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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第四章~黒竜人キーア~
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~相打つ~

 雨が降っていた。豪雨と名の付くほどの強い雨が地上を濡らしていた。アインの身体は横たわっていて、頭は誰かの膝元に寝かされていた。そのため、アインは今の状況が夢だと言うことを悟った。

 二年前の出来事の夢を見るなんて、未だに忘れられないのだろうかとアインは軽く自傷気味に笑いながらも膝枕をしてくれている人間を見やる。

 案の定その人はアイン自身の旅の終着点としている思い人だった。

 アルマ自身のやり遂げたかった目標が、王宮の人間達の手によって崩されてしまい、大きく脱線した。強がるように突き放したつもりなのだろう、しかし忘れられない別れ際の言葉は、アルマの強がりだったのだ。

 アインがアルマに対して嘘吐きだと言ったのも、強がる必要なんて無いのにという心配からくるものだった。

「ホント、お姉ちゃんは強がりなんだから………」

 アインはアルマの頬に手を添える。夢の癖に感触は実物を触っているようにリアルに感じ取られる。喋らないアルマはアインへと顔を近づけるとそのまま有無を言わさず唇を重ね合わせた。

「――――っ!?」

 あまりに突然すぎた出来事に思考がおぼつかない。夢だと思っていたはずなのに、この感触はまるで現実と同じように艶かしいからだ。

 もはや夢ではないと区別したアインは意識を正して目を見開いた。辺りは昨夜寝泊りした森であり、陽射しが木々の隙間を縫うように射している。

 それでは、何が夢と現実の境を取り壊した現物があるのかはアインの目の前にいた少女が物語っていた。

 少女はアインが目を覚ました事に気がつくとゆっくりと顔を離し、小悪魔めいた表情で見下ろす。

「悪い夢でも見た? うなされていたみたいだったけれど」

「そう…だね、なんだか忘れられないような夢になっていたよ」

 先ほどの夢が鮮明に記憶に残っているアインとしては、悪夢とは言いがたいが、多少なりとも忘れられない夢にした張本人に皮肉を浴びせるが、あまり効果は見られない。

「なによぉ。うなされていたからわざわざ貴方が見たい夢を見せてやってあげたのに」

「はい?」

 アインはキーアの言葉を呆けるように聞き返す。明らかに今の発言にキーアは自分が犯人ですと言い知らしめているのと同じものだったが、犯人が分かった所で次にアインが考えたことは、自分の望んだ夢を見せてやったと言うことだった。

 先ほどの夢はアルマとキスをする夢だったが、本当にそんなことを望んでいたのかという疑問。

「赤くなって、可愛いなぁ」

「う、うるさい! 大体キーアが悪いんじゃないか! 寝こみを襲うようなことしてさ」

 言い返したアインに、再びキーアの口角がにやりと吊上がる。アインをからかうのが楽しくなったのだろう、

「だって貴方の寝顔が可愛かったんだもん。大人のお姉さんなら襲いたくもなるわ?」

 顔を強張らせていると、キーアは先ほどまでの小悪魔的な微笑を取り繕うのをやめると、真面目な表情に切り替わる。アインもその気配を読み取ったのかキーアと視線を交わせる。

「なんで、貴方は私を助けたの?」

………ああ、やはりその話か。

 アインは心の中でそう呟く。王宮から逃げ出したアインが心配することは二つあった。一つは王宮からの追っ手や指名手配の令状が町や村に散らばっているかもしれない不安。そして、もう一つは、彼女の問いに答えられるのかと言うことだった。

「あそこから逃げ出す時に言ったはずだよ? お姉ちゃんと同じ人を見捨てたりすることが出来なかったからだよ」

「………私は王宮が嫌いっていうのも覚えているよね?」

「うん」

「私が怖くないの?」

「大丈夫だって分かっているもん」

 アインの発言にキーアは毒気を抜かれたようにキョトンとした顔でアインを見やる。

「もし、本当に殺したいと思っているなら、僕はこうして朝を迎えていないよ。僕が起きる前までの時間、殺すことは簡単だったはずなのにだよ? それはキーアが殺すことをやめてくれているっていう風に考えたんだけど、それじゃあ駄目かな?」

「っぷ、あはは。なるほどね? なるほど、なるほどねぇ」

 キーアは腹を抱えて大袈裟に笑う。何かおかしなことを言ったのだろうかとアインはむすっとした表情でキーアを睨むと「ごめんごめん」と笑い続けながら謝ってくるせいで、いっそうアインの表情は曇ってゆく。

「気に入ったわ私。貴方のこと好きになっちゃったかも」

「はい?」

「あ、でもなぁ。もう少し大人になってくれたらうれしいけど、貴方って大人になれるのかしら?」

「えっ? それはどういう意味?」

「言葉の通りよ? 半端者がちゃんと成長できるか分からないって言っているのよ。こんなの初めてのケースだし?」

 そう言って、キーアはアインの身体を這うように近づいてくると、またからかうような表情に戻ると。

「そうでしょ? お兄ちゃん?」



 朝食をとったアイン達はフォマルの泉を次なる目的地として村や町を点々と渡り歩き、キーアの分かりやすい風貌と、王宮からの令状が出ていても困るため、途中でフードコートとなるものを購入しながら情報を得ていた。

 五つ目の街にたどり着いた時だろうか、その地域は沼地などが多く拡がりながらも人が生きていく上では何不自由ない暮らしを出来る場所であったが、街の治安は悪かった。

 酒場でフォマルの泉のことを聞いたアインの風貌を見て誤魔化すような口ぶりで情報を提供した酒場の主人だったが、小包程度の金貨を見せただけで飛びつくように欲しがったため、本当の情報を教えてもらうことに成功した矢先、そのやりとりを見ていたごろつき達がアインを襲い始めたのだ。

 しかし、子供とはいえ王宮の一番隊の副隊長を名乗っていたアインに取って、ごろつき程度の雑魚を一蹴するのは一分もかからなかった。

 騒ぎを起こしたアインはすぐさまキーアを連れ出してナーガに乗り込み、情報を貰ったとある村へと行くのだった。

 人間の足では一日かかる距離でも、竜での行動では半日とかからない。ごたついた村は昼頃から出たため、今ではすっかりと夜になっている。

 この村はフォマルの泉に訪れる竜使いのための憩いの場所ではあるらしいが、数が減ってきた竜のせいもあるのか廃れてきている村だ。

 人気もなく、本当にこの場で一夜を過ごしてもいいのかと思ってしまうほどに不気味だが、宿はしっかりと整備されており、二人と一匹と宿の主人に話すと快く受け入れられた。

 寝室に入り込んだアインは敷かれていた布団に横たわり、眠ろうとした時にキーアに邪魔をされた。

「だめだよお兄ちゃん、ちゃんとお風呂に入らないと臭くなっちゃうでしょ!?」

「むぅ、面倒くさいなぁ」

「つべこべ言わないで入るの!」

「分かったよ、入ればいいんでしょ」

 あれこれ言われるのも鬱陶しそうにアインは立ち上がって、キーアに促されるままにアインは風呂場へと行く。

 この宿には風呂は設置されておらず、少し離れた場所に村一番の露天風呂があるらしいが、夜道を歩くこちらのみとしてはただただ不気味なだけだ。

 部屋には留守番をすると買って出たキーアを残して露天風呂まで行こうと宿を出たときだった。久しぶりにナーガがアインを気遣うように話しかけてきたのだ。まるで何かが起こることを予測しているかのようにだ。

 ナーガの心配をアインは頭を撫でて一言だけ「大丈夫だよ」と言って露天風呂まで辿り着く。

こういうときにナーガの思っていることが分かるのだったらどれだけ良かったのだろう。

 湯船に浸かり空を見上げると満点の星空が黒い世界を覆っていた。辺りには空を灯すような明かりがないため、街などで見上げる星空よりもずっと綺麗だ。今夜は月も昇っていないため、星空だけが主張するように夜の世界を彩っている。

 露天風呂にはアイン意外に誰もいない。貸しきり状態だが、村の状態もあるせいなのか独りでいるのは心苦しかった。

 どうやらここは天然の露天風呂らしく、人が整備しなくてもお湯がこの場所に流れてくるらしい。

「お姉ちゃん………」

 未だに追い続けている姉を思い浮かべる。竜のことを知りたいと思いながらも、その身体には竜の力と混沌の竜が渦のように回っている。

 いつアルマの身体が崩壊してもおかしくない。自分が自分でいられなくなる恐怖をアインはよく知っている。訳の分からないモノが自分の中で肥大して外に飛び出してくる恐怖。

「へぇ? なんだアイン。お前俺のことが怖いのか?」

 唐突に話しかけられた声にアインは眉根を寄せる。こういうゆったりとしたい時にこの人から声をかけてくるとなると、たいていいいことを言ってくるわけでもなく、茶化すだけを目的とした内容だからだ。

「うん。怖いよ。おじさんがいつ僕の体を乗っ取ってもおかしくないからね」

「警戒しているのか?」

 アインはその問いを嘲笑するように鼻で笑う。

「人の気持ちなんて分かっていたら怖いでしょ。だからと言って、分からないままで終わるのも怖いけれど、おじさんは僕の体を乗っ取りたいって勝手に思っているだけ」

「まぁ、それでもいいんだがどうするよ?」

「なにが?」

「お前が眠っている間に実は身体を借りていましたっていう事になっていたらさ?」

「それは………」

 口ごもるアインをシュクラは追い討ちをかけるように語る。

「お前気がついていないのか? それとも気がついていてわざと気がつかない振りをしているだけなのかは俺にも分からないが、今のお前に俺の声がしっかりと聞き取れるのならば、もう手遅れだぜ?」

「えっ?」

 アインが驚いたのも無理は無い。既に自分の体はシュクラと同調しかかっているのだという事実と、幻覚でも見ているのかアインの目前には筋骨隆々とした男が湯船に浸かっていた。

 真っ白な髪に真っ赤な瞳。健康的な身体の癖にその肌の色はどちらかと言うと病人に近い色をしている。

「見えるのだろう俺が?」

 したり顔でシュクラはアインを真紅の瞳で睨み付ける。

「この村はとっくに滅びてしまっている。この露天風呂だけが唯一の生き残りみたいなものだが、とりあえずこの村には少しだけ魔力的なものが渦巻いているんだよ。だからこうして意識の外でも俺が見えるって訳だ」

 シュクラは立ち上がってアインの元に駆け寄る。異様な雰囲気を醸し出すシュクラの前にアインも気を張って迎え撃つ。本来ならば声だけの意識体として会話をしていたアインにとって、直に会って話したことは無かった。

「なんだ、俺が怖いか? 身体が震えているぞ?」

「………うるさい」

「それにしても、お前も強情な奴だよ。いや、そこはお前の母親に似たのかもな」

「え? お母さんに?」

「ああそうだ、あの五人姉妹の中でも一番気難しい奴がこうして人間との交際に成功し、子供まで作り上げたんだ」

 シュクラの腕がアインの頬を鷲掴みにする。ごつごつとした大人の手の平は、子供であるアインの頭をこのまま握りつぶしてしまいそうだ。

「俺は人間が嫌いだ、人間の血が半分流れているお前のことは普通なら嫌いだが、今は愛おしさをも感じるよアイン。半端者でありながら、これまでの生き様を俺は美しいとさえ思えた」

 アインは背筋に怖気が走った。その昔アークの村でされたこと、ミーナとの旅で立ち寄った街での出来事がフラッシュバックとして脳裏に過ぎった。

 抗おうと両手でシュクラの腕を引き剥がそうとするが、力の差は歴然だった。大人をも屠るアインですら目の前にいる一人目の竜人にはどう頑張った所でこの手を引き剥がすことは出来ないとアインは悟った。

 こいつは幻覚だと意識を傾けてはいるものの、掴まれている手の平の感触があまりにも明確すぎて嘘だと思えない。目の前のシュクラはこの場にいるという事実だけ。

 こう言う大人たちに、いつもアインはびくびくと恐怖しか抱いていなかった。自分では何も出来なかったこと、されるがままで、言われるがままだった時の自分。

 怯えている表情を見せていたから大人たちがつけあがるんだ。弱みを見せるとそこを攻め入るように人間は攻撃してくるのをよく知っている。

 だったら強気で行こう。これ以上つけあがらせるとやっかいだ。

「手を離して」

「あ?」

 アインの両手に力が篭る。押していたはずのシュクラの表情に曇りが表れる。本気でなかったのかとシュクラは考えたが、それ以上思考するのを留めた。

 シュクラの身がこの場に溜まっている現象の原因は魔素というものが蓄積されていたからだった。空気のように散布する魔素は、微量ながらにも世界中に散りばめられているのだが、人工的に作られた建物が少ない地域ほど魔素は留まっている。

 つまるところ、森林や山や海などに行くと、身体がスッキリ現象の大部分が、魔素という自然エネルギーを体内に取り込んでいるからだ。

 この村も回りは森林に囲まれており、近場には竜の聖泉と呼ばれるフォマルの泉があるために、魔素は通常よりも数倍に及ぶエネルギーが散布しているのだ。人がいなければ尚更だ。

 ナーガがアインに促したのも、よくないものと感じたのがこの魔素だ。よくないものがこの村に漂ってくるから気をつけてくれと、そう忠告をしてくれた筈だったナーガの言葉を安易に考えたのをアインは後悔した。

 だが、こうして実体とも会話の機会を与えてくれたこの場にも感謝したい気持ちでアインはシュクラを見つめた。

「手を離せって言っているんだ」

「っぐ!?」

 骨の軋む音がお互いの間で響く。子供の力だと甘く見ていたシュクラはたまらず手を離してアインを突き飛ばした。

「っち、さすが竜人の血を引く餓鬼だな。良いぜ、少し遊んで見ようや」

 腕をぷらぷらと揺らしながら、それでもシュクラの顔には焦りの色は一切無い。むしろ成長を見てやろうという、師匠が弟子の実力を確かめるときに近い。

 下半身は湯に浸かっており、初動の動作がほんの少しだけ遅れる程度だが、達人級の実力ならば、その程度のハンデなど微塵も感じないだろう。

 始まった瞬間から二人の一撃は必殺の域だった。柔の拳と剛の拳。必殺の一撃を馴らすように払いのけて剛の拳を叩き込む。これがシュクラの編み出した蛇竜拳の戦法だが、アインとシュクラは初撃目から大技をぶつけ合った。

 人同士がぶつけ合った拳の音とは思えないような轟音が辺り一帯を覆う。二撃目も同じ動作で放った蹴りが相打つ。

「はぁっ!!」

「ふんっ!!」

 一方的に剛拳を振るい続けるのは意味があるのか。戦いであるのなら、カウンターを織り交ぜることが出来る蛇の型を放てば良いが、それをしないのは両者共実力が拮抗しているからだ。

 いや、アインは出来ないだけなのかもしれない。大人の力で向かってくるシュクラの一撃一撃にアインが思っていたよりも蛇の型が使えなかったのだ。

 それに対してシュクラにはまだ余裕の表情でアインの一撃を迎え受け入れている。剛の拳である竜の型にあわせて蛇の型を合わせようものなら、いなし技としての蛇は竜の牙に噛み砕かれるだろう。

 ならば、アインが出来うる限りの方法はシュクラの攻撃を同じ竜の拳で相殺しなければいけなかった。

「どうした、まだお前は本気じゃないだろう?」

「っく!」

 アインの腕が痺れ、シュクラの動きに反応が徐々に遅れつつある。だが、押されている今の状況を打開することが出来ることもアインは知っていた。同じ拳法を使うもの同士、技術面だけならばシュクラの方が一枚上手だ。しかし、シュクラの考え出した蛇竜拳の型に特別の型が作られている。

 アインが本来持つ魔法の一つ、雷電というものがある。アインが魔力を込めると突発的に発動するのが電撃だ。

 その特性を活かしながらアインは少しずつ蛇竜拳の型に自分の技を織り交ぜていったのだ。シュクラとしては作り上げた自分の拳法が誰かの手によって作り変えられているといった、言わば改悪されていることに腹の内では黒く渦巻いていた時代もあった。

 しかし、考えが反転したとき新しく作り出されるのならこれもまた一興と考えている。だからシュクラは見たかったのだ、創造されていく技の数々を受けて立ってみたいと。

「もし、お前の実力がこの程度なら、この先お前は誰も助けられないぞ?」

 この一戦で初めて見せたシュクラの蛇の型、双頭竜。両腕で相手の身体を絡め取るように捕縛して投げ飛ばす技だ。その正体を知っているアインは、投げ飛ばされないように技を外して逃れたが、その動作こそがシュクラの思惑だった。

 双頭竜を外したアインの体勢は崩れている、その一瞬を逃すシュクラではない。

 間合いを詰めたシュクラの構えはアインの臓腑をぞっとさせるものだった。片手ではあるが、捻りをくわえられ引き絞られた矢のように脇に添えられている。

―――大蛇っ!?

 咄嗟に後ろに跳んだアインに捻りこまれた大蛇のダメージは軽減されたが、「甘い!」とシュクラの身体が密接した。軽く当てるようにシュクラの五指がアインの腹部に鍵をかけるように二度捻りを入れた。

「螺旋大蛇」

 捻りこまれた一撃をまともに受けたアインの身体が宙に舞う。無様に水面へと身体を叩きつけながらも、闘志の炎はまだ費えてはいない。

 この技はまだ知らなかったことにアインは嬉々を感じていた。基本的なことをミーナから教えられてきたアインは、まだまだ隠されている蛇竜拳を覚えたいと内心わくわくしている。

 昔のアインであれば、痛いことはただ拒否し続けることで前を見なかった子供であった。

「なんだ? なにを笑っている?」

「ううん、なんだか面白いなって思って」

 よろよろと立ち上がるアインの姿にシュクラは失笑を飛ばす。

「一撃も入れられていないお前が、笑う余裕なんてあるのか?」

「確かにまだ一撃をいれていないけれど……うん、次の一手から全身を込めるよおじさん」

 ぴくりとシュクラの眉が揺れる。これまでアインの中から見てきていたシュクラは、こういう風に宣言を垂れ込むような子供ではなかった筈だったがと、子供の成長を見守る親のようにアインを見やる。

 ならば、宣告したとおりにやって見るがいい。そして上をもっと知るがいい。

  ずっと棒立ちの構えを取っていたシュクラが始めて腰を低く構えて防御の構えを取る。それでもアインは動じない。自分の中に流れる魔力を身体の表面上に具現化させるようなイメージで魔法を発動させた。

  ばちばちと、乾いた布が引き裂かれるような音。三者の目から見てもアインの姿は変わり、全身が黄色に発光し放電している。

 ただ事ではないとシュクラの警戒が強まる中で動きを見せたのはアインだ。一瞬にしてシュクラの背後に回ったアインの貫手が五回シュクラの身体を貫いた。

「ぐおっ!?」

 腕を振り回しても手ごたえは無い。寧ろ驚くほどの速さを持って着々とシュクラの身体に殴打を浴びせる。その姿はさながら嵐に降る雷雨の如し。

 空のように青々とした瞳が金色に帯び始める。この瞳はシュクラの意識が表面上に出てきたわけではない。髪が白髪に染め上がっているわけでもない。

 ならば、この変化はアイン本来の竜人の力が表に出てきた姿だ。

「っく、はっはっは!!」

 シュクラは笑う。ここに来てアインが二度の覚醒をしたことにシュクラは嬉々として笑う。

 強い、こいつは強い。能力的には他の五人や俺には極端に劣るだろうが、こいつに宿った力は誰よりも強い。

 金色の瞳は竜神が持つ最高ランクの邪眼だ。父親から受け継がれているパーツがよもやこんな所でお目にかかるとは嬉しい限りだ。

 アインの手の平を光が包み込む。雷電の特質を持ったアインだからこそできる芸当であり、この一手で二人の攻防は幕を降ろしたのだった。

 全体重を利き腕に乗せ、射出される発射台のように脇を絞めて捻りを込める。がら空きとなったシュクラの胴体へと叩き込まれた大蛇は、全身の神経を引きちぎるかのような激痛がシュクラの身体を駆け巡る。

  この技こそ、蛇竜拳の創始者であるシュクラの技を吸収し、アレンジしたアインだけの技。

  その名は―――。

「雷光」

 静かに語られた技名をシュクラは崩れ落ちる意識の中で笑みを浮かべた。人一倍巨漢の身体が湯船に倒れこみ、まるで今までの出来事は夢だったかのようにシュクラの身体は立ち上る湯気に撒かれるように消えてしまった。

「………あはっ」

 くすりとアインは笑った後押し寄せてきた眠気の波に抗うことも出来ないまま全身を湯船に浸からせた。

 ………ああ、だめだ。早く出なくちゃ。二人が心配してしまうし、このままでは溺れ死んじゃうのに……でも、疲れちゃったなぁ。

 腕を上げたアインの手の平には水の感覚しか伝わってこない。一人でここに来てしまった以上誰も救出しに来るはずもない。

 気をつけると言ってきたナーガには悪いなと思いながらアインはもがく事を止め、自然に任せるようにその瞳を閉じた。


―――だから言ったじゃないですか、気をつけてくださいって。

 唐突に声が聞こえた。その声は今までアインが聞いてきた人物の誰とも重ねることが出来ない声音だ。

 この声が誰のものなのか分からないまま、アインの身体は丸太のような物で湯船からすくい出された。

 ぼんやりと視界が霞む中でアインが見たものはナーガの姿だ。その一瞬を境についにアインの意識は力尽きたのだった。



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