~旅立ち~
気がついたときには僕達は全員、ムシュフシュから脱出しており、アクセスの竜で王宮の帰り道を走っていた。
アクセスやミリの方が重傷だったらしいが、なぜか最後に目が覚めたのは僕だったらしい。
ショックが大きすぎたからなのか、受けたダメージが大きかったからなのか、どっちもどっちのような気もしてきたが、ショックが大きいのはミリも同じだろう。
話しかけても一切応答が無い。何かを思い吹けるようにずっと虚空を見つめ続けるだけだ。
アクセスもフィンも疲弊しきっており、喋ることすら億劫なのだろう。
暗い空気が僕たちの間に漂う。
「なあ、みんな?」
ずっと静かだったミリが口を開くと、俯いていた二人は顔を上げて視線をミリへと傾ける。
「俺は決めたよ」
「なにをだよ?」
疲れきっているアクセスだが、返事くらいは返す余裕があるのだろうか。
「旅に出るよ。強くなるためにさ」
「「「は?」」」
僕も合わして間抜けな返答をしてしまった。強くなるために旅に出ると、それはあまりにも突然の提案だったからだ。
でも、決めるのは自分自身だ。僕たちが止める道理は無いだろう。
「強くなるって、お前は十分に強いだろうが」
「それ以上の人間がいるというのに、強いなんて言えないだろアクセス」
ミリはチラリと僕を見る。自分より強いと言う人間の中には僕も含まれているのだろうか。
「それだったら、もっと王宮で強くなればいいじゃないか!」
「それが駄目だと思ったから、俺は旅に出ようって思ったんだよ」
ミリの言う事は尤もだ。世界にはミリよりも強い人がどこかに存在している。お姉ちゃんがいい例えだ。
「ねぇミリ…本当に旅に出たいの?」
フィンもアクセスの肩を持つようにミリを説得しようとする。
この三人は生まれた時からずっと幼馴染というのは聞いた。だからこそ、一人でも欠けたくないという心境が表に立つのだろう。
それでもミリの決心は固いものだった。
「ああ、自分の目の前で大事な人が死んでいくのは嫌だからな」
その言葉は、ミドさんのことだろうか。目の前で殺されてしまった父親を、自分が守れなかったと事に怒りを感じていたのだろう。
自分が弱いばかりに他の人たちを傷つけてしまったということなのだろう。
ミリは走らせていたノラを止めると、背中から飛び降りて着地した。
「じゃあな三人とも。いつかまた会おうぜ」
手を振ってミリは僕らとは反対方向へと背を向ける。このままミリは行ってしまう。なにも言葉を交わすことも出来ないまま、僕達は離れ離れになってしまう。
だから僕は、ほんの少しだけ、一緒に過ごした分の感謝と激励を込めて送り出そう。
「ミリ! 気をつけてね!」
振り返ったミリはニッコリと笑って手を振るだけだった。
走り出したノラの背中には三人だけしか残らなくなった。ミリは脱退し、二人とも気持ちが沈んでいた。
「俺は、これから何をすればいいんだよ。どうすればいいんだよ!」
「アクセス……」
フィンが心配そうにアクセスを見つめるが、その手をとろうとはしない。なぜならフィンも同じ事を考えているからだろう。
「俺もミリみたいに旅に出ればいいのか? 強くなりたいなんて思ってもいない俺なんかにはどうでもいいことだ。なあアイン? お前はどうなんだよ。追い続けた人には逃げられるし、負けちまったわけだろ? お前はこれからどうするんだよ?」
「ちょっとアクセス!」
フィンは止めようとするが、アクセスの問いかける姿に気圧されていた。
なるほど、アクセスには今自分がどうすればいいのか分からないのか。目標がなくなった人間ほど、動けなくなるものは無い。
辿り着く道を組み立てるのが目標だが、それすら出来ないのでは、ただ生きているだけの虚空の命だ。
じゃあ、アクセスの言うとおり、僕には今やるべきことはあるのかと言われると。一つだけある。
「なにも、変わらないよ。同じ事を続けるまでさ。何度でも、何度でも追いかけて、追い続けて、そして、お姉ちゃんを殺す」
そうとも、僕はあの人を助けるために追い続けなければならない。助けるが為に殺さなくてはいけないのだ。
あの人を助けることが出来るのは殺すこと、死を与えることで、あの人は救われるのだから……
「別に可笑しくない答えでしょ二人とも。それに、これは僕の…家族の問題なんだ。世界ぐるみで迷惑を駆けているあの人を、叱ってやることが、今の目標かな」
「………アインはそれでいいの?」
フィンは僕の言葉の真意を確かめに掛かるが、僕には一切の揺らぎは無い。
「うん、それがこの話の終わりだからね。もう三度目は無い。だから次に会ったときが、本当の終わりにするしかないんだよフィン」
世界の崩壊が始まってしまうだろう。寄生竜を孵すためにあの人は始まりの樹へと向かったのだ。
今から向かってもあの人に勝てる見込みは無い。ならば、僕が納得できるまで強くなろう。幸い王宮には地方に飛ぶ仕事が沢山あるし、本来の仕事は平兵である僕の仕事だ。
「それじゃあ、帰ろう? まだ時間はあるから、考えるのは後にして、今はゆっくり休もう」
僕の提案に二人は頷いて身体を横たえた。
ねえ、お姉ちゃん? 僕はね、今までの言葉が嘘だったとしても、やっぱり一つだけ嘘じゃないって事ぐらいはわかるよ?
お姉ちゃんは、本当に竜の謎を知りたいんだって事ぐらいはね?
だから、お姉ちゃんは嘘吐きなんだよ。自分の思いを嘘で覆い隠して、苦しくなるくらいならやめれば良かったんだよ。
辛くても、苦しくても、大丈夫だってずっと自分に嘘をついていたんでしょ。嘘を続けて、そしてパンクしちゃって、なんて哀れな人生だ………
今度あったら言ってあげよう。
お姉ちゃんは良く頑張ったよって。




