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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
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~突入~

 入口の近くまでやってきたアイン達と竜騎士。竜騎士達はアイン達よりも遠くで待機している。

 圧倒的な存在感を出している始まりの樹は、頂上へ行くに連れて、雲が掛かっている程に高くそびえている。

「ここにアルマさんがいるのね」

 緊張しているのだろうか、その声にはいつものしっかり者のように張ったような声色ではなく、不安に飲まれている。フィンだけが緊張しているのではなく他の二人やアインもその表情は強張っていた。

 大人たちよりも強い四人が緊張しているのなら、他の竜騎士たちも少なからず不安を隠せないだろう。

 今までの道のりで、だれ一人として死人が出ていないことが奇跡のようなものだ。ここから誰一人として死人が出ないという保証もない。

 アインは深呼吸を一度だけ吐き出して入口を見つめた。

 一度だけこの中に入ったことがあるアインは、この場所に何が待っているのかを知っている。十歳の時、竜の卵を譲ってもらう代わりに、始まりの樹に生息した竜を倒し、その一部を持って帰ってくることを条件にアインは始まりの樹に入った。

 暗がりの中で火竜を相手にし、気が付いた時にはすべての肩が付いていたが、今を思い返せば、その時にシュクラが前面に出現し火竜を倒してくれたのだろう。

「久しぶりじゃのう小僧」

 入口の隅で立っていた一人の老人が話しかけてくる。馴れ馴れしく話しかけられたことに少しだけ驚くも、アインは老人の顔を見た時に目を見開いた。

「えっ、お爺さん?」

 アインが驚くのも無理はない、初めて出会ってから約五年の月日が経っている。枯れ木のような存在で今にも死んでしまいそうな見た目をしていたが、まだ五年間も生きていたとは思っていなかったからだ。

「ほう、それがあの卵から孵った竜か? 五年でこうも成長したか」

 よろよろと一歩踏み出すたびに倒れそうになる老人は見ていて危なっかしい。周りの三人は奇異な目で見つめていた。

 ナーガの背中からキーアが下りると、珍しいものを見たような表情で老人は少女を見やる。顔の皮膚も水分が抜け、干からびた皮のようになっているが、ミーナを見た時と同じようにその表情は嬉々としていた。

「お久しぶりね、お爺さん? まだ死んでいなかったのね」

「ほう、今度はお前さんかい。まさか五年という短い時間で竜人に二度も会えるとは思っていなかったわい」

「一体誰だ?」

「あ、うん。ここの守り人みたいな人」

「みたいな人じゃなく、守り人じゃよたわけが。とは言ったものの、既にその意味は先刻で消えてしまったわい」

 くしゃりと、老人の表情が曇る。先刻ということは自分たち以外にこの始まりの樹に入っていった人間がいるということを指している。

 ここに来る人間は一人しかおらず、話を聞いていた周りの者も老人が誰の事を言っているのかは察しがついていた。

「ほう? その顔はあの小娘が誰なのか知っている顔じゃな」

「うん、知っている。僕はその人を追いかけてここに来たんだから」

 決意が固まっているアインの表情を、見えているのか分からない目で老人は見つめる。ニヤリと口角を吊り上げ、始まりの樹へと向き直って天を見上げた。

「そうか、そうか。お前が混沌を殺すか………」

 老人はキーアへと視線を向ける。

「お前たちも、勝手なことをするようになったな? 下手をすれば世界が消えるという始末をこんな半端者なんかにまかせるのか?」

「ええ、私たちはこの世界がどうなろうと、特に問題視はしていないもの。それよりも、私は見てみたいのよ。人間たちがしっかりと前を進んでいけるところを」

「ふん、お前も変わったのう」

「それよりも、貴方はいいの? ここに人間を入れたらいけないというルールがあったはずよ? ここに人を入れたということは分かっているわよね?」

「分かっておるわい」

 老人とキーアとの間だけで話が交わされている中で聞こえてくる節々は何かと不穏な気配が漂ってくるのをアインは肌で感じる。

「どういうこと?」

「このお爺さんはね、ここの守り人を頼まれた人間だったの。けれど、この人はそれを破ってしまった。ルールを守ることが出来なかったお爺さんにはセトからの罰が下るということ」

「ふん、かれこれ千年以上もこの樹の番人をやらされてきたんじゃ。これで死ぬことが出来るのなら本望じゃわい」

「それじゃあね、お爺さん」

 キーアが老人に対して別れの言葉を継げた瞬間だ。老人の枯れた腕が長いローブから地面に落ちた。

 落ちた腕はさらさらと砂のように崩れ落ち、風にさらわれる様に舞い散っていく。

「ふはは、二度目の死がこんなにも人間離れした死に方になるとわな。いや、元々お前たち………ルーシアに会った時からこうなることは分かっておったわい」

 老人は嬉しそうに笑う。体が砂になっているというのに、自らの命が消えていくことに喜んでいた。

 千年以上も生き続けていたこの老人は、ずっと孤独に耐えながら始まりの樹を見てきたのだろう。千年も生き続けてきた命、竜人との関係、つまりこの老人が長寿の命を持っていたのは竜人たちと関わったからだろう。

 呪いのように長い年月を始まりの樹と過ごしてきた時間は苦痛しかなかったということか。

「おい小僧、娘は最上階で待っている。寄生竜が誕生するのも時間の問題じゃ。急げよ?」

 顔まで砂になってしまった老人は最後の言葉をアインに託して消える。

 時間の問題と老人は最後に言った。アルマの命が消えるのもあと数時間なのかもしれないという事実を突き付けられ、アインは不安の波に襲われる。

 その後姿を見ていたミリは肩に腕を回して近づいた。

「大丈夫だろ、あの人ならきっとお前を待っている」

 大丈夫と根拠のない言葉だったが、アインはその言葉が嬉しかった。根拠が無くてもいい、信じていればまだ間に合うかもしれない。

「そうそう、アルマさんならそんな簡単に死ぬわけがないでしょ?」

「逆に頂上に着く前に死なないことを祈るしかないんだけどな」

 アクセスの言葉に全員が始まりの樹を見上げる。

 この入口に入れば敵は待っている。しかも人間が相手ではない、竜という食物連鎖の頂点に君臨する生き物が生息する巣の中に入るのだ。

 こちらも共に戦ってくれる竜がいるものの、野生の竜は凶暴だと聞く。

「それでも、行かなきゃいけないんだ」

 アインの言葉に三人は笑う。

「分かっているさ、そんなこと」

「ここまで来たなら男を見せないとな」

「もう、後戻りはできないしね」

 三人の言葉には決意がこもっている。後ろを振り向くことが無い意志を持って三人もここにやっているのだ。

 アインが心配することは何もない。

「行こう」

 アインを先頭に三人は頷き、背後で待機していた竜騎士達も始まりの樹へと進行を開始したのだった。


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