~奪われたナーガ~
フォマルへと戻ってきたアインはあまりにも突然すぎる異常な事態に息を呑んだ。
「な、なんだこれ」
たったの数十分程度しか時間は経過していなかった。その数十分の間に、誰かがフォマルの泉へとやってきたのだろう。
貴重な遺跡であった建造物は、竜の鉤爪で抉り取られた傷があった。
「お爺さん!?」
血溜まりの上で横たわっていたのはここの守人であったお爺さんだった。シュクラにやられた傷以外にも傷があり、それは目を当てられたような傷ではなかった。
誰が見てもお爺さんの傷は即死レベルである。細木のような身体は断裂され、無数の穴が胴体を貫いている。槍を幾度と無く突き刺したのなら同じ大きさの穴ができるのだが、微量ながらにその穴にはバラつきがある。
「おお、お前か……」
「お爺さん!?」
この状態でも生きていたお爺さんの生命力に驚きながらも、その灯火はすぐに消えようとしていた。
「悪い、お前の竜が盗賊どもに盗まれてしまった。脱皮の直前を狙われた……」
吐血をしながらもお爺さんはアインにナーガの居場所を言おうとしていた。
「ここから東へ向かえ、そのさきにはごろつきが集まるような街があるやつらはそっちへ行ったわ。まったく、混沌が孵ったというのに呑気なものじゃわい」
お爺さんは最後の最後に笑いながら、尚も毒づいてこの世を去った。さらさらと砂のように老人の体が風に巻かれて飛んでいく。老人が死んだのと同じタイミングで泉が急激に枯れてしまった。
「………行こうキーア。東の街に」
「王宮には行かないの?」
「先ずは家族を連れ戻さなくちゃだめなんだ。ナーガは僕が一人の時に、初めて出来た家族なんだ。一人ぼっちになんてさせない」
一人が寂しいのはアインもよく知っている。広いとも狭いとも取れない廃虚のような家の中を一人で過ごしてきた。暗い部屋の片隅で誰の手を借りることも出来ず、助けを呼ぶことも出来なかった一人の時間。
相手にされるときでも、それは友達などと言った存在ではなく、ただ自分の体を慰み物や、遊具のように使われるだけの地獄のような時間。
そこを助けてくれたのはミーナだ。寂しくて辛くて逃げ出したくても逃げ出せなかったあの地獄から解放してくれたのはミーナだ。
だから、助けなければならないのだ。僕たちから離れてしまったナーガはきっと一人ぼっちなのだから。




