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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第一章~竜人との出会い~
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しばらくした所、唯一アーク村で一番の商店が開かれている噴水の場にアインはやってきていた。ここでなら誰でも商品を売ることができるという話もあり、山になった籠を置いて商売を始めようとした矢先だ。

「おいおいおい!こんな所で売られちゃ困る、他を行ってくれないか!?」

 ろ店のおじさんはうっとおしそうにアインを押しのけた。仕方がないのでアインはほかのところで商売を始めようとしたが、結局、先のおじさんと同じように邪魔物扱いをされて商売どころではなかった。

 一番隅っこ、裏路地の近くならだれの邪魔ものにもならないと思ったアインは籠を置いて座り込んだ。誰も通りそうにない所では当たり前だが、一通りも少なく、逆に客足は一つもない状態となり、数時間、客がこないまま店をたたもうと動いた瞬間だった。

 アインの視界が急に暗がりに広がったので頭を上げるとそこには4人の男が立っていた。

「・・・いらっしゃいませ」

「なんだこりゃ?ゴミか?」

 一人の男がアインが一生懸命取った獲物籠を一蹴。辺りに散乱した獲物を踏みしめながらアインの近くにまでくると、襟元を締め上げて壁にぶつけた。

「あぅ!」

「あのさぁ、ここらへんは俺らの領地なんだわ?だったら、俺たちに断りを入れるのが筋なんじゃねえのか?こんなん子供でもわかってるぞオラァ!」

 裏路地に溜まっていたゴミ袋の山に投げ飛ばされたアインはゴミに埋もれる。這い出てきたアインを無理やり引っ張りだし、4人の男たちは一人の子供を相手に蹴り飛ばしたのだ。

「さっさと場所代よこせや!」

 アインは堪らず、ポケットに入っていた、先ほどの換金してもらった二十Mを差し出した。

「んだこりゃ!?大人なめてんじゃねえぞ!」

 渡したところで暴力の嵐は止まず、四人の男たちが飽きるまでその行為は止まなかった。男たちは裏路地から出て行き、残った裏路地にはアインが一人。ぷるぷると痙攣するように小刻みに体を動かしながら、独り言を呟いた。

「ははっ・・・なんだか、今日は厄日だ・・・・」

 壁に体を預けてないと歩くのが困難なほどに体はボロボロだ。ずるずると壁を這って路地裏から出ると籠の中身が全て消えていたのだ。つまり、盗まれたということになる。

 先ほどのいざこざの間に、ほかの村の人たちが持って行ってしまったのか、それとも竜の餌にされたのか。どちらともとれる出来事だ。

 アインはチラチラと周りの人たちを観察していると、大半が自分との目を合わそうとしていなかった。つまり、ここにいる全員が誰がこの籠に入っていた商品を持っていったのかを知っていたのだ。

 だが、それをアインは咎めようともしなかった。

 残った籠を背負い、アインは家に帰ることにした。“せっかく貰った二十M、無駄になったなぁ”などと思いながら、歩いていると、村に一つしかない学校に通りかかった。

 金さえ払えることができれば、誰でも入ることができる学校。アインは少し前まで、学校に行ってみたいという願望があった。少しずつお金を集めて、みんなとお喋りしてみたいなという健気なことを考えてもいた。

 だが、授業料は一年間、うまくいった時でも払えるかどうかの値段だったこともあり、すぐに断念した。それにもう一つ、学校なんてもういいやという出来事があった。

 既に授業は終わり、学校に残って友人と遊んでいる姿が多かった校舎を流し見をしながら、校門を通り過ぎ、やがて雑木林が立ち並ぶ公園にまでやって来た。

 ここからだと、自分の家に近い場でもあったがため、通ることが多い。

 きぃきぃと木の枝に括りつけられたブランコにアインは籠を置いて腰掛けた。垂れ下がる紐を両手で持ちながら遠心力と振り子運動による動作で一定に動き続ける、面白みもない遊具。

 何か考えがあったのかと言われれば、実は何も考えていなかった。

 傍から見れば、無表情で延々と揺り動いているブランコに乗った少年ということになるのだが、どこか不気味な雰囲気もあった。

 ぎりぎりと悲鳴を上げる枝とロープ。思いっ切り前に重心移動した時に、ブチんと老朽化していたロープが切れた。上空に投げ出されたアインだったが、なんとか着地し顔を上げると、目の前にはこのブランコ目当てでやって来た男の子三人と、先頭に立っている男の子につきそうような形で一匹の竜がいた。

「おい!お前!!よくもブランコを壊してくれたな!!」

 ビシッ!と指をアインに指すと、ずんずんと足音を立てながらタプンタプンと揺れる大きなお腹が印象的な男の子。いかにも秀才そうなメガネをかけた男の子。最後に親分にへーこらするような、例えるなら手もみをしているような男の子が、ぞろぞろと

アインに近づく。

「このやろっ!!」

 ボカンとアインと同年代の男の子は、ただブランコに乗れなかったというだけでアインを殴り倒した。勿論大人ほど強くはないが、その一撃はアインの精神にまた一つ穴を開けてしまった。

 ずっと、同年代までからは言葉の罵倒で済んでいた。そのため、まだ心は繋がっていたらしい。どこでその基準が引かれていたかはアインなのでよく分からないが。

 押し倒されたアインの上に股がって二度三度男の子は殴る。ほかの二人はイケイケに煽り立てている。

「こらっ!!喧嘩は駄目だろ――――」

 公園の外で見ていた大人が喧嘩をやめさせようと止めに入ろうとしたが、寸前で叱るのをやめた。誰が喧嘩の相手となっていたのかで把握した大人は、鼻で息を吐いてどこかへ行ってしまい、見なかったことにしたのだ。

「ひゃぁ、疲れた!交代してくれよ?」

「ええ!?ワルイさんやってくださいよ。僕は非力なんで」

「それじゃあ、もう一回俺が――」

 ワルイという男の子がアインをもう一度殴ろうと前を向いた瞬間だった。

 今まで何もしてこなかった分、アインによる反撃を予想していなかったからだろう。視界が殴られた衝撃で火花が散る。

「痛って!!?」

 まだ喋る余力があると認識したアインは、二度三度の割合ではない、ワルイという少年の顔が鼻血で朱く染め上がるまで数分もかからなかった。

「てめっ!?ワルイさんから離れろ!」

「そうです!暴力反対です!」

 二人掛かりでアインを止めに入るが、どこからその力が出ているのだろうか?

 キレた――

 多分、それでアインの行動原理に話が付く。これまでの鬱憤を晴らすかのようにも見えた姿だ。だが、何度も硬い頭蓋を叩いていたアインの拳にはヒビが入っていた。それでも尚殴ってしまうのは、周りが見えていないためなのか。

 ほかの二人を振り切って、ワルイの顔面を殴り続けていると、堪らずワルイが本気で殴り飛ばした。子供心ながら、死んでしまうとでも思ったのだろう。思いがけないほどの強さでワルイ自身も驚いていた。

 距離が離れたワルイは顔を押さえながら泣いていた。

「イって・・・くそ!ゴミの癖にぃ!!」

 ワルイは服の袖で顔を吹き終わり自分の竜に指示を仰いだ。

「やれ!ロム!!今こそ、お前の実力を発揮する時だ!!」

 ロムと呼ばれた仔竜は前に出て口を大きく開けた。翼こそ生えてはいないが、火炎袋が備わっている火竜だった。

 一つ、注意しておこう。

 火竜の炎は仔竜であっても、家一軒を炭に変えることぐらいは造作もない。成竜ともなれば岩や鉄を軽く溶かしてしまう程に火力は上がる。そのため、人に向かって吐かせるのは大変危険なことである。

 子供心ながら、わかっていないのだろう。仔竜の炎が危険であると。いや、そもそも、火を扱う事すら危険である。

「グギャアアアアアス!!」

 声高らかに吠えたてたロムは、ワルイの命令に従い、未熟ながらも炎を吐き出した。

「うおっ!!?」

 三人が余りにも強力な火が出たことに驚きをみせた。

 アインは目の前が真っ赤に染まっていく。まだ五メートル離れているが、チリチリと髪の毛が燃えそうなほどの熱風を肌で感じ、太陽のように真っ赤な火球が目に焼き付いたまま、意識を失ったのだった。



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