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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~灯火~

「ねえ、アインは大丈夫かな。一人にしてきてよかったのかな?」

「俺が分かるかよ。選択したのはアインと、ミリの判断だ。きっとあいつも本心では一緒に残りたい気持ちで一杯だっただろうよ」

 森を疾走する俺たちは、アインが黒竜を引き付ける事によってアルマさんを俺たちの中で捕縛しろと言うことなのだろう。

 アインが笑って俺たちを送り出したのも、アインが俺たちを信頼してくれているからこそだと思っている。

 後ろから付いて来てくれる二人も隊長クラスなので安心して罪人を捕まえることが出来る。

 それが普通の人だったらだ。

 相手は元王宮の総長だ。カリスマ性や、力の具合で人の頂点に躍り出た人間なのだ。俺たち三人でも相手になるのか。

 親父は竜騎士に生き残れと声を荒げて士気を上げたが、転がっている死体はどれも竜騎士だ。

 全員があの竜にやられてしまったのだろう。損傷が人間技ではない。パックリと食い千切られた断面が痛々しく、繋がっているべき手足や胴体はゴミのように転がっている。

 そういえば親父は先に来ているはずなのにどこにもいない。もしかしたらアルマさんの竜に殺されてしまったのか?

 いや、それだったら黒竜にはもう少しダメージがあるはずだ。一国の頂に立っている総長ともあろうが、何も出来ずにあの竜にやられるという事は無い。

 という事は、親父は一人でアルマさんの所に行ったのだろう。

 心臓が早鐘を打つ。俺はこんなにも動揺するようなやつだったのか? 守りたいものを守れないのかもしれないという不安が俺を拘束しているのか?

 また、俺は大切な人を失ってしまうのか?

「ミリ! おいミリって!!」

 呼ばれてハッとするのと同時に俺の肩を強引に引き止めたアクセスに礼を言う。

「悪い………」

「少し休むか?」

 俺は頭を振って否定する。こんなにも広い土地なんだ。今も何処かで誰かが頑張っているはずなんだ。

 頑張っている奴がいるのに、俺だけが休むわけには行かない。

「………ねぇ」

 フィンが両手を耳に当てて森を周回する。なにか分かったのだろうか。こうみえてフィンは索敵能力は特化している。

 俺たちの気がつかないことに気がついてくれたりする。

「聞こえる。鋼同士が打ちあっている音が」

 フィンは真っ直ぐ音が鳴っている方向を指差す。

「多分、人同士が争っているわ…」

 俺は立ち上がってフィンが指した方角を走った。

「なっ!? おいミリ!? 行くぞフィン」

「あ、うん!」

 後ろの二人を置いていく程に俺は真っ直ぐ走った。聞こえる、武器同士が打ちあっている音だ。

 嫌な予感がする。

 この先を行くのは嫌な予感しかない。今すぐこの場所から逃げ出したくなった。だが、それが出来れば、俺はここにいない。

 ならば、受けとめるしかない。この先がいかなる不幸が待っていようとも。

 その場に出たとき、俺は異形な光景を目の当たりにした。地面からは氷柱が生えるように突き出ており、この辺り一帯は冷気に覆われていた。

 氷竜特有の冷気を操る能力。珍しいその飛竜種を持っているのは王宮には誰もいない。ではこの空気を放っているのは誰なのかと疑問に思った瞬間、現実に俺は引き戻される。

「親父!?」

 その姿は強かった自分の父親とは遠く離れた存在のような姿をしていた。

 一面が青い世界で彩られた世界にただ一人だけが正反対の色でその体を朱に染めていた。何本もの細い氷柱が親父の体に突き刺さっていて、利き腕である右腕は切り落とされていた。

 立っているのもやっとなのだろう、自前の槍で自分を支えるだけでしか体を支えていられないのだ。

「ミ……リ?」

 俺の声に気がついた瀕死の親父は、首を動かすのもやっとのようにこちらに振り返った後、にやりと笑った。

 アインと同じように、送り出すようなそんな笑顔を浮かべ。

 今、とどめを刺そうと振りかぶられた剣が親父の体を切り下ろした。

「うわああああああ!!!」

 叫んだ。親父が倒れるまで俺は叫び続け、アルマの元へ一目散に走った。

 武器を構える以前の問題だ、親父の死を目の当たりにして気が狂ったのだろう。何を考えているわけでもなく、親父の仇まで素手で殴りかかっていた。

 簡単に受け流された俺は、腕を取られ突き上げられるように肘が顎をとらえ、流れる動作のように蹴りを腹へと叩き込まれ、うずくまっている所を上部から剣の柄を叩き落された。

「ごほっ!!?」

立ち上がろうと手をつくが、追い討ちのように蹴りを浴びた。

転がって突き放された俺を二人が傍によって安否を確認してきたので、俺は大丈夫だと強がって立ち上がる。

「アルマさん………」

 フィンは何を思ってアルマに話しかけたのか。思えば一番フィンがあの人のことを尊敬していた。

 だから、今でも信じたくないのだろう。信じたくなかったのだろう。同胞を簡単に殺してしまう彼女が、本当は優しいのだという想いが捨てられないのだろう。

「大きくなったね、みんな」

 その声は、近所のお姉さんが小さい頃の成長を喜ぶような調子だった。

 だから俺は一瞬にして怖気が走った。先ほどの攻防なんてまるで息をするのと同じような、そんな当たり前のことと変わらない動作なのだ。

「なんで、ここに来ちゃったのかなぁ。みんな死にたくなかったでしょ?」

 声に嬉々の色が帯び始める。さっきまでの微笑が嘲笑へと変わっていく。そして俺達は思い知った。

 これが本当のアルマさんなのだと。これが本性なのだと。

 剣の切っ先をこちらへ向ける。

 そうか、この人は完全に俺たちを殺すつもりでいる。俺がくらった一撃でさえ、人を壊すには十分な威力だった。

 フィンは未だに迷っていた。まだ何処かで信じているといった表情だったが、俺たちの中でけりがついた。

 アクセスも悟ったのだろう、攻撃の態勢を取ってじりじりと相手の出方を伺っている。

 槍を構えて一点に集中する。狙いは奴の身体に風穴を開けるそれだけだ。

「本当に、ミリはミドさんのことを尊敬していたんだね。いいお父さんだったんだね」

 急にアルマは親父を語る。俺は聞く耳を持たないように集中する。親父を殺した本人の言葉なんて聞きたくない。今すぐに殺してやる。

「君の構えは瓜二つだ。だからこそ言ってあげる。ミリ君。君は私には勝てない。お父さんと同じ徹を踏む」

「だまれぇぇぇぇぇ!!」

 愚弄したコイツを許さない。尊敬していた親父の型を俺が受け継いだのと言ってもいい。敬っていた人の動きを馬鹿にされたんだ。生かしてはおけない。

「槍って刺突か薙ぎ払うかの二つの選択しかないでしょ? 振り下ろすのもありだけど、どちらかと言うと選択はこの二つに絞られる。

 それがどうしたっていう顔をしているね。だからね? 教えてあげるとなると」

 アルマの身体は俺の突進を受け流して、その動きを連動させる。流れる水のように精練されたその動きは、抗いようの無い完璧な動きだった。

「槍使いの扱いは、至極楽なの」

 外側に避けられた槍使いの死角を狙っての動きなのだろう、だからこの一閃は俺では交わせない。

 死を予感した時、アクセスがアルマへと飛び蹴りを入れた。その対応で俺への攻撃を中断し、アクセスの攻撃をかわすことに切り替えたのだ。

 フィンも加勢を始める。いつもより剣のキレが悪い。やはりどこかでこの人のことを信じているのか。

 三対一という場面になっているのに、この人は冷静だ。近距離、中距離の二人が揃っている俺たちの攻撃を難なく交わしながら、その隙間を狙うようにアルマは的確に剣を振るっていく。

 アクセスの乱打を全て防ぎながら、必ず空いてしまうその瞬間をアルマは狙う。女性が相手だとアクセスの拳は骨が折れてもおかしくない強さのはず。だが何故この人は笑って対処できるのか。

「っくそ!!」

「本当に、強くなったねアクセスも」

 ことごとく交わされてしまうアクセスの攻撃。鋭い一閃をなんとか避けながら攻防を続けているが、明らかにアクセスの方が劣勢だ。

 同じ体術を使うようにしてくるため、アクセスにはどれほどのストレスが溜まっているだろうか。アインに負けて、アルマにも負けてしまえば、こいつの立つ瀬が無くなってしまう。

「でもね? 突進するだけだったら。誰でも出来る。進みすぎて周りを見なくなってしまうのが、貴方の短所だったはずだったんだけど………」

 誰もが感じた寒気。アルマが何かをすると悟ったのに、次の動作でアクセスがやられると分かっているのに、俺達は、立ち尽くす案山子と同じように見ているだけだった。

「直っていないのね」

 アルマは冷たく笑い、そして手の平が空気を撫でる。

 その瞬間、空気中の水分が凍結し、何本もの氷柱が、鋭い氷の矢となってアクセスの体を貫いた。

「アクセス!!」

「人の心配をする余裕があるんだね、ミリ?」

「しまっ―――!!?」

 振り返った俺は、目の前で何が起こっているのか理解できなかった。

 渦のような風がアルマの中心に集まると、何も無かった所から氷が作られていくのだ。この現象を俺は二回見たことがある。

 一回目はまだ小さかった時に親父に好意を抱いていた女が、炎を作りだしていたことがある。

 二回目はアインとの闘技場にて、竜人化したとき、確かに雷撃を放っていた時だ。

 あれから、あの技がどういう正体なのかを調べた俺は一つの奇跡に辿り着いた。魔法と言う名の、人類が到達できない神秘の技だ。

 今思えば、何も無い所から作り出すことができるところが、すでに人間ではないのだということに行きついた俺は、世界が竜人に対してどう思っているのかも分かった。

 これは、勝てない。ただの人間が、こんな化物相手にどう立ち向かえと?

 諦めた俺の身体には、親父の槍を連想させるほどの大きな槍がゆっくりと身体を貫いていった。


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