~救出~
「駄目、駄目だよ………死んだら駄目だよ二人とも!」
フィンは叫ぶが、その声がミリとアクセスに届いているのか? 息をしているのか、心臓は動いているのだろうか?
焦る気持ちが大きくなる。自分の鼓動が馬鹿みたいに耳に届いていた。
緊張で手が震え、視界は涙でぼやける。目の前には敵がいると分かっているのに、フィンは腰が抜けたように動かない。
「だから、言ったでしょう。死にたくなかったら、こんなところに来なければよかったのに。ミドさんは言わなかったの?」
忠告は聞き入れていた。軽い気持ちでここに来たわけでもなかった。
だが、フィンの心情は後悔で満ち溢れている。あの時、なんでみんなに行くのを止めようと言わなかったのだろうと。
アインの話しを聞いたせいもあったのか? 優しいアルマを見たかったのか? 冷酷ではない表情を見たかったのか?
しかし、残忍な一面を見せている以上、もうアインの話はそれこそ夢のような偶像だ。
「それでも、刃を私に向けるんだね、フィンも」
「うるさい、もう、喋らないでください」
「敬語なんか使わなくてもいいのに」
「うるさいっ!」
フィンは走り出す。せめて一太刀浴びせてやる。誰もが出来なかったことをやってやると心に誓いを立てた。
その誓いを簡単にへし折ってくれるのが現実であり、想いを無に返すのが現状だ。
アルマを守るように木々の間から大木のような尾がフィンへと叩きつけられた。
「っがは!!?」
明らかな不意打ちに、防御すらまともに出来ずに地面へと転がる。受けたダメージのせいか、まともに身体は動かず、首だけを傾けて正体を突き詰める。
そこにいたのは漆黒の鱗に包まれた竜だった。
「嘘………」
絶望した。自分たちを送り出して黒竜を足止めしようとしたアインはここにはいない。つまり、アインを振り切ってここにいるということ。
アイン達は殺されてしまった。
姿が無いだけで、生きているのかもしれないという淡い希望に縋りつく思考さえフィンには行き着かない。
今ここに立っているのは自分ひとりだけ。
「ルナ、遅かったね」
優しく、アルマは血にまみれた自分の竜を撫でる。それが誰の血であるのか言ってやりたい。竜騎士総長であったのなら、仲間意識があったのなら、それは貴方の部下だった人達の血なのだと言ってやりたい。
だが、それを言った所でアルマがどういう反応を返すのか読み取れるほどにこの人は竜騎士を、王宮を憎んでいる。
なにがこの人をこうさせてしまったのか。どうしてこの人がこんな目に合わなければいけないのか。
「なんで…なんでよ……なんでアルマさんは王宮を裏切ったの? なんでそんな無駄なことをしたの? 私は、アルマさんを尊敬していたのに!!」
フィンの告白に、アルマは笑ってあしらう。
「尊敬してくれていたんだ。こんな私を…。うん、素直に嬉しいと言ってあげるけれど、無駄なことはしていないよフィン?」
「えっ?」
「さっきも見たでしょ? 人間の技ではないものが使えるのよ。これは魔法っていう代物らしいけれど、これってね? 化物の証なんだ」
「だけど、貴方は化物の姿をしていない!!」
「本当、貴方もミドさんも口では詭弁を語るわね」
そう言って、アルマは手に持っていた剣を逆手に持って自分の腕を切り落とした。地面がアルマの血で濡れ、ぼとりと物の様にアルマの腕が落ちる。
大量に噴出される血液で気分が悪くなったフィンは口を押さえて嗚咽する。
そこでフィンは目にする。もはや人間で無くなった女性の末路を。
切り落とされた腕から黒い根っこのようなものが落ちている腕を、逆再生するかのように宙に浮き、切り落とされた腕の断片へと引っ付くと、何も無かったかのように腕は元通りになった。
「分かった? もう人間じゃないのよ」
「で…でも…」
むしろそこで化物と罵ってくれれば開き直った。ミドも何故自分を化物といわなかったのか。どうして誰も化物と言ってくれないのかと。
そこで、アルマを支えていた感情の糸が切れた。
「なんでみんなは私を化物って言ってくれないの!? こんなにも、こんなにも醜い姿になって、こんなにも人とは離れた身体になっているのに、なんでみんな私を化物って言ってくれないの?
化物って言ってくれたほうがまだマシなの。人間って認めてくれると、まだ帰る場所があるって希望を持っちゃうじゃない! 私を一人にさせてよ!!」
狂ったように叫びながらアルマは剣を振りかぶってフィンに振り下ろそうとした瞬間だった。
フィンの間を割るように入った人物の影が、アルマの剣を受けとめてフィンを守っていたのだ。
「大丈夫、フィン?」
「あ、アイン?」
フィンが虚ろな目でアインを見る。安心したのだろう、溜まっていたストレスがフィンの身体を休息へと強制的に眠りへとつかせた。
「ノラとナーガは皆を運んで。僕は………この人と話があるから…」




