表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
74/99

~再開~

 レーゲン湿原を抜けたアイン達は始まりの樹の根が張り巡らされている大地へと降り立つ。遅れて王宮からやってきた竜騎士達もレーゲンを抜け、全員が始まりの樹のスケールに圧倒されていた。

 遠くからでも影でしか見えなかった始まりの樹だったが、近くまで来ると大樹という表現が霞むほどだ。

 この世界の一部を締めていてもおかしくはない巨大さに誰もが圧倒している中でアイン達だけが前に進んでいた。

「すごいな、これが始まりの樹か」

「王宮から見えていたけれど、近くまで来たらこんなに大きいなんてね」

 岩肌を軽やかな身のこなしでノラは始まりの樹へと近づいていく。敵の本拠地というからにはそれ相応の覚悟はしていたが、やはり近づくにつれて竜の数が多くなっていく。

 しかし竜の種類はそれといって頑丈なモノは少ない。始まりの樹の内部に行けばナーガと同じような混合種と鉢合わせするかもしれないが、今は出来るだけ人員と戦える余力を残しておきたい。

 レーゲンから出て、始まりの樹との距離が中間に差し掛かった時にキーアが声を張り上げた。

「あそこ! 人が竜に囲まれているよ!」

 空中からの詮索はお手の物だろうが、こちらは陸からの移動だ。キーアが見えている地形を把握出来ていない。

 キーアの指をさしている方向を確認したアクセスはノラに指示をだす。命令を聞いたノラは始まりの樹からルートを外して北東に向かって進路を変えて跳んだ。

 飛行をすることが出来ない陸竜だが、地を駆け抜けることに特化している迅竜は跳躍することが出来る種族だ。

 足腰と脚力を武器にしている陸竜―迅竜種は本来の陸竜よりも早さを追求された造形である。

 飛び上がったノラの背中から竜が集まっていると言われた方向を全員が見た時だ。

「え?」

「まじかよ?」

 三人がその光景に驚いた。

 咆哮にも似た雄叫びを上げながら、その人間はたったの一人で竜を圧倒していたのだ。鴉のように群がっていく飛竜は次々と槍に急所を突かれて絶命していく。

 すさまじい槍術を見せつけるように男は岩肌を跳躍しながら飛竜を圧倒する。生身の人間であるにもかかわらず、戦闘する姿は鬼神の如し。

 この男が誰かはすぐわかった。二年前、ムシュフシュにて強さを求めて旅に出た元竜騎士一番隊隊長を担っていた男だ。

 三代目総長のミド・アーランバの息子、ミリ・アーランバ。その実力は一時アインを凌駕していた。

「あっ!」

 気が付いたのはミリの背後に忍び寄る飛竜だ。群れのボスであろう、その体には堅牢な鱗が覆われている。

 アインは鱗持ちの飛竜へとノラの背中から跳んだ。だが、到達するまでにはまだ早さが足りない。このままでは飛竜の攻撃がミリに届いてしまうと感じたアインは空中に魔力壁を作り出して二回目の跳躍を行った。

 足には魔力を加算しバチバチと放電する。

 異変に飛竜が空を仰ぎ見る。落下してくる人間に気が付いたときにはもう遅い。空へと羽ばたこうと回避行動をする前には、既にアインの(雷鳴の鉄槌)が飛竜の体を穿っていた。

 アインに続いてアクセス達も合流し、数時間もかからずにすべての飛竜は四人の少年たちに屠られた。

「久しぶりだねミリ」

「ああ、アインもな」

 二年ぶりの再会、変わらない顔にアインは少しだけ安心した。

「お前、なんでこんな所にいるんだよ?」

「旅に出たんじゃなかったの?」

 アクセス達も動揺を隠せずにミリに話しかける。自分の弱さを克服するためにミリはあの日一人で旅に出たのだが、誰しもがこのような所で再開を果たすなんて誰も予期していなかったからだ。

「旅には出たし、色々と世界を旅していたけどな、竜があちこちから街を襲っているっていう噂が絶えなかったんだ」

「それでここに来たのかよ?」

 ミリは頷く。

「ここから竜が王宮や他の街に向かって飛んでいくのが分かったからな。それなら大元を叩いた方が早いって思ったわけだ」

 それだけの理由でここまで辿り着いたのかこの男は。ミリを見つめる三人の視線はただ呆れたように冷めたような目だ。

 竜騎士時代では冷静なキャラだった気もしたのだが、実はアクセスと同じくらい後先を考えないような単細胞馬鹿だったのだろうか。

「この子も貴方の信頼できる仲間なの?」

 空から眺めていたキーアがナーガと降り立つと開口一番にミリの事を問いかけてくる。

「うん、この子も僕の友達だよ。すごく信頼できる」

「ふ~ん?」

 キーアは地に降り立ち、ミリの傍に近寄るとスンスンと鼻を鳴らしながら臭いを嗅いでいた。

「な、なんだこの子? って、その耳は竜人か?」

 ミリはキーアの正体に気が付いたが、逃げる素振りを見せる訳でもなく昔のように目をぎらつかせなかった。

「………ねえ、あんた?」

「なんだ?」

「私の他に竜人と会っているでしょ?」

 キーアの言葉にアイン以外が反応する。どうして分かったのだろうとミリは思ったが、同じ竜人ならその気配とかで分かるものだと察した。

 しかし、アクセスやフィンはいつミリが他の竜人と接触していたことに驚きを隠せなかった。

「あれ、お前たちは知らなかったのか?」

 ミリは呆気にとられているアクセスとフィンに話しかける。

「あ、ああ。でもあれだろ? 旅に出てから竜人と出会った感じだろ?」

「いいや、それは違うよ。もしかすると、二人とも会っているかもしれん」

「え?」

「親父の部下でずっと隣にいた奴がいたんだよ。まあ親父の秘書みたいな立ち位置だったが、ある日を境に急にいなくなっちまった。その女が竜人だったのは昔から知っていたよ。

 でもお嬢ちゃん、俺とその竜人が出会っているからって、なにか関係があるのか?」

 特に意味はないだろう? と言い聞かせるようにミリは少しだけ圧力を加える。

「そうね、あまり関係は無いわ。ただ、少しだけ気になっただけなのよ。こんな所に竜人と接触した男と、竜人と人間との子供がいるっていうだけでもそれは奇跡のようなものなんだから」

「………あれ? ちょっと待って?」

 あまりにもさらりと流すような事実を言われたことに、なにかが引っかかったフィンは静止の声を上げる。

「どうしたんだフィン?」

 アクセスは気が付かなかったようだが、フィンには確かに不可解な事実を突き付けられたことを受け流す余地が無かった。

 キーアが流した言葉の一つ、ミリが竜人と接触していたことは特に問題ではなかった。だが、次に放った言葉が唯一聞き逃すことが出来ない事実だった。

「竜人と人間との子供って誰なのよ?」

「えっ?」

「………え?」

 ミリだけが眉間に手を置きながらため息をついている。言った本人であるキーアもアインが竜人と人間との間に生まれた子供という事実を知らず、アクセスとフィンが驚いていることに逆に驚いていた。

「なんで知らないの?」

 キーアはアインに問いかけるとアインは素知らぬ顔で。

「知らせる必要なんかないでしょ?」

 さらりと、特に聞かれてもいないからという理由のようにさっぱりとした感じで言い放つ。

「なるほど、そりゃあ強いわけだよ。初代総長の血筋と竜人との子供なら」

 アクセスは頭をかきながら、少しだけ悔しそうに声のトーンを下げる。何をやってもアインにはたどり着けなかった理由を知ったような物言いにミリはアクセスの肩を叩く。

「誰が誰の子供だからとか血筋の関係にして逃げるのはお前らしくないぜアクセス?」

「だけどよミリ………」

「俺もずっと親父の名前が強かったけどさ? 俺はお前に何回か負けたことだってあるんだぜ? 得意分野で勝てないのは今もそうだ。血筋云々より、最終的には個人がどれだけ努力しているってことにならないか?」

 噛み砕くようにぐっとアクセスはこらえる。ミリの言ったことは正論だからだ。親の血縁がすごいからといって、その子供もすごいということにはならないからだ。

 現にアクセスも分かっているのだ。ミリが総長であったミドの息子だからという理由で、大人たちからは何かを成し遂げるたびに父親の名前が先に上がっていたからだ。

 総長の息子だから当たり前だ、総長の息子は凄いよな、やっぱり他の人間とは違うのだという言葉を小さい時からずっと浴びせられてきた。

 父の名前が枷となって圧力が掛かっていたことも知っている。その影で、血が滲むほどの努力をしてきたのもアクセスは知っていた。

「お前まで、他の大人たちが言うような言葉を言わないでくれ」

 ミリは心の底から頼み込むように、アクセスの肩に力を入れる。

 友達だと思っているからこそ、嫉妬や僻み、自分の力では到底及ばない何故ならそいつの血縁が凄いからだという勝手な理屈を言って、努力をしない者たちと一緒にならないでほしいと、ミリはアクセスにお願いをした。

「ああ、悪かった」

 アクセスの言葉にニッコリと微笑を浮かべて肩から手を放してミリはそれ以上何も喋らなかった。

「ふ~ん? まあいいわ。でもこれで揃ったというわけね。でもさ、これでそのアルマっていうやつには勝てるの?」

 キーアはアインへと目配せをする。この四人でアルマを圧倒できるのかという質問にアインは考える時間もないほどの即決に答えを言った。

「多分、勝てない」

「はっ?」

「え?」

「ウソだろ?」

 聞いたキーアも帰ってきた答えには目を見張るものがあった。旅を共にしてきたキーアはアインの強さを分かっているつもりだ。

 アイン自身も、己自身が強くなっていることを確信しているのだが、それでもアインの中では、あの日ムシュフシュにて数分だけだったが、手を合わせたからこそ分かる力量の差を計算した結果でも勝てないと判断したのだ。

 傍で聞いていたミリも、アルマと相手をしたから分かるのだろう、アインが出した答えに静かに頷く。

「僕は本気で相手をしたけど勝てなかった、あれから強くなったと言っても、僕にはあの人に勝てるイメージが湧いてこない」

「それは同感だな、あの人は力の半分も出していないと思う、それでいて俺たちは負けたんだ」

 現実を突きつけるような二人の言葉にアクセスとフィンは愕然とした。この二人が駄目だという相手にどう戦えばいいのだろうと。

 アクセスもフィンもアルマとムシュフシュの時、相対したが一瞬で倒されてしまったことを思い出す。

「勝てる見込みがないのに、どうするんだよアイン?」

 今から行く始まりの樹には勝てない相手が待っている。それでもアインは行くのだろうが、なぜ行こうというのかをアクセスはアインへと問いかける。

「たとえ勝てないと分かっている争いならそれは止めた方が得策かもしれないけれど、こんかいは僕の家族が起こした問題だからね。

 やってはいけないことをやろうとしているお姉ちゃんには、しっかりと駄目だって言わなくちゃならないんだ。本当なら、お姉ちゃんも分かっているかもしれない。けれど、止めようがないところまで来てしまったのなら、他でもない僕がやるしかないじゃない」

 だからと言って死に行くようなものなのに、どうして家族のためにここまでやろうとするのだろう?

「アクセスはさ? 人を助ける時に理由なんて考えて人助けをしているの?」

 その言葉に靄掛かっていたアクセスの胸の内が晴れた気がした。

 そうか、アインは助けたいから行くのだと。家族であるから勝てない相手でも助けようとするから頑張るのか。

「分かったよアイン。俺も男だ。最後の最後まで付き合うぜ?」

「うん、ありがとう」

 握り拳を互いにあてがう。アクセスもずっと悩んでいたのかもしれない。ここまで来たのはよかったが、その覚悟が足りなかったことにずっと不安が渦巻いていたのだろう。

 今一度、自分の目的を踏み固めてからアクセスは始まりの樹へと向かうことを決意した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ