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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~対面~

 虫の息のはずだった。

 アルマは剣を振り下ろし、その刃は絶対に避けられるはずがないと思っていた分、アインを間合いの外にまで離脱を許してしまった。

 しかし、アルマは追わない。なぜなら、異形の雰囲気をアインは放出していたからだ。

 白髪へと変化し、青い眼が真っ赤に染め上がる。だからアルマはこの瞬間になってようやく気がついた。

 アインも、人ではないと。

 人であるアインには自分の気持ちなんか分かるはずが無いと、先刻言い放った言葉が急激に冷めていく。

 そう、アインは自分の気持ちを理解してくれている。同じ化物だからこそ、実は理解していたのかもしれない。

 知らなかったとはいえ、自分のことなんか判るはずが無いといった自分があほらしくなった。

「っごほっ。あー…あー…」

 アインは喉を押さえながら調子を戻していた。先ほどの傷なんて、最初から無かったかのようにぴんぴんしていた。

「気絶したか、なるほど。これはもしかしてアインが眠っていれば動けるのだろうか?」

 自分の体を眺めている白髪のアイン。声は同じなのだが、その動作はもう一人の何かが表に立っているような、そんな感じ。

 つまりは、二重人格なのか? だが、二重人格であんなにも姿が変貌するものなのか?

 自分の中の寄生竜が悲鳴を上げる。初めての感覚に戸惑いを感じるが、それも目の前にいるアインが何かを行っているからなのか。

「ったく、ボロボロのままで挑むからこうなるんだよ。もう少しまともに動ける状態であれば、一矢は報える算段だったはずなのだが。いやはや、恐れ入ったよ人間のお姉さん。

  いや、人でもないが、その気配は竜の体でもあるか。しっかし、なんとも中途半端な身体だな。コイツと同じじゃないか」

 自分の胸を親指で指しているが、それはもう一人の人格、つまりはアイン本来のことを指しているのだろうか。

 中途半端と言う言葉に少しだけ引っかかる。

「アインが中途半端?」

 問いただした私を侮辱するように、白髪のアインは笑う。

「そうさ、こいつは生まれたときから半端者だよ。人間と竜人との間に生まれた、半端者さ」

「人間と竜人? 誰が……竜人なの」

 そう口走った時、私はお姉ちゃんを思い出す。

 人間と竜人との間に生まれたのがアインであれば、人間であるのはスーリヤであり、竜人なのがソーマと言う事になるのだ。

 スーリヤは人間の中でも目立つほどに変わっていた。もちろんいい意味の方だ。

 どちらかというと、ソーマの方は人間のようで、違う雰囲気を持っていたのは知っていた。

 だから、なんとなくお姉ちゃんが竜人という事に驚きは感じなかった。

「思い当たったか? そうだよ、お前が今考えた人物こそ、竜人だよ。同属であるはずの人に嫌われ、同属であるはずの竜にも嫌われた、妹達の苦悩を知っているか?

 竜人は幸せにはなれないって、俺が吐いた呪詛が延々と妹達に語り継がれているのも皮肉だよ。

 どこの物好きかは知らないが、四人も妹達とくっつこうとしたらしいが、それは無駄なんだよ。自然の摂理、ルール、法律、秩序がそれを拒むんだよ。

 それこそ、お前が産み落とそうとしている願望樹に願ってみればいいさ」

「願望樹?」

 樹とはなんだ? 産み落とそうとしていると、目の前の男の子はにやりと笑って私の中にいる寄生竜のことを言い当てる。

 意識がリンクしているというのなら、私とアインの会話は筒抜けであったのなら分かる。

「知らないのも無理はないか。もともとその寄生竜は白竜の力の一部が抜け落ちたものだ。竜人の長男はな? この世界を創造した神と同じ力を持って生れ落ちた。だが、強大すぎるが故に、神に命を絶たれたんだよ。実の息子を手にかける父親と言うのも、むかつく話だぜ。

 っと、悪かったな。話を戻してやろう。

 寄生竜はな、乱された秩序を戻そうとするが故に、世界を乱している生物に寄生する。

 前回は卵から孵らなかった竜だったかな?

 そいつの願いは、ご主人様の願いを叶えてほしいと混沌に頼んだんだと」

――そうして、世界は竜と人間が仲良く暮らすようになった。

 白髪のアインはそう言って、何かを試している様な瞳で私を見つめていた。それは、ここまで教えたんだから、後はどうやって私の中にいる寄生竜を使うかを自分で考えろと言うことだろう。

「君は……何者なの?」

「俺か? 俺は白竜人シュクラ。世界に産み落とされた始まりの人間だよ」

「始まり……」

「妙だよな。始まりの人間である俺は、同じ始まりを意味するアインに憑いたんだ。これはもう、必然としか思えないよなぁ」

 シュクラは立ち上がってゆっくりと私へと近づいてくる。警戒するまもなく、ごく自然な動作で、手を伸ばせば直ぐに触れることが出来るほどに。

「痛っ!」

 寄生竜が一際表に出てきている部分を掴まれる。

「ふん、お前の意思が消えるまでは、もって三年か。時間はたっぷりあるからな。よく考えるんだな。

 それと、一つ教えてやろう。お前が知りたい謎は、始まりの樹にあるぞ?」

「始まりの樹?」

「本当は、本気で考えていたんだろ? アインと一緒に竜の謎を解くって。さっきはああ言ったが、真意は混じりけの無い願いじゃないか。

 嘘を言ってまでアインを突き放したいという理由は、貴様の優しさからなのか?」

「―――っ!」

「図星か。唯一の家族、血を分けてはいないとは言え、縁は簡単に切れるものではないからな。危険な目に合わせたくないんだろ?」

 シュクラはカラカラと笑う。私の思いを全て分かっているかのように笑う。

  そして、私が今、一番言われたくない言葉を言ってシュクラは意識を断絶した。

―――お姉ちゃんは……優しいね。

 糸の切れた人形のように、膝から崩れ落ちたアインを庇い、頭を膝の上に置いてやる。

 白かった白髪も、何事も無かったかのように金色の輝きを帯びてゆく。

 雲行きが怪しかった空も、ついに地上へと雨を落とした。今日の一日は長かった気がする。

 先頭を切った雨粒は徐々にこの森を覆っていき、竜騎士たちの血の臭いが流されていく。

 私が殺してしまった何人もの命が、雨と一緒に流されていく。

 兄と親しかったミドも、自分自身が手にかけてしまった。これで、私のことを知っている人間は誰一人としていないだろう。

 ルナが近づいてくる。

 私の頭上にルナの翼が覆われようとしたが、私はそれを拒否した。ルナは拒否した私を気遣うように小さく鳴くが、大丈夫だよと促す。

 もう少しだけ、もう少しだけでいい。この少ない時間をアインに使いたい。

 愛した人は王宮に殺され、愛した人は王宮によって消え、バラバラとなった家族が、こんな形で繋がっている。

「アインは強くなったね。本当に………」

 このままで行けば、すぐにアインは自分を越えてくれるだろう。竜人の血も入っているんだ。

 ふと、三年前に出会った竜人の言葉を思い出す。

―――本当なら、貴方を殺したいけれど、今回はアインに任せることにするね。

 今思えば、竜人はこの寄生竜の事について知っているのだろう。先ほどのシュクラだってそうだ。

 自分の力の残りカスで出来た願望樹だと、確信点を突いた言葉。

 私にも行くべき所が見つかった事だし、そろそろ竜騎士たちが来るころだろう。

 立ち上がろうとして体を起こそうとした瞬間だった。繋いでいた手に力が掛かる。こんな短時間で目を覚ましたアインは、うっすらと目蓋を明けて私を見る。

「お姉ちゃんは……嘘つきだ……」

 アインの指が私の目尻を拭う。

 それでやっと私自身が泣いている事に気がついた。

 何に涙を流しているのだろうか? アインのことを裏切ったからなのか? ミドさんを殺してしまったからなのか?

 この涙にはどんな意味が詰まっているのか分からない。でも、一つだけ。

 たった一つだけ言える事があった。言わないと駄目なことがあった。

「ごめんなさい………」

 それだけを言った私は、アインの額にキスをして立ち上がる。

 背後からアインの視線だけが突き刺さる、ルナをつれて私達はこの森を抜けるだろう。目標は決まった。旅の終着点は決まった。

 場所は始まりの樹。そこに全ての答えがある。最後の結末がどうなろうとも、私は全てを受け入れるだろう。

 倒れているアインを横目で流し、抱きしめたい気持ちを抑えて私達はムシュフシュを後にした。


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