~ミドの決心~
その日の夜。
アインたちがフィンの部屋にて歓迎会をしている最中、その裏では三代目総長の下に一つの知らせが耳に届いていた。
八番隊の竜騎士が傷だらけで王宮に帰ってくると、情報を喋ったきりその兵士は動かなくなった。
ミドにとっては嬉しい報告のようにもあったが、竜騎士として、総長としてのミドにとっては悩まされる報告となった。
アルマを追跡していた十番隊、九番隊、八番隊のすべての竜騎士は殺されたという報告だった。
隣にいた団長も呆けるだけしか反応を返せなかった。
「ムシュフシュにいるのか……」
ムシュフシュ―――別名竜の墓場。
竜にも命が尽きる時はある。自分の余命を悟った時、竜の本能がムシュフシュに足を運ばせる。
しかし、なぜアルマが竜の墓場に向かっているのかはミドには見当が付かなかった。
「総長、どういたしますか?」
「どうするも何も、見つけたのだから行くしかないだろう。三部隊も全滅させられたんだ。今回は俺も行かないと彼女を止められないだろう」
「し、しかし総長! もしも貴方が殺されたりしたら!」
「その時はお前か馬鹿息子に総長を任せるよ」
ミドは予感していた。
自分の死期が近いとなんとなく感じていたようだが、いつ自分が死ぬなんてだれしもが分かるわけがない。
かく言うスーリヤ自身も、自分の身に掛かる死期を感じ取っていたのだ。
きっと、俺はアルマちゃんに殺される。
そう予想していた。
「今から緊急会議を行うぞ。全部隊の竜騎士に知らせろ」
「分かりました!」
団長はミドの命令に従い急遽、緊急会議を行う事になった。
竜騎士全員が集まったのは、あの闘技場だ。竜騎士全員が集まれる場所はここしかないため、こうして大きな会議ともなるとここを使う事になっている。
ミドは回りくどいことをせずに、単刀直入に話を切り出した。
「諸君に集まってもらったのは他でもない。先ほど四代目総長を追跡していた八番隊、九番隊、十番隊は全滅した」
ミドの話に会場がどよめく。隣の人との会話をしだす竜騎士からは全滅と言う言葉が飛び交っていた。
「たった一人の生還者もいたが、そいつも死んだ。どうか死んでいった盟友に祈りを捧げてやってほしい」
ミドは胸に手をあてがって祈る。その所作を全員が真似をした。
目を開き、ミドは重苦しい声で喋りだす。
「本題に入る。彼女は今ムシュフシュに向かっているらしい。なぜ竜の墓場なんかに行っているのかは我々にも検討は付かないが、命を張ってくれた盟友らに感謝する。
明日、早朝から全ての竜騎士を引き連れて我々はムシュフシュに向かう。当然俺も行く。
だが、三部隊を一人で全滅させた彼女の強さは計り知れない。
死にたくないやつは此処に残れ。これはお願いでもなんでもない。命令だ!
親や子供、友人や待っている恋人もいるだろう。死ぬと分かっている死地にお前達は行きたいか?
猶予は早朝までだ。日の出が昇り次第、ムシュフシュに向かう。それでは、解散!!」
ミドの話は淡々としていて現実味が無かった。
他の竜騎士もそれを分かりながら、各自部屋に戻るときに深刻な顔をして帰っていく。
自室に返ってきたミドは二つの肖像画を見やった。
優しい表情をした初代総長のスーリヤと、冷たい表情をした四代目総長のアルマ。二人は家族だった。
スーリヤが生きてさえいてくれたらこんなことにはならなかったと、ミドはずっと後悔していた。
なぜ、あの日の自分は任務なんかで森から離れてしまっていたのかと。
全ての根源を殺したところで、あの人が帰って来る訳でもないし、彼女が再び笑ってくれるはずも無い。
「アルマちゃん………やっと、追いついたぞ」
後悔をしたくは無い。もうしたくもない。自分の知らない場所で、何かが壊れていくのはもうたくさんだ。
彼女の笑顔がまた見られると言うのなら、ミドは何でもやるだろう。それが、彼女にとって最良の出来事になるのならば尚更だ。
昔のことを思い返す。
彼女は誰の背中をみて育ってきたのかを。誰と稽古を付けてもらっていたのかを。他でもない、世界最強だった英雄と、自分が彼女を強くした。
強くさせてしまったのだ。
いずれこの世界からは武器が消え、争いの火種になり得る因子はすべて消えていくだろう。
竜も然り、それは必然の出来事だ。
「俺は、貴方たちに幸せであって欲しかった」
その願いはスーリヤに当てられたものなのか、それとも、彼等の家族全員に願った事柄だったのかもしれない。
さぁ、明日から頑張ろう。俺が犯した過ちを拭い去るために、自分の命を駆けて彼女を止めよう。
そう、夢想しながらミドは眠る事にした。




