~盗賊たちの最後~
ある盗賊団が数日前に一匹の竜を捕獲した。
その竜は飛竜種であり、脱皮途中だった為に捕まえることは簡単だった。幸いなことに近くには年老いた老人だけしか見張っておらず、主人は外出中だった。
老人は抵抗したが、屈強な盗賊たちの前には手も足も出ず殺されてしまった。
近年、竜の数は減少しつつあり、大変貴重な種族となっている。
あの王宮でも竜騎士と名ばかりの集団となり、竜を単体で持っている人間達も少なくなりつつある。
卵を手に入れるのも苦難であり、成人の竜を手なずけられるのも世界を救った初代竜騎士総長くらいしか出来ない。
時が経つに連れて、竜も心を閉ざしつつあり、調教するためにはとあることをしなければならない。
その一つの行為が、竜にとって大事なものを目の前で崩壊させることだ。一番手っ取り早いのは目の前で主人を殺すことが一つに当たる。
主人がいなくなった竜には命令をしてくれる者がいないので、早い段階で“崩れ竜”となる。
一種の野生化とも言われているが、野生の竜と崩れ竜の違いは、人間が関与しているか関与していないかだ。
崩れ竜の心は崩壊しやすいために、新たな心の寄り代を必要とするのだ。
だが、主人が死んでいるわけでもなく、ただ連れ去られただけのこの竜は脱皮が終わるまでは大人しくしていた。
アジトに連れ帰った盗賊団たちは牢屋で眠っている竜を見て今後の事に付いて話し合っていた。
「なあ兄貴、この竜はどうするんですかい? 調教して俺たちの竜にしちまうんですかい?」
「当たり前だろ? こんな滅多にない代物なんだ。ましてや飛竜種だぜ?」
「でも、こいつの主人は殺していないんですよ? それだと調教もできないじゃないですか?」
子分の言葉に盗賊団の頭はにやりと、子分の言い分を否定する。
「それ以外にもやり方は一つあるんだよ」
首領は立ち上がって牢屋まで辿り着いて、眠っている竜に話しかける。
「おい、お前の主人はお前が逃げたって嘆いていたぞ? もう、お前には会いたくないってよ?」
竜は目を開けて頭の方向へと首を傾ける。頭の言葉にはうんともすんとも靡いていなさそうに鼻を鳴らす。
それでも頭はこの洗脳じみた行動を止めない。竜に自分の主人は興味がなくなってしまったと、お前を捨てたという言葉を投げる。
何日も、何日も、何日も、長い時間をかけて、首領は洗脳を続けていった。
数日が経過したある日、日課として続けていると竜は自分から頭の下へと歩いていき、牢屋越しに頭を垂れた。
忠誠の誓い、人間に忠誠を誓うときにしかやらない仕草であり、頭を垂らすのも人語が解っている竜だからこそ出来る動作だが、この時の頭は一つ勘違いしていた。
突然頭を垂れて忠誠を誓う竜は基本的にいない。野生の竜を屈服させて忠誠を誓わせることならば、まだ救いがある。
しかし、この竜は様々な段階をすっ飛ばしてこの忠誠の誓いを掲げているのだ。盗賊団はこの瞬間の行動を疑問に思っていることが出来たのならば、死ぬことも無かった。
「おお、忠誠を示したぞ!」
盗賊団の一人が頭の行ってきた洗脳の効果に感激しながら牢屋に近づく。他の団員達も洗脳の出来を見に来る。
頭は竜を閉じ込めていた牢屋の鍵を開けて扉を開ける。鉄格子が擦れながら開かれていく乾いた音が妙にアジトの中を響き渡る。
竜はゆったりと、足音を立てないで鉄格子を潜り周りを見渡した。何を確認しているのかと頭は目前の竜に疑問符を浮かべながら腕を大きく広げる。
「お前の主は俺だ、さあこれから俺たちの言うことを聞いてもらうぞ?」
竜の視線が頭と合わさる。その瞳は頭を見ていない、寧ろ冷たく憎悪を纏わせて頭を確認した後、大きく竜の腕が薙ぎ払われた。
その一瞬で盗賊団の数人が身体を寸断されて即死、頭を含め生き残った盗賊たちも何が起こったのかを理解する間もなく次々とその命を散らしていく。
始めから洗脳などされていない、脱皮が終わり柔らかかった皮膚がしっかりと硬質されていく時間をこの竜は待っていたのだ。
盗賊団の頭の話は只の戯言としか聞いてはおらず、どうやってこのアジトから逃げ出そうかとそのタイミングを伺っていたのだ。
「まてまてまて!! なぜだ、なぜ洗脳が―――」
頭はそう言い残して竜の爪で八つ裂きにされたのだった。




