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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~敗北~

 正直言うと、僕の体は立っていることさえままならない程に壊れていた。なんでかというと、アルマの隣にいるルナっていう黒竜に完膚なきまでに叩き潰されたからだ。

 それでも僕がこうして生きていられるのは、叔父さんのおかげだった。

 木々に飛び移りながら空中からは僕の細剣による奇襲攻撃と、地上による二匹の竜の攻撃で時間を稼いでいた。

 しかし、このルナはどの竜よりも頭が切れるタイプだったようで、すぐに対応されて処理された。

 なんとかルナの尾を切り落とすことには成功したのだが、日が経てば再生してしまうのでこの瞬間では重傷まで追い込んでいないのだ。

 叔父さんの能力によって再生治癒されているこの身体だが、一日安静にしていれば完治になるのだが、そうしていたらアルマがどこかへ行ってしまう。

「久しぶりだねアルマ…ずっと、会いたかった」

「うん、私もよ。あれから三年かぁ」

 アルマの言う三年とは、きっと僕たちが始めて出会ったあの湿原での日からだろう。

「友達いっぱい出来た」

「うん、見たら分かったよ。一緒の年齢だから特に話もあったでしょう?」

 僕は頷き、周りを確認する。真っ赤に濡れている一つの骸と、死に掛けの二人。一人はショックで寝入ってしまっているが。

「でも、死にそうだよ」

 アルマは笑って、それがどうしたと言うような口調で語りだす。

「だって、王宮の子だもん。私の敵だから殺さないと駄目なの。それともアイン。貴方も王宮の子になったの?」

「入団はしたよ。アルマを追いかけるために。そもそもお父さんが王宮の人だったのだから、帰って来たっていうのが正しいのかな?」

「…そっか、そういえばお兄ちゃんも、王宮の人だったっけ」

 昔のアルマに何があったのだろうか。僕が生まれるまえから交流があったのはミドさんの話で少しだけ聞いたことはあるが、自分の父親を兄と慕っているのは何故なのか。でもこれは僕が聞くほどのものではない。

 先ほどのアルマの告白。自分を化物という境界を作って一人にさせて欲しいという願い。

「アルマは、何で一人になりたいの? 僕やルナは、一人にさせたくないって少なからず思っているのに。やっぱり、化物だと思っているからなの?」

「人間であるアインなんかに私の気持ちなんか分かるわけがない。人外の力を持っているから、私の身体はコイツに蝕まれているの。自分勝手なことをして、目先の欲にかられた人間ほど醜いものは無いわ。

 それの犠牲が死んでいった子供たちと、私なのかな。本来人間でいなければならないのに、竜の力を持ってしまったが為に、因果や秩序、守らなければならない法則そのものが、私の身体を取り付いてしまった。

 手に入れたくも無い竜の力の代償がコレよ。壊れてしまった法則を直そうとこの寄生竜はいずれ世界を崩壊させるために生まれる。

 だから、私は決めたの。治る事が出来ないのなら、いっそこの世界そのものを壊してしまおうかなって。この三年で思い知ったもの。なにをしても無駄だって。それなら、この生まれてくるコレを産んであげるのよ」

 アルマはお腹を優しく摩る。

「憎くないの? アルマを人間でなくしたそいつを」

「なんで? 私を人間でなくしたのは、王宮――つまり人間よ? 始めは憎かった寄生竜だけど、考えてみれば人間が犯した罪を罰するために寄生竜が私に宿った訳だもん。

 人間の罪を、人間の罰を、秩序を破った人間を正すために世界を崩壊させるのなら私は喜んでこの身を捧げる」

 嬉々として語るアルマは、湿原の時に見せた優しい笑顔や、少しお節介な所だったあの一日を僕の記憶から壊していく。

 この人は誰だ? 邪悪に笑うこの女の人は誰だ?

「竜の謎を一緒に解こうって言っていたじゃないか。あれは嘘だったの?」

「ええ、嘘よ。竜の謎は後に回して、私はこの寄生竜をどうするかで世界を旅していたもの。あの誘いも、なんで約束してしまったのか………」

「それじゃあ、僕はなんの為にアルマを追って………」

「それこそアインの勘違いじゃないの?」

「っ!!」

 もう我慢の限界だった。これ以上壊れていくこの人の姿を見たくなかった。自分の中での思い出で優しいお姉さんだったアルマが、少しずつ崩壊していくのかが我慢ならなかった。

「ああああああああ!!」

 回し蹴り、しかしその蹴りがアルマには届かず、腕で防御される。その表情には痛みを訴えるように曇っている。

「っ!?」

 突き放すように地面から無数の氷柱が飛び出してくるが回避。飛び退いた瞬時に細剣を放つ。

 が、一振りで全てを退かせたアルマは空中に氷の矢を展開。

 なるほど、確かに人外の力だ。だが、それがどうした? それくらいだったら僕だって出来るし、それ以上に僕の方が強い。

 無数の矢が降り注ぐ。近づけさせないように一面に展開しているから被弾覚悟をしないと入り込む隙は無い。

 だったら、被弾すればいい。

 同じパターンのように細剣を作り出して六方に投げる。追尾型の投擲物だ、回避は不能、ならば切り伏せるしかない。

 氷の矢は未だに健在。追尾型が向かうのと同時に壁にしていた樹を切り倒して特攻。それと同時に六方向から細剣が襲い掛かるが、アルマは容易く回避。予想は的中、第七の剣は自分。

 正面特攻だから展開されている氷の矢を切り伏せつつ、懐に潜り込む事に成功。

「はっ!」

 密着するくらいに足を進める。体当たりをするのとお同じくらい踏み込んだまま、肩をアルマの身体へと叩き付けた。

「っぐ!?」

 後ろに跳ばれ、その分の衝撃は逸らされた。それでも、アルマの身体は樹に飛ばされて叩きつけられる。

 勝機を逃さない。

 追いかけてそのまま大蛇を仕掛けようとした矢先。

 アルマの腕が蛇のように絡みついたと思いきや、次の瞬間僕の体は宙を舞っていた。

 この武術を僕は知っている。そう、仕掛けようとした相手の力を利用するように打ちのめす武術。

「なんで蛇竜拳を…」

 内なる一撃を放つのが竜の拳、蛇のようにしなやかなで受け流すように一撃を加えるのが蛇の拳。

 取ってつけたような名前と説明だが、いざ対面してみるとその厄介さが分かる。

 同じように踏み込んで懐に近づき掌打を打ち込もうとするが。するりと交わされ、外側から内側に引き込むようにアルマの身体が叩き込まれる。

 ボキリと関節が悲鳴を上げる。反対に折れ曲がった腕を支点に背負い投げられて地面に叩き落される。

 立ち上がろうとした瞬間、縫い付けるようにアルマの氷柱が手足を穿つ。

「うあぁぁぁっっっ!!」

 激痛が電流となって身体を駆け巡る。

 この人は強い、勝てると思っていた自分が馬鹿みたいだった。こんな弱さで僕はこの人を止めようとしていたなんて馬鹿だ。

 叔父さんを頼りたかったけれど、それでは駄目なんだ。この人は僕がけじめとして倒さなければならない相手だ。

 だけど、倒せない。あまりにも無力すぎる自分に、誰も助けることができない自分の力の無さを心底恨んだ。

 跪くように、三者から見れば僕の様子は、アルマに媚びているような姿に見えるだろう。

「ねぇ、アインはなんで来てしまったの?」

 かちゃりと、剣を構える音が聞こえた。顔を傾けて僕はアルマを見る。その瞳は三年前と同じで哀しそうだった。

 アルマの剣が振り下ろされたのを最後に、僕の記憶は断片的に繋がる事になった。


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