人竜など取るに足らない程の威圧感を醸し出しはじめた。

 臨戦態勢に入ったルナは、闘気というものを今まで隠していたのだろうか、ここに来て解放された闘気は圧倒的に桁がおかしい。

 そもそもなぜ竜が人間の言葉を喋ることが出来るのかという疑問が思い浮かんだが、今はよしとしよう。

「悪いなナーガ。お前のご主人様を一人にさせてしまって」

 ナーガは頭を振りながら口を開く。

「イイエ、イイのですよ」

「………は!?」

 ふり払った筈の疑問が再発する。考えないようにしていた筈の疑問を再びぶつけられては反応しないわけにはいかない。

「我々がなぜ喋ることが出来るのか、と聞きたそうだなアーランバの息子よ」

「いやいや、そりゃあそうでしょうよ。せっかく戦いムードになっていたのに、なんでこうぶち壊してくれるかな?」

「ミリさん。それは我々竜が最初からこの星の住人だったからです」

 徐々に悠長になっていくナーガの言語能力の発達する速さに頭を掻く。もしかするとラールも喋ることが出来るのだろうか?

「思念竜は人の思念を感じ取ることしかできない。我々の中では喋らない竜とも言われている。

 さて、アーランバの息子よ。お前が聞きたい疑問のなぜ喋ることが出来るか? という答えだが、始まりの樹に我々がいるからだ」

 大地が神によって生成され、一度目の混沌の竜がこの世に産み落とされたときの秩序改変された内容は言語だった。

 意思疎通ができるようになった世界は、まだ人も竜も同じ言葉で喋ることが出来たが、人間が共存を拒んだおかげで、竜との間に生まれた溝により言葉での会話をすることが出来なくなったのである。

 始まりの樹は元々混沌竜本体だ、不思議な力が働いていてもおかしくはない。そう考えたミリはルナの話を聞いていた。

「まぁ、いいよ。俺もお前も時間が無いのは同じだろう?」

 些細な疑問は解決し、ミリはルナを見据え、同じくルナもミリとナーガを睨む。

「なら、やろうぜ?」

 先手を取ったのはミリだ。ルナに向かって真っすぐに走り、槍の形状となったラールを構えて体を大きくうねらせる。

 真上から振り下ろされた槍は隕石が落下した地面のように床を抉る。寸でのところで躱されるもミリは槍の柄を長く持って横一文字に薙ぎ払った。

「っむ」

捕えたと確信を持っていたミリは今の一撃を躱されたことに軽く舌打ちをする。だが、まだ終わっていない。

 遠心力を使い、もう一度槍を叩き付ける。後ろに下がったルナを追いかけるように一歩ルナへと近づきながら槍を両手に持ち替えて高速に槍を突き放つ。

 腕が疲れるまで何度も突き続けて当たった回数がたったの三回。それも霞めた程度で竜の堅牢な鱗にはダメージが伝わっているとは考えにくい。

 距離を取ってミリは大きく息を吐き出す。

 普通の竜とは違うとは考えていたが、こうも性能が違うルナには驚かされるばかりだ。まだ先ほど戦った人竜の方が弱かったと思えるほどの強さに舌を巻く。

 人竜は人間が竜と合体したことで慢心していたが、この黒竜は違う。元々が竜であり、踏んできた場数はいずれも想像以上の物だろう。

 まるで人のように思考しながら動く黒竜は、やり辛さが増す一方でこちらの戦力はたったの二人。

 いや、大群がいたところでこの黒竜相手ではなんの意味も成さないだろう。

「どうしますか、ミリさん?」

 話しかけられたことで少しだけ驚くが、そういえばナーガもいたのだとミリは状況を整理する。

 二人いたとしてもこの竜を倒すことは叶うのだろうか? いや、何もできずにやられるは御免だ。

 お前ならどうするよ、アイン?

 アインの事を考えながらミリは今までの戦いを思い出す。これまで戦ってきた竜との戦い、何かヒントとなる弱点は無かったのかと考えた先に、一つの技を思い出す。

 アインが使う蛇竜拳。あれは竜にダメージを負わせるための拳法だということ。だがミリが扱える代物ではない。アクセスみたいに初めから素手という選択肢を選んでいれば違っていたのかもしれなかったが―――。

「いや、一つだけある」

 だがこの作戦がルナに効くのかどうかは定かではない。だが、やらなければ分からないのなら、やってからまた考えればいいだけだ。

「ナーガ、お前も手伝ってくれ」

「分かりました、なんなりと」

 内緒話をするように二人は作戦を伝達しルナを見据える。余裕があるのだろうか、それともなにも考えずに待ってくれているのだろうか、ルナは何も言わずにこちらを見ているだけだ。

 この瞬間でさえ、自分たちを殺すのは容易い筈だがそれをしようとしない。

「行くぞ!!」

 ミリがルナに向かってもう一度走り、ナーガは空中に跳びあがってルナへと急降下。弾丸のように体を丸くしてルナへと突進するナーガにルナは真っ向から受けた。

「ガルルルルルルッッ!!!」

 その威力はまるで大砲だった。名高い城壁をほんの一発で崩壊させてしまいそうな程の威力をもってしての強烈な一撃。地面が爆撃でも受けたように崩れるも、ナーガの渾身の一撃をルナは耐えていた。

 ルナがナーガと混戦している間にミリはルナの背後へと回り込み、ラールの形状を薙刀へと変えていた。

「おらぁ!!」

 掛け声とともに振り下ろされた薙刀が一線、ルナの太い尻尾を切り落とすことに成功した。叫び声をあげたルナはナーガを振り払い、翼を扇いで二人を退かせながら跳びあがる。

 尾を切られたことでルナの体力は一段と消耗したのか、表情は陰り苦しそうにも見える。ならば、今が好機であろうと、ミリはナーガの背中に乗り込むと、悟ったナーガは一直線にルナへと跳びあがった。

「考えは良いな、アーランバの息子よ。だが、まだ若い!!」

 同じようにルナも降下を開始、流線形に形を変え一つの巨大な杭のように鋭い。

「しまった! ナーガ!!」

 躱せと指示を出す前にはルナの巨体は目前へと迫っている。避けることが出来ないと思った瞬間にはラールが槍から形状を変えて巨大な盾を展開した。

 ラールの盾がルナの一撃を受ける、ルナの巨体が盾にめり込み、突き破れた盾からルナの角が躍り出てナーガの体を貫いた。

 苦しい筈だ、穴を開けられたことがあるミリにはその痛みがどれほどのものかを想像できる。だがナーガは叫び声を上げず、ルナの頭を抱えながら長い首へとその牙を立てた。

 呻き声を上げたルナは流線形だった体を元に戻し、爪をナーガの体に突き立てる。お互いに譲らない攻防に、ミリは冷静にルナの眼球をラールで貫いた。

「グラララララララララララララララララッッッッッッ!!!」

「いけ!! ラール!!」

 ミリの合図とともに槍の形状から液状化し、ルナの体内へともぐりこんだ。

 作戦通りにラールがルナの中に潜り込み、ミリはラールへと思念を送り込む。想像するのは無数の刃。池に漂う広がった花弁のように内側から食い破るような姿。

 念を感じ取ったラールの形状がルナの中で肥大していく。頑丈な外側とは違い、内側からの攻撃には滅法弱い。内側から切り裂かれていく痛みを耐えるも、外側まで飛び出してきたラールの刃に崩れ落ちた。

 巨大な体躯が床に落ちるだけでも地鳴りが凄い。

 ナーガの荒い息遣いに気が付いた時には遅く、宙を飛んでいた高度が下がってきていたと思うと、糸の切れた人形のように二人は床に叩き付けられた。

「………っぐ、痛っ」

 衝撃で体が悲鳴を上げていた。竜の攻撃によってやられるのは問題ないが、自分のミスで怪我をすると恰好が悪い。

 それも未熟故と嘆きながらも、ミリは反応が無いルナを見やる。

 やったのだろうか? 作戦が上手くいったから良かったもののあれだけ強かった黒龍が簡単に負けるような奴だったのだろうか?

 それでも反応が無いのなら、さっさと上に向かおう。

「ナーガ大丈夫か?」

「大丈夫と言いたいですけど、意外ときついですね、毒が回ってきました」

「毒?」

「はい、飛竜種の牙には元々、毒を生成することが出来るのです。噛めば毒を相手に送り込むことが出来るのですが、黒竜は我々とは逸脱しているので」

 竜でも効果は大きいということなのだろうか。

「よし、それじゃあアインに合流しないと―――」

 振り返った先からは俺の記憶は曖昧だった。気が付いた時には空を仰ぎ視界は真っ赤に染まっていたからだ。

 体を動かそうにも力が入らず、どうにか頭だけを動かして自分の状況を確認した。目に入ったのは下半身と左腕だった。

 足に力が入らなかったのも頷けた。切り離されているのだから無理もなかっただろう。

 見ると右腕だけが繋がっていたのは幸いなのか?

 耳元でナーガの声が聞こえる。

「ミリさん!!」

「お………おう、俺……どうなっているんだこれ?」

「すみません、黒竜の攻撃で………」

「む、そう………か」

 不思議と自分が死ぬことに未練は無かった。どうせこの場で死ぬということは感覚で悟っていたからだ。

 もう少し五体満足で死にたかったような気もするが。

「死んでたまるか………私はまだ………死ねない!! 私は!! 友に主を頼まれているのだ! このような所で死ぬわけにはいかない!!」

 呪詛のようにルナは言葉を吐き続ける。友とは誰なのかという疑問を持つのも許されなさそうだった。ズタズタの体を立ち上がらせて翼を羽ばたかせ上空へと行こうとした時だ。

「させない! ご主人様の邪魔を!!」

「この!! 死にぞこないが!」

「それはお互いさまでしょう! 我々の役目はもう終わった。我々の時代はもう終ったのだよ黒竜!」

 ナーガの爪と牙がルナの体に食らいつく。互いの咆哮が交差しながら二体の竜は部屋の外へと躍り出た。

「離せ! 私は! 私は!!」

「貴方の気持ちは痛いほどに分かりますよ。お互い良いご主人様に巡り合えたのですね。私だって本当は最後までご主人様の隣に居たかった。ですが、あの人の問題はあの人自身です。我々が立ち入ってはいけない問題です。それなら、信じるしかないでしょう?」

「ガルルルル!!」

 ナーガの体を振り落とすようにルナは爪を体に突き立てるが、ラールの攻撃によって疲弊しきっていたルナの体にはナーガの体に傷を付けることが出来なかった。

「帰りましょう? 本来のあるべき場所へ、ルーシア様の元へ」

 高度が下がるというよりは落ちているというべきだろうか、真っ暗な底へと落ちていくだけ、そこには地面という概念は無いが、ナーガは何かを知っているかのようにルナと世界の底へと消えていった。

「………ラール」

「クルル………」

 そこに居てくれたことに俺は安堵の息を吐く。死ぬときが一人の時は凄く寂しいと思ったからだ。兵士たちのように一瞬で死ぬことが出来たのなら、こんな気持ちなど湧かなかっただろう。

「今までありがとうな。色々な無茶や、お前を傷つけさせたことなんかいっぱいあっただろう?」

 ラールは子竜の形へと変わりミリの頬を舐めた。これが思念竜の本来の姿なのだろうか。ミリはラールの頭を撫でて上空を見上げ、アインへと言葉を投げた。

「悪いなアイン。俺もここまでだ」

 亀裂が走り、床が崩れ落ちていく。きっと他のみんなも、アクセスもフィンも経験したのだろう。地面が割れて空中に放り出される気分はどうしようもないほどの恐怖に満たされる。

 下を眺めても地面なんてものは存在せず、ただ落ちていくだけの空間。一人だけでなら恐ろしくて気が狂いそうな状況だったが、ラールがいてくれたおかげで恐怖は微塵にも感じられなかった。

 我慢していた睡魔にミリはすべてを委ね、ラールの体を抱きしめた。

「また………みんなに会えるだろうか?」

 問いかけられたのか、それともただ独り言を呟いたのかは分からない。だが、ラールはにっこりと笑顔を浮かべながら言葉を喋る。

「アエルヨ………きっと」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ