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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~後悔~

 全ての話を終えた後、アインは具合が悪くなったと言って眠ってしまった。

 それもしょうがない話だ。俺たちがアインの口から聞いた話は、王宮にいた頃のアルマさんとは百八十度違っていたからだ。

 実は同じ名前の別人なのではないのかと耳を疑ったくらいだったが、容姿を確認したら同一人物に変わりなかった。

 どちらが本当の顔なのか俺たちには確認することが出来ないが、ただ一つあるとすれば、ムシュフシュに到着した時しかないだろう。

「しっかし、以外だったよなぁ。アルマさんにもそんな感情があったなんてな?」

 アクセスの言うことはもっともだ。

俺たちが知るアルマさんは、冷酷無比、害ある敵は全て撃ち滅ぼすような女性だった。誰もが恐れる竜騎士の総長として君臨し、歴代総長のなかで女性なのはあの人だけだ。

俺は一度だけだが、親父と一緒に話しているところを一番隊の隊長という地位のおかげで話しをしたことがあった。

その時の会話は印象的過ぎて今でも覚えている。

―――そういえばミリ君は、何歳になる?

 答える義理は無かったのだが、俺は流れで歳を明かした。と言うよりは親父が喋ったのだが。

 小さい声で呟いていたのを覚えている。

―――あの子も、大きくなったら同じかぁ。

 それが、俺の目の前で眠っているアインのことだったとは知るよしもなかった。

 思えば、あの人の優しそうな声を聞いたのはアレだけだ。

「あの人の心臓は氷で出来ているんじゃないのか? とかって噂も流れていたもんな」

 はははと笑いながら会話に織り交ぜる。

 俺とアクセスの会話が弾んでいるのに対して、フィンだけが段々と不安になるように表情を曇らせていく。

「どうしたフィン。具合でも悪いか?」

 アクセスはフィンの様子を見かねたのか、心配そうに声をかけた。

 アインが俺たちの中に入ってくれたおかげか、二人の恋仲も順調に進んできたような気がする。

「ううん。ちょっと私も話しをきいてから具合が悪くなってきたかも」

「もう、寝ていな? 明日になれば戦闘だしさ」

 フィンは頷くだけで横になった。それ以上は会話もなく俺たちの間で静寂の時間が流れる。

 三日間走りっぱなしのアクセスの竜。ノラだけの息遣いが聞こえるくらいか。

「どうする? 俺たちも寝るか?」

「そうだな。このまま起きていた所で、なんの特にもならないだろうし」

 互いに俺達は笑いあい、床につく事にした。




 先に到着した総長と飛竜部隊率いる竜騎士はムシュフシュに日没寸前に着いた。だがそのムシュフシュも来てからは違和感しかなかった。

 竜の墓場とも呼ばれているせいもあり、木々は生い茂り、辺りは湿気が漂っている。歩くたびにぬらりとした風が体中を撫で回し、怖気を感じさせた。

 ここに本当にアルマがいるのかと、ミドは不安に駆られる中、静かに飛竜部隊を格方面へと散開させ、竜騎士たちを下ろさせる。

 森を囲むように配置を並べ、徐々に真ん中へと追い詰める作戦だが、既にアルマがこの森を出ていれば誰一人として犠牲者を出すことなく、この作戦が終わったはずだ。

 だが、竜の咆哮が森に響き渡った。

 アルマを確認すれば、飛竜を鳴かせ、全体をそちらの方へと向かわせて捕縛という計画。

「今のは何処の部隊だ?」

 ミドは近くにいる一番隊の副隊長に尋ねるが、その答えは満足のいくものではなかった。

 そう、誰一人として、王宮の飛竜が鳴いたことを分かっていない。つまりは、今の咆哮はアルマの竜と言う事になる。

 ミドは歯噛みをし奥歯を鳴らす。

「アルマちゃん………なぜ居るんだ!」

 呟くようにミドは焦燥感を露にする。

 ここに居なければ、誰もが傷を負わずに済んだ。ここから去ってくれていれば、君を殺す羽目にならずに済んだ筈だった。

 だが、世界は捕縛だけではアルマを許さない。

 死んだということが世間に出回らないかぎり、世界はアルマをずっと追い回し続けるだろう。

「鳴き声から近い竜騎士は、先の声がしたところへ向かえ! 我々もすぐに向かう! いいか! 絶対に捕らえるのだ!!」

 その声と共に、ムシュフシュに戦乱の嵐が舞い起こった。

 他の竜騎士たちを先に行かせた後、ミドは一人になった。他の竜騎士たちを囮にして自分だけは逃げるという、魂胆など微塵も無い。

 ただ、落とし前だけはつけないといけない、そう思っていたからこそ、アルマの誘いにのったのだ。

 先ほどの竜の咆哮にアルマは居ない。いるのはアルマの竜だけだ。群集を相手にするほどの知能の低さであるのなら、総長にはなっていない。

 むしろ、歴代総長の中でも切れ者だとミドはそう思っている。

 ゆっくりとミドはアルマが居るであろう場所に進む。探して自分の目に留まるようにしていたかった人物が、今、自分を誘っている。

 霧が濃くなり、視界は万全とは言えなくなる。これもアルマの罠なのだろうと、腰に抱えていた自前の槍を抱え警戒する。

 じめっとしていた空気が急に乾燥し、辺りは冷気に包まれていた。どこから寒々とした空気が流れているのだろうか、そう考えていたミリだったが、その思考を止める人物が目の前に現れる。

「アルマちゃん………」

「こんばんはミドさん。ありがとう、一人だけで来てくれて」

「誘っているって分かったからな。君の狙いは俺だろう?」

 アルマはクスリと、ミドを哀れむような目で笑い頷く。

「だが、なぜだ? なぜ俺たちが憎いんだ? スーリヤさんを殺したからか? 君達から日常を奪ったからか? 平和と幸福を壊したからなのか?」

「そう、分かってくれているならいい。竜騎士は……いえ、もうそんなことはどうでもよくなったんだぁ。私」

 アルマは鞘から剣を抜く。瞳には殺意の念が渦巻いている。

「どうでもいい? どうでもよくなったのか?」

「だって、もう。私の体はもたないんだもの。世界が私を殺す前に、摂理が私を殺す。もう時間だって無いの。

 お兄ちゃんの敵はミドさんが討ってくれたし。私は………何をすればいいのか分からなくなった。

 ただ、私の中の摂理がいつ爆発するか分からないし、それだったら、私がやりたいことをやろうと思ったの」

「それが、あの施設を破壊したことだったのか?」

「うん。あそこにはいい思い出もないし、私みたいな化物を生み出したくなかった。化物は私だけで十分でしょ?」

「っっっ!! アルマちゃんは化物じゃ―――」

 ミドはそう言いかけた瞬間、喉元に剣を突きつけられた。警戒していたミドの意識を掻い潜っての一閃は、ミドの力を大きく上回っていた。

 ミドはこの一瞬で悟った。アルマをとめられないと。

「本当に言っているのミドさん? 私のこの体を見ても本当に同じことが言えるの?」

 アルマはそう言って服を巻くり、一部分を見せ付けた。そこにあったのは脈動する何かと、黒い生命体だった。

 根っこのように伸びている蔦は、アルマの体を覆うように絡み付いていた。

「なん……なんだそれは……」

 ミドの声は震えながら、アルマの腹部を指さす。

「寄生竜パラシトゥス。混沌竜って言ったほうがしっくりくるでしょうけど、人でなくなった私は、自然の摂理……ルールによって消されるのよ」

 アルマは寄生竜に刃を突き立てて引き剥がそうとするが、傷つけた部分は直ちに修復されて、元々傷が無いような肌に戻った。

「ね? もう、人間じゃないのよ。人竜になったあの日から、私は人ではなくなって、竜でもない、半端な化物。竜人を捕まえようという人間のエゴで生み出された化物。ねえミドさん。これをみて私を化物ではないってもう一度言える?」

 今この瞬間ほど王宮を滅ぼしたいという概念に駆られたことが無かった。ここまで人を壊しておいて、正義面を掲げている王宮をミドは心底恨んだ。

 そして、自分の力の無さにもだった。

「謝ることは誰にでもできる。その言葉は簡単に言える、けれど、それだけで万事が解決できているわけではない。人の心を傷つけておいて、謝っただけでその子の心が治ると思っていたら大間違い。

 ねぇミドさん? 私の傷を治してくれるのならどれくらいのことをしてくれるのか、教えてほしいな」

 アルマは無邪気に、あの森で無邪気に剣の鍛錬に明け暮れていた笑顔と同じように笑った。

 その笑顔が、ミドにとってはどれほどの苦痛だったのだろう。後悔、そして絶望。

 ありとあらゆる感情がミドの中で渦巻いていく中、ミドが出した答えは一つだった。

「アイン君に会ったよ。いや、正確には王宮に帰ってきてくれた」

 掲げていたアルマの剣が動揺で震える。

「そして、今回の作戦にも参加している。アイン君はずっと君に会いたいと言っていたよ。ずっとずっと追い求めてきた人だと」

 徐々にアルマの顔が曇っていく。明らかに動揺を隠し切れていない。

「アルマちゃんが姉弟だと話した。王宮がどういう処置をするのかも話した。アイン君はずっと考えていたよ。どうしようか迷っていた」

「あ…………あぁ……」

「だけど、君は会えない。俺が、アルマちゃんにしてあげたいことをするからね」

 槍を一点に構える、捕らえているのはアルマの体だ。それはつまり、殺すことを前提とした構えだった。

「ボロボロになった君を救うのなら、俺にはこうすることしか出来ないから、だから―――」

 壊れてしまったのなら、壊れたままで死んでくれ―――




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