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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
79/99

~消滅~

「―――アクセス?」

「ん? どうした?」

「気のせいかな? アクセスの声が聞こえたんだけど………」

 二手に分かれたアイン達は上に行くと同じように広間へと到着する。しかし、そこで待っていたのは何体もの竜が上へと続く階段を守護していた。

 二人でその場にいた竜たちは全滅させて上へと向かっていたのだが、アインが気のせいと思ったその瞬間こそ、アクセス達がいた部屋が崩落したのと同じだった。

 だがその事実は誰も知らないだろう。

 上に進むにつれて周りが明るく照らされていく。出口が近いのだろうか? アイン達は始まりの樹の頂より手前の部屋にやってくると、洞窟のような暗がりから一変、外と同じような明るさでそこの室内は照らされていた。

 そこには二手に分かれた竜騎士が先に到着しており、全員が疲弊しきっている。アインは内心ほっと安堵感に見舞われたが、肝心の二人がいないことに気が付く。

「あれ? アクセス達は?」

「あ、あの二人は我々を先に上へと向かわせて、一階層下の部屋にて人竜と交戦している筈です」

「なに? 人竜だと!?」

 人竜という単語にミリがいきり立つように声を荒げた。

「竜の大群じゃなかったのか?」

 竜騎士の鎧を掴み上げながらミリは竜騎士に問いかける。

「いえ、こちらの方は人竜が待ち構えていましたが………」

「っくそ、こんなことになるなら、俺たちが向こうに行けばよかった」

 ミリは心底後悔するように奥歯を噛みしめる。

 人竜の力はあの竜人に対抗するために王宮が作り出した人工的な人間である。その強さは個体差によるものの一人で竜をもしのぐ強さだ。

 ミリが過ったのは、既に二人は死んでしまったのではないのかという予測だった。

 出切れば生きていてほしいという願いを持ちながら生き残った竜騎士達と一緒にアイン達は上へと進む。

 数は二十人もいない、少数精鋭と言っても竜を相手に戦える人間はアインとミリしか残っていない。他の竜騎士達は隊長クラスではなく、迷い込んだ子猫と同じ、ただの人間である。

 竜が現れれば真っ先に死ぬのはこの竜騎士達であり、アイン達も致命傷を食らえばただでは済まない。

 ミリは眉間に皺を寄せ、一言も話さないで上へと向かう。

 二人は死んでしまったのだろうかとアインも不安を隠しきれないでいたが、合流した竜騎士達を見てアインは気づいていたことがあった。

 竜騎士達が上ってきたはずの入口がどこにもなかったこと。それはつまり―――

「世界が崩壊しているわね」

「………えっ?」

 ふいにキーアが呟く。

「世界が崩壊しているのよ。貴方も気が付いたでしょ? 入口が塞がって、出口も塞がって、ただ上に行くことしかないこの異界と化した樹に」

 言われてみると合点がいく事がいくつかあった。一つ、入口が消えること、次に外の様子が分からないこと。それに、この樹自体がまだ生き続けているような感覚。

「混沌が目覚めたか、それとも………っと、無駄話は出来そうもないわね」

 キーアが前を見て何かに気が付いてナーガの足を止める。僕たちもキーアにつられるように足を止めて前を見ると、遠めだが確かに誰かがそこに立っていた。

 遠巻きからでも分かるその造形は異形そのものだ。

「あ………なんで?」

 アクセス達に付いていった竜騎士達全員が体を震わせて腰が抜けたように目の前で立っている敵を見る。

「なんでここにもいるんだよ!?」

 人竜はアイン達を眺めてなにやら品定めをするように見つめてくる。指を出して数えるようにアインとミリとキーアを指さしてニヤリと笑うと。

「三人か、楽しませてくれよ?」

 ぼそりと呟かれた言葉にアインとミリは体中に怖気が走った。

 陽炎のように人竜の姿は揺れた瞬間、気が付いた時にはアイン達が固まっていた陣営の中にその姿を現したと思いきや、周りにいた竜騎士達は尾の一薙ぎで瞬く間にその命を散らした。

 逃げ切った一人の竜騎士が標的とされ、人竜の鋭い爪が伸びた先にはアインがいち早く反応した。

 伸ばされた腕へと絡みくように人竜の腕を逸らしながらアインは体を宙に浮かせて膝蹴りを人竜の頭部へと叩き込む。よろめく人竜にミリが追いつくと、繰り出された槍が突き刺さった。

 舌打ちを軽く鳴らす人竜の頭部を、体ごと覆うようにアインの腕が人竜の首の骨を折りにかかるが、煩わしそうに嫌な顔をして人竜はアインを振りほどく。

「っち、こいつはまた………強いやつがいたものだな」

「そうだね、今ので行けなかったのはちょっとつらいかも」

 二人は深呼吸をしながら相手を見据える。

 今の攻防で二人も敵の強さを悟ったのだろう。今まで戦ってきた相手の誰よりも強いことを。

「ふふふ、なかなか楽しませてくれそうだなぁ。それよりも、そこの女は戦ってはくれないのか?」

 キーアに向かって話しかける人竜は饒舌で、未完成だった先ほどの人竜よりも幾分か完成に近い。

 片言を話すのではなく、意思疎通が出来る時点でこの人竜の性質はアルマに近いものだ。

「私? 私は戦わないわよ。貴方なんか、そこにいる二人で十分なんだから」

「ほう? ただの人間が人を超越したこの人竜に勝てるとでも思っているのか女? それとも戯言を吐くだけの余裕が貴様にはあるのか?」

「舐めないでくれる? 私が出張れば、貴方なんか塵一つ残さないの。ありがたいと思ってくれないかしら?」

 キーアの挑発が人竜のプライドに傷を付けたのか。みるみる人竜の表情が曇り始めると高笑いをあげる。

「そうか、ならば周りのガキ共を殺してから、ゆっくりと貴様をなぶり殺しにしてくれる!!」

「そう、なら早くした方が良いよ?」

 吠えた人竜の視界にはアインの繰り出された細剣が次々と人竜に向かって放たれていた。突き刺さっていく中にアインも人竜に向かって跳躍。怯んでいた人竜には気が付いた時には既にアインの繰り出される蹴りに頭を吹き飛ばされていた。

「僕は急いでいるから」

 壁に叩き付けられる人竜にアインは手を止めない。両手に細剣を持ち鉤爪のように振り回して確実に人竜の体にダメージを負わせ続ける。

 なにか焦っているようにアインはこの戦いを終わらせようとしていたのをミリは気が付く。

 アインが考えているのはアルマの事を思っての事なのだろうか、それなら勝負を急ぐのも分かるがミリが感じたのはこの人竜に対しての不安だった。

 この不安を感じているのはアインも同じだ。早いうちにこの人竜を倒さなければ後々が面倒なことになりそうだと感じたのだろう。

 大技で仕留めにかかるものの、人竜にダメージは確実に与えている筈なのに未だに倒れる気配が無いのだ。

雷光(ヴァルカ)!!」

 シュクラを退けた技を放ち一旦アインは後方へと下がる。アインは確かな手ごたえを感じていたが、それでも尚、目前にいる人竜を倒したのとは言い切れなかった。

「やったのか?」

 ミリがアインに問いかけるが、頭を横に振って否定する。

 ゆっくりと人竜は埋もれていた体を出し、何事もなかったかのようにその場に立つ。

 首に手を宛がって音を鳴らしている様子はさもアインの攻撃は一切効いている様子は見当たらない。アインの雷光が放たれた傷跡が痛々しく残っていてもニヤリと口角を吊り上げるだけだ。

「それでおしまいか?」

 平然を装っている人竜にアインは軽く舌打ちをする。今まで屠ってきた竜など話にならないほどの強さで今そこにいるからだ。

 時間が無いということに輪をかけて焦りを生じていたのかもしれない。

「馬鹿、一人でやろうとするんじゃねえよ。俺もいるだろうが?」

「ごめんミリ」

 アインの隣に立ちながらミリも人竜を凝視する。その威圧感を肌で感じながら自分との力量の差に冷や汗を流す。

「ちょっと、やばいかもしれない」

「それは本気で言っているのかよお前は」

 アインは肯定したいつもりなど毛頭なかった。だが、今の攻防からすべてを察したのだろう。こいつを倒すには時間が必要であり、どちらかが死んで勝てるか、それともどちらとも殺されて終わりの二択しかない。

 それほどまでにこの人竜は強いということだ。

「そうかよ………それじゃあ、俺も本気で行かないとな」

「人間風情がほざくな」

 一瞬で二人の背後に回り込むと鋭い突きを二人に放つ。アインは人竜の腕をぎりぎりまで引きつける。人竜の腕を右手で捻るように掴み、空いている左手を人竜の腕関節に掌打を叩き込ませて腕を圧し折り、ミリは寸での所で人竜の腕を交わし、苦し紛れに人竜の顔面を蹴り上げる。二人のタイミングは同時でありながらも、ミリは人竜の動きにまだ付いてこられていない。

「っぶね!? ラール!」

 腕に巻き付いていた手拭に擬態していたミリの相棒、ラールは思念竜と呼ばれる珍しい竜だ。本来の姿を誰も見たことが無いこの竜は、人の思念を察知し主の武器となる竜である。ミリが叫ぶとラールは一本の槍に擬態してミリの手に収まった。

「があああっっ!!」

 人竜は怒り狂うように咆哮を上げミリへと襲い掛かった。人竜に向かってミリは槍を突く。その速さは一瞬だけ、目で追うことが出来なくなるほどの速さだった。

 しかし、人竜は意に介さず避けるとミリの取った行動を嘲笑う。

「槍なんて懐に入ってしまえばただの荷物だろう!」

 だが、その嘲笑った人竜をさらに笑うようにミリの口元は歪になる。その時だ、避けたはずの槍から無数の枝分かれした槍が人竜の体を貫いたのだ。

 怯んだ人竜にミリは荷物と言ってくれたその口に目掛けて槍を薙ぎ払った。

「何が荷物になるって?」

 薙ぎ払われた槍の一撃は体を逸らされたことで交わされてしまったが、その隙をアインが見逃すはずが無かった。

 足に魔力を込め、バチバチと放電している中でアインの雷鳴の鉄槌が人竜の頭を捕える。叩き込まれた一撃は地面を砕くほどの威力で周りの木の根には亀裂が走っていた。

「はぁぁああああっっっ!!!」

 アインのとどめの一撃、人竜の胴体目掛けて放たれた大蛇に付加されたもう一つ、白雷は人竜の内部から剣山に突き刺さった生け花のように白刃が生える。

 ピクリと動かなくなった人竜に二人もようやくほっと安堵の息を漏らした。竜騎士達は全員が駄目になってしまったが、なんとか二人の内どちらも欠けることなくこの戦いが終わったのなら、少しだけでも休息を取りたかった。

「人竜がこんなにも強いとは思っていなかったよ。これじゃあ、アルマに勝てるのかな?」

「ぶっちゃけ、分からん。二人でやっとっていうレベルなら、多分無理だろ? こいつも元人間だろうけど、王宮のような格闘術を教えてもらっていた動きじゃなかっただけ、幸いだった」

 人竜は元人間が竜の肉を食らい、突然変異した姿がこの姿なのだ。しかも、この完成された人竜は、紛れ込んだごく普通の人間だったのだろう。

 王宮の人間は気本的には格闘術を習わされるのだが、この人竜の動きは素人の物に近かったのだ。

 その点、アルマは格闘術、剣術もトップクラスの化け物だ。人竜の力を有しているだけでも化け物ということを考えると、勝算は万分の一の確立に近かった。

「それじゃあ行こうか」

 キーアは待ちくたびれたように二人を上に向かう階段の前で立っていた。

「遅い、それじゃあ次の戦闘はどうするのよ?」

「ごめん、その時はその時だよ―――」

 全員が階段を上がろうとしたとき、その気配にいち早く気が付いたのはナーガだった。ナーガの巨体が三人を守ろうと前に躍り出るが、人竜が放った蹴りによって壁へ叩きつかれてしまった。

「ナ―――ガッッ!!?」

 とっさに防御したことで致命傷は避けられたもののアインの腹部には人竜の爪が突き立てられていた。

「くそ!!」

 槍を薙ぎ払うにもその距離が近すぎたためにコンマ何秒かの隙を人竜が割り込んだ。人竜の尾がミリとラールを壁へと叩き付けると、標的はアインへと変わった。

「ガルルラアアアアアアアアアア!! ただの人間がぁぁ!!」

 怒り狂う人竜には為す術もなくアインは滅多打ちにされた。叩き付けられ、骨は折られ、肉を抉られていく。

 人竜のプライドはアインに叩き壊されたことで怒り狂っているのだろう。人竜になったことで人間を超越した喜びを持ち、誰も自分を蔑まさない存在になったことを知らしめるために、人をやめて化け物となったのに、なぜ人間に邪魔されるのだろうかという考えに人竜の自我は崩壊した。

「シネエエエエエエエエエエエエエエエッッッッ!!!」

 笑うことも出来ないほどに頭蓋骨を粉砕されてもなお笑おうとする人竜の一撃をアインは避けることが出来なかった。

 ここで死ぬのだろうか、アルマも助けることも出来ずに僕はこんなところで死ぬのか。

 後悔をしてきた、いっぱい後悔をしてきた。それでも前に進めと、お姉ちゃんを助けてほしいと父に言われた約束も守れずに、こんな所で終わるのか。

 自分が死ぬ瞬間がゆっくりとなってくる。呆けるように見ているだけのアインの視界には人竜が笑っている光景。目を瞑って事実を受け入れてしまおうかと思ったその矢先だった。人竜の攻撃はアインの心臓を目掛けて突き立てられた爪は、突如阻まれた壁によって止まり、アインへとはその突きは届かなかった。

 うっすらと目を開けて見ると、人竜の腕が誰かの体を貫通して止まっているのだ。

 その目の前の人物が誰なのかと分かった時、アインの中で何かが弾けた。

 崩れおちる人影の向こうには戸惑いの色を浮かべていた人竜がいたが、順番は狂ったものの、まあいいといった風に微笑を浮かべた表情にアインは怒り狂うしかなかった。

 キーアの体が地面に倒れ伏し、人竜の爪が抜かれると血に濡れた腕を舐めとる。

 止めて欲しい、そういう感に触れることをしないでほしい。その表情を止めて欲しい、お前の存在全てを壊してしまいたいほどに、お前の体を塵芥に帰すまで許しはしない。

 アインの魔力が体全体に帯び、放電された電気はアインの指先を鋭利な爪のように構築される。

 左手には三本の細身の剣を作り出し、人竜の胴体へと捻じりながら突き立てた。

「グギャアアアアア!!?」

「うるさい、静かにしろ………」

 ふり払われた右手は人竜の顎を掠め取った。アインの手の中には人竜の下顎が納まっており、その光景に人竜は目を見開くだけだ。

 ゆっくりとアインが近づいても、近づいた歩幅の数だけ後ろに下がる。先ほどまでの威勢など感じられず、これではそこらにいる強者だったものが、自分よりも各上の相手から逃げ腰に陥った時と同じ状況だ。

 喋られなくなった人竜は吠えるようにアインへと苦し紛れに繰り出した突きは、放電していた電気によって遮られ、触れた瞬間に腕が吹き飛んだ。

「ゴアッ!!?」

「もう一つ、いや、まずは動けなくしようか?」

 合図するように床を二回叩くと、花のように咲いた無数の剣が人竜の体を貫いた。

 悲鳴を上げる人竜の姿は、満開に咲いた花の中心に活けられた芸術作品のようだ。もっとも、この作品を見せたところで誰もが気味悪がるだけの造形となっている。

「君ってタフだなって思っていたんだけど、そうか、大分竜に浸食されているんだねその体」

 切り落とされた腕の断面は傷が修復されており、断面からは血を流さないほどまでの早さだ。

「それだけ超回復するってことは、痛みなんて感じるのかな? いや、感じるか」

 痛がるリアクションは先までの攻防で把握済みだ。ならば、することは一つだけだ。

 死ぬまで苦痛を与えればいいという考えに行き着いたアインは宙に魔力で編み込んだ剣を作り出した。

 細身の剣や、槍、斧や、体と同等の大きさを誇る剣などの切っ先が全て人竜に向けられる。

「ぎ…………だ、だじゅけて」

「ギリギリまで殺さないよ、でもこの剣の雨を最後まで耐えきったら解放してあげる」

 アインの指先が人竜に向かって振るわれると、それが合図だったのだろう。剣の雨が人竜に降り注がれた。

 何本も何本も何本ものあらゆる武器を模した魔法剣は人竜の命が途絶えぬよう、絶妙な加減で、しかし確実に徐々に命を削っている。

 倒れていたキーアの体を起こして揺すって反応をアインは確認する。息は絶え絶えで顔色は徐々に真っ青になっていき、体の体温も冷えていくのをアインは感じていた。

「キーア………」

 アインの涙がキーアの顔に掛かった時、微弱ながら瞼が動くと、ゆっくりと開いた。その瞳にも今までの活力ある眼差しではなく、ただ死にゆくものと同じ虚ろな表情だった。

「まったく、世話が焼けるんだから」

 にっこりと笑いながらキーアの手がアインの頬に触れる。

「ねえアイン(・・・)、私ね本当は嬉しかったんだよ? あなたが妹の子供だって知っていたし、まさか貴方の中にはお兄ちゃんがいて。二つの奇跡がアインの中にいること」

「駄目だよ喋ったら、まだ助かるかも―――」

「それは無理だな。この傷は致命傷だ」

 その声にアインの体がびくついた。今まで何も反応をしなかったのに、なんで今更出てきたのだろうか。

 キーアの小さな体には大きな風穴が開いており、誰が見ても助かる見込みのない傷だ。

「なんでそんなこと言うんだよ、お兄さんなんでしょ!?」

「いいのよアイン。お兄ちゃんはそういう人だから。厳しい人なの」

「だからって! ―――っう!?」

 強制的にアインと意識を交代したシュクラは、目の前で死んでいく妹の髪の毛を撫でた。

「お前も物好きだなキーア」

「そういうお兄ちゃんだって、そうでしょ? 私は知っているよ、お兄ちゃんが何を考えているのか」

「そこまでお見通しなら俺からは何も言う必要は無いな。なら、また運命が交差した時に会おう」

 シュクラはキーアに言葉を残してアインと意識が切り替わる。シュクラがキーアに何を言ったのかはアインには分かっていないが、少しだけキーアは笑っていた。

「キーア!?」

 アインも驚くのも無理はない。キーアの体が足元から光の粒子に変わって徐々に舞い散っていくのだ。

 本当にもう駄目なのか? シュクラが言ったようにキーアを助けることは出来ないのか?

「良いよアイン、そんなに考えなくて。私もちょっとだけ疲れただけだし。それに私は死なないから」

 にっこりと笑いながらキーアの虚言にアインは混乱しつつある。竜人なら死をも超越できるのだろうか。

 笑顔を浮かべるキーアの表情には嘘を言っているようにも見えない。でも、現実はキーアが消えかかっている。なら、やはり死んでいることに変わりないのでは?

「この命が消えるだけ、そうね、またどこかで生き返る。それが私の竜人としての能力。だからアインこの場では私は消えるけれど、またどこかで会えるから、そんなに泣かないでよ」

「嫌だよ、そんな………僕は、だって。もう大切な人を失いたくなかったのに」

 ぐずるアインの口を無理やりキーアは自分の口と重ね合わせた。少女の姿だが、やってくる行為は大人の女性と同じく艶めかしく、不意にミーナを思い出した。

「それなら約束しなさい。もうこれ以上大切な人を失わないように、アインの一番助けたい人間を考えなさい。その人を助けることを考えなさい。前だけを見なさい、後ろを振り返らずに、未来を貴方の手で作り出しなさい」

 そう言い残してキーアの体が粒子と交わり空気へと紛れ込むように霧散した。



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