~決行~
朝になった。といっても、日が出てからじゃないと僕は朝だなって感じない質なので、実質の所、僕の中ではまだ夜だったりする。
普通だったら、まだ眠っている時間なのだが、何故か今日に限っては起きてしまった。別に寝つきが悪かった訳でもなく、むしろ短時間しか眠っていなかったにもかかわらず、体は十分すぎるほどにスッキリしている気分だった。
集会が終わった後、気を取り直して僕達はフィンの部屋でパーティのやり直しをやって、つい先ほど眠りに付いたといっても過言でもない。
カチカチと揺れ動いて秒を刻む振り子の音がやけに大きく聞こえる。
時間的にも日の出までは約二時間後、二度寝でもしようかと思ったが、眠気は無い状態なので、逆に今から寝付くのだったら日の出まで時間が経過してしまうだろう。
そういえば、ムシュフシュまでは王宮からどのくらいの日数が経つのか聞いておけばよかった。
ベッドの脇で眠っているナーガに視線を向けると、ピクリと目蓋を動かす。
「なんだ、起きていたの?」
小さく鳴いてナーガは返事をする。
今思えば、お姉ちゃんがやろうとしていることは無謀なのかもしれない。
竜の謎を解きたいと言っていたが、今こうして触れているナーガの考えていることは僕にはわからない。
そもそも、竜とは何者なのか。なぜ、こうして地上に君臨しているのかは謎だ。
その謎を解明したかったから、彼女は今も王宮から追われている中でも自分の目標をやり遂げるために旅を続けているのだろう。
竜は何処から来るのだろう、そして、竜は何処へ行ってしまうのだろうか。
哲学的な話は僕には検討のしようもないけど、お姉ちゃんが追い求めている目標は、もしかすると答えが無いのではないのか? と、そう考えてしまうほどに難しい問題を解こうとしているのだ。
「ナーガ、ちょっとだけ散歩でもする?」
僕の提案にナーガはのっそりと体を起こす。寝起きだから動作が遅いのか、それとも面倒ながらにも付き合ってやるかという意識の現われなのか?
部屋から出ると、少しだけだが東の空に赤みが差していた。
「ねぇ、ナーガ?」
顔を傾けながらナーガは僕を見る。
こうして隣り合わせに話すことは久しぶりのような気がする。普段は竜騎士の竜は小型以外は竜専用の竜舎が設けられているのだが、生憎とナーガはまだ子供なので竜舎に入られる大きさには達していないのだが、このまま成長すれば竜舎の中へと入る大きさだろう。
いつのまにこんなに大きくなったのか。四足歩行でなら僕の腰ぐらいの丈なのだが、立ち上がれば僕の身長なんか越している。
だからと言って、ナーガに対して聞くのは成長したことを言うためではない。
昨日の夕方にミリには豪語したばかりだったのに、いざ僕の心境は、未だに揺らいでいた。そんな未熟な決意に対して、ナーガはどう返してくるかを聞きたかっただけなのだが。
「ううん、やっぱりなんでもない」
笑って話を自分の中に仕舞い込む。ナーガは僕の言葉を受けて前を向いて歩き出す。
軽く溜め息をつく。自分の気持ちがどうしてこんなにも不安定なものなのだろうかと悪態をつくと、急に叔父さんの声が頭の中で響いた。
「不安定なのは当たり前だろ。お前自身が強く目標を欲していないからだ。昨日のミリとの話でさえ、お前は嘘を付いたのさ」
その声は明らかに僕の考えを侮辱している笑いだった。
「嘘なんて付いていない! ちゃんと……ちゃんと………」
「そらみろ、お前ほど厄介な奴を見たのは初めてだぜ。この前の話を覚えているかさえ分からんが、俺はお前にまともじゃないと言ったが……お前の出生がどうこうって言う話じゃあないな」
叔父さんが腕組みをしていて僕を見下しているようなイメージしか湧いてこない。軽く息を吐くと叔父さんは僕に言った。
「お前は壊れているよ。ああ、空っぽって言うわけじゃない。お前には思考することも出来るし感情だって表現できる。
だがコレだけは言える。根本的にお前は何処かが壊れている。やりたいことが決まらないこともお前が壊れているからだ。まぁ、ちゃんとした家庭で育ってきたのなら、こうはならなかったのかもしれんがな」
それっきり、叔父さんの声は聞こえなくなった。
………不愉快だ。
これ以上無い気持ちになった。自分の感情はある、考える事だって出来る。でも、壊れている? どういう意味だ?
それ以上は自分で考えろと、つきつかれた宿題のようで不愉快だった。
やめておこう、これ以上考えると、僕が僕自身でいられなくなりそうだ。壊してしまいたいという破壊衝動に駆られてくる。
僕を産んでくれたお母さんとお父さん、それに、唯一の姉弟であるアルマにさえ憎悪してしまいそうで嫌だった。
「ああ、時間だ。行こうかナーガ」
日の光が建物を照らし始め、朝がやってくる。
寝巻きのままで散歩に出て行ってしまっていたので早くいつもの服に着替えようと、部屋に戻り、必要な物だけを事前に用意していた袋を担いで部屋を出た。
王都の門に王宮の竜騎士たちは集まっていた。
皆、何かを決意した表情に満ち溢れている。ここにいる人は自分の命よりも世界の平和のために捧げた命だ。
自分が死んでも世界が平和になるくらいなら、喜んでその身を差し出すといった人たちで、僕みたいに情緒不安定なままでこの門に来ている人はいない。
僕だけが取り残されている感じだった。
昨日の闘技場に集まった人数よりは少しだけ少ないが、それでもお姉ちゃんを捕まえるために立ち上がった竜騎士の人数は多いといえる。
「時間だ。集まってくれた諸君には頭を下げるしかない。ありがとう。そして、世界を救おう同士諸君」
ミドさんの言葉に竜騎士は鼓舞するように歓声を上げる。
「任務開始だ!!」
こうして、日の出と共に決行された四代目総長アルマの捕獲、もしくは討伐の任務がミドの手によって落とされた。
飛竜が羽ばたき、空を覆う。陸竜が地を駆けて地鳴りを上げる。王宮の竜騎士たちは、今宵を境目に人生を謳歌するだろう。まだ見ぬ敵を相手に。




