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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第六章~寄生竜~
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~奇跡の時間~

 王宮に辿り着いたものの入り口付近では陸竜が城壁に体当たりをして壁を壊す事に専念している。飛竜はアインたちが来た事により八割を倒す事が出来た。

 世界最強の軍事国家という名称もただのお笑い種のような被害の有様に失笑しかできない。

 壁にもたれながら医療班が負傷している竜騎士たちを看護を取っている横を通り過ぎながらアインは二人を探す。

 ナーガとキーアは外で陸竜の掃討を指示しているので、アインの用件が済むまでは合流は出来ない。

 辺りを見渡すと、負傷している中には王都の一般人も王宮に逃げている所を見ると、王都の人間達は王宮に避難してきたのだろう。しかし、それだとただ壁際に追い詰められた獲物のようでしかないのだが、一般人も混じっているということでアインの顔を見ても子供が王宮内を歩き回っているぐらいでしか気を留められていない。

 元竜騎士の隊長クラスだった顔を忘れられているのか、それともこんな子供を相手にするほど王宮も楽ではないのだろうか。

「ちくしょう、なんで竜が王宮に………」

「こんなん勝てる訳が………」

 竜騎士たちは全員あきらめムードに入っている。誰一人として外にいる竜を倒せると思っていない。

 ふと目に留まった人間に焦点を合わせると、そこにいたのは三番隊隊長の男だ。まだアインが竜騎士の一番隊副隊長を張っていた時に見かけた男だ。

 今では階級も変わってクラスも上がっているかもしれないが、隊長ともあろう者が城の隅でガタガタと震えていていいものなのだろうか?

 アインは隊長の下へと向かい話しかける。

「久しぶりですね? 僕の事を覚えていますか?」

 優しい口調。大人たちを不快にさせないように覚えた世渡りの術だ。しかし、それをやっても大人たちを不快にさせてきた術なのであまり役に立っているのだろうかとアインは思いつつも、少なくともあの村を出てからは礼儀正しい子供という認識の程度だ。

 話しかけられた事で自分のことなのかと認識をしたところで隊長は顔を上げると、目を大きく見開かせる。

「な………なんでお前がっ!?」

 語尾が荒くなったと思ったアインは隊長の口を鷲掴みにした。騒がれて自分の顔を知っている人たちが集まってこられると面倒だからだ。

「しー、あまり騒がないでください。聞きたい事を話してくれるだけでいいので。それ以上変な事をやるのでしたら殺します」

 口を塞いでいる手の平に力を込めると隊長の顎には万力で締め上げられているような力が加わる。これ以上力が入るものなら人間の顎は機能しなくなるほどだ。

 それだけでアインの脅迫は単なる脅しのものではないと察した隊長は静かに頷くだけだ。

「質問は全部で………そうですね三つでいいです」

 三つでいいですとは言っているが、本当なら聞きたい事は多数ある。だが、この隊長クラスがアインの知りたい情報を持っているとは限らない。それならば、二人を探して話を聞いたほうがまだいいと思ったからだ。

「まず一つめですけど、竜は何処から襲ってきました?」

「………分からない。気がついた時には四方から竜の大群が襲ってきて、この有様だ。一番隊のあの二人が残ってくれていたから良かったものだ。だが、多勢に無勢だ。竜の力に人間が太刀打ちできるわけがないだろう」

「それは貴方達の頑張りが足らないだけですよ」

「なんだと?」

 アインの物言いに頭に来た隊長は声を荒げようとする。

「王宮を去ったお前が―――」

 膝を負傷していたのだろう、包帯で巻かれていた部分を強く踏みつけると関節の部分が大きく反り上がる。痛みで悲鳴を上げようと大口を開けようとした所にアインの拳が捻じりこまれ、悲鳴は押し込まれてしまった。

 鼻で呼吸をする事しかできず、フーフーと荒く早く呼吸をする。

「騒がないでって言いましたよね? 殺しますよとも言いましたよね? 分からなかったんですか?」

 次に騒げば命は無いと無言の圧力で隊長を睨み上げる。

「じゃあ二つ目の質問です。アクセスとフィンは何処にいますか?」

「あの二人が、今何処にいるのかは分からない。だが、王宮にいることは間違いない」

「そうですか………」

「お前、あの二人に会ってなにをするんだよ」

「貴方には関係の無い事です。言った所で荷物なので」

「………っぐ!?」

 気持ちを押し殺しながら隊長は耐える。また同じ徹を踏まないようにアインを睨み付ける。アインが聞きたい事も後一つだけなら我慢してさっさとどこかへ行って欲しかった。

「王様は何処にいるの?」

「なんで、お前が陛下に会いたいんだ?」

「うん、ちょっとだけ気になった事があったからね。でもその反応だと分からないようだね」

「いや、分からなくはない。陛下は王宮の奥にいるが、その先は一番隊隊長からでないと入れない宮殿だ。だから、詳しくは知らない」

「そっか、ありがとう」

 情報収集も大したものではなかったが大体分かったこともあったので、得られたものは少しだけだがある。

 先ずはあの二人に会ってから話をしなければならないと思いながら詮索を開始する。

 王宮は広い、竜騎士時代の時でも思っていた事柄だが、全部を把握してはいない。二人を探す前に思い立った場所にアインは向かう。

 ここを離れる前には毎日入り浸っていた墓。この場所を知っているのは数人ほどしかいないだろうし、この墓が誰なのかも理解している人はいないだろう。

「変わらないな、ここは」

 一面に花が咲いていて外の王宮とはうって変わり、ここだけは平和の象徴のように長閑だ。錆び廃れている剣の前にしゃがむ。

「久しぶりだねお父さん」

 ミド・アーランバがここに立てた初代竜騎士の総長、英雄スーリヤ。その人は僕の父親だとミドさんは言っていた。

 顔も思い出せないほどの人物なのになんで、この場所にいるとホッとするのだろう。

「お父さん。僕ね………お姉ちゃんを殺す事にしたよ」

 あまり報告したくない内容にアインは顔を曇らせる。自分の決意が決まって進むしかない道を進んでいるのに、どこかに違うやり方があるのではないのかと揺らいでいる自分がいるからだ。

 殺す事でしか姉を救う道は無い。そうアインの結論はあの日、アルマと戦い、完膚なきまでに敗北した時、アルマが涙を見せていた時に決意した瞬間だった。

―――まだ気持ちが固まっていないようだなアイン?

「えっ?」

 顔を上げて墓標を眺めるがそこには誰もいない。しかし聞こえた声はシュクラのものではなく、優しく接してくれる声だった。

―――男なら、決めた事は突っ走ればいいじゃないか。俺はお前たちには何もしてやれなかったけれど、これだけは言えるよ。

 人間は、決意を固めた時に強くなるって。

 それはアイン、お前だけではない。俺やミド、お前の友達やアルマだって確固たる目的を持った時に動く事ができるんだ。まだ悩んでいるのなら、少しだけ後押しをしてやる。

 声の主はそう言った瞬間だ。

 アインの頭に男の手の平が触れた。ごつごつとしたシュクラのような手の平ではなく、ずっと触れ合いたかった人間の手の平。

 優しく、そして今まで背負ってきた重みを感じ取れるような手の平にアインは肩を震わせた。

 奇跡としか言い表せないだろう。今この瞬間だけは誰もが思う一時だ。死んだ故人が形として出現し、アインの後ろに立っているその人間こそ、英雄スーリヤだった。

「大きくなったなアイン」

「………お父さんなの?」

「どうだろうな、俺もなんでこうして存在しているのかが分からないけど、多分ここに溜まっている魔素のおかげかも知れない」

 これと同じ現象をアインは知っている。ほんの数ヶ月前に味わった奇跡の一端にまさか王宮で同じ事が起こるとは思っても見なかった。

 その時はシュクラが現れて蛇竜拳の打ち合いを交わしたが、今回は何をスーリヤから教授してもらうのだろうか。

「ははっ、しっかし。アインはソーマと瓜二つだな? うりうりうり!」

「うっぷ、お父さん痛いよ!」

「良いじゃないか、大きくなった子供と触れ合うってのは嬉しいもんだからな」

 こんなに子供じみた大人だったのかとアインは疑問に思う。こんな人が竜人である母と生きた人なのかと思うと少しだけ拍子抜けする。

 もう少し厳格な人だと思っていただけに少しだけ残念でもあった。

「アイン、一発だけ打ち込んでみろ? 父にお前の強さを感じさせてくれ」

「え、でもお父さんは」

 幽体である人間に技は打ち込めるのだろうか、そもそも強くなりすぎている自分に、父親が耐えられるものなのか?

「良いから来い。お前の考えている父さんはそんなに弱くはないぞ?」

 威圧感をアインへと叩きつける。全身の肌が総毛立ち半歩だけ後ずさる。アインも覚悟を決める。それにこの一時だけしか父と会話を交わす事ができないのならばやるしかないだろう。

「行きます、お父さん!」

 構えを取ったアインの型に驚きで目を見開く。見た事もない型だが、アイン自身も強くなっているのを肌で感じ身構える。

 これは、想像以上だ。そうスーリヤは思いながら一瞬で間を詰めてきたアインの動きにただ感心するしかなかった。

 父親の構えは武道のそれではない、素人のものだと考えながらも構うアインでもない。父が生きていた時代の人間の頂点に座していた男だ、簡単に負けるはずでもない。

 息を止め足に力を込めて一歩で間合いを詰めたアインの一撃は、スーリヤの胴を捕らえる筈だった。

 いや、捕らえていた。

「そんな!?」

 手ごたえは十二分にあった。三者の目から見てもアインが放った一撃は間違いなく一発で、常人なら死ぬような一撃だった。

 だが、スーリヤは何事も無いように受けきっていたのだ。

「ふ~む………ごっほっっぷあ!?」

 よろよろとアインから後ずさったスーリヤは吐血を吐きながら腹部を押さえる。幽体だから反応が遅かったのかと思ったアインだったが、残念な父だと格が下がった。

「くあーっ! 良いパンチじゃないか。おまけに今の武術はなんだ? 誰の受け売りだよ。想像以上だよアイン!」

「えっと、最初はミーナが教えてくれて、この拳の本当の使い方を教えてくれたのはおじさんで………」

「そっか、色々と教えてもらったんだな」

 ぽんぽんとアインの頭を撫でると、「だけど」と話を区切った。

「まだ、迷いがあるなアイン。それだとアルマには勝てないぞ?」

「え? それって、どういう………」

「言葉の通りだ。お前、俺に攻撃する時も迷いがあっただろう? 遠慮でもしたか? それとも自分が強くなりすぎていた事に思い上がったか?」

「―――っ!!?」

 心でも読んでいたのではないのだろうかとアインは直感でそう感じた。父相手に遠慮もした、それに竜を一人で倒せる自分の強さに思い上がっていたのも事実だ。

 それを他人に、死んでいるとはいえ実の父に言われるとショックも大きかった。

「アルマを殺して救うって言っているけど、お前の拳には圧倒的に足りないものがある」

「足りないもの?」

 握りこぶしを作ったスーリヤの手がアインの胸の上を軽く乗せる。

「やりきろうとする強い意志だ」

「でも、それはちゃんと………僕だって!」

「それが足りないって俺は言っているんだよアイン」

 足りない? なんで、どうして? 分かっているつもりだ。アルマを救おうという気持ちは誰にも負けないつもりなのに。なにが足りないのかを父は話してはくれない。

 スーリヤは深く溜め息を吐き出しながらつま先を地面に叩いて靴を深く履くと。

「もう一度打って来い。次は俺も反撃する」

「………でも」

「いいから来い。三回目を言わせるな。ただし、俺を殺す気で来い、俺もアインを殺す気で殴るから」

 有無を言わせない圧力にアインは生唾を飲んだ。殺す気で来いと言われても、既に死んでしまっている人間が何を言っているのだろうか。それでも来いと言っているからには、全力で拳を叩きつけよう、自分が出来ることを乗せて。

「行きます!!」

 アインの身体に流れる魔力が表面に現れてくる。放電している電気が視認できるほどの濃密な魔力を右腕に集中させ、脇を絞める。

 その異様な光景にスーリヤも警戒を強めるが、反撃の意志は消えてはいない。思い上がっている息子を叱る目で、それでいてしっかりと前を進ませようという意志を持ってスーリヤは集中する。

 人間以上の動きに翻弄され、次に叩き込まれるであろう一撃は、アインが持つ最大の技だ。あの速さと破壊力が繰り出される技に太刀打ちする術は無い。

 ならば、スーリヤが太刀打ちできる一つの点を上げるとなると、一瞬の隙、それはアインがスーリヤへと叩き込む為に繰り出される一撃の前にアインへと自分の拳を叩き込む事だった。

 それがどれだけ大変な事なのかをスーリヤは分かっている。爆発する爆弾の中にわざと手を突っ込ませるというのと同等に等しいからだ。

 アインが前傾姿勢を取り、地を蹴った。舞い上がった草花が中心へ引き寄せられるように舞い上がる。

雷光ヴァルカ!!」

 捻られた手の平がスーリヤへと一直線に捕らえられている。もはや達人でも見ることは不可能に近い速さの中でスーリヤは感慨耽っていた。雷光とはよく言ったものだ、確かにこれならばアルマに届きうるかもしれない。

 だが、少しだけはマシになってはいるものの、思い考えている決意が足りない一撃にスーリヤは、アインがそこにいるであろう場所に向かって思い切り拳を振るった。

 アインの頬に叩き込まれたスーリヤの拳に、アインの身体は反対からぶつかってきた拳に自分が出した速度を上乗せされた一撃を叩き込まれたのだった。

 自分でも分からないまま身体が空中に投げ飛ばされて意識を失ったまま地面へと叩きつけられ、意識を取り戻したのは数時間が経過してからだった。


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